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佐野健也 Ⅲ
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4時過ぎに外出から戻ると、デスクにメモが置いてあった。
俺がメールなどが苦手なのを知っていて、部下たちは昔ながらのように、こうやってメモを置いてくれる。
知り合いの「暁警備」の社長からだった。
折り返しの連絡が欲しいということだった。
俺はすぐに電話した。
「ああ、佐野さん、お久し振りです」
「暁社長! お久し振りです! どうしたんですか?」
警備会社同士の懇親会で知り合った方だ。
「暁警備」の社長さんで、うちの仕事を手伝ったりしてくれている。
俺と同じ元警察官で、引退後に警備会社を立ち上げた。
真面目な方で、うちの仕事もよくやっていてくれ、仲良くなった。
「実はですね。さっき石神亜紀さんという若い女性がうちに来ましてね」
「いしがみあき?」
「ええ、何でもそのお嬢さんのお父さんが、佐野さんに大変お世話になったんだということで」
「石神!」
一瞬でトラのことを思った。
でも、まさか……
「私も佐野さんのことじゃないかとは思ったんだけど。でも佐野さんは刑事さんをやってて、万一にも悪い人間が近付こうとしてるんじゃないかとも思いましてね。だから佐野さんのことは黙っていました」
「あの! その石神あきさんは他に何か言ってましたか!」
「ああ、あのね、そのお父さんが虎を捕まえて、その表彰状が……」
「トラァァァァーーーーー!」
俺は思わず叫んでしまった。
周囲の社員たちが驚いて俺を見た。
「佐野さん、どうかしましたか!」
俺は涙が溢れて来て、すぐには声が出せなかった。
「ウォォォォォォーーーー!」
俺は自分が号泣していることに気付いたが、どうしても止められなかった。
トラとの思い出が自分の中から次々に込み上げて来て、俺が爆発してしまうんじゃないかと思った。
ほんとにトラが、そのお嬢さんが俺を探してくれているのか。
深呼吸をして何とか落ち着こうとした。
「暁社長! どうもありがとうございました! 本当にありがとうございました!」
「い、いえ、佐野さん、大丈夫ですか?」
「はい! どうしても会いたかった奴なんです! あいつが子どもの頃に連絡が取れなくなってしまって! それからずっと!」
「そうなんですか!」
「本当によくご連絡をして下さいました! 本当にありがとうございました!」
「いいえ、じゃあ、お嬢さんの連絡先をお伝えしますね」
「はい、お願いします!」
俺がメモを取っている間も、部下たちが俺を見ている。
情けないなどとは思っている余裕も無かった。
なんでだって、あのトラのことなんだ。
俺はすぐに会社を出て、暁社長から聞いた住所へ向かった。
新宿に着いた所で石神亜紀さんに電話した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
鍛錬を終えてリヴィングで柳さんと寛いでいると、私のスマホが鳴った。
タカさんだ!
