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退魔師 XⅣ

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 7月第一週の金曜日。
 俺は仕事を早目に終えて、柏木さんと一緒に病院を出た。
 柏木さんの体調は問題なく、主治医の俺が外泊許可にサインをしている。
 院長には一応報告もした。

 「石神先生、本当に先生のお宅へ伺ってもいいんですか?」
 「もちろんです。話したいこともありますしね」
 「そうですか」

 どのような話なのかは、柏木さんも大体分かっている。
 「虎」の軍への参加は、柏木さんの希望でもある。
 もちろんマンロウ千鶴と御坂が来ることも伝えてある。

 駐車場でアヴェンタドールを見せた。
 俺がシザードアを開けてシートに座らせる。

 「え、この車ですか!」
 「はい」
 「……」

 笑ってシートベルトを締めるのを手伝った。
 着替えは申し訳ないが自分で抱えていただく。
 俺もシートに座り、エンジンを掛けた。
 轟音が響き、柏木さんが驚く。

 「じゃあ行きますよ!」
 「!」

 走っている間中、他のドライバーたちに注目されるので、柏木さんが困っていた。
 俺は慣れたものだが。 
 15分で家に着き、リモコンで門を開けた。
 柏木さんはまた俺の家を見て驚いている。
 みんなそーだよなー。

 「凄いお宅ですね」
 「そーですねー」

 ほんとになー。

 申し訳ないが一度降りて頂き、ガレージに車を入れて一緒に玄関へ向かった。
 ロボがアヴェンタドールのエンジン音を聞いて待ち構えていて、俺に飛びついてくる。

 「うちのロボです」
 「可愛らしいネコですね!」
 
 ロボが俺から降りて、柏木さんに突進して身体をこすりつける。
 今までにない初対面の大歓迎ぶりだ。
 ロボには柏木さんの綺麗な魂が見えるのだろう。

 「知らない人間をロボがここまで歓迎するのは初めてですよ」
 「そうですか、ありがとうございます」

 柏木さんがロボにも丁寧に挨拶した。
 そして足に額をこすりつけるロボを優しく撫でた。
 その撫で方で分かるが、ネコがお好きな方だ。
 リヴィングに上がると、もうマンロウ千鶴と御坂が来ていた。
 柳がアルファードで迎えに行ったはずだ。

 「石神さん! こんなお宅だなんて!」
 「驚いたか」
 「そうですよ! ちょっと、こういうのは前もって教えてもらわないと!」
 「どうしてだよ?」
 「心の準備がありますよ!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 御坂とも挨拶し、寛いで欲しいと言った。
 二人とも気楽な格好でと言っていたので、千鶴はジーンズにノースリーブの白のブラウス、御坂は白い綿のパンツに絞り染めのTシャツを着ていた。
 柏木さんは作務衣だ。
 皇紀をあらためて紹介した。

 「本当はこいつも入学させたかったんだけどよ。ちょっと海外で仕事があってな」
 「「……」」
 「年齢的には、こいつは16歳だから、本当に高校生なんだよ」
 「あの、その頭は……」
 「バカ! 聞くな! 本人が一番気にしてんだよ!」
 「タカさんがやったんじゃないですか!」
 「こいつ、高校に行けなくってなぁ。それでグレちゃったの」
 「違いますよ!」

 千鶴と御坂が大笑いした。

 すぐに夕飯の準備をし、ウッドデッキに降りた。
 もう食材のカットは子どもたちが済ませている。
 千鶴と御坂が手伝おうとしたが、子どもたちからもう焼くだけだと言われた。

