上 下
2,401 / 2,808

千鶴・御坂 石神家へ Ⅸ

しおりを挟む
 その日はずっと全員が《神雷》の練習に明け暮れた。
 剣聖たちは全て撃てるようになり、千鶴や御坂の指導に入ってくれる。
 虎白さんが御坂の相手をしてくれた。
 俺と双子は他の剣士たちに「小雷」と魔法陣の指導だ。
 ロボは寝てる。

 昼食の時間になり、若い剣士たちが下から食事を運んで来る。
 その中で、虎蘭が真白のばあさんを背負って上がって来た。
 虎白さんに聞く。

 「今度はどいつだい?」
 「ああ、この御坂鈴葉という奴だ」
 「ふーん」

 真白のばあさんは御坂を一瞥し、俺たちと一緒に食事を始めた。
 みそ焼きお握りと豚汁だった。
 海苔も配られ、指先を汚さないように配慮されていた。
 また物凄く美味い。
 豚汁も出汁がよく出ていて、これも美味い。
 双子も楽しそうに喰いながら、千鶴や御坂、虎蘭や虎水と話している。

 「ルーちゃんとハーちゃんは覚えが早いよね!」
 「「うん!」」
 「石神さんが、「花岡」も二人が最初だったって言ってた」
 「うん、でもね、ほんとはタカさんも出来てたんじゃないかって思うの」
 「それはどうして?」
 「だって、タカさん、私たちが出来ることはすぐに出来ちゃうし、それにいつだって私たちより強いもん」
 「そうなんだ!」

 虎蘭たちが俺を見る。

 「なんだよ」
 「えー! 今は石神さんが話す場面でしょう!」
 「なんでだよ」
 「もう!」

 話すつもりはねぇ。
 双子は天才で、亜紀ちゃんは超天才だ。
 俺は凡才なので、必死に努力しているだけだ。
 そんなことより。

 「おい、御坂」
 「はい、なんですか?」
 「真白が来た。あいつはお前に鍼を打つ」
 「はぁ」
 「虎白さんは、お前に「虎相」を教えるつもりだ」
 「はい」
 「相当な激痛がある。覚悟しておけ」
 「はい!」

 御坂が明るく笑った。
 大した女だ。

 「石神さん」
 
 千鶴が言った。

 「なんだ?」
 「私も鍼を打ってもらえませんか?」
 「なんだと!」
 
 千鶴が真剣な顔で俺を見ていた。

 「ものに出来なくてもいいんです! 試させていただけませんか?」
 「本気かよ」
 「はい!」

 虎蘭が千鶴に言った。

 「千鶴ちゃん、「虎相」は石神家の血が流れて無いとダメなんだよ」
 「はい、それでもいいんです。私、何でも試して出来ることは全部やりたいんです!」
 「千鶴ちゃん……」

 俺はどうしようかと思った。
 本来は断るところだが、千鶴も御坂と同じように必死に求める者の眼をしていた。

 「分かった。虎白さんに聞いてみる。許可が降りたらな」
 「はい! お願いします!」

 虎白さんを見ると、もう食事を終わっているようだった。
 俺はみんなと話しながらだったので、まだ食い足りない。
 握り飯はあと12個ある。
 俺は二つを一口ずつ齧って、喰われないようにした。

 「「「「「「……」」」」」」

 虎白さんの所へ行く。

 「虎白さん」
 「なんだ?」
 「あの、マンロウ千鶴が「虎相」に挑戦したいって言うんですけど」
 「あいつがかよ」
 「はい。本人は是非と言ってまして。身に付かなくてもしょうがないけど、試してはみたいんだと」
 「うーん」

 虎白さんは即座に否定はせずに、考えていた。

 「可能性はねぇぞ?」
 「それでもいいそうです」
 「分かった。真白にやらせるよ」
 「はい! ありがとうございます!」
 「お前が礼を言うことじゃねぇだろう」
 「はい!」

