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千鶴・御坂 石神家へ Ⅸ

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 その日はずっと全員が《神雷》の練習に明け暮れた。
 剣聖たちは全て撃てるようになり、千鶴や御坂の指導に入ってくれる。
 虎白さんが御坂の相手をしてくれた。
 俺と双子は他の剣士たちに「小雷」と魔法陣の指導だ。
 ロボは寝てる。

 昼食の時間になり、若い剣士たちが下から食事を運んで来る。
 その中で、虎蘭が真白のばあさんを背負って上がって来た。
 虎白さんに聞く。

 「今度はどいつだい?」
 「ああ、この御坂鈴葉という奴だ」
 「ふーん」

 真白のばあさんは御坂を一瞥し、俺たちと一緒に食事を始めた。
 みそ焼きお握りと豚汁だった。
 海苔も配られ、指先を汚さないように配慮されていた。
 また物凄く美味い。
 豚汁も出汁がよく出ていて、これも美味い。
 双子も楽しそうに喰いながら、千鶴や御坂、虎蘭や虎水と話している。

 「ルーちゃんとハーちゃんは覚えが早いよね!」
 「「うん!」」
 「石神さんが、「花岡」も二人が最初だったって言ってた」
 「うん、でもね、ほんとはタカさんも出来てたんじゃないかって思うの」
 「それはどうして?」
 「だって、タカさん、私たちが出来ることはすぐに出来ちゃうし、それにいつだって私たちより強いもん」
 「そうなんだ!」

 虎蘭たちが俺を見る。

 「なんだよ」
 「えー! 今は石神さんが話す場面でしょう!」
 「なんでだよ」
 「もう!」

 話すつもりはねぇ。
 双子は天才で、亜紀ちゃんは超天才だ。
 俺は凡才なので、必死に努力しているだけだ。
 そんなことより。

 「おい、御坂」
 「はい、なんですか?」
 「真白が来た。あいつはお前に鍼を打つ」
 「はぁ」
 「虎白さんは、お前に「虎相」を教えるつもりだ」
 「はい」
 「相当な激痛がある。覚悟しておけ」
 「はい!」

 御坂が明るく笑った。
 大した女だ。

 「石神さん」
 
 千鶴が言った。

 「なんだ?」
 「私も鍼を打ってもらえませんか?」
 「なんだと!」
 
 千鶴が真剣な顔で俺を見ていた。

 「ものに出来なくてもいいんです! 試させていただけませんか?」
 「本気かよ」
 「はい!」

 虎蘭が千鶴に言った。

 「千鶴ちゃん、「虎相」は石神家の血が流れて無いとダメなんだよ」
 「はい、それでもいいんです。私、何でも試して出来ることは全部やりたいんです!」
 「千鶴ちゃん……」

 俺はどうしようかと思った。
 本来は断るところだが、千鶴も御坂と同じように必死に求める者の眼をしていた。

 「分かった。虎白さんに聞いてみる。許可が降りたらな」
 「はい! お願いします!」

 虎白さんを見ると、もう食事を終わっているようだった。
 俺はみんなと話しながらだったので、まだ食い足りない。
 握り飯はあと12個ある。
 俺は二つを一口ずつ齧って、喰われないようにした。

 「「「「「「……」」」」」」

 虎白さんの所へ行く。

 「虎白さん」
 「なんだ?」
 「あの、マンロウ千鶴が「虎相」に挑戦したいって言うんですけど」
 「あいつがかよ」
 「はい。本人は是非と言ってまして。身に付かなくてもしょうがないけど、試してはみたいんだと」
 「うーん」

 虎白さんは即座に否定はせずに、考えていた。

 「可能性はねぇぞ?」
 「それでもいいそうです」
 「分かった。真白にやらせるよ」
 「はい! ありがとうございます!」
 「お前が礼を言うことじゃねぇだろう」
 「はい!」

