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千鶴・鈴葉 石神家へ Ⅵ
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食事を終え、酒を飲んだ。
俺と虎白さん、虎蘭と虎水。
他の連中はジュースで付き合った。
双子が千疋屋のフレッシュジュースを大量に持って来ている。
俺たちは俺が持って来た「浦霞」を冷で飲んだ。
つまみは虎白さんが冷蔵庫から幾つか出してくれた。
イカの塩辛や貝の煮物、漬物などだ。
「高虎、《地獄の悪魔》を斃す技だけどよ」
「はい」
「お前、何か考えは無いか?」
「……」
俺には「虎王」があり、聖には崋山の銃がある。
だから《地獄の悪魔》相手にも戦えるのだ。
「黒笛」は強力な剣だが、あれはクロピョンが鍛えたもので、神に匹敵する《地獄の悪魔》相手では届かないこともあるだろう。
やはり、剣技で何かを編み出すしかない。
「一つ考えていることがあります」
「なんだ!」
「「花岡」の技と融合させることです」
「おう」
石神家の剣技も「花岡」と同様に、地球の力を使うものもある。
だから莫大なエネルギーで破壊的な剣技にもなるのだ。
しかし、「花岡」の技では《地獄の悪魔》を斃せない。
それは《地獄の悪魔》が地球のあらゆるエネルギーを無効化するためだ。
上位存在なので、人間が操る技は無効化するか、少なくともほとんどを減衰出来る。
「「ユークリッド幾何学」という数学の分野があります」
「お、おう、あるな?」
「千鶴と御坂は分かるよな?」
「おう?」
俺は笑った。
「図形の数学と言っていいんですが、例えば「ある直線に対して、一つの点を通過して平行になる直線は一本しかない」とか、5つの公理によって成り立っているものなんです」
「お、おう、そうだよな?」
「その5つの公理が、図形の全ての数学を支えていると言っていい。ほとんどの幾何学の問題の証明は、その5つの公理で可能なんです」
「あ、ああ、そうだったな」
虎白さんが俺を徐々に睨んでいる。
千鶴と御坂は顔を背けていた。
虎蘭と虎水は何事もないように聴いていた。
「ところがですね。ある数学者が「ある直線に対して、一つの点を通過して平行になる直線は一本以上ある」という公理を仮に作ったんですよ。そうしたら、そこからどんどん新しい幾何学の体系が生まれて行って、それが全部証明され、間違いではないとされたんです」
「うん」
「他にも、別な公理を書き換えてみたら、同じように膨大な体系が生まれてしまった」
「おう、良かったよな」
「それが「非ユークリッド幾何学」というものなんです」
虎白さんが俺を睨む目が、段々コワクなって来た。
「《地獄の悪魔》を今の常識で斃せないのならば、その常識を変えてみるのはどうですかね?」
「なんだと?」
虎白さんが睨む目つきをやめてくれた。
「例えば、「煉獄」は離れた場所で自分が斬った剣技を相手にぶつけることが出来ます」
「おう!」
「それは自分が動いた数だけです。それが公理です」
「ああ!」
「それを、自分が動いた100倍の数が相手にぶつかるとしたら、単純に威力は100倍ですよ」
「「「!」」」
虎白さん、虎蘭、虎水が驚く。
「高虎! お前、出来るのか!」
「出来ません」
頭を引っぱたかれた。
「てっめぇ!」
「ちょっと待って下さいよ! だから俺が言ったのはそういうことじゃなくって!」
「なんだよ!」
「思考の根底を変えるということです!」
「さっさと説明しろ!」
またはたかれた。
「いいですか。まずは信じることです」
「どうやって!」
「それは「非ユークリッド幾何学」と同じです。「煉獄」が100倍になるとして、そうなると他の技がどうなるのかを全部検証していくんです!」
「「連山」はどうなる!」
「あの技は剣技に地球の自転エネルギーを乗せて拡大して行きますよね?」
「そうだ」
「「煉獄」の剣技が100倍になるとしたら、「連山」も一振りで100の空斬が飛んで行くことになりますね」
「「「!」」」
虎白さんはまた幾つかの奥義を俺に聞いて来た。
俺も考えながら、その結果を話した。
「高虎! 本当に出来るのか!」
「分かりませんよ。でも「ユークリッド幾何学」が正しいのであれば、「非ユークリッド幾何学」も正しいってことが証明されているんです。だから俺たちも考えて見てもいいかなって」
「すぐにやるぞ!」
「え?」
「来い!」
「ちょ、ちょっと!」
虎白さんが俺の腕を取って外へ俺を連れ出した。
そのまま山の上の鍛錬場まで連れていかれる。
後ろを慌てて虎蘭や虎水、双子と千鶴、御坂が追いかけて来た。
ロボまで一緒に来る。
虎白さんが日本刀を持って来た。
「よし、やれ!」
「えぇー!」
「早くしろ!」
無理を言う。
まだ何も考えてねぇ。
だが、そう言える雰囲気でもねぇ。
仕方なく、俺は剣を構えた。
アレをやるしかねぇか。
不味い場合はロボもいるしー。
俺は剣の切っ先に魔法陣を描いた。
「それはなんだ!」
「……」
説明出来ねぇ。
それよりも、集中しないとヤバい。
《煉獄》
俺はそのまま「煉獄」を放った。
角度を付けて上空へ飛ぶようにした。
途轍もない巨大なエネルギーが噴き出した。
「!」
「「「「「「「!」」」」」」」
「にゃ!」
「煉獄」の飛翔が、直径500メートルにも拡がり、夜空へ伸びて行く。
不味いか!