「はい!」
「よう! これから戻るからな!」
「はい!」
「千鶴と御坂も一緒なんだ。二人の食事も頼むよ。ああ、5時半くらいには着けると思う」
「分かりました!」
タカさんが帰って来る。
いろいろ話もあるんだけど、電話ではなく帰ってからちゃんと話そう。
「じゃあ美味い飯を頼むな!」
「はい!」
柳さんに、タカさんたちが5時半に戻ると伝えた。
あと1時間くらいだ。
さーて、何を作ろうかなー。
「千鶴ちゃんと御坂ちゃんも来るんだって!」
「そうなんだ」
「二人がいれば、ちょっと怒られるのも軽くなるかもー!」
「アハハハハハハ!」
その時、またスマホが鳴った。
今度は知らない番号だ。
「もしもし?」
「石神亜紀さんですか?」
「はい、そうですが?」
知らない男性からだった。
声の感じでは初老の方のようだけど。
「自分は佐野と申します」
「え! 佐野さん!」
「はい。自分を探していると聞きまして、お電話を」
「はい! 確かに私です! タカさん、あ、石神高虎の娘なんです!」
「そうなんだ! ほんとに! あぁぁぁぁぁ!」
佐野さんが突然泣き出してしまった。
私も嬉しくて涙が出て来た。
柳さんに、やっと、佐野さんからのお電話だと伝えられた。
「トラは! トラは元気ですか!」
「は、はい! あの、私、嬉しくって」
「ああ、俺も! ほんとにあのトラが!」
「父は今港区の大きな病院で外科部長をしてます。高校を卒業して翌年に日本に戻って来て! あぁ! 本当にいろいろなことがあって!」
「そうなんですか! でも良かった! トラが元気で!」
「はい! とても元気です!」
「トラはいますか!」
「あ、今出掛けていて、もうすぐ戻ります」
「あの、今日これからそちらへ伺ってもいいですか?」
「え!」
「実は暁社長からご住所を伺ってまして、もう向かってるんです!」
「え、そうなんですか!」
「宜しければ、あと15分ほどで」
「は、はい! 是非いらして下さい! 父も5時半には戻りますんで!」
「じゃあ、後でまた!」
「はい、お待ちしてます!」
柳さんに、佐野さんがもうすぐうちに来ると言った。
「えぇ!」
柳さんも驚く。
「柳さん、どうしましょう!」
「え、え、え!」
「大丈夫ですよね!」
「わ、わかんない!」
そうだよねー。
私、家に呼んじゃったけど、どうなんだろうか。
タカさんに連絡する?
でも、どう話す?
「柳さん、鰻にしましょう!」
「え、なんで?」
なんでだか自分でもわかんない。
「と、とにかくすぐに!」
「う、うん!」
そういうことになった。
二人で急いでいつもの鰻屋さんに電話し、汁物を作った。
タカさんが大好きなハマグリの吸い物。
吸い物は柳さんにお願いし、私は門の所で佐野さんを待った。
あ、佐野さんは何で来るんだろう?
そういうことも思考から吹っ飛んでいた。
とにかく門を開いて前で待った。
初老のスーツを着た男性が近付いて来た。
駆け寄って尋ねた。
「あの、佐野さんですか!」
「はい! 石神亜紀さんですね!」
「はい、私です! お会いしたかったです!」
「自分もです!」
私は佐野さんを家に案内した。
「どうぞ!」
「……」
「どうぞ!」
「……」
「佐野さん?」
「あの、ここがトラの家で?」
「はい!」
とにかく佐野さんの手を引いて中へ入ってもらった。
家を見上げて佐野さんがまた硬直してた。
玄関を開いて中へ案内する。
「トラ、本当に立派になったんですね」
「はい! 最高の人です!」
「アハハハハハハ!」
佐野さんが大笑いした。
「まったくあいつはいつだって俺を驚かせやがる! 変わってねぇ!」
「そうですよ! あの、私たちも佐野さんのお話を一杯伺ってるんです!」
「俺の話?」
「はい! いつもカツ丼とかご馳走になったとか!」
「ああ」
「山で洪水を起こしたり、隣のモモちゃんを助けてお腹を切られたり」
「ああ、本当に!」
「虎のレイとのことだって! 他にもいろいろ!」
「そうですか、トラが俺のことを!」
「はい! どうぞ上に!」
エレベーターで上に案内した。
リヴィングで座って頂き、柳さんがすぐにアイスティーを出してくれた。
「もうすぐ父、ああ、私たちはタカさんって呼んでるんです!」
「たかさん?」
「はい。私たちの両親が交通事故で亡くなってしまって。タカさんが親友だったんで、私たち4人を引き取ってくれたんです。こちらは柳さん。大学時代の親友の御堂さんのお嬢さんです」
「御堂柳です」
「ああ、そうですか。佐野です、よろしくお願いします」
沢山話すことはあったけど、タカさんの運転するハマーの音が聴こえた。
「あ、タカさんが帰って来ました!」
「ちょっとお待ち下さいね」
柳さんと慌てて玄関へ向かった。
何をどっから説明しよう!
とにかく駆け下りた。
「タカさん!」
タカさんがハマーをガレージに入れて庭に行った。
あ、あれからか!
