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「般若」オープン計画 Ⅵ

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 青たちがうちに泊まりに来た翌週の水曜日。
 ヤマトテレビの取材が入った。
 俺からの要請ということで、大急ぎでチームが組まれ、『いい店みぃーつけた!』というヤマトテレビの番組で扱われることになった。
 「般若」のオープンが7月20日と決まり、その前の放送になる。
 まあそれだけ早いのは、ヤマトテレビの俺への忖度ということだ。

 取材での外観や店内、また青たちの作業風景などは任せたが、インタビューなどは心配になって3時過ぎに俺も顔を出した。
 丁度照明のセッティングが終わり、これから青にインタビューをしようとしていた。

 「よう!」
 「赤虎!」

 俺はプロデューサーやディレクターたちに挨拶し名刺を交換した。
 俺のことは当然知っている。
 ヤマトテレビの大株主にしてオーナー、そして大人気ドラマ『虎は孤高に』の主人公のモデルだ。
 「虎」の軍の最高司令官であることは、多分知らないが。
 カスミと涼ちゃんの制服が出来ていて、二人とも可愛かった。
 太めの白と紺のボーダーのワンピースで、エプロンは黒だ。
 落ち着いたデザインだが、エプロンの後ろの紐は大き目のリボンになって可憐だ。
 青は黒のスラックスに白のワイシャツ、それにカスミたちと同じエプロンを締めている。
 エプロンには胸元に金糸で「HANNYA」と小さめに刺繍されている。
 今は春夏の制服だが、秋冬はまた変わるのだろう。
 青に声を掛けた。

 「どうだ、緊張してるか?」
 「当たり前だぁ! 俺がテレビなんかに出るなんてよ!」
 「ワハハハハハハハ!」
 
 スタッフたちや涼ちゃんたちまで笑っていた。
 ディレクターが、大体外観や料理の撮影は終わり、あとは夕方と夜の風景を撮るつもりだと言った。
 その前に、インタビューなどを済ませるつもりだと。

 番組から質問の内容は事前にもらっており、青と俺で答えの内容も詰めている。
 逆に青の方から番組に話す内容も伝えていた。
 そのことで、ディレクターが俺たちに聞いて来た。

 「柴葉さんの過去のお話なんですが」
 「はい」
 「反社会の人間であったことや、刺青のお話は本当に番組で流してもいいのですか?」
 「逆に、それは絶対に入れて下さい」
 「でも、視聴者の中には反発する人もいますよ?」
 「構いません。明穂と始めたこの店の、最も大事なことなんです」
 「そうですか。実は私個人としては素敵はお話だ思っています」
 「ありがとうございます」

 青が気後れすることなく、しっかりと答えていた。
 俺はインタビューも大丈夫そうだと感じた。

 「赤虎、お前忙しいんだろう?」
 「大丈夫だよ」
 「いや、お前がいると俺が緊張しそうなんだよ」
 「なんだ?」
 「ここは大丈夫だからさ、お前は仕事に戻ってくれよ」
 「なんだよ、俺にも見せろよ」
 「赤虎、頼む!」

 青がいつになく俺を外したがっていた。
 まあ、本当に俺がいると恥ずかしいのかもしれない。

 「分かったよ! じゃあ、頑張れな!」
 「ああ、ありがとうな!」

 俺は仕方なく病院へ戻り、響子と遊んだ。

 「これから、青がインタビューに入るところだったよ」
 「そうなんだ!」
 「なんか全然緊張してなくてつまんなかった」
 「アハハハハハハ!」

 響子もテレビ放映を楽しみにしている。

 「19日は、プレオープン・パーティに呼んでくれるらしいからな」
 「うん! 楽しみだね!」

 俺と響子、六花でプレゼントを用意している。
 もうすぐ届くはずだ。

 俺は青に付き合うつもりでオペの予定は入れていなかった。
 だから夕方まで響子と一緒にいて、響子が喜んだ。
 特別だと言い、六本木の「緑翠」まで六花と三人で出掛けた。
 響子の車いすを俺が押し、店で好きな和菓子を選ばせた。
 いずみが学校から戻って店番をしており、俺たちの訪問を喜んでくれた。
 茶席で和菓子とお茶をいただき、まったりした。

 早目に家に帰ることにし、ちょっと「般若」を覗いたがまだテレビ・クルーたちは中でいろいろやっていた。
 俺は立ち寄らずにそのまま帰った。







 7月12日土曜日。
 今日は『いい店みぃーつけた!』での「般若」の放映日だ。
 折角なのでまた青とカスミ、涼ちゃんを家に呼んだ。
 夜7時からの放映なので、夕飯も食べてもらう。

