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石神家 ハイスクール仁義 XⅢ

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 久我が立ち上がった。

 「猫神、我々の完敗だ。どうかここまでにして欲……」

 久我もぶっ飛ばした。
 久我は咄嗟に後ろへ飛び、顎へのダメージを殺した。
 しかし後ろへ一回転し、無様に床に打ち付けられる。
 俺の拳はそんなに甘くねぇ。
 激しい衝撃で身体が動かなくなる。
 久我の頭を踏みつけた。
 他の白ランたちが動揺する。

 「部団連盟は今日で解散だ。文句がある奴は今言え」
 
 誰も答えない。
 そのうちに拍手が起きた。
 うちの子どもたち、マンロウ千鶴、御坂と剣道部の数十人、ボクシング部の今村、「爆撃天使」の刈谷とその幹部たちだ。
 俺は念のために確認した。

 「久我、お前の流派はどこだ?」
 「郷間と同じだ」
 「病葉衆か?」

 「久我さんは本家の血筋だ! 舐めるな!」

 郷間が立ち上がって叫んだ。
 大分フラついている。

 「よせ! 猫神は病葉衆を知っている!」
 「久我さん! そんなバカな!」
 「早霧家の剣も知っているんだ! しかも返し技まで!」
 「!」

 「猫神、あなたは何者なんだ?」
 「猫神一族を知らないのか?」
 「知らない。「花岡」を使ったのは分かっている。でも、島津の剣をあれほどに翻弄出来る人間など」
 「そうかよ。まあ、教えるつもりもねぇ。質問するのは俺の方だ」
 「何が知りたい?」

 「「デミウルゴス」だ。知っているだろう」
 「……」

 久我が沈黙した。

 「おい、今更かよ!」
 「違う! 知っている。だがあれは……」

 急激に殺気が迸った。
 俺と子どもたちが反応する。
 そしてマンロウ千鶴が構えた。
 マンロウ千鶴の周囲に8つの光が浮かぶ。
 また御坂も真剣を構えた。
 二人ともいい反応であり、また脅威の大きさも分かっている。

 見学していた二人の身体が大きく膨れ上がる。
 恐らく久我が呼んだ《髑髏連盟》と「ノスフェラトウ」の奴だろう。

 双子が「オロチストライク」を撃った。
 オーガタイプにメタモルフォーゼした身体に当たり、胸部が弾ける。
 マンロウ千鶴の光が突き刺さり、更に胸部を抉った。
 そして御坂の剣がもう一体の腹を割く。
 御坂も通常の剣技ではない。

 亜紀ちゃんが双子が斃した方の頭をブロウで粉砕し、俺がもう一体の頭を吹き飛ばした。

 「ライカンスロープかよ」

 全員が硬直している。
 いきなり怪物に襲われ掛けたのだ。
 久我が蒼ざめていた。
 こいつらがいたので話せなかったのだろう。

 「おい、全部話せ」
 
 久我が語り出した。






 「この星蘭高校は、様々な事情で行き場の無い生徒を集めている」
 「ああ、クズの不良を中心に、何かの事情で進学出来ない人間たちだな」
 「そうだ」

 それは学校法人としての経営戦略だろう。
 不良共を無試験で入れて金を引っ張り出す。
 そして入学金や生活費に困窮している優秀な生徒を無償で優遇し、有名校へ進学させることもやっている。
 片手で高い入学金と授業料で金もうけをし、片手で優秀な学校の体裁も整える。
 褒められるものではないにせよ、理屈は分かる。
 実際に星蘭高校の存在が誰かを助けていることもあるのだろう。

 「しかし、二年前から変わった。この学校はずっと部団連盟が統括していた。不良たちは基本的に放置し、出席日数さえ足りれば進級も卒業もさせた」
 「そうだってな」

 不良たちの親から金集めをしていたということだ。

 「だが、今は違う。部団連盟は表の支配者であっても、実際に支配しているのは別にいる」
 「それは誰だ?」

 「《髑髏連盟》だ」
 「……」

 「猫神、お前が探している「デミウルゴス」も髑髏連盟が流している。あのドラッグの効果は知っているのだろう?」
 「ああ、人間を怪物にする。さっきの連中のようにな」
 「そうだ。我々部団連盟も何とかしようとしてきた。しかし実態が掴めない上に、犠牲者が出た」
 「犠牲者?」
 
 久我が苦い顔をする。
 
 「部団連盟の生徒たちだ。ある日映像が届いた。どこかへ攫われ、酷い殺され方をした生徒たちのものだ」
 「警察はどうした!」
 「無理だ。警察へ知らせればもっと犠牲者を増やすと言われた。それでも警察へ届けようとしたんだ! そうしたらまた10人の生徒が殺された!」
 「部団連盟の中にも浸透しているんだな」
 「そうだ。それを探ることも出来ない!」

 久我が悔しそうに叫ぶ。

 「《髑髏連盟》から言われた。今まで通りに活動するのであれば、何もしないと。その通りにするしかなかった」
 「泣き寝入りかよ」
 
 久我の顔が歪んでいる。

 「俺たちも異能の力を持っている。だから最初は抵抗した」
 「それで?」
 「届かなかった」
 「ふん!」

 まあ、子どもならば仕方がないだろうが。

 「俺を制裁したのはどういうことだ?」
 「《髑髏連盟》は、部団連盟がこれまで通りに星蘭高校に君臨するように言った。だから逆らう者を制裁しなければならないんだ」
 「殺すまでやるのかよ!」
 