と、とにかく一つずつだぁー!
俺がメールなどが苦手なのを知っていて、部下たちは昔ながらのように、こうやってメモを置いてくれる。
知り合いの「暁警備」の社長からだった。
折り返しの連絡が欲しいということだった。
俺はすぐに電話した。
「ああ、佐野さん、お久し振りです」
「暁社長! お久し振りです! どうしたんですか?」
警備会社同士の懇親会で知り合った方だ。
「暁警備」の社長さんで、うちの仕事を手伝ったりしてくれている。
俺と同じ元警察官で、引退後に警備会社を立ち上げた。
真面目な方で、うちの仕事もよくやっていてくれ、仲良くなった。
「実はですね。さっき石神亜紀さんという若い女性がうちに来ましてね」
「いしがみあき?」
「ええ、何でもそのお嬢さんのお父さんが、佐野さんに大変お世話になったんだということで」
「石神!」
一瞬でトラのことを思った。
でも、まさか……
「私も佐野さんのことじゃないかとは思ったんだけど。でも佐野さんは刑事さんをやってて、万一にも悪い人間が近付こうとしてるんじゃないかとも思いましてね。だから佐野さんのことは黙っていました」
「あの! その石神あきさんは他に何か言ってましたか!」
「ああ、あのね、そのお父さんが虎を捕まえて、その表彰状が……」
「トラァァァァーーーーー!」
俺は思わず叫んでしまった。
周囲の社員たちが驚いて俺を見た。
「佐野さん、どうかしましたか!」
俺は涙が溢れて来て、すぐには声が出せなかった。
「ウォォォォォォーーーー!」
俺は自分が号泣していることに気付いたが、どうしても止められなかった。
トラとの思い出が自分の中から次々に込み上げて来て、俺が爆発してしまうんじゃないかと思った。
ほんとにトラが、そのお嬢さんが俺を探してくれているのか。
深呼吸をして何とか落ち着こうとした。
「暁社長! どうもありがとうございました! 本当にありがとうございました!」
「い、いえ、佐野さん、大丈夫ですか?」
「はい! どうしても会いたかった奴なんです! あいつが子どもの頃に連絡が取れなくなってしまって! それからずっと!」
「そうなんですか!」
「本当によくご連絡をして下さいました! 本当にありがとうございました!」
「いいえ、じゃあ、お嬢さんの連絡先をお伝えしますね」
「はい、お願いします!」
俺がメモを取っている間も、部下たちが俺を見ている。
情けないなどとは思っている余裕も無かった。
なんでだって、あのトラのことなんだ。
俺はすぐに会社を出て、暁社長から聞いた住所へ向かった。
新宿に着いた所で石神亜紀さんに電話した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
鍛錬を終えてリヴィングで柳さんと寛いでいると、私のスマホが鳴った。
タカさんだ!
「はい!」
「よう! これから戻るからな!」
「はい!」
「千鶴と御坂も一緒なんだ。二人の食事も頼むよ。ああ、5時半くらいには着けると思う」
「分かりました!」
タカさんが帰って来る。
いろいろ話もあるんだけど、電話ではなく帰ってからちゃんと話そう。
「じゃあ美味い飯を頼むな!」
「はい!」
柳さんに、タカさんたちが5時半に戻ると伝えた。
あと1時間くらいだ。
さーて、何を作ろうかなー。
「千鶴ちゃんと御坂ちゃんも来るんだって!」
「そうなんだ」
「二人がいれば、ちょっと怒られるのも軽くなるかもー!」
「アハハハハハハ!」
その時、またスマホが鳴った。
今度は知らない番号だ。
「もしもし?」
「石神亜紀さんですか?」
「はい、そうですが?」
知らない男性からだった。
声の感じでは初老の方のようだけど。
「自分は佐野と申します」
「え! 佐野さん!」
「はい。自分を探していると聞きまして、お電話を」
「はい! 確かに私です! タカさん、あ、石神高虎の娘なんです!」
「そうなんだ! ほんとに! あぁぁぁぁぁ!」
