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退魔師 XⅥ
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一度一階に降りて、諸見の虎の鏝絵を見て頂いた。
「これは見事なものですね!」
「いいでしょう? 諸見という男がやってくれたんです」
「石神先生への愛情が強く残っています」
「そうですか」
「それに、美しい方々がこれに触れていますね」
「!」
やはり分かるのか。
この鏝絵の前で以前写真を撮った時に、様々な奇跡が写った。
俺は中庭の通路を通って、裏の建物へ案内した。
階段を上がって、廊下の突き当りの封印の部屋の前まで来た。
「何か感じますか?」
「少し。でもここの封印が並外れて強力なので、まだそれほどは感じません」
「道間家の当主がやってくれたんですよ」
「道間家の!」
「道間麗星という女で。実は俺の妻の一人です」
「道間家の当主がですか!」
「アハハハハハハ!」
まあ、そこはおいおいに。
俺は壁のテンキーを叩いてロックを解除した。
鋼鉄製のドアを開け、その向こうの扉の鍵も外した。
ドアを開くと、柏木さんが緊張した。
「これは途轍もないですね」
「気分が悪くなられたら言って下さい。無理にお見せするものでもありませんので」
「分かりました」
霊能者にとっては、既に気分の良いものではないだろう。
霊感の無い俺にも、重苦しい感覚はある。
部屋の電灯を点け、柏木さんに入っていただいた。
「強力な呪物ばかりですね」
「そうですか。一度「鬼猿」のものがうちの人間に憑りつきまして」
「それは危なかったですね」
「はい。麗星に来て貰ったのも、その後です。そういうことがあるまでは、俺も気楽に考えていました」
「ここにあるものは、とんでもないものばかりです。流石は吉原さんが集めたものです。あの方の封印もあるようですが、一部は外れてしまったのでしょう」
「そうですか」
柏木さんは緊張はしているが恐れる様子もなく、一つ一つの品を検分していく。
「この香炉には、強大な鬼の王が封印されていますね。石神先生が解放されれば、きっと強い味方になるかと」
「!」
「この紐は……」
「この懐紙の中には……」
「この小刀には……」
柏木さんが霊視し、全ては分からないようだが、幾つかのものを俺に示してくれた。
中には超兵器と呼んでも差し支えないものもあった。
俺は礼を述べて部屋を出た。
柏木さんは大分疲弊したようだ。
「申し訳ありません。ちょっと見て頂くだけのつもりだったのですが」
「いいえ。これだけのもの、普通は一生観る機会もないでしょう。大層なものを拝見させていただきました」
俺たちはリヴィングへ戻った。
柏木さんにソファに座ってもらった。
「あの、道間家から特別な酒を貰っているのですが」
「そうなのですか?」
「はい。霊的に影響を受けた時に飲むと良いと聞いています」
「そういうものが!」
「ちょっと召し上がりませんか?」
「宜しければ。少々やられたようです」
「はい」
俺は自分の部屋の金庫を開け、「霊破」を取り出してリヴィングへ戻った。
ぐい呑みに少し注いで柏木さんに飲んで頂いた。
「!」
「どうですか?」
「これは凄い! 先ほどまでのだるさが一気に抜けました!」
「そうですか。もう一杯どうぞ」
柏木さんが恐縮しながら、また飲み干した。
「ああ、もう大丈夫です! 身体が透き通る!」
「それは良かった!」
俺は酒に栓をして、また金庫に仕舞いに行った。
亜紀ちゃんたちに見つかると厄介だ。
戻ると柏木さんがニコニコしている。
「素晴らしいものを頂きました」
「いえ、貰い物ですが」
「アハハハハハハ!」
本当に調子が良さそうで良かった。
また俺の浅慮で、柏木さんに辛い思いをさせてしまった。
「良ければお帰りの時にお持ちください。柏木さんには役立つものでしょう」
「いいえ、あのようなものは。道間家の貴重なお酒なのでしょう」
「うちではあまり使う用事も無くて。ああ、娘たちが前にこっそり飲みやがって」
「そうなのですか?」
「あれは霊障などが無い人間が飲むと、厄介なことになるんですよ」
「え?」
俺は亜紀ちゃんと柳が甘えネコになったのだと話した。
「一晩中撫でて「カワイイよー」って言わないといけないんですって! 朝方まで撫でさせられてまいりましたよ!」
「ワハハハハハハハハ!」
柏木さんが爆笑した。
「さっきはちょっと、柏木さんが甘えネコになったらどうしようかと思いました」
「ワハハハハハハハハ!」
「千鶴に任せようと思ってました」
「ワハハハハハハハハ!」
子どもたちが「虎温泉」から戻って来た。
みんなキッチンでつまみを作り始め、千鶴と御坂がこっちへ来た。
「石神さん! 素晴らしい温泉でした!」
「温泉の元を入れているだけだけどな」
「いいえ! あのお湯は特殊なものですよね!」