 「赤虎、また悪いな」
 「いや、なんでもねぇよ。今日は楽しみだな!」
 「そんなんじゃねぇんだが。ああ、でも楽しみなこともあるな!」
 「なんだ?」

 青が良く分からないことを言うので面白かった。
 青は仕入れ用にミニバンを購入して、今日は三人でそれに乗って来た。
 駐車スペースは事前に作ってある。
 ホンダのアクティバンをシトロエン・バス仕様にした可愛らしいものだ。
 色は上品なオリーブ色。
 俺がシャコタンにしてやると言うと、迷惑そうな顔で断られた。

 夕飯は「カレー大会」だった。
 「石神家カレー」から出る。
 まあ、普通は一杯なのだろうが。
 青と涼ちゃんが驚いていた。

 「美味いな、これ!」
 「本当に! 美味しいですよ! こんなの食べたことない!」
 
 双子がニコニコしている。

 「石神家カレーだよ!」
 「一番美味しいんだよ!」
 「へぇー! でも本当に美味いよ!」
 「どんどん食べてね! でも他のカレーも美味しいよ!」

 今日はブラウンカリー、グリーンカリー、それとカレーパンだ。
 俺がハーフでいろいろ食べてみろと言い、二人がそれぞれ食べてみた。

 「どれも美味いぞ!」
 「幸せです!」
 
 カレーパンも好評だった。
 俺もちゃんと一通り食べた。
 子どもたちも、俺が食べ終えてからその鍋に向かう。
 いつぞやの恐ろしい経験のためだ。
 まあ、相変わらず平日のカレーは残っていないのだが。
 俺も諦めてそれでよしとしている。

 子どもたちの喰う速さを観て、青たちが笑っていた。
 何故かうちの客はみんな慣れて笑ってくれる。

 食後にコーヒーと亜紀ちゃんに「POIRE des rois」のメロンのソルベを出すように言った。
 亜紀ちゃんが興奮して俺に確認して来た。

 「た、た、タカさん! ついに出すんですね!」
 「おい!」

 明彦の和田商事からは、俺が美味かったと言ったことで毎回これが届くようになった。
 高いものなので、俺の許可が無いと食べられないことになっている。
 亜紀ちゃんが特に大好物だ。

 「きょ、今日のカットは……」
 「6等分だ」
 「やっぱり……」

 そんなに多く喰うものじゃない。
 その程度が丁度いいのだが、子どもたちはいつももっと食べたがる。
 青がなんだという顔をしていたが、カットされたものを口に入れてまた感動していた。

 「これも美味いなぁ!」
 「普通のシャーベットじゃないですよね?」
 「ああ、職人がフルーツと生クリームを混ぜて作っているんだよ」
 「へぇー!」
 「「般若」でもシャーベットとかバニラのデザートは出すだろ?」
 「ああ、でもとてもここまでのものはなぁ」
 「しょうがねぇよ。うちも頂き物だけど、メロンのホールで数万円するんだからな」
 「げぇ!」
 「!」

 夕飯を終え、俺は青たちを連れて先に地下へ降りた。
 子どもたちはつまみを作ってから来る。

 「ローマ教皇のコメントまで撮れたんだよな?」
 「ああ、赤虎のお陰でな」
 
 番組スタッフから冗談半分で出た言葉を、俺が実現した。
 まあ、俺も出来るかどうかは分からなかったが、マクシミリアンに青の店が大変なことになっていると説明すると、すぐに段取りを整えてくれた。
 そのせいで『いい店みぃーつけた!』は異例の特別拡大枠になり、2時間スペシャルとなった。
 日本のテレビ局が単独でローマ教皇のコメントを得られたためだ。
 青の「般若」が、ローマ教皇の談話のために大変な騒ぎになっていることを憂慮してくれたお陰だ。
 俺は青から撮影の時の話を聞いていた。
 そのうちに子どもたちが料理と飲み物を持って降りて来た。
 大量の唐揚げがある。
 今日は青もリラックスしており、俺と一緒に日本酒を飲んだ。

 「おい」
 「はい?」
 「お前、なんで床に座ってんだよ?」
 「え?」
 「え、じゃねぇ! 今日は『虎は孤高に』じゃねぇだろうが!」

 亜紀ちゃんがテレビの前のカーペットに座っているので声を掛けた。
 
 「いいじゃないですか!」
 「まったく!」

 まあ、いいけど。
 5分前に番宣が流れた。
 一応、長崎の犬浦聖堂には今晩のテレビ放映のことは伝えているし、「般若」のホームページにも謡っている。
 どれほどの人が見てくれるのかは分からないが。
 でも、ローマ教皇のコメントがあることも伝えているので、結構な人が見てくれるだろう。
 もちろん、うちの病院でも広報部がラインやらで周知してくれた。
 一江も自分のサイトなどで広めてくれている。
 ヤマトテレビ自体も番宣を何度も流してくれていた。

 いよいよ、放映の時間となった。
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