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《デモノイド》戦 XⅠ 愛鈴

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 鏑木が最初にミーラを斃し、続いて早霧さんと葛葉さんがセリョーガとスラヴァを斃した。
 そして、先ほど磯良が難なくコースチャを撃破したことが成瀬さんから通信で分かった。
 早霧さんと葛葉さんは奥義を使って動けなくなっている。
 死闘だったのだ。
 磯良は余裕があったようだが、決して油断はしていなかっただろう。

 私は最後の一人オーリャを相手にしている。
 最初に獅子神のマンションで襲われた時と同じだ。
 両手にクックリナイフを持ち、速い動きで私に襲い掛かっている。
 しかも一度距離を取られて、完全体にメタモルフォーゼされ、高速のウェアウルフタイプになっている。

 脚部が異常に発達し、もうグリースのパチンコ玉では疾走を阻めないようだ。
 両手の巨大なクックリナイフは、更に凶暴な武器となった。

 早霧さんが一対一を主張したのは、自分たちのプライドだけの問題ではない。
 明らかに我々を見下している相手を、逃がさずに斃すためだ。
 それは磯良などがあまりにも強力な技を見せてしまえば一気に逃げて、取り逃がしてしまう可能性があるということだった。
 だから全ハンターが揃った場所で、更に個別に戦うことで全員を撃破する、そういう意図があった。

 そのために互いに離れた場所で戦う。
 そうすることで一体ずつ撃破し、逃走の発想を起こさせない。
 こちらを格下と見ているので、各個撃破の戦闘に何の不安もないだろう。
 特にオーリャは獅子神のマンションの駐車場で、油断した私に簡単に傷を負わせている。
 あの時は5人の実力が分からなかったので咄嗟に逃げた。
 そのことも、オーリャにとっては自信になっているだろう。
 自分を恐れて逃げた、と。
 更に私は油断し、対物ライフルで重傷を負った。
 私の失敗が、今回の作戦の要になっている。
 
 私が最後になったのも理由がある。
 敵に私が弱いと思わせているので、最後の一人になったと気付いたとしても私を斃そうとして来るはずだった。
 他の4人が死んだとしても、私程度はせめて殺してから逃げようと考える。
 そしてそれは、逃走手段にも自信がある、ということを示す。
 ハイエースで移動していたが、運転手は5人とは別にいたことが分かっていた。
 早霧さんは、その運転手について、警戒していた。

 六本木のクラブの「食事」には顔を見せていない運転手。
 フロントに特殊な偏光ガラスを入れているのか、運転手の顔は確認できていない。
 また、決して車から出て来ないので、どの防犯カメラも姿を映していない。
 しかしあの狂暴な5人と常に一緒にいる運転手。
 決して姿を見せない運転手。
 只者ではない可能性は、確かにある。

 私たちは「全員」に貼りついている。
 獅子神は私たちに比べて戦闘力が足りないので、今回は待機だ。
 だから、あの二人を密かに呼んでいる。

 「アドヴェロス」のハンターは8人だ。

 



 「どうした! また何も出来ねぇってか!」

 オーリャは笑いながら高速で動き回っている。
 ドップラー効果で声が変調していく。
 私はメタモルフォーゼした両腕で相手をしている。
 両腕はオーリャのナイフで抉られ続け、既にボロボロだ。

 「才能が違うんだよぉ! お前とあたしとではなぁ!」
 「……」

 オーリャは高速で移動しながら、クックリナイフでヒット・アンド・ウェイを繰り返している。
 本来のウェアウルフの戦い方なのだろう。
 私が相手で無ければ、恐らく一瞬で相手を殺す。
 スピードだけではないのだ。
 恐ろしく強い膂力を持っている。
 両手に握ったクックリナイフも尋常な物ではないのだろう。
 オーリャの強靭な扱いに耐える性能を持っている。
 刃渡り40センチで峰の厚さは10ミリ。
 くの字に曲がった凶悪な代物だ。

 しかし、私の腕の内部では迅速な再生が為されていることはオーリャは気付いていない。
 表面は荒れているが、腕は正常に動き続けている。
 そしてオーリャは私のメタモルフォーゼした腕以外は攻撃出来ないでいる。
 私が上手く誘導しているので、オーリャはそれほど訝しんではいない。
 私の両腕を無力化してから、と考えているに違いない。

 明らかに私の方が戦闘に慣れている。
 高い能力を持ってはいるが、それを生かせていない。
 未熟なのだ。
 アクセルを踏み込めばスピードは出るが、駆け引きの出来ない無能なドライバーだ。
 戦闘は直線コースではない。

 「お前を殺ってから、あの磯良とファックしてやる! あたしのナイフをケツに突っ込んでなぁ! ワァッハハハハハ!」
 「……」

 そろそろこの汚い口を閉じてやる。
 私は完全体にメタモルフォーゼした。

 「バァカ! 変身中は無防備にな……なんだテメェ!」

 私の発する高熱がオーリャの行動を阻んだ。
 そして一瞬で私のメタモルフォーゼは完了する。
 ライカンスロープではあり得ない速さだ。

 「おまえ……まさか……そんな」
 
 オーリャが動揺している。
 完全体になった私は、オーリャによって傷つけられた全ての疵が塞がっている。

 「なんて波動だよ……それじゃまるで……」
 「あれだけアタックして私を斃せなかったんだ」
 「なにを……いったい……」
 「お前は小者だよ」
 「!」

 オーリャは恐怖を乗り越えて憤怒した。
 私はオーリャに瞬時に近づき、その首を刎ねた。
 オーリャは指先すら動かす間も無かっただろう。
 頭を喪った胴体が派手に倒れ、黒い血を噴出した。
 すぐに身体が崩れ始める。
 ライカンスロープの末路だ。
 

 テラスで鏑木が歓声を挙げるのが聞こえた。
 建物を回り込んで、磯良が早霧さんと葛葉さんを抱えて来るのが見えた。
 その時、成瀬さんの声がインカムに響いた。

 「全員注意! 便利屋さんが妖魔反応を感知!」

 私は急いで磯良たちの所へ走った。

 「敵の反応がどんどん膨れ上がっている! ライカンスロープだ! 完全体になろうとしている!」
 
 「磯良! 全員を私の後ろへ!」
 「俺はまだ戦える!」
 「俺もだ!」

 早霧さんと葛葉さんが叫ぶ。
 当然回復には程遠いが、二人とも自分の足で立って構えた。
 磯良は既に真言を唱えている。
 奥義を出す準備だ。

 「正門脇のハイエース! 羽入! 紅!」
 「「はい!」」

 インカムに二人の声が流れた。

 「頼むぞ!」
 「任せて下さい! 紅、行くぞ!」
 「ああ!」





 本当に最後の戦闘が始まった。
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