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千鶴・鈴葉 石神家へ Ⅴ

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 一時休憩になった。
 剣士たちが全員地面に座り、若い剣士たちが冷たい飲み物を配って行く。
 怒貪虎さんは以前と同じようにテーブルと椅子が用意され、カールとファンタグレープが置かれる。
 怒貪虎さんは嬉しそうに呑み、食べ始める。
 虎白さんが俺の隣に座った。

 「虎白さん、どうして怒貪虎さんが来たんですか?」
 「あ? ああ、まあな」
 「なんですか!」
 「うるせぇな。「地獄の悪魔」をぶっ斃す技を身に着けるためだよ」
 「!」

 虎白さんは、前回のブラジルでの《ハイヴ》攻略で、自分たちが役立たずだったと言っていた。
 俺はそんなことは無いと何度も言ったのだが、やはり気に病んでいたのだ。
 そして、自分の言葉通りに次は何とかすることを必死に考えていたのか。
 俺は驚くと共に、申し訳ない気持ちで一杯になった。
 俺が幾ら言おうと、虎白さんのような人間にとっては、あれは痛烈な「恥」だったのだ。
 自分がやると言いながら、そのつもりでいながら、何も出来ずに俺の手を煩わせてしまったと。
 もちろん俺は最初から、あのレベルのことであれば出撃するつもりだった。
 石神家の剣士を犠牲にしたくはなかったからだ。
 でもそれは俺の自己満足でしかなかった。
 本気で戦場に向かう虎白さんたちの心を見ていなかった。
 前回、「ガンドッグ」の救出作戦に虎白さんたちが来たがらなかったのも、強力な技を身に着けるために鍛錬の時間を惜しんだのだ。
 俺のために役立とうと考えて。

 後に俺と聖だけで《ハイヴ》を攻略したことは、虎白さんの耳にも入っている。
 一体、どんな気持ちでそれを聞いたのだろうか。
 自分たちを不甲斐ないと思っていたのではないだろうか。
 だが、俺などにそれを慰められるわけもない。
 誰からも慰めなど欲しがらない人だが、中でも俺にだけはそうして欲しくないだろう。

 「おい、高虎。絶対にものにするからな」
 「はい! よろしくお願いします!」

 俺が言うと、虎白さんは小さく笑った。

 「お前にもらった「黒笛」ならよ、大抵の妖魔は斬れる。剣士見習程度でもな」
 「はい」
 「だが、地獄の悪魔は別だ。あいつらは神に近い力がある」
 「はい、元々神に挑んだ連中ですからね」
 「そうだ。それにお前は神とも戦ったんだろう?」
 「ええ」
 「だったら俺たちもだ。神が相手でも戦えるようになるぜ」
 「でも、神を殺せば「神殺し」の呪いを浴びますよ?」

 「ワハハハハハハハハ!」
 
 虎白さんが笑った。

 「それがどうした! 俺たちはお前のために神を殺すまでよ。その後のことなんか知るか!」
 「……」

 俺は頭を下げてそれ以上は語らなかった。
 その通りだった。
 石神家の剣士は皆、そうなのだ。
 戦うべき相手と戦い、斃す。
 それが全てだ。
 そして斃せなければ死ぬ。
 だから、斃した後で死ぬことが何ほどのことがあろうか。
 俺も同じですよ、虎白さん。

 俺は話題を変えた。

 「それにしてもまた剣士が増えましたよね?」
 「ああ、いま96人になってる」
 「へぇー!」

 最初は30人くらいだったはずだ。

 「間違いなく、石神家史上最大の数ですよね!」
 「まあな。でもまだまだ足りない」
 「え?」
 「今の当主のやることが無茶苦茶でな。もっと増やさねぇと、当主の期待に応えられない」
 「ワハハハハハハハ!」

 困りますよ、虎白さん。

 「とにかくでかい戦いだ。この一割が残るかどうか」
 「そうですか」
 
 御坂を呼んだ理由が分かった。

 「「虎眼流」も今後は引き込んで行くんですね」
 「そうだ。石神家だけでは限界があるからな」
 「まさか百目鬼家もですか?」
 「ああ、もう形振り構ってられねぇ。戦力になる連中はみんなまとめるぞ」
 「それは石神家が主導するということですか?」
 「いやあくまでも使うのはお前だ、高虎。お前の「虎」の軍でお前が使え」
 「はい」
 「俺たちはお前のために集め、鍛え上げる。それをお前が自由に使え」
 「はい!」

