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ガンスリンガー

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 聖とアラスカで飲んだ時に気になる話を聞いた。

 「お前の射撃の腕はピカイチだよなぁ。いつも頼もしいぜ」
 「いや、まあそれなりに訓練はしたけどな」
 「でもニカラグアの時からそうだったじゃねぇか」
 「あの時は必死だよ。トラを守るって気持ちでよ」
 「そっか」

 まあ、素直に嬉しかった。
 こいつはあの時からずっと同じ気持ちで俺を守り、今もそのために鍛錬を続けてくれているのだ。
 
 「でもよ、俺よりもずっと上の人間がいるよ」
 「まあ、そうだろうな」
 
 もちろん聖の腕はいいが、それよりも上の人間はいるだろう。
 聖も間違いなくトップクラスだが。
 でも、射撃を専門に四六時中訓練しているスナイパーなどとは、練度の濃さが違う。
 それは俺たちも分かっている。
 
 「俺も会ったことは無いよ。そいつらは《ガンドッグ》と呼ばれてる。ちょっとその話をしたかったんだ」
 「《ガンドッグ》?」
 「ああ。あるガン使いの連中が集まった組織があるんだと」
 「そうなのか」
 「暗殺者の集団だよ。まあたまに戦場にも来るけどな」

 聞いたことがない。
 銃の扱いが上手いなんて、軍人でも暗殺者でも普通のことだ。

 「どんな連中なんだ?」
 「とにかく銃の扱いの次元が違うらしい。特殊な訓練をしていて、信じられないような技も持っているんだってさ」
 「技?」
 「俺も見たことは無いよ。でも聞いたところでは、弾丸の軌道も変えられるらしい」

 驚いた。

 「なんだと?」
 「ブリットの軌道を曲げて撃ち込むことが出来る。だから遮蔽物の向こう側の奴も殺される」
 「おい、そんなことは……」

 幾ら何でも無理だ。
 しかし聖は確信しているようだった。

 「連中は出来るんだよ。もっと凄い技もあるそうだ。そういう技を持っている奴が、連中の中でも「ガンスリンガー」と呼ばれている」
 「信じがたいな」
 「ああ。だけど、俺は「ガンスリンガー」にやられた奴を知ってる」
 「ほんとか!」
 「8年前の大統領候補だ。防弾ガラスの壁に囲まれて演説をしてた」
 「ハーマン候補か!」
 「そうだ。上は何も無かったからな。防弾ガラスの上を弾丸を曲げて、頭を吹っ飛ばされた」
 
 俺も覚えている。
 現代のアメリカで暗殺者が大統領候補を殺すなど、まったくあり得ない大事件となった。
 当然対立候補が疑われたが、何の証拠も見つからず、殺された候補にも幾つかの黒い疑惑も浮かんできて、結局曖昧なまま未解決事件として終わった。

 「殺されたハーマンは陸軍の暗部に逆らった。あれは陸軍が「ガンスリンガー」を雇ったんだ」
 「あれはビルの上からの狙撃じゃなかったのか!」

 公式の発表ではそうだったはずだ。
 いや、それ以外にはあり得ない狙撃だった。

 「違う。群衆が銃声を聞いている。地上からだよ。弾丸を曲げて防弾ガラスを超えたんだ」
 「まじか……」

 本当に驚いた。

 「驚異的な連中だ。俺だってあの状況で同じことは出来ない。弾道を曲げるなんて発想もねぇよ」
 「そうだなぁ」
 
 どうやるのかは想像も出来ない。
 でも、実際にやれる奴がいるということだ。

 「その組織のことは分かるか?」
 「今、丁度調べようとしてるよ。俺も最初はジャンニーニから前に聞いたんだ。ハーマン候補の時にはマフィアを経由しての依頼だったらしい」
 「じゃあ、ジャンニーニに聞けば分かるのか?」
 「いや、あいつも別なファミリーから聞いたんだよ」
 「なんだ、じゃあ面倒だな」
 「ああ、それに、そのファミリーは今はねぇ」
 「どうしたんだ?」
 「あのな、俺たちで潰しちまった」
 「あ?」
 「ほら、マリアの件で揉めたマフィアのファミリーがいたろう」
 「ああ!」
 「あそこだ」

 ジャンニーニのために、俺と聖で潰した。
 マリアを寄越せというそのファミリーの要求をジャンニーニが突っぱねたからだ。
 俺と聖でボスから幹部、ソルジャーの大半を殺した。

 「あいつら、ほとんどぶっ殺しちまったよなぁ」
 「そうなんだよ。トラ、容赦ねぇかんな」
 「お前も一緒だったろう!」

 聖は平然として酒を飲んでやがる。
 俺もワイルドターキーを口に含んだ。

 「それでな」
 「おう」
 「ジャンニーニが気になることを言ってたんだ」
 「あんだよ」
 「どこの誰かは分からないんだけど、ジャンニーニに「ガンスリンガー」に繋ぎが付けられるのかって連絡が来たらしい」
 「あ?」
 「あのファミリーのシマはジャンニーニが受け継いだだろ? だからだよ」
 「あー」

 俺たちが潰したのだが、俺たちはファミリーなんていらない。
 だからジャンニーニにすべて任せた。

 「ジャンニーニは話には聞いてたけど、連絡先は知らねぇ。前のファミリーのボスと幹部が繋がってたんよ。だからそう言った」
 「そこまでか」
 「まあな。でもちょっと頭を使って、断る前に何の依頼かを聞いたぜ」
 「ほう」
 「「虎」の軍を相手に出来るかと言われたそうだ」
 「……」

 そういうことか。

 「ジャンニーニは繋ぎは付けられないと断った。だから別なルートで依頼が行くかもしれない」
 「分かった、気を付けておくよ」
 「一般の軍人でもない。特殊な能力を持っている。やられるなよ?」
 「ああ」




 「ガンスリンガー」の話は終わった。
 俺にも曖昧なままだった。
 気を付けるとは言ったが、俺はそれほど気にはしていなかった。
 今更銃弾など、俺たちが恐れることがあるだろうか。

 その考えが甘かったことを思い知ることになる。
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