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ガンスリンガー Ⅷ

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 5月第三週の金曜日。
 夕べ聖とアメリカの「ガンスリンガー」をぶっ殺して来た。
 そして子どもたちと話し合った。
 すぐに話したかったのだが、亜紀ちゃんが泣いて俺に頼んできた。

 「これから『虎は孤高に』があるんですぅー!」
 「……」

 その後になった。
 なんなんだ。





 リヴィングに集まり、子どもたちに「ガンドッグ」と「ガンスリンガー」のことを話した。

 「まあ、銃技での石神家本家ということだな」
 「「なるほどー!」」

 双子には理解が早い。

 「それを極めた連中ということだ。だから通常の銃技では出来ないことが出来る」
 「弾丸の軌道を変えることだよね!」
 
 俺が笑ってハーの頭を撫でる。

 「それだけじゃねぇ。何よりも驚異的なのは洞察力だ。どこに弾を撃てばどうなる、ということが分かっている。だから回避しようとする動きが誘導されて次の致命傷となる」
 
 子どもたちの顔が真剣になる。
 こちらの動きが読まれ、知らない間に導かれてしまうということだ。
 武道の達人は同じことが出来る。
 それはうちの子どもたちも理解している。
 斬や聖や俺の動きを見ているので、フェイントばかりでなくそれ以上の洞察力で動く、動かすことの恐ろしさを実感している。
 「アドヴェロス」の鏑木は、それを銃で行なう。
 先日の《デモノイド》との戦闘記録は全員が見ている。
 鏑木の狙撃で相手の「機」を潰す驚異的な技をみんな理解していた。
 「ガンスリンガー」は、それ以上のことをやるのだ。

 「その未来位置に弾を導けばやられる。最初にルーとハーがやられたのは、そういうことだ」
 「腿を撃たれたのも」
 「そうだ。動きを止めるためだな。まあ、お前らはぴょんぴょん逃げたけどな」
 「「ワハハハハハハハ!」」

 俺はアリゾナ州の砂漠で聖が5人の「ガンスリンガー」に襲われた話をした。

 「聖はどうやったの?」
 「高速機動で飛んだ。敵の一人を捕えてな」
 「そっか」

 双子が落ち込み、亜紀ちゃんも柳も暗い顔をしている。
 先日無人島での「カタ研」のキャンプで失態を犯し、今回も双子が敵にいいようにあしらわれた。
 どちらも死にはしなかったものの、何もいい所はない。
 それに比べ、聖は5人もの「ガンスリンガー」を相手に、一人を捕えて来た。
 圧倒的な差だ。

 俺はアメリカで聖と一緒に「ガンスリンガー」3人を撃破し、女の「ガンスリンガー」を逃がしたことを話した。

 「え、逃がしちゃったの!」
 「そうだ」
 「どうして!」

 「敵に俺たちと敵対するなということを示した。敵対するのならば、お前らを壊滅させるということだな」
 「「「「!」」」」

 子どもたちが驚いている。
 こいつらは最初から敵の殲滅を考えていた。

 「まあ、暗殺者の集団だけどな。でも、凄腕だ。だからもしかすると今後使えるかもしれない」
 「そんな連中をですか!」
 
 柳が言う。

 「そうだ。いいか、戦いに善悪はねぇ。敵か味方かということだけだ。あいつらは強い。だったら一緒に戦えるかもしれない」
 
 柳は納得できない顔をしているが、とりあえず黙った。

 「俺たちは仲良しごっこをしているんじゃねぇ。善人が集まって一緒にやるんじゃねぇんだ。大悪人だろうとド変態だろうとなんだろうと、「業」と戦うのならば味方だ。俺たちに敵対せずに一緒の敵と戦うのならばな」

 また柳が叫ぶ。
 双子と俺を襲ったことがどうしても許せないのだ。

 「でも、バイオノイドと一緒に向かって来たんですよ!」
 「それは今は味方ではないということだ。でも、今後は分からん。あいつらにとってはどんなことでも「仕事」でしかないからな。本当の敵ではない」
 「そんな!」

 双子が言う。

 「柳ちゃん、気持ちは分かるけどね。でも、タカさんの言う通りだよ」
 「味方に付ければ、頼もしい連中かもしれないよ?」

 「でも! お金で動く人たちなんでしょう? そんなの信用出来ないよ!」
 
 柳は純粋だ。
 だからまだ汚い戦いは出来ない。

 「金で転ぶ連中じゃない。もしもそうであれば、あいつらはとっくに全滅している。仕事として引き受け、それを達成して来たことがあいつらの信用なんだ。どんな商売でも、信用を喪えば二度と使われない」

