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《虎星》: ロボと鍛錬!

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 しばらく前、子どもたちと「大銀河連合」の《天下一ぶ……》に出て優勝した。
 グランマザーに誘われての格闘技大会だった。
 その時に優勝賞品としてとんでもないものを受け取ることになったのを拒否した。
 惑星をテラフォームして渡すという申し出もあったのだが。

 俺はその時に、それが「業」との戦いにおいて俺たちの甘さに繋がると言って断ったのだ。
 負けた場合の逃げ道を作れば、俺たちが弱くなるのだと。

 しかし、その後状況が変わり、俺はグランマザーにある惑星をテラフォームさせ、地球人が生きられる環境を整えさせた。
 もちろん移住のためのものではない。
 俺のある目的のためだ。

 俺はそこを《虎星》と呼び、もう何度も行っている。
 何故俺はそのようにしたか。
 切っ掛けは、グランマザーからあるとんでもない情報を聞いてからだった。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 《天下一ぶ……》が終わり、しばらく経った頃。
 グランマザーが俺に連絡して来た。
 俺はグランマザーと直接交信出来る端末を持っており、そこへ連絡が来た。
 いつでも、グランマザーから来る連絡は俺にとって重要なものだった。
 パレボレが誘拐された時も、真っ先にグランマザーが知らせてくれた。
 あの超絶の電脳生命は、俺のためになることを常に考えている。
 だからあの日連絡が来た時にも、何も聞かずにグランマザーと会うことを決めた。

 「石神様、折り入ってお話ししたいことがあります」
 「分かった。じゃあ、10分後に「花見の家」に来てくれ。
 「かしこまりました」

 俺は支度をして「花見の家」に向かう。
 「折り入って」と言ったのだから、内密の話があるということだ。
 地上で対面してでは不味い話のはずだった。
 時間は午前1時。
 既にステルスUFOが到着し、俺を待っていた。
 グランマザーが俺を出迎える。
 ステルスUFOは人類のレーダーには反応されず、まったくの隠密行動が可能だ。
 周囲を常に観測している者がいても、光学的にも電磁波的にも捉えることは出来ない。
 「大銀河連合」の超技術だ。
 俺はそのまま月の裏側に待機しているマザーシップへ向かった。
 広い部屋へ通された。

 「石神様、一つ考えたことがございます」
 「なんだ?」
 「我々も「業」との戦いに参戦したく」
 「ああ」
 「それでですね、「大銀河連合」の超弩級バトルシップの艦隊と、このマザーシップとで世界中を巡行し、石神様の……」

 グランマザーの頭を引っぱたいた。

 「てめぇ! 何考えてやがる!」
 「すみません……」
 「……」

 大した用件では無かった。
 俺は御不満で出された番茶とイチゴ大福を口にしていた。
 どうしてこいつはこういうものをチョイスするのか分からない。
 まあ、嫌いではないのだが。

 「折角マザーシップまでいらして頂きましたので、ちょっとドライブでも致しますか」
 「いや、忙しいから帰るよ」
 「そう仰らず」
 「なんだ?」
 「実は是非お見せしたいものがございます」
 「?」
 
 なんだか分からないが、グランマザーがそう言うということは何かあるのだろう。
 俺は付き合うことにした。

 「あんまし時間はねぇぞ?」
 「1時間ほどで結構でございます」
 「そうか」

 マザーシップが動き出した。
 中にいる俺にはまったくGは感じられない。
 まあ、感じたらとんでもない高圧になるのだろうが。
 「タイガーファング」にも同様の機構が組み込んである。
 もう今では響子もポッドに入らずに移動出来る程、加速Gを減衰している。
 
