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石神家 ハイスクール仁義 Ⅵ

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 時間が惜しいので、ボクシングの試合の後で当初の計画通りにそれぞれのチームに接触した。

 俺は《爆撃天使》だ。
 あの豪華な集会場へ行く。

 「よう!」

 ドアを開けてはいると、全員が俺を見て、中央奥の男が俺に気安く手を挙げて呼んだ。
 多分、こいつが刈谷だろう。
 190センチの身長に逞しい身体。
 総合格闘技に誘われているらしいが、肉体的には納得出来る。
 刈谷は奥のひときわ大きく豪華なソファに一人で腰かけ、他の連中もそれぞれ座っていた。
 大きな声で、刈谷が俺に話す。 

 「さっきの試合は良かったぜ!」
 「お前が刈谷か?」
 「そうだ。猫神だな」

 俺は刈谷が手招くのでソファに行き、前に座った。
 刈谷はヘネシーをストレートで飲んでいた。
 俺にもグラスを持って来させ、刈谷が注いだ。

 「祝杯だ、呑めよ」
 「ああ」

 一応口は付けない。

 「お前、相当強いな」
 「そうかな」
 「あの最後の技はなんだ?」

 「轟雷」だ。
 榊が想像以上に強かったので、「花岡」を使った。
 そのことを隠さずに話した。
 
 「「花岡」の技だ。「轟雷」という」
 「お前、「花岡」が使えるのか!」
 「まあな」
 「すげぇな! 今話題になってるけどよ、本物の使い手は初めて見たぜ」
 「そうか」

 刈谷は上機嫌だ。
 部団連盟とは敵対しているのだろう。

 「あの榊もとんでもない強い奴だった。まさかあいつを倒す人間がいるとは思わなかったぜ」
 「そうだな。あいつは強かった」
 「部団連盟には他にもいる。応援団長の郷間もそうだが、何よりも島津一剣だ」

 先ほどマンロウ千鶴も名前を挙げていた奴だ。

 「島津はどういう奴なんだ?」
 「人斬りだよ。平然と人間を殺す。得物は何でもいいんだ。竹刀でも人間を両断する」
 「なんだそれは?」

 日本刀であれば分かる。
 竹刀でどうやって。
 しかも殺人を知られているのか。

 「出来るんだよ。だから恐ろしい」
 「何か仕掛けはあるのか?」
 「分からねぇよ。とにかく、俺はあいつが竹刀で人間を両断したのを見たことがある」
 「ほう」

 そういう技だと思っておいた方がいいだろう。
 幾つか、それが出来る技は知っている。
 榊も人間離れした技を持っていた。

 「お前と同じく見せしめでやられたんだ。その時は、俺や他のチームの頭だけが呼ばれた」
 「殺人を見せられたのか?」
 「そうだ。そいつは相撲部の奴だった。2メートル越えのでかい奴でな。久我に逆らったんだ」
 「へぇ」
 「何しろ200キロを超える身体だ。竹刀なんて通じるわけもねぇ」
 「そうだな」

 「しかし、一瞬で両断された。脂肪と筋肉の間から、はらわたが零れ落ちたよ。みんなビビった」
 「ほう」

 凄まじい異常の剣技だ。
 まあ、石神家本家の剣士ならば出来るだろうが。

 「相撲部の部長だった。相撲部は解散。他の連中も学校からいなくなった」
 「そうか」

 島津一剣とは多分すぐに遣り合うだろう。
 もう一人について聞いた。

 「応援団長の郷間はどういうんだ?」
 「分からない。だが、あいつに睨まれて死んだ奴がいる」
 「睨まれて?」
 「だから分からねぇんだよ。突然心臓発作だからな」
 「なんだ、そりゃ」

 俺は最も気になっていたことを聞いた。

 「久我はどうなんだ?」
 「……」

 刈谷が黙り込んだ。

 「おい」
 「久我はほんとうにさっぱり分からねぇ。あいつは何かをしたことがねぇんだ。だが部団連盟に君臨してやがる。郷間や島津や榊を従えてるんだろ? 絶対に普通の奴じゃねぇ。俺も確かめようとは思わねぇよ」
 「そうか」

 なるほどな。
 榊や郷間、島津以上の何かを持っている可能性が高いということだ。
 今度は俺が質問された。

 「ところで、どうしてここに来た?」
 「まあ、ちょっと聞きたいことがあってな」
 「なんだ?」

 刈谷という男が信用できそうなので、直球で聞いてみた。

 「この学校で「デミウルゴス」が流れていると聞いた」
 「お前、あんなものが欲しいのか?」
 「興味がある」
 
 久我が呆れた顔をしていた。

 「やめておけよ。あれはヤバい」
 「どうしてだ?」
 「人間じゃいられなくなると聞いた。俺らもご立派な人間じゃねぇけどよ、「デミウルゴス」にだけは手を出さねぇ。あれはドラッグなんかじゃねぇ。悪いことは言わねぇからやめておけ」
 「そうか。でもどうしても欲しいんだ。どこかで手に入る所を知らないか?」
 「知らねぇ。知りたくもねぇな」
 「分かった。ありがとうな」
 
 俺は話を終えて立ち上がった。

 「待てよ。お前どうして「デミウルゴス」なんか欲しいんだよ」
 「強くなると聞いた」
 「あ? お前がそれ以上強くなりてぇのか?」
 「悪いか?」
 
 刈谷が笑った。

 「お前は「デミウルゴス」なんかなくても大丈夫だろうよ」
 「今よりも強くなるんなら、俺は欲しいけどな」
 「冗談だろう。あれは人間じゃなくなるんだからやめておけって」
 「自分で探すよ」

 刈谷は何かを知っている。
 だが、今はまだ喋らないだろう。
 まだ定かではないが、刈谷たちは「デミウルゴス」には直接関わってはいないと感じた。

 「そういえば、お前らは暴走族なんだよな?」
 「まあな」
 「どの辺を走ってるんだよ」
 「適当だよ。まあ、バイクを持ってる奴ももちろんいるけど、ただ集まって固まってるんだ」
 「なんだ?」

 刈谷がまた笑った。

 「この学校で生きてくにはよ、そうやって集まる必要があんだよ」
 「なるほどな」
 「とんでもねぇ連中がいる。そいつらに対抗するためにな」
 「それが出来てんだな?」
 「……」

 刈谷が苦い顔をした。
 
 「おい、俺が守ってやろうか?」
 「なんだと?」
 「俺がお前たちをだよ」

 刈谷が微笑んで言った。

 「考えておくよ」
 「ああ」

 立ち上がった俺に、刈谷が声を掛けてきた。

 「猫神、星蘭を甘く見るなよ」
 「なに?」
 「それだけだ」
 「そうか」

 刈谷が曖昧に手を振っていた。
 俺は外へ出た。

 多分、《爆撃天使》は俺たちの下に付く。
 あいつらはギリギリ以下の環境にいる。
 すぐに手を組まないのは、まだ俺の実力を信じていないためだろう。
 まあ、仕方がない。
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