 柳が俺を見ている。

 「今は「業」の仕事を受けている。だから今日本にいる「ガンスリンガー」は殺す。しかし本体の「ガンドッグ」は別だ。今後の交渉で俺たちに付くかもしれない」
 「分かりました」

 柳もやっと認めた。

 「よし! じゃあ、ルー、ハー」
 「「はい!」」
 
 「散歩に出て来い」
 「「はい!」」

 「タカさん! 私も一緒に!」
 「石神さん! 私も!」

 亜紀ちゃんと柳も行きたがる。

 「いや、必要ねぇ。お前らで十分だろ?」
 「「うん!」」

 双子がニコニコしていた。





 ルーとハーが出て行った。
 マイクロビキニだった。

 「私たちの散歩着だからね!」
 「行ってくるね!」

 まあ、いいが。

 気配感知は出来る。
 先日やられたのは、敵の意表を衝いた攻撃だったからだ。
 敵の能力はある程度分かった。
 ならば、もう二人が負けるわけはない。
 
 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「なんかいるね」
 「そーだね」

 外に出てすぐに、気配が分かった。
 
 「あっちだね」
 「うん」

 二人で気配の方向に歩いて行った。
 
 「他にはいないね」
 「一人だね」

 「「!」」

 いきなり来た。
 ハーと一緒に高速機動に入る。
 銃弾が身体に近い場所を通過していく。

 「もう高速機動を読んでるね」
 「でも、どれだけ速いのかはまだ分かってないね」

 その時、視界の隅を黒い影が通過した。

 「「あ!」」

 亜紀ちゃんだ。
 離れた場所にいる「ガンスリンガー」の前に降り立つ。
 
 「フン!」

 右のブローを撃ち出した。
 「ガンスリンガー」は亜紀ちゃんに向かって何発も撃つ。
 亜紀ちゃんの右手が顔面の寸前で止まった。
 銃弾は亜紀ちゃんの身体の周囲で粉末になって消えた。
 「螺旋花」を纏っているのだ。
 まだ亜紀ちゃんにしか出来ない超絶技だった。
 他にはタカさんとか聖、斬さんくらい。

 「ガンスリンガー」の顔面が大きく波打ち、後ろに倒れた。

 「ちょっと挨拶に来た! お前を殺すのはあたしじゃない」

 亜紀ちゃんが飛び去った。

 「亜紀ちゃんめー」
 「やりたかったんだろうね」

 私とハーは起き上がった「ガンスリンガー」に迫った。
 
 「ハー! やるよ!」
 「おう!」

 《ウンコ7分身》

 「ガンスリンガー」が目を丸くして驚いている。
 しかし、すぐにスーパーブラックホークを構えて撃った。
 ウンコを乗っけていない的に。

 「「ギャハハハハハハハ!」」

 二人でぶっ飛ばした。
 
 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 双子が「散歩」から帰って来た。
 背の高い男を引きずっている。
 二人は素っ裸だ。
 マイクロビキニなんて、高速機動に耐えるはずもない。
 最初からそのつもりだったのだろうが。
 裸族め。

 「なんだ、殺さなかったのか?」
 「うん、なんか石神家と似てるとかって聞いたらね」
 「まー、こいつなんか相手にならないしね」
 「そうかよ」

 撃たれたくせに。
 まあ、いい。





 日本に来ていた「ガンスリンガー」は、アメリカの司法に引き渡した。
 向こうのマスコミが「ガンスリンガー」と「ガンドッグ」のことを報道し、驚異的な銃技の暗殺者集団であることを発表した。
 これで奴らも対応しなければならない。
 まだ本部の場所や組織の詳細は何も分かっていない。
 ジャンニーニが掴んだ弾薬工場も、既に無くなっていた。

 しかし、もう「ガンドッグ」を使う連中も躊躇するはずだ。
 誰も知らない組織であったからこそ、依頼もあった。
 もちろん、それでも連中を使いたい人間はいるだろうが。

 今後、「ガンドッグ」がどういう対応をするのかは分からない。
 一つだけ言えるのは、もう「虎」の軍に敵対することはないだろうということだ。

 出来れば俺たちの戦線に加わって欲しいのだが。
 それはまだ分からない。
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