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小島将軍とスペイン料理

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 星蘭高校が小島将軍に繋がっていたとは。
 一応事件は終息したので、小島将軍に連絡することにした。
 今は午後3時だが、早い方がいいだろう。
 俺は特別に秘匿回線を聞いている。
 もちろん滅多に掛けられる番号ではない。

 俺が電話すると、護衛の人間が出た。

 「石神高虎です。お伝えしたいことがございますので」
 「……」

 電話が切れた。
 俺も内容はもちろん、小島将軍の名前も出さない。
 すぐに俺の電話が鳴った。

 新宿のスペインレストランの名前を告げられた。
 俺も知っている、甲州街道沿いにある店だ。
 恐らく、俺の家から近い場所を指定してくれたのだ。
 すぐに出掛けた。
 亜紀ちゃんにダッジ・デーモンを出させ、店の近くまで送らせて帰した。
 2階にあるその店の階段を上ると、既にガードの人間が二人立っていた。
 俺の顔を見て、ドアを開ける。

 店内の広いテーブルに小島将軍が座り、その後ろにまた護衛の人間が二人立っていた。
 既にみんな顔なじみの人間だ。
 小島将軍が俺に座るように目線で示した。
 テーブルの向かいに腰かける。
 すぐに料理が出て来た。
 マッシュルームのアヒージョと魚介のパエリアだ。
 ここのパエリアはジューシーで美味い。
 店員が取り皿に盛って、俺たちの前に置いた。

 「いただきます」

 食事をしながら話した。

 「どうした?」
 「実はこの数日、星蘭高校に関わっていまして」
 「ああ」

 もちろん小島将軍が知っている高校なので、説明は省く。

 「「デミウルゴス」の仲介地点になっていました。潜入捜査をし、それが終了しましたので報告を」
 「詳しく話せ」

 俺は「アドヴェロス」の情報から俺と子どもたちが潜入したこと。
 《髑髏連盟》というチームが「デミウルゴス」を取り仕切り、「ノスフェラトウ」という「創世の科学」の支部団体も関わっていたこと。
 以前から星蘭高校を統括していた部団連盟にも《髑髏連盟》が侵食し操られていたこと。
 今日の午前中に《髑髏連盟》のライカンスロープ200体に襲われ、それを撃退し、部団連盟に侵食していた人間も「アドヴェロス」に引き渡したこと。
 そして星蘭高校が小島将軍と関わっていることを生徒から聞いて、今報告をしたことを話した。

 その間も俺たちはどんどん料理を平らげて行った。
 小島将軍は相当な御年のはずだが、俺と同じく健啖だった。

 「そうか、お前が片付けたのか」
 「はい」
 「お前が潜入したというのは教師か?」
 「いいえ、生徒です」
 「ワハハハハハハ!」

 小島将軍が笑った。

 「小島将軍の関係とは知りませんでした。なら一緒に潜入しても楽しかったですね」
 「バカを言うな」
 「絶対白ラン、似合いますよ」
 「ワハハハハハハ!」

 護衛の二人も笑った。
 俺は部団連盟に病葉衆、百目鬼家、虎眼流がいたことを話した。

 「剣道部主将の島津という男は、早霧家の「糸斬り」を知ってました」
 「ああ」

 俺はマンロウ千鶴や御坂たちのことも話した。

 「今まで存在は聞いていても、実際に一族の人間に会ったのは初めてです」
 「そうか。お前はどう見た?」
 「まあ想像通りと言うか。実戦でも役立ちそうですが、病葉衆はちょっと難しいですね」
 「そうか」
 
 小島将軍が、校長の杉田から頼まれて「アドヴェロス」に情報を流したことを話した。

 「そうだったんですか!」
 「ああ、杉田はキレる男だ。学校内で何が起きているのかはある程度分かっていたようだぞ」
 「あのぬぼぉーっとした人が!」
 「ふん、そう言うな。あいつは元内閣調査室の男だ。お前の想像以上に鋭い奴だぞ」
 「!」
 
 驚いた。
 あの一見風采の上がらない杉田校長が、日本の諜報機関の中枢にいたとは。
 内閣調査室は、通信情報の収集と本格的な諜報、防諜を管理している。
 公安とも連携し、また海外のCIA(アメリカ)やSIS(イギリス)とはカウンター・パートとして繋がっている。
 
