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Long-haired Lady

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 俺が話し終えると、みんな爆笑していた。
 今度みんなで「ヒーちゃん」に会いに行こうと言っていた。

 そろそろ寝ようということになり、亜紀ちゃんが一緒に寝たがった。
 「ヒーちゃん」の話になったからだろう。

 「今度、クマトラちゃんになりませんかね?」
 「ならねぇよ!」

 すっかり熊好きになった亜紀ちゃんが残念がる。
 もしもなったら、亜紀ちゃんが離さないだろう。
 しばらくベッドで「ヒーちゃん」がいかにカワイイのかを亜紀ちゃんが話し、響子も六花も会いたがっていた。
 亜紀ちゃんがいつまでもうるさいので、サザンオールスターズの『Long-haired Lady』を歌ってやった。
 亜紀ちゃんも黙ってニコニコして聴いていた。

 「アキの髪は長くて綺麗ね」

 響子が言うと、亜紀ちゃんが喜んでやっと大人しくなった。
 ベッドはキングサイズなので4人が寝ても余裕がある。
 右隣に亜紀ちゃん、左に響子、その向こうに六花が寝た。
 吹雪はベビーベッドだ。
 ロボは頭の枕の上。

 



 ぽんぽん


 またロボに顔を叩かれて目を覚ました。

 「おい、なんだよ?」

 ロボが俺の右側をジッと見ている。
 亜紀ちゃんの長い髪が、また拡がっていた。
 時々一緒に寝ているとこうなっている。
 顔にかかったりするので、ウザい。

 今日は俺の方に顔を向け、反対側に拡がっていた。

 「相変わらずナゾにすげぇな……」

 ロボと見ていると、亜紀ちゃんの髪が動いた。

 「お?」

 何かリズムを刻んでいるように波打っている。

 「なんだ?」

 ロボもジッと見ていた。
 俺にこれを見せたかったようだ。
 亜紀ちゃんの髪のうねりが大きくなった。
 ロボがじゃれて盛り上がった髪を前足で潰す。

 髪が一斉にざわついて、まるで邪魔されたのを怒っているようだ。

 「おい、怒ってるんじゃねぇの?」
 「にゃー」

 分からんが。
 また髪がリズムを響かせるようにうねり始めた。
 なんなんだろう。

 俺はしばらく見ていて、リズムから思い浮かんだ。

 「ヒモダンスかぁ!」

 髪が一瞬制止し、今度は一斉に横にうねった。

 「もしかして俺が分かって喜んでんの?」

 また「ヒモダンス」のリズムを繰り返す。

 「こいつ、何の夢見てんだろうな」
 「にゃー」

 まあ、分からない。
 そのうち、髪の一部が俺の肩を叩く。
 「ヒモダンス」のリズムで。

 「え、俺にもやれってか?」

 
 ♪ ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン! ♪。


 小声で歌うと、また髪が喜ぶようにうねった。
 しばらく付き合ったが、バカバカしい。

 「おい、もう寝るぞ」

 髪が束になって俺の首に巻き付いて締める。

 「おい!」

 流石に苦しい程には締められないが、抗議していることは分かる。
 寝るにもウザい。
 仕方なく、もう少し付き合った。

 
 ♪ ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン! ♪。


 「おい、もういいだろう?」

 今度は髪が一斉に亜紀ちゃんの顔の前に集まり、微妙に凹凸を作った。
 亜紀ちゃんの顔の前に、目が窪んだ恐ろしい女の顔が浮かぶ。

 「怖ぇよ!」
 「ニャア!」

 俺が叫んだので、響子が目を覚ました。

 「タカトラ、どうしたの?」
 「おい、これ、見てみろよ」

 響子が俺の身体を乗り越えて、亜紀ちゃん髪顔を覗いた。

 「なんなの!」
 「分かんね」
 「にゃう」

 また髪の一部が伸びて来て、俺の顔をはたく。
 しょうがねぇから歌ってやる。

 
 ♪ ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン! ♪。

 
 髪が嬉しそうに拡がってうねりはじめた。

 「うわ、なんか喜んでるよ?」
 「やっぱそうだなー」
 「にゃー」

 どうにも困った。

 「それにしてもよ、どうにもワンパターンで飽きるよな?」
 「そうだよね」
 「にゃ!」
 
 髪が一斉に止まった。
 何か引っ掛けたようだ。

 「夜中に起こされてよ。今更「ヒモダンス」もねぇだろう」
 「だよねー。迷惑だよねー」

 響子もノッて来る。

 「響子の髪だったら、もっと面白いことやるもんな?」
 「そりゃそうだよ!」
 「まさか、こんなもので俺を起こしたりしないよなぁ」
 「もちろんだよ!」

 亜紀ちゃんの髪がザワザワしている。

 「タカトラの髪だってスゴイよね!」
 「おう!」
 「あれって、もうアートだもんね!」
 「おうよ!」

 亜紀ちゃんの髪が後ろに戻って小さくまとまった。

 「お、なんかこいつ、恥ずかしがってるぞ?」
 「ワハハハハハハハ!」
 「なんか、田舎から自慢げに出て来た小娘って感じだよな!」
 「わたし、ニューヨーカーだからね!」
 「あ、俺はハマっ子!」
 「「ワハハハハハハハハ!」」
 「ニャハハハハ!」

 足立区生まれが悪いわけではないのだが。
 亜紀ちゃんの髪が背中で細くまとまっていく。

 「やーい、あだちっ子ぉー!」
 「ニューヨーカーに見せないでね!」

 なんか悔しそうにプルプル震えていた。

 「じゃあ、寝るか」
 「そうだね!」

 ちょっと眠気が覚めたので、響子とイチャイチャしてから眠った。
 床屋の夢を見た。
 俺がやめろと言っているのに、無理矢理パーマを掛けられそうになって慌てた。





 朝になって、起きようとすると、頭が押さえつけられた。
 亜紀ちゃんの髪が俺と響子の髪に絡みついていた。

 「なんだぁ!」
 「タカトラ! 引っ張らないでぇ!」

 亜紀ちゃんも目を覚ます。

 「なに!」

 六花も起きた。

 「みなさん、何をやってるんですか?」
 「いいからほどいてくれ!」
 「え?」

 六花がほどこうとするが、なかなか難しいようだった。

 「いっそ切りますか」
 「やめてください!」

 亜紀ちゃんが泣き出す。

 「こいつの不気味な髪を付けてたくねぇ!」

 亜紀ちゃんが俺を見て、ますます大きな涙を流す。
 
 「お前のせいなんだぁ!」
 「えぇ!」

 夕べ、響子と見たことを話してやる。

 「もうお前とは一緒に寝ない!」
 「タカさーん!」

 亜紀ちゃんが大泣きし、六花が頑張って全部解いた。

 



 その後、亜紀ちゃんは俺と寝る時には三つ編みにするようになった。
 一度鞭のようになって俺を引っぱたいた。

 響子が以前に買った鉄アレイを結んだ。
 今のところ、それは持ち上がっていない。
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