 「随分食材が多いですね?」
 「子どもたちの学食での喰いっぷりは知ってるだろう?」
 「ああ! 数十人前が無くなったという!」
 「アハハハハハハ!」

 まあ、あんなもんじゃねぇのだが。
 すぐにバーベキュー台に火が入れられた。
 当然、子どもたちと俺たちの台は別だ。


 バキン、ガキン、ドスン、ドコドコ……


 「「「……」」」

 「一応言っておくけど、あっちの台には行くなよ?」 
 「「はい……」」

 ギャラリーがいるので、いつも以上に子どもたちがノっている。

 「スゴイですね……」
 「まーなー。あ、俺のせいじゃねぇからな!」
 「でも、石神家って感じがします」
 「全然ちげぇよ!」
 
 50キロの肉がどんどん消えて行く。
 俺はゆっくりとこっちの台で焼いて、柏木さんたちに喰わせた。

 「バーベキューってさ、串に刺すだろ?」
 「ええ、無いですね」
 「武器にしちゃうからなー。大変だった」
 「た、たいへんですね……」

 俺は柏木さんに、魚介類を焼き食べて頂いた。
 千鶴たちもようやく慣れて来て、自分たちでも好きな具材を焼き始めた。

 「石神先生、これは本当に美味しいですね」
 「そうですか! いつもはメザシなんですけどね!」
 「アハハハハハハ!」

 千鶴と御坂も笑っている。
 聞くと二人は星蘭高校の寮に入っているそうだ。
 いつもは寮で出る食事を食べているらしい。

 「こんな美味しいものは久しぶりですよ!」
 「そうか! どんどん喰ってくれな!」
 「「はい!」」

 柏木さんはゆっくりと召し上がり、若い千鶴たちはどんどん食べてくれた。
 やはり柏木さんにはこういう食事はきつかっただろうか。
 
 「柏木さん、食べたいものはありませんか?」
 「はい、先ほどのホタテの焼物をよろしいですか?」
 「是非!」

 いつも質素なものを召し上がっていることは分かっている。
 贅沢が苦手なのだ。
 今日はお付き合い下さっているのが分かる。
 俺は無理はさせずにホタテを焼き、ご飯とハマグリの吸い物をよそった。
 柏木さんはそれを美しい所作で召し上がった。

 「この吸い物は身体に沁みますね」
 「そうですか、良かった」

 柏木さんはそれで満足された。
 子どもたちの饗宴を微笑まれて見ている。
 俺は千鶴たちにどんどん焼いて喰わせた。
 
 「石神さん! 私もここに住んでいいですか!」
 「あ、私も!」
 「バカ! いつもはメザシなんだって!」
 
 二人は美味い美味いと言いながらどんどん食べてくれた。
 ナスなどの野菜を時々柏木さんの器に入れる。

 「お酒も出したいんですけどね。まだ控えましょう」
 「ええ、残念です」

 酒はお好きなようだ。
 あとで少しだけ飲ませよう。
 子どもたちも一段落し、ルーとハーがこっちに来た。

 「マンロウちゃん、食べてる?」
 「うん、美味しいね!」
 「御坂さんも?」
 「うん、御馳走をありがとうね!」
 
 双子がニコニコしている。
 本当に大好きなのだろう。

 「ボクシング部の榊さんって、分身出来るじゃん?」
 「うん、そうだね。あれは凄いよ」
 「実はね、私たちも出来るのよ!」
 「えぇ!」
 
 「おい、ここじゃやめろ!」
 「えぇー! 見せてもいいでしょう?」
 「ぜってぇダメだぁ!」
 「「もう!」」

 やる気だったのか。

 「あの、私、是非見たいな」
 「私も」

 「「やったぁー!」」

 双子が「ウンコ7分身」をしやがった。
 7人ずつのルーとハーが拡がる。

 「「「!」」」
 「バカ!」

 一人だけウンコを乗せていない。
 その二人が近付いて来る。

 「「ね!」」
 「「「……」」」

 柏木さんと千鶴、御坂が呆然とする。

 「もうやめろ!」
 「「はーい」」

 分身たちがゴミを入れる物置へ入って行く。
 頭のウンコは消えないのだ。

 「どうだった?」
 「す、スゴイね」
 「「やったぁー!」」

 柏木さんが口の中で何かを唱えていた。
 すいません。






 「そろそろ切り上げですよー!」
 
 亜紀ちゃんが叫んだ。
 まあ、頃合いだ。
 もう三人とも食欲はねぇ。

 俺は柏木さんを誘い、皇紀と三人で「虎温泉」に向かった。
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