しかし、不安だった次元の割れ目は生じず、虚空へ伸びてやがて消えた。
いやー、100倍どこじゃねぇよ。
「高虎! 今のはなんだ!」
「まだ未完成ですよ! 取り敢えず発動することは分かりました!」
「おい!」
虎白さんが興奮している。
咄嗟にやってはみたが、何とか力の加減が出来て良かった。
「今、「虎眼」で観ていた。あれは確実に《地獄の悪魔》を斃せるだろうぜ!」
「そうですか!」
「お前、やったなぁ!」
虎白さんが嬉しそうに傍に来て、俺の肩を叩いていた。
「ケロケロ!」
突然林から怒貪虎さんが出て来た。
結構慌てている様子だ。
「ケロケロ!」
「はい! 今高虎がずげぇ技を編み出しました!」
「ケロケロ!」
「あのですね、「非ユークリッド幾何学」ってあるじゃないですか?」
「ケロケロ?」
「そうなんです! 今までの常識から、新たな常識を作ったんですよ。いやぁ、俺も驚きました」
「ケロケロ!」
「はい! おい、高虎!」
なんて?
「お前から詳しく説明しろ!」
「はい。あの、魔法陣を使ってですね」
「ケロケロ?」
「あれって、技の威力を数万倍とかにするんですよ」
「ケロ?」
「前に「花岡」で使った時、次元の裂け目が出来て、異次元のとんでもない奴が出て来ましてね」
「ケロ!」
「ロボが塞ぎました。今回は俺が制御出来たようで」
「ケロケロ!」
いきなり吹っ飛ばされた。
なんで?
「高虎、その技は随分と危険なようだな」
「はい、俺もそう思います」
「お前、またとんでもねぇことを。怒貪虎さんが言うには、この辺り一帯が危なかったらしいぞ」
「異次元の怪物が出たらそうですね。でもロボがいますから大丈夫ですよ」
「そうなのかよ」
下が騒がしくなる。
どうやら他の剣士たちも来たようだ。
「おい、みんな! 高虎がすげぇ技を編み出した! おい、もう一回見せろよ」
「はい! じゃあ石神家の新しい剣技《神雷》をやりますね!」
虎白さんから思い切りぶん殴られた。
なんで?
「てめぇ! 何勝手に命名してんだよ!」
「え?」
「技名はみんなで考えて決めるんだって言ってるだろう!」
「は、はい」
もちろん聞いてません。
「なんだよ、《神雷》ってよー。ああ、ちょっとカッコイイか?」
「そうだな、悪くねぇ感じだぜ」
「俺、ちょっと考えてたのもあったんだけど」
「高虎がやったのが気に喰わねぇけどなぁ」
なんだよ!
「高慢な神に怒りの天罰を喰らわすって意味です!」
「おお、なんかいいな」
「高虎が言うと気に喰わねぇんだけどなぁ」
なんだよ!
「まあいい、高虎、とにかくもう一度やれ」
「はい!」
俺はさっきよりも慎重に動いた。
加減は分かっていたので、気は楽だ。
《神雷》
夜空に向かって、直径500メートルの紫色の電光の束が伸びて行った。
ちょっと「花岡」の「轟雷」を混ぜて見た。
「おい、さっきと違うじゃねぇか!」
「アレンジしました」
「てめぇ!」
虎白さんが怒るが他の剣士たちは美しく壮絶な技に見惚れていた。
怒貪虎さんですら、うっとりと眺めている。
なんとかなった感じ?