 俺は戻って、千鶴に虎白さんの許可が取れたと言った。
 千鶴は喜んで、虎白さんにお礼を言いに行った。

 「……」

 味噌握りは残ってなかった。
 俺、好物なのに……





 
 食事を終え、御坂と千鶴が建物の中へ連れて行かれた。
 30分ほどで御坂が出て来た。
 恐ろしい形相になっている。
 やはり、相当辛いのだ。
 俺は体験していないが、聖も千石も相当な苦痛だったと言っている。
 大丈夫かとは声を掛けなかった。
 大丈夫なはずはない。

 虎白さんが来た。

 「やるぞ」
 「はい!」

 御坂が叫んだ。
 虎白さんが「虎相」になり、御坂に剣を撃ち込んで行く。
 御坂の反応が、石神家の奥義を模るようになっている。
 本人は必死で虎白さんの剣をかわしているつもりだが、そのように誘導されているのだ。
 御坂は時折倒れそうになるが、虎白さんがそれをさせないようにまた撃ち込んで行く。
 御坂は倒れることも出来ない。

 剣聖たちが御坂を見ていた。
 恐らく全員「虎眼」を使っている。
 御坂に「虎相」が出るのを待っているのだ。

 「行くぞ!」

 虎白さんが叫んだ。
 裂帛の気合と共に、御坂の頭上に剣を振り下ろした。
 御坂が反応できずに、それでも虎白さんへ無意識に自分の剣先を突き向けた。
 虎白さんの剣は、御坂の頭頂寸前で止まった。

 「ウォォォォォォーーーー!」

 御坂が叫んだ。

 「出たぞ!」
 「あいつ、やりやがった!」
 「いい色だ」
 「赤だな。あいついい剣士になるぜ!」

 剣聖たちが次々に叫んだ。

 「虎白さん!」

 御坂の剣が、虎白さんの左胸に突き刺さっていた。
 御坂自身は気付いていない。
 自分の死を実感し、そのショックで動転し、更に「虎相」の出現で一時的に自分の身体に意識が追いついていない。
 俺が駆け寄ったが、虎白さんが自分で胸から剣を抜いて笑った。

 「鈴葉! やったな!」
 「!」

 やっと御坂の意識が戻った。
 虎白さんが御坂の肩をバンバン叩いた。

 「お前、すげぇな!」
 「虎白さん!」
 「よくやった! お前は最高だ!」
 「わ、わたし……」

 俺は虎白さんの上着を捲った。
 
 「虎白さん! 大丈夫ですか!」
 「ああ、なんでもねぇよ」
 
 御坂がようやく気付く。
 
 「虎白さん!」
 「おう。あの瞬間に俺を斬ろうとするなんてな。そんな奴は滅多にいねぇよ」
 「私がやったんですね!」
 「そうだよ。お前は最高だって!」
 「虎白さん!」

 御坂が泣きながら虎白さんに抱き着いた。

 「バカ! 離れろ! すぐに治療する!」
 「は、はい!」

 虎白さんに肩を貸し、ヘッジホッグの治療室へ入れた。
 すぐに「Ω」と「オロチ」を飲ませ、傷を詳細に見た。

 「肺まで抜けてます」
 「大丈夫だよ」
 「縫います。切開しますからね」
 「おう」
 
 俺は急いで消毒をし、傷の周囲を少し切って、切れた肺を縫合した。
 その上で胸部の傷を縫った。
 麻酔は使わない。
 「Ω」と「オロチ」を使ったので、抗生物質も必要無い。
 医学的には無茶苦茶だが。
 肺の縫合に使った糸も、肉体の代謝の中で溶けていく「吸収糸」だ。
 皮膚は抜糸をするので溶けない糸を使う。

 「次は千鶴か」
 「はい」

 虎白さんは寝ていることもなく、俺と一緒に外へ出た。
 虎白さんにとっては、こんな傷は大したことはないのだ。
 まあ、俺はもっと酷い目に遭ったが。
 




 千鶴が鬼のような形相で立っていた。
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