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院長夫妻と蓮花研究所 Ⅵ 2

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 翌朝。
 俺は8時半に野々井看護師長のマンションへ行った。
 野々井看護師長が玄関に現われ驚いている。

 「誠一君を迎えに来ました」
 「え?」
 「誠一! 行くぞー!」
 「はい!」
 
 奥から誠一がランドセルを背負って出て来る。

 「誠一!」
 「さあ、行こうか!」
 「はい!」

 慌てて俺に問い質す。

 「夕べ何があったんですか!」
 「誠一とちょっと話をしたんですよ。今日は学校へ行くと言ってくれました」
 「一体どうして!」
 
 俺は笑って野々井看護師長に任せて欲しいと言い、誠一を連れてベンツのロードスターに乗せた。
 ルーフは畳んでオープンカーにしてある。

 「スゴイ車だ!」
 「カッチョイイだろう?」
 「はい!」

 俺はエンジンを空ぶかしし、誠一を喜ばせた。

 「V8というでかいエンジンでよ! そりゃは速いんだぜ」
 「そうなんですか!」

 俺は学校までの間、ロードスターの自慢を誠一にしてやった。
 興味があるのかどうかは知らん。
 でも誠一は目を輝かせていた。

 近くを走る車が俺たちを見ている。

 「誠一、手を振ってやれ!」

 誠一がニコニコしてドライバーに手を振る。
 ドライバーの多くが笑って振り返してくれた。
 誠一が喜んだ。





 学校に着くと、正門が閉まっていた。

 「誠一! 門を開けろ!」
 「はい!」

 誠一が重い門を一生懸命に開いた。
 俺は手伝わずにそれを待った。

 「おし! 乗れ!」
 「はい!」

 俺はクラクションを鳴らして校庭にベンツを入れた。
 まだホームルーム中なのか、校庭には誰もいない。
 ハンドルを切り、アクセルとブレーキを操作してドリフトで暴れ回った。
 ギャリギャリと大きな音を立てて、ベンツが何度も回転し横滑りする。
 教室の窓から、大勢の生徒がこちらを観ていた。
 そのまま玄関前に車を寄せ、誠一と中へ入る。
 誠一は自分の上履きを履き、俺は勝手にスリッパを探して履いた。

 教師らしい人間が玄関へ慌てて駆けて来る。

 「登校拒否の野々井誠一を連れて来た! 俺は石神高虎だ!」
 「あんた、何をやってるんだ!」
 「あ? 誠一を登校させに来たんじゃん」
 「何を言ってる! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
 「だから関係者だって言っただろう!」
 「警察を呼びます!」
 「おう!」

 俺は無視して誠一に自分の教室へ案内させた。
 誠一が俺の手を握ってニコニコしていた。
 誠一に扉を開けさせ、一緒に中へ入った。

 「野々井誠一の登校だぁ! そして俺は誠一の後継人の石神高虎だ!」

 担任らしい教師とクラスの生徒が驚いて俺を見ている。

 「野々井誠一をいじめた奴!」
 
 俺が言っても誰も名乗らない。

 「いいか! 今後誠一をいじめたら俺が承知しねぇぞ! 分かったなぁ!」

 俺はそのまま威圧した。
 担任が腰を抜かし、クラスの生徒たちが脅えて何人か泣き出す。
 
 「返事をしろ!」

 『はい!』

 「おし!」

 俺は誠一に席に付かせた。

 「誠一、分かったな?」
 「はい! パスカルですね!」
 「そうだぁ!」

 俺は笑って教室を出た。
 パトカーが来た。
 俺は笑って連行された。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「あの時は参ったぞ」
 「アハハハハハハ!」

 院長も苦笑していた。

 「タカさん! 警察はどうなったんですか?」
 「ああ、別にな。ちょっと説教は喰らったけどな」
 「でも、校庭に無断進入って」
 「駐車場を探してたって言った」
 「校舎内に入ったのも」
 「だから後見人だったんだって」
 「無茶苦茶ですね」
 「ワハハハハハハ!」

 もちろん不法侵入であり、恐喝紛いのことも言った。
 しかし、学校でいじめがあり登校拒否まで追い込んだ事情もあり、学校も俺を告訴することはなかったと話した。

 「俺が散々頭を下げたんだぁ!」
 「すいませんでしたー」
 「お前!」

 今ならもっと大問題だったかもしれない。

 「あの後、野々井看護師長は石神に感謝しまくてなぁ」
 「そうでしたかね」
 「あれだけ悩んでいた問題が、お前がバカなことをしたせいですぐに解決してしまった。まったくよ」
 「誠一が強くなったんですよ」
 「お前はまったく」

 院長が笑っていた。

 「最初はしょっちゅう野々井看護師長が俺のとこへ来てよ」
 「そうですか」
 「お前が大問題だったんだぁ!」
 「アハハハハハハ!」

 みんなも笑った。

 「あの、野々井看護師長はもういらっしゃらないですよね?」

 六花が聞く。
 六花は会っていないはずだ。

 「ああ、しばらくは頑張ってくれていたんだけどな。50歳になったのを機に、介護施設の方へ移ったんだ。うちの看護師は激職だからなぁ」
 「そうなんですか。じゃあ、私とは入れ違いのような」
 「そんなタイミングかな。ちょっと体調を崩されてな。でも、今も元気で働いているよ」
 「ああ、良かったです!」

 俺も院長も、手紙のやり取りはある。
 
 「今年、誠一がうちの病院に来たんだよ」
 「えぇ!」
 「看護師としてな。母親のことを本当に尊敬して、自分も同じ道に進んだんだ」
 「そうなんですか! 今度会ってみます」
 
 六花が嬉しそうに笑った。

 「期待の新人だよな、石神」
 「そうですね、あの野々井看護師長の子どもですからね」






 本当に真面目で、それでいて優しい素晴らしい方だった。
 誠一が学校に通うようになり、よく放課後に病院へ遊びに来るようになった。
 俺がそう勧めた。
 野々井看護師長は最初は戸惑っていたが、周囲から勧められて誠一が来ると少し話をしたりするようになった。
 他のナースたちも誠一を可愛がり、誠一は明るい子どもになって行った。
 俺の所へもよく顔を出してくれた。
 何度かドライブにも誘った。

 一人で抱えれば重すぎる問題もある。
 でも俺たちは仲間だ。
 一緒に抱えてやりたい。
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