俺と虎白さん、虎蘭と虎水。
他の連中はジュースで付き合った。
双子が千疋屋のフレッシュジュースを大量に持って来ている。
俺たちは俺が持って来た「浦霞」を冷で飲んだ。
つまみは虎白さんが冷蔵庫から幾つか出してくれた。
イカの塩辛や貝の煮物、漬物などだ。
「高虎、《地獄の悪魔》を斃す技だけどよ」
「はい」
「お前、何か考えは無いか?」
「……」
俺には「虎王」があり、聖には崋山の銃がある。
だから《地獄の悪魔》相手にも戦えるのだ。
「黒笛」は強力な剣だが、あれはクロピョンが鍛えたもので、神に匹敵する《地獄の悪魔》相手では届かないこともあるだろう。
やはり、剣技で何かを編み出すしかない。
「一つ考えていることがあります」
「なんだ!」
「「花岡」の技と融合させることです」
「おう」
石神家の剣技も「花岡」と同様に、地球の力を使うものもある。
だから莫大なエネルギーで破壊的な剣技にもなるのだ。
しかし、「花岡」の技では《地獄の悪魔》を斃せない。
それは《地獄の悪魔》が地球のあらゆるエネルギーを無効化するためだ。
上位存在なので、人間が操る技は無効化するか、少なくともほとんどを減衰出来る。
「「ユークリッド幾何学」という数学の分野があります」
「お、おう、あるな?」
「千鶴と御坂は分かるよな?」
「おう?」
俺は笑った。
「図形の数学と言っていいんですが、例えば「ある直線に対して、一つの点を通過して平行になる直線は一本しかない」とか、5つの公理によって成り立っているものなんです」
「お、おう、そうだよな?」
「その5つの公理が、図形の全ての数学を支えていると言っていい。ほとんどの幾何学の問題の証明は、その5つの公理で可能なんです」
「あ、ああ、そうだったな」
虎白さんが俺を徐々に睨んでいる。
千鶴と御坂は顔を背けていた。
虎蘭と虎水は何事もないように聴いていた。
「ところがですね。ある数学者が「ある直線に対して、一つの点を通過して平行になる直線は一本以上ある」という公理を仮に作ったんですよ。そうしたら、そこからどんどん新しい幾何学の体系が生まれて行って、それが全部証明され、間違いではないとされたんです」
「うん」
「他にも、別な公理を書き換えてみたら、同じように膨大な体系が生まれてしまった」
「おう、良かったよな」
「それが「非ユークリッド幾何学」というものなんです」
虎白さんが俺を睨む目が、段々コワクなって来た。
「《地獄の悪魔》を今の常識で斃せないのならば、その常識を変えてみるのはどうですかね?」
「なんだと?」
虎白さんが睨む目つきをやめてくれた。
「例えば、「煉獄」は離れた場所で自分が斬った剣技を相手にぶつけることが出来ます」
「おう!」
「それは自分が動いた数だけです。それが公理です」
「ああ!」
「それを、自分が動いた100倍の数が相手にぶつかるとしたら、単純に威力は100倍ですよ」
「「「!」」」
虎白さん、虎蘭、虎水が驚く。
「高虎! お前、出来るのか!」
「出来ません」
頭を引っぱたかれた。
「てっめぇ!」
「ちょっと待って下さいよ! だから俺が言ったのはそういうことじゃなくって!」
「なんだよ!」
「思考の根底を変えるということです!」
「さっさと説明しろ!」
またはたかれた。
「いいですか。まずは信じることです」
「どうやって!」
「それは「非ユークリッド幾何学」と同じです。「煉獄」が100倍になるとして、そうなると他の技がどうなるのかを全部検証していくんです!」
「「連山」はどうなる!」
「あの技は剣技に地球の自転エネルギーを乗せて拡大して行きますよね?」
「そうだ」
「「煉獄」の剣技が100倍になるとしたら、「連山」も一振りで100の空斬が飛んで行くことになりますね」
「「「!」」」
虎白さんはまた幾つかの奥義を俺に聞いて来た。
俺も考えながら、その結果を話した。
「高虎! 本当に出来るのか!」
「分かりませんよ。でも「ユークリッド幾何学」が正しいのであれば、「非ユークリッド幾何学」も正しいってことが証明されているんです。だから俺たちも考えて見てもいいかなって」
「すぐにやるぞ!」
「え?」
「来い!」
「ちょ、ちょっと!」
虎白さんが俺の腕を取って外へ俺を連れ出した。
そのまま山の上の鍛錬場まで連れていかれる。
後ろを慌てて虎蘭や虎水、双子と千鶴、御坂が追いかけて来た。
ロボまで一緒に来る。
虎白さんが日本刀を持って来た。
「よし、やれ!」
「えぇー!」
「早くしろ!」
無理を言う。
まだ何も考えてねぇ。
だが、そう言える雰囲気でもねぇ。
仕方なく、俺は剣を構えた。
アレをやるしかねぇか。
不味い場合はロボもいるしー。
俺は剣の切っ先に魔法陣を描いた。
「それはなんだ!」
「……」
説明出来ねぇ。
それよりも、集中しないとヤバい。
《煉獄》
俺はそのまま「煉獄」を放った。
角度を付けて上空へ飛ぶようにした。
途轍もない巨大なエネルギーが噴き出した。
「!」
「「「「「「「!」」」」」」」
「にゃ!」
「煉獄」の飛翔が、直径500メートルにも拡がり、夜空へ伸びて行く。
不味いか!