 俺は戻って、千鶴に虎白さんの許可が取れたと言った。
 千鶴は喜んで、虎白さんにお礼を言いに行った。

 「……」

 味噌握りは残ってなかった。
 俺、好物なのに……





 
 食事を終え、御坂と千鶴が建物の中へ連れて行かれた。
 30分ほどで御坂が出て来た。
 恐ろしい形相になっている。
 やはり、相当辛いのだ。
 俺は体験していないが、聖も千石も相当な苦痛だったと言っている。
 大丈夫かとは声を掛けなかった。
 大丈夫なはずはない。

 虎白さんが来た。

 「やるぞ」
 「はい!」

 御坂が叫んだ。
 虎白さんが「虎相」になり、御坂に剣を撃ち込んで行く。
 御坂の反応が、石神家の奥義を模るようになっている。
 本人は必死で虎白さんの剣をかわしているつもりだが、そのように誘導されているのだ。
 御坂は時折倒れそうになるが、虎白さんがそれをさせないようにまた撃ち込んで行く。
 御坂は倒れることも出来ない。

 剣聖たちが御坂を見ていた。
 恐らく全員「虎眼」を使っている。
 御坂に「虎相」が出るのを待っているのだ。

 「行くぞ!」

 虎白さんが叫んだ。
 裂帛の気合と共に、御坂の頭上に剣を振り下ろした。
 御坂が反応できずに、それでも虎白さんへ無意識に自分の剣先を突き向けた。
 虎白さんの剣は、御坂の頭頂寸前で止まった。

 「ウォォォォォォーーーー!」

 御坂が叫んだ。

 「出たぞ!」
 「あいつ、やりやがった!」
 「いい色だ」
 「赤だな。あいついい剣士になるぜ!」

 剣聖たちが次々に叫んだ。

 「虎白さん!」

 御坂の剣が、虎白さんの左胸に突き刺さっていた。
 御坂自身は気付いていない。
 自分の死を実感し、そのショックで動転し、更に「虎相」の出現で一時的に自分の身体に意識が追いついていない。
 俺が駆け寄ったが、虎白さんが自分で胸から剣を抜いて笑った。

 「鈴葉! やったな!」
 「!」

 やっと御坂の意識が戻った。
 虎白さんが御坂の肩をバンバン叩いた。

 「お前、すげぇな!」
 「虎白さん!」
 「よくやった! お前は最高だ!」
 「わ、わたし……」

 俺は虎白さんの上着を捲った。
 
 「虎白さん! 大丈夫ですか!」
 「ああ、なんでもねぇよ」
 
 御坂がようやく気付く。
 
 「虎白さん!」
 「おう。あの瞬間に俺を斬ろうとするなんてな。そんな奴は滅多にいねぇよ」
 「私がやったんですね!」
 「そうだよ。お前は最高だって!」
 「虎白さん!」

 御坂が泣きながら虎白さんに抱き着いた。

 「バカ! 離れろ! すぐに治療する!」
 「は、はい!」

 虎白さんに肩を貸し、ヘッジホッグの治療室へ入れた。
 すぐに「Ω」と「オロチ」を飲ませ、傷を詳細に見た。

 「肺まで抜けてます」
 「大丈夫だよ」
 「縫います。切開しますからね」
 「おう」
 
 俺は急いで消毒をし、傷の周囲を少し切って、切れた肺を縫合した。
 その上で胸部の傷を縫った。
 麻酔は使わない。
 「Ω」と「オロチ」を使ったので、抗生物質も必要無い。
 医学的には無茶苦茶だが。
 肺の縫合に使った糸も、肉体の代謝の中で溶けていく「吸収糸」だ。
 皮膚は抜糸をするので溶けない糸を使う。

 「次は千鶴か」
 「はい」

 虎白さんは寝ていることもなく、俺と一緒に外へ出た。
 虎白さんにとっては、こんな傷は大したことはないのだ。
 まあ、俺はもっと酷い目に遭ったが。
 




 千鶴が鬼のような形相で立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...