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《デモノイド》戦 X 磯良

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 俺の相手になったのは、コースチャという最も体格の大きな男だった。
 身長は185センチほどだが、体重は150キロを超えているだろう。
 太っているのではない。
 物凄い筋肉の塊だ。
 胸部は成人男性3人分くらいあり、肩から上腕は普通の人間の腰回りくらいはある。
 首も太く、腹部は引き締まっており、そこから伸びる太ももはまた大きく膨らんでいる。
 過剰に筋肉をデフォルメしたマンガのような肉体だ。

 グリースとパチンコ玉を撒いた地面で《デモノイド》の5人が滑った所で、俺たちは一気に襲い掛かった。
 5人を散開させ、ハンターが一人ずつ相手をするように誘導した。
 早霧さんと葛葉さんは正面で。
 鏑木さんは裏手で。
 俺は西側で、愛鈴さんは東側だ。
 
 コースチャは俺の攻撃を受けながら、すぐにメタモルフォーゼを遂げた。
 俺の「無影刀」は相変わらず効かない。
 体表に特殊な波動があるようだ。
 俺の技はぶつかっても霧散する。

 それがよく「分かった」。

 激しい水蒸気の霧が立ち込め、完全体にメタモルフォーゼしたコースチャが立っていた。
 インカムに成瀬さんから連絡が来た。

 「鏑木がミーラを撃破したわ!」

 随分と早い。
 鏑木さんは射撃が専門で近接戦闘が苦手なはずだったが、やはり凄い人だ。
 これで鏑木さんの射撃支援が期待できる。
 みんな、戦闘が随分と楽になるだろう。

 俺はそういうことを考えながらコースチャに「無影刀」を浴びせ続けた。
 ダメージはないが、「無影刀」が身体の反応を促す。
 そのために、コースチャは自分の意志で動けないでいる。
 何が起きているのか分かっていないだろう。

 戦闘の未熟だ。
 自分が与えられた強大な能力に依存して、それを磨き上げる努力を怠っていた。
 本当の能力を使いこなすことすら出来ていないだろうことが分かった。
 また成瀬さんからインカムに来た。
 
 「磯良、そいつは他の奴とタイプが違う!」
 「どういうことですか?」
 「鏑木、早霧、葛葉が相手した3人は「ワイヤータイプ」だった! でもコースチャはまるで蟹のような外見よ! これまで観測されたことがない未知のタイプだから気を付けて!」
 「分かりました」

 確かに未知の外見だ。
 顔面が横に広がり、甲殻類の蟹のように見える。
 首はリングが重なったような頑丈な可動構造。
 その下は人体をなぞってはいるが、甲殻類のような外骨格が多い、関節部分は西洋の甲冑のような構造だ。
 体表には小さな棘のようなものも多い。
 恐らくスピードよりも防御力とパワー重視のタイプと思える。

 シングルショットの連射が聴こえる。
 方向的に、鏑木さんが早霧さんか葛葉さんの支援射撃をしているのだ。
 無駄に弾を撃つ人ではないので、俺と同じことをしているのだろう。
 初動を射撃で止めている。
 本当に凄い人だ。
 格闘技でそれをやるのも達人だが、まさか射撃で出来る人間がいるとは思わなかった。
 通常は弾丸を撃ち込めば終わるわけなので、どうやって習得したのだろうか。
 鏑木さんは紛れもない射撃の天才だ。

 コースチャが高速で回転を始めた。
 俺に「機」を見せない戦法を考えたのだろう。
 豪速で回転しながら俺に近づいて来る。
 本人は咄嗟に上手い手を取ったと思っているのだろうが、こんなもの離れればいいだけだ。
 まあ、俺に邪魔されずに動いているとは思っているだろうが。
 
 この間にまた成瀬さんから早霧さんと葛葉さんがセリョーガとスラヴァを撃破したと連絡があった。
 
 「だけど二人とも奥儀を使って、しばらく動けそうもないわ」

 みんな、しっかり自分の役目を果たしている。
 俺もそろそろ決めなければ。

 コースチャが回転を止めた。
 
 「セリョーガもスラヴァもミーラも死んだか」
 「……」

 何らかの方法で知ったらしい。

 「セリョーガの奴、いつも威張って俺に指示していた癖に。他愛なく死んだものよ」
 「お前よりも強いからリーダーだったんじゃないのか?」
 「フン! 俺の方がずっと強い。あいつは多少頭の回転が良かっただけだ。実力は俺の方が上だ」
 「その割にはお前、随分と弱いな」
 「何を言う。お前の攻撃は何も効かない。このまま俺に押し潰されればいい」

 俺は「無影刀」でコースチャを斬った。
 斬れない。

 「無駄だ。もうお前の攻撃は何も感じない。行くぞ」

 コースチャが俺に踏み出す。
 もう初動を押さえられ、身動き取れないことはないと考えているのだろう。
 俺は「無影刀」を撃ち込んだ。

 「!」

 コースチャの肩が切れた。
 外骨格が斬り裂かれて拡がる。
 俺はまた「無影刀」で斬る。
 コースチャの右腕が、黒い液体を撒き散らしながら吹き飛ぶ。

 「なんだ!」

 コースチャは驚くと共に、苦痛で顔を歪めている。

 「お前たちは勘違いしている。愛鈴さんを襲った連中をすべて集めて殺すために、お前たちを生かしておいただけだ」

 俺の中学校を襲った時の話だ。

 「なんだと!」
 「お前などすぐに殺せた。でも、あの時に殺していれば、他の連中が逃げる可能性があった。一度に殺すために、あの時に殺さなかったのだ」
 「バカな!」

 コースチャが左腕で頭部を庇いながら俺に突っ込んでくる。
 俺はコースチャの両足を斬った。
 避けた俺の横を巨体が吹っ飛んでいく。
 地面のグリース塗りのパチンコ玉の上を滑って行く。

 コースチャは転がりながら俺を見た。
 右腕と両足の付け根からどす黒い血が流れ出る。

 「待て! 取引をしよう!」
 「必要ない」
 「俺は役に立つ! 情報もある!」
 「いらない。俺が見たいのは、お前が苦しんで悔しんで終わる死にザマだけだ」
 「お前!」

 俺はコースチャの両肩から下へ斬り裂いた。
 コースチャの胴から内臓が零れ落ちて地面に拡がった。
 言葉にならない悲鳴を上げている。
 その悲鳴が細くなり、何も言わなくなった。
 コースチャの身体が崩壊し始める。

 「愛鈴さん。こちらは終わりました」
 「磯良! 怪我はない?」
 「はい、大丈夫ですよ」
 「じゃあ、こっちもそろそろだね」
 「これから向かいます」
 「うん。でも先に片づけちゃうから」

 通信を切った。

 愛鈴さんも大丈夫だろう。
 だから俺は最期の敵に備えた。
 
 


 でも、それもあの二人なら対処するんだろう。
 「アドヴェロス」の仲間が頼もしい。

 俺は早霧さんと葛葉さんの所へ向かった。
 一緒に愛鈴さんの所へ行こう。
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