しかし、不安だった次元の割れ目は生じず、虚空へ伸びてやがて消えた。
いやー、100倍どこじゃねぇよ。
「高虎! 今のはなんだ!」
「まだ未完成ですよ! 取り敢えず発動することは分かりました!」
「おい!」
虎白さんが興奮している。
咄嗟にやってはみたが、何とか力の加減が出来て良かった。
「今、「虎眼」で観ていた。あれは確実に《地獄の悪魔》を斃せるだろうぜ!」
「そうですか!」
「お前、やったなぁ!」
虎白さんが嬉しそうに傍に来て、俺の肩を叩いていた。
「ケロケロ!」
突然林から怒貪虎さんが出て来た。
結構慌てている様子だ。
「ケロケロ!」
「はい! 今高虎がずげぇ技を編み出しました!」
「ケロケロ!」
「あのですね、「非ユークリッド幾何学」ってあるじゃないですか?」
「ケロケロ?」
「そうなんです! 今までの常識から、新たな常識を作ったんですよ。いやぁ、俺も驚きました」
「ケロケロ!」
「はい! おい、高虎!」
なんて?
「お前から詳しく説明しろ!」
「はい。あの、魔法陣を使ってですね」
「ケロケロ?」
「あれって、技の威力を数万倍とかにするんですよ」
「ケロ?」
「前に「花岡」で使った時、次元の裂け目が出来て、異次元のとんでもない奴が出て来ましてね」
「ケロ!」
「ロボが塞ぎました。今回は俺が制御出来たようで」
「ケロケロ!」
いきなり吹っ飛ばされた。
なんで?
「高虎、その技は随分と危険なようだな」
「はい、俺もそう思います」
「お前、またとんでもねぇことを。怒貪虎さんが言うには、この辺り一帯が危なかったらしいぞ」
「異次元の怪物が出たらそうですね。でもロボがいますから大丈夫ですよ」
「そうなのかよ」
下が騒がしくなる。
どうやら他の剣士たちも来たようだ。
「おい、みんな! 高虎がすげぇ技を編み出した! おい、もう一回見せろよ」
「はい! じゃあ石神家の新しい剣技《神雷》をやりますね!」
虎白さんから思い切りぶん殴られた。
なんで?
「てめぇ! 何勝手に命名してんだよ!」
「え?」
「技名はみんなで考えて決めるんだって言ってるだろう!」
「は、はい」
もちろん聞いてません。
「なんだよ、《神雷》ってよー。ああ、ちょっとカッコイイか?」
「そうだな、悪くねぇ感じだぜ」
「俺、ちょっと考えてたのもあったんだけど」
「高虎がやったのが気に喰わねぇけどなぁ」
なんだよ!
「高慢な神に怒りの天罰を喰らわすって意味です!」
「おお、なんかいいな」
「高虎が言うと気に喰わねぇんだけどなぁ」
なんだよ!
「まあいい、高虎、とにかくもう一度やれ」
「はい!」
俺はさっきよりも慎重に動いた。
加減は分かっていたので、気は楽だ。
《神雷》
夜空に向かって、直径500メートルの紫色の電光の束が伸びて行った。
ちょっと「花岡」の「轟雷」を混ぜて見た。
「おい、さっきと違うじゃねぇか!」
「アレンジしました」
「てめぇ!」
虎白さんが怒るが他の剣士たちは美しく壮絶な技に見惚れていた。
怒貪虎さんですら、うっとりと眺めている。
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