「まあな。特殊な金属が影響しているようだよ」
「スゴイですよね! 聞きましたよ、温泉を掘ろうとしてって」
「ああ、とんでもねぇんだよ。小判やら金の鉱脈やらよ!」
「レッドダイヤモンド!」
「そうそう! これまたとんでもねぇ発掘バカがいてよ!」
「真夜はいい子ですよ!」
「うるせぇ! あいつのせいでどれだけ苦労したか!」
俺が真夜が庭でレッドダイヤモンドや他のダイヤモンドを掘り起こした話をした。
柏木さんたちが驚く。
「こないだなんてよ! ヒヒイロカネだぞ!」
「!」
「「?」」
柏木さんは分かったようだが、千鶴と御坂は理解出来ていない。
「でかい円柱でよ! 百家の人が来てぶったまげてた!」
「「「アハハハハハハハハ!」」」
意味は分からずとも、千鶴と御坂も笑った。
百家の人間のことは知っているのだろう。
千鶴と御坂がキッチンへ手伝いに行こうとしたが、生憎手を借りるまでもない。
子どもたちが合理的にこなしているので、かえって邪魔になることが分かり引き返して来た。
もう7時半になっていたので、俺たちは先に地下へ降りることにした。
間もなく料理や飲み物も運ばれてくる。
地下の音響ルームへ入ると、また柏木さんたちが驚いた。
まあ、家の大きさで驚かれるのは気恥ずかしいのだが、この音響ルームで驚いてもらうのは嬉しい。
俺の自慢のものだからだ。
「どうですか、いいでしょう!」
ここばかりは自慢してしまう。
自分でもまだまだ成っていないと反省もするのだが。
柏木さんは贅沢に興味が無い方なので、一段落すると落ち着かれた。
若い千鶴と御坂は興奮しながら、異様なスピーカーなどを見て回る。
「石神さん! 何か音楽を掛けていただけませんか?」
御坂が言うので、俺は喜んでコルトレーンの『My One And Only Love』を流した。
サックスの美しく優しいメロディがアヴァンギャルドから零れ落ちるように流れて来る。
「素敵……」
御坂が呟いた。
柏木さんは静かに目を閉じ、千鶴は目を輝かせていた。
本当は照明も落としたいのだが、すぐに料理を子どもたちが運んで来る。
子どもたちがニコニコしながら料理を運び、椅子やテーブルを準備していく。
俺はレコードを止め、好きな飲み物を聞きながら準備して言った。
「またこんなに食べるんですか!」
「そうだよなー」
もう恥ずかしいです。
でも美味しいんです。
食べて下さい。
7時50分になり、亜紀ちゃんがテレビ前の敷物に座った。
「もうすぐだぞぉー!」
手を挙げて叫ぶ。
みんなで笑った。
「これは見事なものですね!」
「いいでしょう? 諸見という男がやってくれたんです」
「石神先生への愛情が強く残っています」
「そうですか」
「それに、美しい方々がこれに触れていますね」
「!」
やはり分かるのか。
この鏝絵の前で以前写真を撮った時に、様々な奇跡が写った。
俺は中庭の通路を通って、裏の建物へ案内した。
階段を上がって、廊下の突き当りの封印の部屋の前まで来た。
「何か感じますか?」
「少し。でもここの封印が並外れて強力なので、まだそれほどは感じません」
「道間家の当主がやってくれたんですよ」
「道間家の!」
「道間麗星という女で。実は俺の妻の一人です」
「道間家の当主がですか!」
「アハハハハハハ!」
まあ、そこはおいおいに。
俺は壁のテンキーを叩いてロックを解除した。
鋼鉄製のドアを開け、その向こうの扉の鍵も外した。
ドアを開くと、柏木さんが緊張した。
「これは途轍もないですね」
「気分が悪くなられたら言って下さい。無理にお見せするものでもありませんので」
「分かりました」
霊能者にとっては、既に気分の良いものではないだろう。
霊感の無い俺にも、重苦しい感覚はある。
部屋の電灯を点け、柏木さんに入っていただいた。
「強力な呪物ばかりですね」
「そうですか。一度「鬼猿」のものがうちの人間に憑りつきまして」
「それは危なかったですね」
「はい。麗星に来て貰ったのも、その後です。そういうことがあるまでは、俺も気楽に考えていました」
「ここにあるものは、とんでもないものばかりです。流石は吉原さんが集めたものです。あの方の封印もあるようですが、一部は外れてしまったのでしょう」
「そうですか」
柏木さんは緊張はしているが恐れる様子もなく、一つ一つの品を検分していく。
「この香炉には、強大な鬼の王が封印されていますね。石神先生が解放されれば、きっと強い味方になるかと」
「!」
「この紐は……」
「この懐紙の中には……」
「この小刀には……」
柏木さんが霊視し、全ては分からないようだが、幾つかのものを俺に示してくれた。
中には超兵器と呼んでも差し支えないものもあった。
俺は礼を述べて部屋を出た。
柏木さんは大分疲弊したようだ。
「申し訳ありません。ちょっと見て頂くだけのつもりだったのですが」