 涙が出そうになった。

 「これからは総力戦だ。石神家はお前に従う。そして俺たちはお前に幾らでも戦力を揃えて前に並べてやる。お前はそいつらを好きに使え!」
 「はい!」

 休憩が終わり、また全員が鍛錬を始めた。
 俺は剣聖たちと混じって、怒貪虎さんに鍛えられた。
 最強の剣士たちが、まるで木の葉のように辺りにぶっ飛ばされて行く。
 そしてまた、何度も怒貪虎さんに挑んでいく。
 みんな奥義を使うが、怒貪虎さんには一切通じない。
 しかも、ただ漫然と奥義で挑んでいるわけではない。
 奥義を組み合わせ、また新たな何かを模索しているのが分かる。
 俺も既存の奥義に何かを加えようと必死に考えながら向かって行った。
 剣聖たちであるからこそ、この一見無茶苦茶な鍛錬が功を奏しているのが分かる。
 ギリギリのところで何かを見出そうとしている。

 日が暮れるまで、俺たちは鍛錬に明け暮れた。





 ようやく鍛錬が終わり、みんなで山を降りた。
 双子とロボは元気だが、千鶴と御坂はヘトヘトになっている。
 自分の足で走っているだけ大したものだ。
 千鶴は百目鬼家の技を指南された後は、石神家の剣術を学んでいたようだ。
 一応百目鬼家にも剣技はあるようだが、石神家とは全然違う。
 しかも真剣でやるのだから、緊張感は半端なかっただろう。
 御坂は慣れてはいるが、本格的な石神家の鍛錬はきつかったに違いない。

 麓に降りて、まずは風呂に入った。
 それぞれの家に分かれる。
 夕食は、虎白さんの家で食べることになっているようで、虎蘭、虎水たちも、あとで虎白さんの家に来るはずだった。
 俺は虎白さんと一緒に風呂に入り、その後で双子が入った。

 「怒貪虎さんはどこで寝るんですか?」
 「ああ、あの人は自分の家があるからな」
 「そうなんですか!」

 まあ、思えば石神家の人間でもある。
 自宅があるのか。

 「食事は?」
 「特別な料理が運ばれるよ」
 「そうなんですか」
 
 カールか?

 「おい、間違っても怒貪虎さんの家には行くなよ?」
 「行きませんよ!」

 冗談じゃねぇ。
 でも、何喰ってるのか、ちょっと気になった。

 そのうちに、料理が運ばれて来た。
 双子も風呂から上がり、居間に座った。
 虎蘭たちも来る。

 「お邪魔します!」
 
 四人が入って来て、席に着いた。

 秋刀魚の焼物。
 山菜と厚揚げの煮付け。
 野菜の天ぷら。
 焼いたウサギの腿肉。
 大根の煮物。
 摺り下ろした自然薯。
 ロボには刺身と焼肉だ。

 それに米と豆腐の味噌汁。
 みんなで食べていると、後から大量のステーキが来た。
 俺たちが持って来た肉だ。
 双子がどんどん食べて行く。

 「高虎も喰えよ」
 「俺はこういうものの方が」
 「そうなのか?」
 「はい」

 本当に美味い飯だった。
 千鶴と御坂も感動している。
 何しろ米が美味い。
 薪釜で丁寧に炊いていることが分かる。
 これ以上の炊き方は無いのだ。

 「御飯が美味しいですね!」

 千鶴と御坂が感動している。

 「そうか?」
 「はい! こんなに美味しいお米は食べたことありませんよ!」
 「そうか、どんどん食べてくれな」
 「はい!」

 ステーキは10キロだ。
 双子はそれを食べ終え、一緒に米の美味さに感動する。

 「タカさん! うちでもこういうの!」
 「私、なんでもやるよ!」
 「これはよ、薪を使って専用の釜で炊くんだよ。うちでは難しいな」
 「そんなの! 頑張るよ!」
 「まあ、帰ったら考えよう」
 「「うん!」」

 虎白さんが笑っていた。

 「そんなに美味いかよ?」
 「最高です!」
 「流石石神家!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 虎蘭たちも笑っていた。

 「虎蘭たちも、いつも食事は作って貰っているのか?」
 「はい。鍛錬で立ち上がれないことも多いので」
 「そっかー」
 
 大変だ。

 「石神さんのお宅で頂いた蕎麦が美味しかったです!」
 「あれかー」
 「特に卵の天ぷらが!」
 「コッコ卵だよ!」
 
 双子が叫んだ。

 「え?」

 ハーがすぐにスマホで画像を見せた。
 2メートルのコッコたちが双子と肩を組んで写っている。

 「なにこれ!」
 「コッコたちだよ!」
 「妖魔?」
 「「違うよ!」」

 俺が、双子がナゾ光線を浴びせながら育てたニワトリだと言った。

 「こんなことが!」
 「結構、こいつら強いんだよ」
 「そうなんですか!」
 「前に、花岡の斬が顔面に蹴りを喰らってた」
 「「「「!」」」」

 虎蘭たちが驚いた。
 斬の名前は知っているらしい。

 「あの花岡斬が……」
 「な!」

 賑やかな食事になった。
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