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「般若」オープン計画 Ⅲ

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 食事を終えてコーヒーを淹れ、青が持って来てくれたゴディヴァの最中を頂いた。
 自分で最中の中へ具を入れるものだ。
 ダークチョコレートに小豆が混ざっている面白いものだ。

 その後で俺は青と「虎温泉」に行った。
 また青が驚くが、段々慣れて来た。
 青がオリハルコン製の虎の顔を見詰めている。

 「お前、なんか感じる?」
 「ああ、金持のよくやるもんだよなぁ」
 「てめぇ! 俺が作ったんじゃねぇ!」

 俺は子どもたちが落ち込んだ俺のために温泉を掘ろうとしてくれた話をした。

 「なんかいろいろ出て来てさー」
 「なんだ?」
 「小判とか金の鉱脈とかよ」
 「なにぃ!」
 「その後庭からレッドダイヤモンドとかも出て来て困ったの」
 「おい!」

 俺は話を切り上げて一緒に温泉に入った。

 「お前、スゴイ生活してんだな」
 「おい、ここは時々しか使わねぇんだ!」
 「そういう問題じゃねぇよ!」

 青の背中を流してやる。
 大きな般若の顔はそのままだ。
 俺の疵だらけの身体もそのままだ。
 まあ、ちょっと増えたか。

 双子が来て、かき氷を作ってくれた。
 青と一緒にイチゴ練乳を食べる。
 やっと青も落ち着いて来た。

 「いいもんだな」
 「そうか」

 二人でかき氷を口にして行く。

 「俺は贅沢な暮らしなんかいらないんだがよ。なんか自然にな」
 「そうか」
 「食事だってな。ああ、メザシのこともあるんだぞ?」
 「うそつけ!」
 「ほんとだって! ここいらのスーパーのメザシを買い占めて来やがってよ!」
 「なんだそりゃ?」
 「それで結局ステーキ喰った」
 「あ?」

 青は大笑いした。

 「お前は変わらないな」
 「お前もな」

 かき氷を喰い終わって「虎温泉」を出ると、すぐに子どもたちと涼ちゃんが来た。
 涼ちゃんが驚いている。
 笑ってゆっくり入れと言い、家に戻ってカスミにも行かせた。

 「はい!」

 カスミが嬉しそうに笑い、着替えを持って走って行った。

 「カスミ、可愛いだろう?」
 「ああ、最高だ。いつも俺のことを考えてくれてな。マッサージなんかもしてくれるんだよ」
 「そうか」
 「いつも笑ってくれてるしな。あれって……」
 「カスミが幸せだからだよ。自分の役目をちゃんと与えられ、お前のために何かをするのが嬉しいんだ」
 「そうか」
 「あいつを幸せにしてくれ」
 「ああ、もちろんだ」

 青に家を簡単に案内した。
 外に出て、諸見が作ってくれた虎の鏝絵を見せる。

 「いいな、これ」
 「そうだろう? 諸見って千万組の奴が仕上げてくれたんだ」
 「千万組か!」
 「裏の拡張した家を千万組の奴らに任せたんだ。壁を仕上げたのが諸見だよ」
 「そうか。赤虎はでかいことをやろうとしてるんだもんな」
 「まあ、俺がこんなだからな。どうにも敵は多いよ」
 
 青が笑った。

 「お前は前からそうだよな。大事な仲間がいるから暴れ回ってた」
 「そうだったな」
 「俺もまさか負けるなんて思って無かったよ。お前のチームよりずっと大きかったんだからな」
 「俺たちも必死だったよ」
 「バカ言え! 半分以上お前がやったんだろう!」
 「ワハハハハハハハ!」

 ごめんなー。

 「まあ、今となっちゃ楽しい思い出だよ」
 「そう?」
 「お前に潰された片目と顔は別にしてな!」
 「ワハハハハハハハ!」

 中へ戻ってリヴィングのテーブルで子どもたちを待った。

 「ああ、そういえば、『虎は孤高に』ってどんなドラマなんだ?」
 「あー、お前ヨーロッパに行ってたもんな。実はさ、俺の友達だった南って奴が作家になってな。俺をモデルに小説を書いたんだよ」
 「そうなのかよ!」
 「それが大ヒットしてなぁ。その後少し前に再会してさ、また続きを書き始めたんだ」
 「お前、すげぇな!」
 「俺じゃねぇよ! まあ、その南の『虎は孤高に』がヤマトテレビでドラマ化されたんだ」
 「へぇー!」

 青が驚いていた。

 「あー、もうピエロとの抗争の回は放映されてんぞ?」
 「マジか!」
 「お前、結構強かったよ」
 「俺も出たのかぁ!」
 「当然だろう。ああ、亜紀ちゃんにコピーさせるよ。お前の家にもブルーレイの機械は入れてるだろう?」
 「あ、ああ。使ったことねぇ」
 
 俺は笑ってカスミに任せろと言った。

 「ああ、うちの亜紀ちゃんがとにかくあのドラマが大好きでよ。ちょっとうるせぇけど我慢してな」
 「分かった」

 まだ時間があるので、リヴィングのテレビで青にピエロとの抗争の回を見せてやった。
 そのうちに子どもたちが戻って来て、つまみを作り始める。

 「あー! もう観てるぅー!」
 
 亜紀ちゃんが寄って来る。

 「うるせぇ! 青は見たことがねぇんだから見せてんだよ!」
 「わーい!」
 
 涼ちゃんとカスミも呼んで一緒に座らせた。

 「私も毎週楽しみで!」
 「今日はうるせぇから、帰ってからまたじっくり観てな」
 「アハハハハ!」
 
 カスミが興味深げに観ている。

 「これ、石神様なんですよね?」
 「まあな」

 カスミにはデータとして記憶に入っている。

 「エッェェェェェェェェーーーーー!」

 涼ちゃんが叫んだ。
 そう言えば話してないか。

 「本当に石神さんなんですかぁー!」
 「まあ、実はな。親友だった南が俺の小説を書いてたんだよ。俺も書店で偶然見つけて驚いた。俺の体験ばっかなんだからよ」
 「ウッワァァァッァー!」
 「おい、そんなに驚くなよ!」
 「だってぇ! 知らなかったぁ! そういえばお名前がぁ!」
 「無茶苦茶だろ?」

 「全然! 本当に素敵で! しょっちゅう大泣きですよ!」
 「そうなのか?」
 「だってぇ! 一杯ありますけど、高校生篇の最終回は本当に半日泣きました! あと美紗子ちゃんとの特別篇! あ、それとトラのレイとの話も最高です!」

 涼ちゃんが止まらなくなった。

 「そんなに好きだったかぁ」
 「はい! そりゃもう!」

 亜紀ちゃんがニコニコして寄って来る。
 涼ちゃんの肩に手を置く。

 「涼ちゃん、後で私の部屋に来て!」
 「はい?」
 「『虎は孤高に』のグッズは全部集めてるから!」
 「ほんとですか!」
 「キャストとスタッフの全員のサインもあるよ!」
 「見せて下さい!」
 「うん!」

 まあ、いいけどよ。





 みんなで地下の音響ルームへ移動した。
 また青と涼ちゃんが硬直した。
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