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佐野健也
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佐野さんが現在、厚木市にある警備会社に勤めていることが分かった。
そこで部長さんになっているようだ。
私はすぐにその警備会社に電話してみた。
心臓がドキドキした。
ちょっとの不安と、あの佐野さんと話せる嬉しさで。
中年の女性の方が電話に出られた。
「はい、暁警備です」
「あの、私、石神亜紀と申します」
「はい、石神様ですね。どのような御用件でしょうか」
「実はそちらにいらっしゃる佐野健也さんとお話ししたいのですが」
「佐野ですか?」
「はい、父の古い知り合いで、そちらでお勤めと最近知りまして」
「すみません。佐野健也という者はうちにはおりませんが?」
「はい?」
「何かお間違いではないでしょうか?」
おかしい。
でも、女性の声も嘘を言っている感じはまったく無い。
「いいえ、確かに調べてですね……」
「申し訳ありません。弊社にはそういう者はいないのです」
「そんな……それでは以前に勤めていたことはありませんか?」
「申し訳ありません。個人情報は明かせないことになっていまして」
「そうですか」
もしかしたら、個人的な用件なので取り次いでもらえないのだろうか。
でも、もう一度確認しても先方ではいないということだけだった。
電話に出た女性も困惑しているようだった。
仕方なく突然ヘンな用件でお邪魔したお詫びを言って電話を切った。
柳さんも私の遣り取りを傍で聞いていて不審に思っていた。
「柳さん、暁警備には佐野さんはいないんですって」
「おかしいね。一江さんが間違った情報を掴んでいるなんて考えにくいけど」
「そうですよね。もう辞められたのかとも思って、以前に勤めてないか確認もしたんですけど」
「そう」
佐野さんの携帯電話の情報は無かった。
住所は分かっていて、厚木市内になっている。
私たちは確実と思っていた当てが外れて当惑していた。
柳さんがコーヒーを淹れてくれた。
ここで終わりたくはなかった。
「私、ここの住所に行ってみますね!」
「うん、じゃあ私も行くよ」
「いいえ、柳さんはどうか家にいて下さい。何の緊急連絡が入るかも分かりませんから」
「そっか。でも亜紀ちゃんも何かあったら電話してね」
「はい、すみません」
私はCBRで行くことにした。
バイクの方が早く着きそうだ。
厚木ならば、高速を飛ばせば1時間くらいで着けるだろう。
昼前には帰れると思う。
白のデニムのパンツを履き、Tシャツに白のライダースジャケットを羽織った。
柳さんに見送られ、私は出発した。
初台から高速に乗り、東名、圏央道路をぶっ飛ばす。
タカさんと出掛ける時によく使う道だから慣れている。
そういえば、乾さんに初めて会いに行った時もこのCBRで行ったことを思い出して、何だか嬉しくなった。
今度はあの佐野さんだ!
結構飛ばしたので、45分で厚木市に入った。
「えーとー」
住所はスマホのナビで探した。
佐野さんのお宅は部屋番号があるのでマンションのようだった。
「アレ?」
ナビが案内した場所は、オフィスビルだった。
住所は間違いない。
一応ビルの入り口を見てみると、全部会社名の看板しかなかった。
佐野さんの部屋番号に該当するものも無い。
ちなみに近辺にもマンションはない。
オフィスビルの並ぶ一角だった。
「おかしいな?」
最近建て直されたものではないようだ。
あの一江さんが間違ってるとは思えない。
なんだ?
私は仕方なく先ほど電話した「暁警備」のビルに行ってみることにした。
「……」
小さな事務所だった。
雑居ビルの1階にある事務所。
上の階は別な会社が入っている。
30坪ほどの部屋が「暁警備」だった。
事務所には女性の事務員さんと、年配の男性がいた。
デスクが4つと対面のソファが一つずつ。
壁にはスチール家具があり、いかにも小さなオフィスという感じだ。
「すみません」
「はい?」
「先ほどお電話した石神亜紀と申します」
「ああ!」
事務員の女性が私と話した方のようだった。
驚いてはいたが、私の顔を見て微笑んでくれた。
「何度も申し訳ありません。ここに佐野健也さんという方は……」
「うちはね、20年前からこの会社をしてるんですよ。でもね、佐野さんという方はうちにいたことは無いんです」
「そうなんですかー」
「あそこの社長と私、あとは従業員は5人でね。ずっとそんな感じ」
「はぁ」
うーん、困った。
「佐野さんとは、どういう関係なのかな?」
奥に座っていた社長さんが出て来てくれた。
「はい、父が子どもの頃に大変お世話になった刑事さんなんです。今では警察は定年退職されて、警備会社にお勤めと聞きまして」
「そうなんだ。まあ、警察の人が警備会社に行くことはよくあるけどね」
「そうなんですか。是非お会いしてお礼をしたかったんですけど」
「そういうことか。ところで、どこでうちのことを?」
答えに詰まってしまった。
まさか正直には話せない。
「ちょっと調べてもらったんです」
「ああ、なるほど」
探偵事務所とか想像しただろうか。
「まあうちは違うけど、取引のある警備会社もあるから。今度聴いてみてあげるよ」
「ほんとですか!」
「わざわざここまで来るとはね。よほどお会いしたいんでしょ?」
「はい! 父が本当にお世話になって、大好きな方だったんです」
「そうなんだ」
「あの、虎がサーカスから逃げて! 父が捕まえてその表彰状もあるんです!」
「なんだい、そりゃ」
社長さんが大笑いした。
うーん、ちょっと話しにくいなー。
タカさん、捕まってばっかだからなー。
私は連絡先を伝え、御礼と押し掛けたお詫びを言って事務所を出た。