 久我が俺を見詰めた。

 「お前のことは、ボクシング部の榊がけじめを付けて終わるはずだったんだ。しかしお前は榊を軽くあしらって逆に倒してしまった」
 「……」

 「だから《髑髏連盟》から猫神は殺さなければならないと言われた」
 「なんだと?」
 「お前は異質過ぎる。お前の兄弟たちも同じだ。この学校の支配図を塗り変えてしまうかもしれない。だから必死だった」
 「バカが!」

 どんな能力を持っているのかは知らないが、久我は自分可愛さに他人の犠牲を認めたクズだ。

 「それを知っているのは?」
 「俺と郷間だけだ。同じ病葉衆だからな。他の幹部たちも知らない」
 「そうか」

 恐らく、郷間は「呪眼」の他に、他人を洗脳する能力もあるのだろう。
 得体の知れない技を使う病葉衆ならではだ。

 「「ノスフェラトウ」はどうなんだ?」
 「あれもよくは分からない。「創世の科学」の護衛組や戦闘要員の人間たちであることは分かっている。あいつらも2年前にこの学校へ大量に入学し、一つの勢力となった。だけど問題も起こさないし、多少他のチームと小競り合いがあるだけだ」
 「だから放置しているんだな?」
 「ああ。《髑髏連盟》からもそう言われていた」
 「なんだ?」
 「分からない。だが、恐らく二つの組織は何らかの形で繋がっているのだと思う」

 二つのチームは繋がっている。
 俺の勘もそう感じていた。
 「デミウルゴス」の供給元が《髑髏連盟》。
 そして実際の売買は「ノスフェラトウ」が担っているのかもしれない。
 そうなれば「創世の科学」自体も「デミウルゴス」に繋がっている可能性もある。
 かつての「太陽界」のように。
 大体の構造が見えて来た。

 「お前は《髑髏連盟》と連絡が付けられるのか?」
 「いや、一方的に向こうからだけだ」
 「スマホか?」
 「そうだ」
 「掛け直せよ」
 
 久我の顔が恐怖で凍り付いた。

 「出来ない! そんなことをすれば殺される!」
 「てめぇ、自分は簡単に殺人をするくせによ」
 「お前も殺される! あいつらはあまりにも大きい!」
 「ふざけんな!」

 俺は久我の首を掴んで持ち上げ、ポケットからスマホを取り出した。
 久我の手に握らせる。
 
 「呼べ! 呼ばなければお前を殺す!」
 「!」
 
 久我が必死にスマホを操作した。
 顔が真っ赤に染まり、酸素の供給が断たれつつある。
 久我が俺にスマホを寄越した。
 久我の身体を床に叩きつける。

 「よう、猫神だ。お前は《髑髏連盟》だな?」
 「……」
 「部団連盟は潰したぞ。次はお前らの番だ」
 「……」

 「聞いてるのか、アホウ! お前らの仲間の二人はさっきぶっ殺したぞ!」」

 「これから行く」
 「あ?」
 
 電話が切れた。
 全員が俺を見ていた。

 「これから来るってさ」

 久我と郷間が震え上がり、他の連中も緊張していた。

 「逃げたい奴はすぐに出て行け。これから戦闘になるぞ!」
 
 半数の人間が出て行った。
 残ったのは俺の子どもたちとマンロウ千鶴、御坂と剣道部の40人とボクシング部の今村。
 久我と郷間も残った。
 島津とさっきの鷲崎というでかい奴は放置され、まだ床に転がっている。
 
 「お前ら、逃げないのか?」

 久我たちに言った。

 「もう遅い。俺と郷間は《髑髏連盟》に逆らったことになった。逃げ場は無い」
 「他の連中はともかく、お前らは護らないぞ?」
 「構わない。もうお前と一緒に戦うしかない」
 「そうかよ」

 マンロウ千鶴に話し掛けた。

 「あんたの技は百目鬼家のものだな?」
 「流石! よく知っているのね!」

 マンロウ千鶴が嬉しそうに笑った。

 「まあな」
 「猫神君が何者なのか聞きたいけど、今は無理ね」
 「そうだな」

 真剣を持っている御坂にも聞いた。

 「あんたも普通の流派じゃないよな?」
 「はい、「虎眼(こがん)流」です!」
 「虎眼流?」
 「「石神流」の傍流です」
 「あんだと!」
 「「石神流」まで御存知でしたか!」
 「あ、ああ」

 今度虎白さんに聞いてみよ!

 「じゃあ、妖魔を斃す技もあんのかよ?」
 「多少は。でも自分はまだ若輩者でして」
 「頼りにすんな!」
 「はい!」

 御坂が明るく笑った。
 この状況で大した肝だ。

 先ほど、《髑髏連盟》の二人がライカンスロープだったことは全員が分かっている。
 あの化け物に臆さずにマンロウ千鶴と御坂は立ち向かった。
 これから、あんな化け物たちが来ることも理解していながら笑っている。
 本当に頼もしい連中だ。
 剣道部の40人は残っているが、恐らく戦力にはならない。
 ただ、外に出して俺たちの手の届かない状況にいるよりも、ここに残った方がいいだろう。
 出て行った刈谷や間宮たちは襲われる心配もないと考えた。
 逃げた白ランたちも無事だろう。

 俺と子どもたちは格技場の外へ出た。
 中はマンロウ千鶴たちに任せる。





 20分後。
 200人のバイクの集団が来た。
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