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ガンスリンガー Ⅴ

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 「ガンドッグ」との渡りが付いたので、トラと電話で話した。

 「「ガン・ドッグ」に接触する。明日、アリゾナに行くよ」
 「そうか。気を付けろ。こっちは今日襲われた」
 「なんだって!」
 
 驚いた。
 こんなにも早く連中が動くとは思ってもみなかった。
 
 「ルーとハーが撃たれた。命に別状はないが、胸と腹、それに二人とも腿を撃たれた」
 「あいつらがか! 武装は銃だったのか?」

 「花岡」を極めた奴らが、銃で撃たれるとは。

 「そうだ。俺も襲われた」
 「どんな奴だ?」

 トラが撃たれるわけはない。
 だから状況だけ聞いた。

 「武器はルガーのスーパーブラックホークだった。12インチのロングバレルに改造していたな」
 「随分と旧い銃だな。しかもシングルアクションかよ」
 「そうだ。ダブルアクションに改造もしていなかった」

 トラが相手の特徴を言った。
 長い金髪の痩せた長身。
 手足がやけに長い奴。
 戦い方を聞いた。

 「双子が見たんだが、でかい銃なのに一瞬で手にしてやがったそうだ。ハンマーを持ち上げる動作も見えなかった。しかもリロードも目に見えない速さだ。それは俺も実際に見た」
 「そうなのか。スピードローダーか?」
 「いや、そんなレベルじゃねぇ。魔法のようだよ。本当に一瞬で、ドラムマガジンで連射しているかのようなんだ」
 「そうか、とんでもねぇな」
 
 トラが言うのだからその通りなのだろう。
 俺もトラもそんな真似は出来ない。
 連射自体も素早いらしい。
 シングルアクションの銃で弾幕を張って来る。
 数回のリロードをトラの言う通りに一瞬でやっているとしか思えない。
 どのような方法かは分からないが。

 「双子も通常の対応は出来ていた。気配感知で敵の接近は気付いたし、発砲と同時に回避行動もした。でも撃たれた」
 「敵に読まれたな」
 「そうだ。「ガンスリンガー」は、相手の動作を読む。回避したつもりにさせてぶち込んでくる。見事にやられたな」

 トラが詳しい経緯を話した。

 「最初は二人の腿だったんだ」
 「急所じゃないのか?」
 「そうだ。ここに何かあるな」
 「ああ、そうだな」

 相手がある程度の使い手の場合、初手から殺せないのかもしれない。
 どの程度の使い手なのかを分析し、次のショットで決める。
 ただ、ルーとハーも尋常ではない奴らなので、殺し切れなかった。
 まあ、普通は肺や腹を撃たれれば動けないのだが、あいつらはまだまだ反撃の余力があった。
 だから一度退散したのか。

 そしてトラが二人を連れて病院から出た時に襲われた。
 待ち構えていたのだ。
 多分、「ガンスリンガー」の他に援護する体制がある。

 元々はトラが狙いだったのだろう。
 ルーとハーのレベル以上の敵と見做されたトラは、十分な対策の上で襲われた。
 双子が襲われたのも、後から思えばトラの実力を測るための襲撃だったに違いない。
 まあ、トラが誰かにやられるわけはないのだが。

 むしろ俺が驚いたのは、あのトラが敵に逃げられたことだ。

 「仕留めようと思ったよ。でも、俺を殺せないと判断した途端に逃走した。支援隊にジャベリンを大量に撃たせ、俺が対処している間にまんまと逃げた。見事な手際だ」
 「そうかよ」

 無人機に掴まっての逃走だったらしい。
 そんなことが出来る人間がいるとは。
 トラに殺されなかった実力も相当だが、戦闘の発想が物凄くキレる奴だ。
 こちらが想定しない方法で襲い逃げる。
 
 トラが言った。

 「聖、本当に気を付けろ。お前でも油断すれば危ない」
 「分かったよ。今の話を聞けて良かったぜ。俺も十分に準備していく」
 「ああ。接触場所にはデュールゲリエを配備しておくよ」
 「頼む。数は任せるから」
 「分かった」

 トラが本当に神経質になっている。
 敵の実力がまだ推し量れないためだ。
 しかし、トラはいつでも何とかする。
 ニカラグアの戦場以来、俺はトラのそういう所を知っている。