昼前に家に戻った。
がっかりはしたが、今日はもう仕方がない。
柳さんが「御苦労様」と言ってくれた。
そこで部長さんになっているようだ。
私はすぐにその警備会社に電話してみた。
心臓がドキドキした。
ちょっとの不安と、あの佐野さんと話せる嬉しさで。
中年の女性の方が電話に出られた。
「はい、暁警備です」
「あの、私、石神亜紀と申します」
「はい、石神様ですね。どのような御用件でしょうか」
「実はそちらにいらっしゃる佐野健也さんとお話ししたいのですが」
「佐野ですか?」
「はい、父の古い知り合いで、そちらでお勤めと最近知りまして」
「すみません。佐野健也という者はうちにはおりませんが?」
「はい?」
「何かお間違いではないでしょうか?」
おかしい。
でも、女性の声も嘘を言っている感じはまったく無い。
「いいえ、確かに調べてですね……」
「申し訳ありません。弊社にはそういう者はいないのです」
「そんな……それでは以前に勤めていたことはありませんか?」
「申し訳ありません。個人情報は明かせないことになっていまして」
「そうですか」
もしかしたら、個人的な用件なので取り次いでもらえないのだろうか。
でも、もう一度確認しても先方ではいないということだけだった。
電話に出た女性も困惑しているようだった。
仕方なく突然ヘンな用件でお邪魔したお詫びを言って電話を切った。
柳さんも私の遣り取りを傍で聞いていて不審に思っていた。
「柳さん、暁警備には佐野さんはいないんですって」
「おかしいね。一江さんが間違った情報を掴んでいるなんて考えにくいけど」
「そうですよね。もう辞められたのかとも思って、以前に勤めてないか確認もしたんですけど」
「そう」
佐野さんの携帯電話の情報は無かった。
住所は分かっていて、厚木市内になっている。
私たちは確実と思っていた当てが外れて当惑していた。
柳さんがコーヒーを淹れてくれた。
ここで終わりたくはなかった。
「私、ここの住所に行ってみますね!」
「うん、じゃあ私も行くよ」
「いいえ、柳さんはどうか家にいて下さい。何の緊急連絡が入るかも分かりませんから」
「そっか。でも亜紀ちゃんも何かあったら電話してね」
「はい、すみません」
私はCBRで行くことにした。
バイクの方が早く着きそうだ。
厚木ならば、高速を飛ばせば1時間くらいで着けるだろう。
昼前には帰れると思う。
白のデニムのパンツを履き、Tシャツに白のライダースジャケットを羽織った。
柳さんに見送られ、私は出発した。
初台から高速に乗り、東名、圏央道路をぶっ飛ばす。
タカさんと出掛ける時によく使う道だから慣れている。
そういえば、乾さんに初めて会いに行った時もこのCBRで行ったことを思い出して、何だか嬉しくなった。
今度はあの佐野さんだ!
結構飛ばしたので、45分で厚木市に入った。
「えーとー」
住所はスマホのナビで探した。
佐野さんのお宅は部屋番号があるのでマンションのようだった。
「アレ?」
ナビが案内した場所は、オフィスビルだった。
住所は間違いない。
一応ビルの入り口を見てみると、全部会社名の看板しかなかった。
佐野さんの部屋番号に該当するものも無い。
ちなみに近辺にもマンションはない。
オフィスビルの並ぶ一角だった。
「おかしいな?」
最近建て直されたものではないようだ。
あの一江さんが間違ってるとは思えない。
なんだ?
私は仕方なく先ほど電話した「暁警備」のビルに行ってみることにした。
「……」
小さな事務所だった。
雑居ビルの1階にある事務所。
上の階は別な会社が入っている。
30坪ほどの部屋が「暁警備」だった。
事務所には女性の事務員さんと、年配の男性がいた。
デスクが4つと対面のソファが一つずつ。
壁にはスチール家具があり、いかにも小さなオフィスという感じだ。
「すみません」
「はい?」
「先ほどお電話した石神亜紀と申します」
「ああ!」
事務員の女性が私と話した方のようだった。
驚いてはいたが、私の顔を見て微笑んでくれた。
「何度も申し訳ありません。ここに佐野健也さんという方は……」
「うちはね、20年前からこの会社をしてるんですよ。でもね、佐野さんという方はうちにいたことは無いんです」
「そうなんですかー」
「あそこの社長と私、あとは従業員は5人でね。ずっとそんな感じ」
「はぁ」
うーん、困った。
「佐野さんとは、どういう関係なのかな?」
奥に座っていた社長さんが出て来てくれた。
「はい、父が子どもの頃に大変お世話になった刑事さんなんです。今では警察は定年退職されて、警備会社にお勤めと聞きまして」
「そうなんだ。まあ、警察の人が警備会社に行くことはよくあるけどね」
「そうなんですか。是非お会いしてお礼をしたかったんですけど」
「そういうことか。ところで、どこでうちのことを?」
答えに詰まってしまった。
まさか正直には話せない。
「ちょっと調べてもらったんです」
「ああ、なるほど」
探偵事務所とか想像しただろうか。
「まあうちは違うけど、取引のある警備会社もあるから。今度聴いてみてあげるよ」
「ほんとですか!」
「わざわざここまで来るとはね。よほどお会いしたいんでしょ?」
「はい! 父が本当にお世話になって、大好きな方だったんです」
「そうなんだ」
「あの、虎がサーカスから逃げて! 父が捕まえてその表彰状もあるんです!」
「なんだい、そりゃ」
社長さんが大笑いした。
うーん、ちょっと話しにくいなー。
タカさん、捕まってばっかだからなー。
私は連絡先を伝え、御礼と押し掛けたお詫びを言って事務所を出た。
昼前に家に戻った。
がっかりはしたが、今日はもう仕方がない。
柳さんが「御苦労様」と言ってくれた。
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