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石神家 ハイスクール仁義

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 「星蘭高校か」

 「アドヴェロス」の調査部からの報告に、俺と成瀬は眉を顰めていた。
 まさか「デミウルゴス」の大きな取次現場が高校の中にあったとは思わなかった。
 俺たちはそのことが分かってから、星蘭高校のことを調べて行った。

 星蘭高校は有名な、いわゆる不良の集まった高校で、全国から進学にあぶれた不良たちが集まって来る。
 何しろ無試験で入学でき、入学金と授業料さえ払っていればいい。
 定期試験はあるが、受けさえすれば進級されると言われている。
 だからほとんど出席日数のみで高校の卒業資格を得られるのだ。
 そのため、全国から進学にあぶれた、もしくはどこにも受け入れられない連中が星蘭高校に集まって来る。
 出席に関しては登校と下校、また各授業の際にカードでの電子情報を基にしているらしい。
 意外に堅実な方法を取っている。
 
 授業は普通に行なわれているようだが、自習も多いようだ。
 教師は教室で何もせずにいることも多い。
 下手に生徒の機嫌を損ねればとんでもないことにもなり得る。
 実際に事件は多く、生徒同士はもちろん、教師が暴行の対象になったことも数多くあった。
 中には死亡者が出ることもある。
 2週間前にも、生徒の焼死事件があった。
 ガソリンを被って校舎裏で焼死した2年生の男子生徒。
 もちろん警察が乗り込んだが、他殺の証拠はなく、自殺と認定された。

 一見は普通の高校に見せかけているが、実態は不良を放置している無法地帯だった。
 一応、出席日数は進級、卒業の目安にはなっていた。
 そんな異常な学校が仮にも学校法人として認可を受け続けている。
 それは、星蘭高校がスポーツの分野で優秀な成績を示しているためだった。
 実際に卒業後にアスリートとして活躍している人間が結構いる。
 勉学に関しても、一流大学へ進学する人間も一定数いるのだ。
 俺も成瀬も不思議に思っていたが、秩序と無秩序が並列して存在しているらしい。
 分からない。

 不良のたまり場であるために、生徒同士の抗争が激しい。
 幾つかのチームに分かれ、互いに敵チームと対立している。
 どこのチームが星蘭高校を支配するのかと、熾烈な争いが続いていた。

 最大派閥は暴走族《爆撃天使》。
 180名にもなる大組織だ。
 そして《死愚魔》。
 80名のギャング集団。
 《ノスフェラトゥ》。
 120名の、ある巨大宗教団体の戦闘集団の一部と言われている。
 《間宮会》。
 45名の間宮恵吾を中心としたチーム。
 そして《髑髏連盟》。
 50名以上と言われるが、実態が不明の集団。

 また不良集団ではないが《部団連盟》という、部活動同士の組織もあるらしい。
 恐らくそこが秩序の中心なのだろう。
 殺伐とした不良集団の中にあって、真面目な生徒たちがそこで守られているようだ。
 他にも小さな派閥があるが、ほとんど前述の5チームに併合されかかっている。

 そして、「デミウルゴス」の売買供給が星蘭高校の生徒たちによって行なわれているらしい。
 どの組織が関わっているのかはまったく分からない。
 
 「生徒が関わっているとなると、外部からの調査では無理ですよ」
 「そうだな。しかし潜入するにしても、俺たちではどうしようもないぞ」

 警察官は潜入捜査は出来ないことになっている。
 しかし、「アドヴェロス」はその特殊な犯罪捜査の性質上、特別な法令で潜入捜査も認められていた。
 厚生労働省の麻薬取締捜査官と同じだ。
 それでも、高校への潜入は難がある。

 早乙女は石神に相談することにした。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「分かった。うちで引き受けるよ」
 
 早乙女から話を聞いて、俺はそう言った。

 「いや、石神。そうは言っても誰が潜入するんだ?」
 「そんなもの、俺たちに決まっているだろう」

 子どもたちも全員集めている。
 皇紀は海外だが。

 「まさか、亜紀ちゃんたちか!」
 「早乙女さん、やりますよー!」
 「いや、でも!」
 「おい、いいじゃねぇか。短期間で片付けるしよ」
 「どうやってやるんだ?」
 「決まってるじゃねぇか。全員をぶっ飛ばして吐かせればいいだろうよ」
 「おい!」
 
 早乙女は何を躊躇しているのか。

 「お前らじゃ出来ねぇよ。でも俺らならば幾らでも上手くやる」
 「しかし……」

 表立って警察官が子どもをぶっ飛ばしていけば問題になるだろうが。
 俺たちなら上手くやる。

 「効率を考えて、俺たち全員が潜入するよ。えーと、5つのチームがあるんだよな?」
 「ああ、さっき説明したが、亜紀ちゃんと柳さん、ルーちゃんとハーちゃんが潜入するのか?」
 「おい、俺もだよ」

 「「「「「エッェェェェェーーーー!」」」」」

 早乙女と一緒に子どもたちも驚く。
 
 「なんだよ!」
 「タカさんは無理でしょう!」

 亜紀ちゃんが反対しやがる。

 「どうしてだよ!」
 「だって! 年齢が!」
 「ばかやろう! 俺は18歳に見えるだろう!」
 「見えませんよ!」
 「てめぇ!」
 「怒鳴ったってぇー!」

 面白くねぇ。
 『虎は孤高に』では30代の山口君たちが、大学生役をやってるじゃねぇか。
 この俺に出来ねぇわけがあるか!

 「とにかくやる! 早乙女、お前手続きをしろ!」
 「わ、分かった……」

 超法規的措置が出来る「アドヴェロス」ならではのことだ。
 俺たちの仮の身分を用意し、星蘭高校に転入させる。
 転入も無試験だ。
 あっても問題無さそうだが。
 まあ、戸籍が用意されれば入学金などの金で簡単に片付くだろう。
 楽しみだぜぇ。

 俺は元「ルート20」の武市に電話した。
 服飾店をやっている。

 「武市!」
 「トラさん! お久しぶりです!」
 「おい、超特急で注文だ」
 「はい! 何でも用意しますよ!」
 「白ランだぁ! ひざ下までのやつな!」
 「へ?」
 「金ボタンで、裏地はでかい派手目の虎な!」
 「はい?」
 「下はスリムドカンだぞ!」
 「ほひ?」
 
 「三日で作れぇ!」
 「は、はい!」

 やったね!
 他の子どもたちは、星蘭高校の制服のブレザーを用意した。
 スカート丈は長め。
 不良はそうじゃねぇとな!

 俺は最高に御機嫌だった。
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