 「杉田はヒューミント(諜報・防諜)のベテランだ。だからあの高校を任せている」
 「随分と特殊な学校だとは思いましたよ」
 「不良を集めているのは表面的な迷彩だ。本質は部団連盟であり、そこで訓練を受けた裏社会の子弟たちだ」
 「優秀な人間は小島将軍の指揮下に入ると聞きました」
 「まあ、一部はな。他にも受け皿はある」
 「なるほど」

 俺が考えもしなかった学校だったようだ。
 そして小島将軍はこれまでも、様々なことをしながら、日本を支えて来たのだ。

 「お前が興味を持った人間はいるか?」
 「そうですね。まずはマンロウ千鶴です。百目鬼家の神術は虎白さんに教わってましたが、実際に目にしたのは初めてです。あれは相当な技ですね」
 「そうだな」
 「それに御坂という女子生徒が「虎眼流」と言っていましたが、石神家の傍系なのだと。そこそこ練り上がった剣技でしたよ」
 「ああ」
 「でも、最も驚いたのはボクシング部主将の榊でした。初日にいきなり試合をさせられましたが、殺気を四つに分裂させ、更に攻撃主体も二人に感じました。まあ、「轟雷」で仕留めましたけどね。あれがどのような鍛錬でものにしたのか分かりません」
 「円空寺家の暗殺拳だな。お前も知らなかったか」
 「!」

 小島将軍は俺の話だけでその体系を言い当てた。
 この人は本当にどこまで深いのか。

 「円空寺家は滅多に表には出ない。それに自分が円空寺家の人間だとも知らされずに育てられるのだ。だから世間でも知られることは無い」
 「その人間が一定のレベルになるまではですか?」
 「そういうことだ。暗殺拳の家系だからな。徹底しているのだよ」
 「はぁー」

 とんでもない家系だ。
 知らない間に超一流の暗殺者に育てられるのだ。

 「今でも暗殺なんかやってるんですか?」
 「そうだ。主に海外からの手先を相手にしている」
 「どういう連中です?」
 「日本を欲しがっている人間は多い。今は中国の連中が多いな」
 「三合会とかですか?」
 「そうだ。それにもっと危ない連中もいる。中国も歴史は深いからな」
 「そうですか」

 デザートが来た。
 珍しいことにババロアだった。

 「ババロアだぁー!」
 「なんだ、好きなのか?」
 「はい! 時々作って子どもたちにも食わせてますよ。俺が好きなんで」
 「そうか」

 小島将軍が小さく笑った。
 珍しいことだ。

 「俺もこれが好きでな。まあ、たまにしか食べないが」
 「そうなんですか!」
 「初が作ってくれた」
 「!」

 聖の母親だ。

 「その時に初めて食べた。美味いと言うと喜んでおった」
 「そうですか……」

 まさか小島将軍が思い出話をするとは思ってもみなかった。
 懐かしい思い出なのだろう。
 あの小島将軍が遠い目をしていた。






 デザートを食べ終え、小島将軍は先に店を出ようとした。

 「今日は御馳走様でした!」
 「お前と久し振りに飯が食えて楽しかった」
 「はい! 俺も!」
 「ではまたな。星蘭高校のことは宜しく頼む。お前が認めた奴らだけでいい。一度ちゃんと会っておけ」
 「分かりました」

 小島将軍が出て行った。
 俺も入り口まで見送り、黒のロールスロイスに乗り込むのを見届けた。
 まだ夕方の5時だ。
 食事中に酒も飲まなかった。
 これからも忙しく活動するのだろう。
 多忙な中で、俺のために時間を取ってくれたのだ。
 ありがたいことだ。

 




 俺もタクシーを拾って家に帰った。

 「タカさん! 今日は待望のカレーですよー!」
 「そうかよ」
 「アレ?」
 「さっき小島将軍と食事をしたからな」
 「でもカレーですよ?」

 俺は笑って一杯だけ食べた。
 亜紀ちゃんが「いつもお替りできないって怒るのに」と言っていた。
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