「いいえ。これだけのもの、普通は一生観る機会もないでしょう。大層なものを拝見させていただきました」
俺たちはリヴィングへ戻った。
柏木さんにソファに座ってもらった。
「あの、道間家から特別な酒を貰っているのですが」
「そうなのですか?」
「はい。霊的に影響を受けた時に飲むと良いと聞いています」
「そういうものが!」
「ちょっと召し上がりませんか?」
「宜しければ。少々やられたようです」
「はい」
俺は自分の部屋の金庫を開け、「霊破」を取り出してリヴィングへ戻った。
ぐい呑みに少し注いで柏木さんに飲んで頂いた。
「!」
「どうですか?」
「これは凄い! 先ほどまでのだるさが一気に抜けました!」
「そうですか。もう一杯どうぞ」
柏木さんが恐縮しながら、また飲み干した。
「ああ、もう大丈夫です! 身体が透き通る!」
「それは良かった!」
俺は酒に栓をして、また金庫に仕舞いに行った。
亜紀ちゃんたちに見つかると厄介だ。
戻ると柏木さんがニコニコしている。
「素晴らしいものを頂きました」
「いえ、貰い物ですが」
「アハハハハハハ!」
本当に調子が良さそうで良かった。
また俺の浅慮で、柏木さんに辛い思いをさせてしまった。
「良ければお帰りの時にお持ちください。柏木さんには役立つものでしょう」
「いいえ、あのようなものは。道間家の貴重なお酒なのでしょう」
「うちではあまり使う用事も無くて。ああ、娘たちが前にこっそり飲みやがって」
「そうなのですか?」
「あれは霊障などが無い人間が飲むと、厄介なことになるんですよ」
「え?」
俺は亜紀ちゃんと柳が甘えネコになったのだと話した。
「一晩中撫でて「カワイイよー」って言わないといけないんですって! 朝方まで撫でさせられてまいりましたよ!」
「ワハハハハハハハハ!」
柏木さんが爆笑した。
「さっきはちょっと、柏木さんが甘えネコになったらどうしようかと思いました」
「ワハハハハハハハハ!」
「千鶴に任せようと思ってました」
「ワハハハハハハハハ!」
子どもたちが「虎温泉」から戻って来た。
みんなキッチンでつまみを作り始め、千鶴と御坂がこっちへ来た。
「石神さん! 素晴らしい温泉でした!」
「温泉の元を入れているだけだけどな」
「いいえ! あのお湯は特殊なものですよね!」
「まあな。特殊な金属が影響しているようだよ」
「スゴイですよね! 聞きましたよ、温泉を掘ろうとしてって」
「ああ、とんでもねぇんだよ。小判やら金の鉱脈やらよ!」
「レッドダイヤモンド!」
「そうそう! これまたとんでもねぇ発掘バカがいてよ!」
「真夜はいい子ですよ!」
「うるせぇ! あいつのせいでどれだけ苦労したか!」
俺が真夜が庭でレッドダイヤモンドや他のダイヤモンドを掘り起こした話をした。
柏木さんたちが驚く。
「こないだなんてよ! ヒヒイロカネだぞ!」
「!」
「「?」」
柏木さんは分かったようだが、千鶴と御坂は理解出来ていない。
「でかい円柱でよ! 百家の人が来てぶったまげてた!」
「「「アハハハハハハハハ!」」」
意味は分からずとも、千鶴と御坂も笑った。
百家の人間のことは知っているのだろう。
千鶴と御坂がキッチンへ手伝いに行こうとしたが、生憎手を借りるまでもない。
子どもたちが合理的にこなしているので、かえって邪魔になることが分かり引き返して来た。
もう7時半になっていたので、俺たちは先に地下へ降りることにした。
間もなく料理や飲み物も運ばれてくる。
地下の音響ルームへ入ると、また柏木さんたちが驚いた。
まあ、家の大きさで驚かれるのは気恥ずかしいのだが、この音響ルームで驚いてもらうのは嬉しい。
俺の自慢のものだからだ。
「どうですか、いいでしょう!」
ここばかりは自慢してしまう。
自分でもまだまだ成っていないと反省もするのだが。
柏木さんは贅沢に興味が無い方なので、一段落すると落ち着かれた。
若い千鶴と御坂は興奮しながら、異様なスピーカーなどを見て回る。
「石神さん! 何か音楽を掛けていただけませんか?」
御坂が言うので、俺は喜んでコルトレーンの『My One And Only Love』を流した。
サックスの美しく優しいメロディがアヴァンギャルドから零れ落ちるように流れて来る。
「素敵……」
御坂が呟いた。
柏木さんは静かに目を閉じ、千鶴は目を輝かせていた。
本当は照明も落としたいのだが、すぐに料理を子どもたちが運んで来る。
子どもたちがニコニコしながら料理を運び、椅子やテーブルを準備していく。
俺はレコードを止め、好きな飲み物を聞きながら準備して言った。
「またこんなに食べるんですか!」
「そうだよなー」
もう恥ずかしいです。
でも美味しいんです。
食べて下さい。
7時50分になり、亜紀ちゃんがテレビ前の敷物に座った。
「もうすぐだぞぉー!」
手を挙げて叫ぶ。
みんなで笑った。
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