 翌日、飛行機でアリゾナ州に向かった。
 空港で車をレンタルし、2時間を掛けて待ち合わせの場所へ向かった。
 建物ではない。
 ソノラ砂漠の中で緯度経度を指定された。

 俺は「散華」だけを携行していた。

 ハイウェイを走破し、スマホの地図を頼りにソノラ砂漠へ入った。
 車はジープのラングラーだ。
 荒れ地でも走破出来る。
 待ち合わせ場所に近づくと、5人の男女が待っていた。
 相手は同じジープのグランド・チェロキーに乗って来たようだ。
 全員が銃を持っている。

 トラが行っていたルガー・スーパーブラックホークだった。
 12インチのロングバレル。
 となれば、全員が「ガンスリンガー」ということだ。

 50メートル手前で車を停めた。

 「コスタさん?」

 女は一人なので、リンダと名乗った奴だろう。
 
 「そうだ。あんたがリンダか?」
 「そうよ。ようこそ、アリゾナへ」
 「随分と用心深いんだな」
 「もちろん。うちのことは分かっているんでしょ?」
 「凄腕のガンマンだってことはな。ハーマン候補を見事な腕で暗殺した」

 リンダたちが笑った。

 「まあね。あれが私たちがやったって知っているのね」
 「俺も裏稼業が長いんでな。その腕を今回借りたい」
 「条件次第ね。あなたの会社は調べたわ。随分とショボい仕事ばかりじゃないの」
 「ほとんど俺以外は使える奴がいなくてな。どうしても大きい仕事は請け負えない」
 「そう。今回は暗殺?」
 「そうだ」
 「お金は用意出来るの?」
 「大丈夫だと思う。スポンサーがでかいからな」
 「どこ?」
 「それは言えない」

 リンダたちが俺を観察している。
 誰も銃に手を置いていない。

 「詳しい話を聞く前に、武器を預かるわ」
 「それは出来ない。俺もあんたたちを信用していない」
 「そう。でも、それじゃ交渉は出来ないわよ?」
 「勘弁してくれ。俺は独りで、そっちは5人だろう」
 
 そう言った瞬間に、5人が一斉にスーパーブラックホークを俺に向けていた。
 トラが言った通り、魔法のように一瞬で構えていた。
 ホルスターは腰に付けたフロントブレイクだった。
 そういう問題じゃない。
 この俺が反応できないほどに、本当に一瞬だった。

 「さあ、銃を渡して」
 「わ、分かった。撃つなよ!」
 「安心して。あなたがヘンな素振りを見せなければ大丈夫」
 「銃に手を掛けてもいいか?」
 「いいえ。私が預かるわ」

 リンダが構えたまま俺に近づいた。
 俺は右の腰を前に出す。

 「いい銃ね」

 そう言ってリンダがグリップを握り、「散華」を取り出そうとした。

 「!」

 俺はその一瞬でリンダのスーパーブラックホークのバレルを左手で握り、捻った。
 右手でレバーにパンチを入れる。
 リンダが一瞬で失神し、俺はリンダを楯にして4人と向き合った。
 「散華」を構えている。

 男たちが笑っていた。

 「あいつ、やられたぞ」
 「バカな奴だ」
 「でも、何があった?」
 「こいつの銃に触れた瞬間だったな」

 まだ弾は撃って来ない。

 「おい、争う気はないんだ! 撃たないでくれ!」
 
 「どうするかな」
 
 男たちはまだ笑っていた。
 この状況がまったく脅威ではないということだ。
 相当な手練れだ。

 リンダが覚醒した。

 「こいつ! カザンの銃を持ってるわ!」
 「「「「!」」」」

 4人の男たちの銃が一斉に火を噴いた。
 俺は躊躇せずにリンダを抱いたまま「飛行」で逃げた。
 俺のその足の下で、銃弾が交差するのが分かった。
 リンダの身体を避けて、軌道が曲がって俺に撃ち込んでいた。

 そのまま俺は飛び去った。
 リンダは音速を超える速さで呼吸が出来ずに失神した。






 その状態で、まだスーパーブラックホークを握っていた。
 俺は「ガンスリンガー」の恐ろしさを感じていた。
 こいつらの銃技は底が知れない。
 そして、銃に関してはこの世の誰よりも突出している。
 虎白さんたちが剣技で最高峰なのと同じく、銃技の最高峰がこの連中だ。

 「ガンスリンガー」は石神家本家と同じだ。
 それは、俺とトラを殺せるということだった。
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