 グランマザーが座った俺の隣に立っていた。

 「今、マザーシップの結界を最大に引き上げました」
 「なんだ?」

 グランマザーによれば、相当に不味い事態が勃発しており、その極秘調査を始めたそうだ。
 なんだ、そっちが本題だったか。

 「2か月前からでございます」
 「2か月前?」
 「石神様が「業」と再会した時点からです」
 「?」

 当時の俺は、ロシアでサーシャたちの故郷の慰霊碑を建てる作戦を遂行した。
 その帰路で「業」の用意した神と交戦し、その時に「業」の分体と会っている。

 「我々「大銀河連合」の監視網に、星系の異常を感知しました」
 「異常ってどういうことだ?」
 「はい、聖域にこれまで観測されたことの無いほどの莫大なエネルギーが生じました」
 「どういうことなんだ?」
 「そのエネルギーはまだ解析されていません。解析しようとすると、全て破壊されてしまうのです」
 「……」

 「大銀河連合」の超絶の技術を突破する存在とは尋常ではない。

 「それは距離を無視して、解析、攻撃を仕掛けようとした時点で襲い掛かって来ます」
 「なんだよ、それは……」
 「私の迂闊です。よもやそのような敵対的な存在の発生を見逃してしまったこと、そしていいようにシステムを組まれてしまったことは」
 「おい、さっぱり分からんぞ」
 
 グランマザーシップが停止した。
 眼前の大スクリーンに、漆黒の塊が見えていた。

 「この距離が限界でございます」
 「そうなのか?」
 「私たちも、何とか観測までは出来るようになりました」
 「ほう」

 観測すれば破壊されるのを繰り返し、ようやく何とかしたということなのだろう。

 「相似象でございます」
 「なんだ?」
 「あれは「業」の相似象であり、この宇宙を滅する存在でございます」
 「なんだと!」
 「この星系は《ミレー星系》と呼ばれておりました」
 「……」
 「あの邪悪なエネルギーが生じてから、星系は消滅し、あの漆黒の塊は拡大を続けております」
 「どうにかならないのか?」
 「今の我々の技術や力では」
 「……」
 「アレは明らかな意志を持っています。通常の生命とは異なりますが、邪悪であることは間違いございません」
 「……」

 「もう時間で御座います。これ以上ここに留まるのは危険ですので」

 マザーシップがまた移動を開始した。

 「もう一つお見せしたいものが御座います」
 「ああ、分かった」

 こうなれば、どこまでも付き合うしかない。
 俺はまったく想定していなかった事象を考えていた。
 「業」の存在のエネルギーが宇宙空間にまで転移しているのか。
 それは一体どういうことなのか。

 「このままでは、いずれ宇宙全体があの邪悪なエネルギーに覆われてしまいます」
 「宇宙の破滅か」
 「その通りでございます」
 「分かった」

 マザーシップが再び停止する。
 今度は目の前の大スクリーンに赤く光る空間が拡がっていた。

 「これも、先ほどの《ミレー星系》での現象の後に生じました」
 「こっちはなんなんだ?」
 「分かりません。ここは《トゥアハ・デ・ダナーン星系》と呼ばれています」
 「地球の神話と同じ名前なのだな」
 「はい。それも相似象ということなのかと」
 「なるほどな」

 古きケルト神話での名称だ。
 
 「あの赤い光はどうなんだ?」
 「それも分かりません。ただ、この赤い光が生じた後に、あの《ミレー星系》での漆黒の拡大が僅かに減衰いたしました。そしてこのようにこちらが拡大するにつれ、あちらの拡大のスピードは衰えております」
 「おい、それは……」
 「はい。あれは石神様の存在エネルギーの相似象かと」
 「!」

 とんでもない話だ。
 俺は宇宙の運命など分からない。

 「石神様。地球での石神様と「業」の戦いは、この宇宙全体を巻き込むものになったかと」
 「なんだと!」
 「私にも分かりかねます。しかしこの現象がそれを示しているとしか考えられません」
 「ばかやろう! 俺は宇宙のことなんぞ知るか!」
 「お怒りはごもっともです。でも実際にそのように世界が動いているのでございます」
 「!」

 俺に関りがあるのかもしれないが、俺にはどうしようもない。
 ただ、俺と「業」との戦いがこの宇宙の存続に関わっていることは分かった。

 




 俺にはどうしようもない。
 俺は俺の道を行くだけなのだが。
 しかし、あの《ミレー星系》の対処も考えなければならないかもしれない。
 俺は俺たちが見出した、あるもののことを考えていた。
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