上 下
2,321 / 2,806

ガンスリンガー Ⅲ

しおりを挟む
 中野の警察病院に着き、受付に聞いてすぐに病室へ向かった。
 早乙女が待っており、既にオペを終えた二人がベッドに眠っていた。
 麻酔が入っているが、安らかな寝顔だ。
 オペが完璧だったことを示している。

 「石神」
 「ああ、世話になった」
 「いや、俺も驚いたよ」
 「そうだな。もう俺たちは通常兵器ではやられることは無いと思っていたからな」

 摘出した弾頭は拳銃弾のものだった。
 44口径。
 今は9ミリ弾が多いので、随分と珍しい。
 それでも数多くあるが、最近のものであれば、結構絞られる。
 
 1時間ほどして、二人が麻酔から覚めた。
 同時に目を覚ますのだから、この二人の絆は微笑ましい。
 早乙女は先に帰している。

 「よう、やられたな」
 「「タカさん!」」

 二人が微笑んだ。
 二人が一気に俺に話し出す。
 長い金髪の背の高い痩せた外人で、手足が異常に長い。
 顔は面長で無表情だったと。
 裾の長い深緑のジャケットに、下はグレーのパンツを履いていたとのことだ。
 そして二人が感知出来ないスピードで、バカみたいにバレルの長いリボルバーを抜いて数発撃った。

 「本当に見えなかったの!」
 「銃弾の軌道は分かってたの! ちゃんと避けたのよ?」
 「でも喰らってた!」
 「分かんないよ!」

 言っていることは分かる。
 いつものように銃口の向きとプレッシャーで銃弾を避けた。
 しかし喰らってしまった。

 「銃はリボルバーだった! しかも物凄く長いバレル。12インチかな」
 「弾倉は殆ど滑らか。今時リボルバーなんて信じられない!」

 確かにそうだ。
 弾丸の数は多い方がいいのだから、多くの弾が備えられるオートマチックの方が断然主流だ。
 しかもリボルバーは構造上どうしても重くなる。
 弾倉となるシリンダーが大きくなるせいだ。
 44マグナム強装弾を使うのであれば一層だ。
 反動も、オートマチックに比べて逃がし難い。
 ショートリコイルの機構が組めないためだ。
 
 更に、形状を聞いていると恐らくルガーのスーパーブラックホークだ。
 あれはシングルアクションで、毎回撃鉄を上げる必要がある。
 幾ら何でも旧式過ぎる。

 
 二人は更に、路地の入口で決着をつけるつもりが思いもよらない高さから攻撃されたと言った。

 「移動の気配も無かったの!」
 「まさか姿も銃口も見せないで上から撃たれるなんて!」

 ルーもハーも、俺や聖ほどではなくても戦場を経験している。
 戦いの空気はある程度は読めるはずだ。
 ベテランの兵士以上にだ。
 要するに、敵はもっと戦いを経験しているプロということだ。
 聖が弾道を変えられるのだと言っていたが、俺はそれも脅威ではないと思い上がっていた。

 「早乙女が近辺の監視カメラの映像を探している。詳しい特徴が分かるだろう」
 
 二人が気になることを言った。

 「波動がね、ちょっとヘンだったの」
 「凄く静かだったのね」
 「戦闘をしているのに、あんな人がいるのかな」
 「まるで死人みたい。あ、もちろん生きてるんだけどね」

 俺は心に留めておくべきことと思った。
 二人は「Ω」と「オロチ」は呑んでいるようだったので、そのまま連れ帰るつもりだった。
 もう傷口は塞がっている。
 病院にも、早乙女から上手く話してもらっているので、退院は問題ない。

 「え、ご飯は?」
 「家で食えよ」
 「病院でも食べたいよ」
 「あ?」

 滅多に食べられない病院食を食べてみたいらしい。
 そういうものか。

 俺がナースセンターに夕飯の用意があるかを確認すると、無いということだった。

 「胸部と腹部の銃創でしたので、今日はお食事は無理かと」
 「だよね」

 二人に無いと言うと、即刻帰ると言われた。

 「「早くかえろー!」」
 「おう」
 




 病院の外に出ると、俺は異常なプレッシャーを感じた。
 ヤバい奴だ。
 戦場でも強い奴は幾らでもいる。
 しかし、本当に強い奴はプレッシャーが違う。
 人の形ではなく、世界の形で迫って来る。
 今いる奴も、そういう奴だった。

 「おい、早速また来たようだぞ」
 「「!」」

 双子も捉えたようだ。
 俺は二人に中へ戻るように言った。

 正門だ。

 俺は走りながら相手の気配を探った。
 まだ塀の向こう側にいる。
 しかし、そのまますぐに撃って来た。
 姿がまだ見えないうちにだ。

 2メートルの外壁を超えて、銃弾が俺に向かってくる。
 銃口は見えなかった。
 本来は見えないということは、弾は俺たちに届かないということだ。
 しかし、プレッシャーは俺に撃ち込まれると告げていた。

 (曲射か! 弾道が変わる!)

 俺は瞬時に移動し、射撃地点に飛んだ。
 姿が見えた。
 背の高い男で、ルガー・スーパーブラックホークの12インチバレルを両手に持っている。
 スーパーブラックホークは通常7.5インチのバレルなので、特別なモデルか。
 しかし、どうしてあんなに使いづらいバカげた長さにしているのか。

 男が俺に連射した。
 計10発。
 残弾を一瞬で撃って来た。
 シングルアクションの銃であり、毎回コックを起こさなければならないはずだ。
 その動きが俺にも見えなかった。
 しかし、ダブルアクションに改造しているわけではないことも分かった。
 見えない動作でコックを起こし、トリガーを引いている。
 驚異的な奴だ。

 俺は高速機動で避け、更に男は12発を撃って来た。

 「!」

 まったくもってあり得ない。
 リボルバーはシリンダーの薬莢を輩出し、6個の弾倉に弾を詰め替えなければならない。
 スピードローダーを使ったとしても、無理な時間だった。
 しかし実際に弾は俺に向かって来ている。
 高速機動の位置も予測されて。
 魔法使いのような敵だった。
 俺は迫りくる弾丸を回避することで精いっぱいだった。
 この俺が!

 接近するものがあった。
 無人機だ。
 恐ろしく高速で飛翔している。
 一瞬で男の頭上に来て、男が下がったフックを握る。
 音速に近い速さのはずだが、男は難なくフックに掴まり逃げ去った。

 その間にも片手で俺を攻撃して来る。
 俺は弾丸を弾きながら、同時に高速機動をする。
 それでも確実に俺の身体を追って弾が迫って来た。
 
 今度は別な集団が迫って来て、携帯ミサイルの「ジャベリン」を発射して来る。
 
 「バイオノイドか!」

 20体。
 俺や病院へジャベリンのミサイルを発射し、背中からAK74を取り出して連射する。
 その対処の間に、男は逃げた。


 「ガンスリンガーか……」


 聖が言っていた敵だと確信した。
 恐ろしい使い手だ。
 この俺が全く対応出来なかった。
 「人間」相手に、ここまで手をこまねいたことがショックですらあった。
 もちろん、「人間」相手の対応を考えていたことが失敗だった。
 双子もそうだった。
 考えを改めねばならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...