上 下
2,340 / 2,818

石神家 ハイスクール仁義 Ⅶ

しおりを挟む
 部団連盟本部会議室。
 白ランの幹部たちが集まっている。
 ボクシング部の副部長・今村が入って来た。
 すぐに応援団長の郷間から問われた。

 「榊はどうしている?」
 「先ほど病院へ搬送されました。全身に何か所も骨折があります」
 「そうか」

 郷間はそう聞くと、腕を組んで今村を睨みつけた。

 「ボクシング部は無様に猫神に負け、部団連盟に大きな恥を掻かせた。お前ら、その責任をどう取る?」
 「申し訳ありません」
 「まさかボクシングの素人の人間に負けるとはな。しかも一発も入れることなくだ」
 「はい」
 「お前ら、特別キャンプに行きたいか?」
 「……」

 今村は黙っている。
 そのことが郷間を苛立たせた。

 「おい、本当にキャンプへ送るぞ!」

 今村が郷間を見返した。
 両手を後ろに組み、胸を逸らせて叫んだ。

 「星蘭高校ボクシング部部長・榊の言葉をお伝えします。本日を以てボクシング部は部団連盟から脱退します!」
 「な、なんだとぉ!」

 郷間が立ち上がった。
 顔が赤く染まり、全身が震え、その怒りの大きさが分かる。
 2メートルを越す巨体の郷間は、憎悪の眼を今村へ向けた。
 この威圧に耐える人間は少ないだろう。

 「お前、それを宣言してただで帰れるとは思っていないよな!」
 「構いません。榊の言葉は絶対です。部員一同、それに従います」
 「貴様ぁ!」

 郷間が動き、今村は構えた。
 流石に榊の下で副部長を任ずるだけあり、見事なファイトスタイルだった。

 「郷間!」

 久我が叫ぶ。

 「よせ! 今日は部団連盟が負けたのだ」
 「久我さん!」

 郷間は久我の命令には逆らえない。
 構えを解かない今村を睨みつけながらも足を止めた。

 「郷間! わしにやらせろ」
 「島津!」
 「わしが全部片づける。猫神を頭から両断してやる。だからわしに任せろ」
 「……」

 郷間はもちろんそのつもりだった。
 あの猫神の異常な強さを見て、もう島津しかいないと分かっていた。 
 久我が言った。

 「ボクシング部のことは保留だ。島津の「仕合」をボクシング部全員に見させろ」
 「分かりました!」
 「明日の朝だ。部団連盟の幹部とボクシング部、それに「ノスフェラトウ」「髑髏連盟」「爆撃天使」「死愚魔」「間宮会」にも通達を出せ。代表者が来るようにだ」
 「はい! 必ずそのように!」

 以前にも同じことがあった。
 相撲部の主将が部団連盟に逆らい、久我の代わりに自分が支配すると言った。
 その時にも島津が相撲部の主将を殺し、他のチームにも見せしめとしていた。
 その時のあまりにも凄まじい剣技に、誰も殺人事件を表に出そうとは思わなかった。
 竹刀で巨漢の男を両断するなど、尋常ではない。
 それに実質的に学校を支配している部団連盟に逆らえば、自分の命が危ういことも分かった。
 相撲部は廃部となり、全員が退学していった。
 本当に退学したのかどうかも分からない。
 誰も確認しようとはしなかった。
 
 他の白ランの幹部たちは黙って久我を見ていた。
 また、相撲部の時と同じことが行なわれることが分かっていた。
 その中でアーチェリー部のマンロウ千鶴と空手部の鷲崎九丈だけは笑っていた。

 「久我さん」
 「おい、なんだマンロウ!」
 
 久我ではなく郷間が応える。

 「島津が負けたら、アーチェリー部も部団連盟から脱退するわ」
 「貴様! 何を言うか!」
 「猫神は本物よ。あいつを押さえられないのなら、この学校は猫神のもの。私は喜んで猫神の下に付くわ」
 「お前ぇ! 死にたいのかぁ!」
 「そんなことが出来る? まあ、今までも我慢してたのよね。なんか暗いのよ、ここ」

 「ワァッハッハッハハハハハハ!」

 大きな哄笑が響く。
 人間の声量とは思えない音圧だった。

 「郷間! 島津がやられたら俺にやらせろ!」
 「鷲崎!」
 
 郷間が怒鳴り、島津が鷲崎を睨む。

 「いや、最初から俺にやらせろ。俺が猫神を殺すから、そうしたらアーチェリー部は俺に自由にさせろ」
 「お前、何を言ってる!」
 「あんた、本当にサイテーよね」

 郷間が怒鳴り、マンロウ千鶴が顔をしかめて吐き出す。
 久我が手で制した。

 「島津にこの件は任せる。島津が負けるわけがない。島津の実力を知れば、全ての人間が分かる」
 「はい!」

 久我が立ち上がった。

 「以上だ。明日、全てが終わる」

 「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」

 マンロウ千鶴や鷲崎も含め、全員が起立し、深々と頭を下げた。
 今村も同じだった。

 久我が部屋を出て行き、郷間だけがそれに従い付いて行った。
 久我が出て行くまで、全員が頭を下げたままだった。

 「千鶴、お前猫神に惚れたか?」

 鷲崎がにやついた顔で言った。

 「どうだかね」
 「あいつは強い。榊を最後にやった技は「花岡」だな」
 「そう」
 「猫神は「花岡」が使えることで自信があるようだ。一緒に転校してきた連中もそうなんだろうよ」
 「へぇ」
 「二年生の二人がバレーでとんでもないことをしたようだ」
 「よく知ってるわね」

 他の幹部たちの何人かが騒いでいる。
 「花岡」は今、全国的に驚異的な拳法として知られている。

 「島津、お前明日は負けろよ」
 「……」
 「その方が面白い。千鶴、お前ら覚悟しておけよな」
 「ふん! あんたなんかにやられるわけないじゃない。汚い悲鳴を挙げさせながら潰してやるわ」
 「ほう!」

 鷲崎が笑いながら出て行き、他の幹部たちも退出した。
 入り口の隅で頭を下げていた今村の肩を、マンロウ千鶴が叩いた。

 「あなた、根性あるわね」
 「いいえ!」
 「面白いことになるかもよ」
 「……」

 マンロウ千鶴も笑いながら出て行った。
 最後に島津一剣が部屋を出る時、今村の身体が硬直した。
 恐ろしい波動で動けない。
 一瞬で死を感じた。

 そしてそれが急に解けた。
 安堵し、床に膝を付く。

 島津が横に立っており、廊下の先にマンロウ千鶴がこちらを睨んでいた。
 マンロウ千鶴の周囲に靄のものがあるように見えた。
 島津が再び歩き出した。





 今村は、自分が死ぬはずだったことを理解した。
 マンロウ千鶴に護られたのだ。
 今村はマンロウ千鶴に向け、頭を下げ続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...