佐野さんが突然泣き出してしまった。
私も嬉しくて涙が出て来た。
柳さんに、やっと、佐野さんからのお電話だと伝えられた。
「トラは! トラは元気ですか!」
「は、はい! あの、私、嬉しくって」
「ああ、俺も! ほんとにあのトラが!」
「父は今港区の大きな病院で外科部長をしてます。高校を卒業して翌年に日本に戻って来て! あぁ! 本当にいろいろなことがあって!」
「そうなんですか! でも良かった! トラが元気で!」
「はい! とても元気です!」
「トラはいますか!」
「あ、今出掛けていて、もうすぐ戻ります」
「あの、今日これからそちらへ伺ってもいいですか?」
「え!」
「実は暁社長からご住所を伺ってまして、もう向かってるんです!」
「え、そうなんですか!」
「宜しければ、あと15分ほどで」
「は、はい! 是非いらして下さい! 父も5時半には戻りますんで!」
「じゃあ、後でまた!」
「はい、お待ちしてます!」
柳さんに、佐野さんがもうすぐうちに来ると言った。
「えぇ!」
柳さんも驚く。
「柳さん、どうしましょう!」
「え、え、え!」
「大丈夫ですよね!」
「わ、わかんない!」
そうだよねー。
私、家に呼んじゃったけど、どうなんだろうか。
タカさんに連絡する?
でも、どう話す?
「柳さん、鰻にしましょう!」
「え、なんで?」
なんでだか自分でもわかんない。
「と、とにかくすぐに!」
「う、うん!」
そういうことになった。
二人で急いでいつもの鰻屋さんに電話し、汁物を作った。
タカさんが大好きなハマグリの吸い物。
吸い物は柳さんにお願いし、私は門の所で佐野さんを待った。
あ、佐野さんは何で来るんだろう?
そういうことも思考から吹っ飛んでいた。
とにかく門を開いて前で待った。
初老のスーツを着た男性が近付いて来た。
駆け寄って尋ねた。
「あの、佐野さんですか!」
「はい! 石神亜紀さんですね!」
「はい、私です! お会いしたかったです!」
「自分もです!」
私は佐野さんを家に案内した。
「どうぞ!」
「……」
「どうぞ!」
「……」
「佐野さん?」
「あの、ここがトラの家で?」
「はい!」
とにかく佐野さんの手を引いて中へ入ってもらった。
家を見上げて佐野さんがまた硬直してた。
玄関を開いて中へ案内する。
「トラ、本当に立派になったんですね」
「はい! 最高の人です!」
「アハハハハハハ!」
佐野さんが大笑いした。
「まったくあいつはいつだって俺を驚かせやがる! 変わってねぇ!」
「そうですよ! あの、私たちも佐野さんのお話を一杯伺ってるんです!」
「俺の話?」
「はい! いつもカツ丼とかご馳走になったとか!」
「ああ」
「山で洪水を起こしたり、隣のモモちゃんを助けてお腹を切られたり」
「ああ、本当に!」
「虎のレイとのことだって! 他にもいろいろ!」
「そうですか、トラが俺のことを!」
「はい! どうぞ上に!」
エレベーターで上に案内した。
リヴィングで座って頂き、柳さんがすぐにアイスティーを出してくれた。
「もうすぐ父、ああ、私たちはタカさんって呼んでるんです!」
「たかさん?」
「はい。私たちの両親が交通事故で亡くなってしまって。タカさんが親友だったんで、私たち4人を引き取ってくれたんです。こちらは柳さん。大学時代の親友の御堂さんのお嬢さんです」
「御堂柳です」
「ああ、そうですか。佐野です、よろしくお願いします」
沢山話すことはあったけど、タカさんの運転するハマーの音が聴こえた。
「あ、タカさんが帰って来ました!」
「ちょっとお待ち下さいね」
柳さんと慌てて玄関へ向かった。
何をどっから説明しよう!
とにかく駆け下りた。
「タカさん!」
タカさんがハマーをガレージに入れて庭に行った。
あ、あれからか!
と、とにかく一つずつだぁー!
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