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「山の神」の育成 Ⅱ

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 俺は何かの波動を感じた。
 大きく、強い。
 突然、「ヒーちゃん」の額が光った。

 「あ!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。
 周囲に様々な動物が集まって来た。
 まだ、遠くからこちらへ走って来る音も聞こえる。

 「タカさん!」
 「落ち着け!」

 近い連中は30メートルほどしか離れていない。
 その向こうに、数百の動物、ムースなどの鹿、イノシシ、タヌキ、ウサギやリス、様々な鳥が猛禽類も小鳥もたくさんいる。
 こちらをジッと見ている。
 天敵もいるのだが、争う様子は無い。

 「ガォウゥゥゥゥーー!」

 「ヒーちゃん」が吠えた。
 動物たちが一斉に頭を下げて立ち去った。

 「おい……」
 「タカさん……」

 何が起きたのか分からなかった。
 「ヒーちゃん」が四つ足に戻り、亜紀ちゃんに顔をこすりつけていた。
 今の現象は、もしかして……

 「帰ろっか」
 「はい」

 二人で「ヒーちゃん」をポンポンして飛び去った。





 それから、亜紀ちゃんと時々「ヒーちゃん」の様子を見に行った。
 「ヒーちゃん」が縄張りにしていた山は、他のヒグマが姿を消し、動物たちが多くなっていった。
 木々の植生も豊富になっている気がする。
 「ヒーちゃん」は、会うたびに身体がでかくなっていった。
 今は4メートルも体長がある。
 でも、亜紀ちゃんには甘えモードでカワイイ。
 俺にも懐いている。
 「ヒーちゃん」と一緒に山を歩きながら、やはり以前とは違うのを確認した。
 山が確実に豊かになっている。

 「なんかいろいろ増えたなー」
 「そうですねー」


 ある日、「ヒーちゃん」を呼んで一緒に川で遊んでいると、鮭が「ヒーちゃん」の周りに群がって来た。

 ある日、「ヒーちゃん」と遊んだ後で見送っていると、「ヒーちゃん」の足跡に草が生えて行った。

 ある日、小鳥だらけになっている「ヒーちゃん」を見た。

 ある日、夜に行くと「ヒーちゃん」が光ってた。

 ある日、「ヒーちゃん」がナゾのダンスをしていた。

 「「……」」


 亜紀ちゃんと相談して、ソロンさんに来てもらうことにした。

 「ソロンさん。先日、額に白い「〇」のあるヒグマを見つけまして」
 「え、そうなの?」

 ソロンさんの反応が薄い。 
 やっぱ「〇」じゃだめかー。

 「時々行く山なんですけど、どうも動物が多くなった気がして」
 「そうなんだ」
 「反対に、その額に「〇」のヒグマ以外は、他の熊を見掛けないんですよ」
 「じゃあ、相当強い奴かな」
 
 うーん、ノリが悪い。

 「とにかく、ソロンさんに一度見てもらいたくて」
 「うん、いいよ。じゃあ、いつにしよう……」

 亜紀ちゃんがいきなりソロンさんを抱えてハンヴィに乗せた。
 俺らも結構忙しいのだ。

 「ちょ、ちょっと!」
 
 ブーン。

 山の麓でまた亜紀ちゃんがソロンさんを抱えて上った。
 「ヒーちゃん」の居場所は大体分かる。
 巣穴の近くでソロンさんを降ろし、中を覗いてみた。
 いた。

 呼ばなくても、亜紀ちゃんの臭いを捉えて、「ヒーちゃん」が巣穴から出てきた。

 「ガウ!」

 嬉しそうに走って来る。

 「危ないぞ!」

 ソロンさんが叫ぶが、もちろん大丈夫だ。
 「ヒーちゃん」が俺たちの前に来て、亜紀ちゃんに頭を撫でられる。

 「おい! 大丈夫なのか?」
 「結構私たちに慣れてるんですよ」
 「そうなの?」

 ソロンさんも落ち着いて「ヒーちゃん」を見た。

 「おお! これは!」

 ソロンさんがそっと近づいて、「ヒーちゃん」の額のマークを見た。

 「サークルかぁ!」
 「そうですね」

 俺が描いたのだが。

 「多分、凄い山の主だよ!」
 「そうなんですか!」
 「うん。俺は星のマークしか見たことなかったけどな。でも、この貫録は間違いないだろう」
 「はい!」

 亜紀ちゃんと戯れているのだが。
 どこの貫禄指しているのか。
 そのうち、「ヒーちゃん」が亜紀ちゃんを連れて林の中へ入って行った。

 「ヒーちゃん、どこ行くの?」

 俺たちも後を追った。

 「ヒーちゃん?」
 「ガウ!」
 
 「ヒーちゃん」が後ろを振り向きながら亜紀ちゃんに追わせる。
 亜紀ちゃんも笑いながら追いかけた。
 俺とソロンさんも後ろを歩く。

 「ガウ」
 「なーに? おしまい?」

 「ヒーちゃん」が止まった。
 俺たちも追いついた。

 「こ、これは!」

 ソロンさんが「ヒーちゃん」の後ろの地面を指さす。

 「キングボレテじゃねぇか!」
 「なんです?」
 「一番美味いキノコだよぉ! それもこんなに群生してるなんてよぉ!」
 
 俺たちも見た。
 相当な量がありそうだ。

 「香りが高くてな、それで味も濃厚なんだよ」
 「そうなんですか」

 俺も亜紀ちゃんも知らない。
 俺はハマーから70リットルのゴミ袋を何枚か持ってきた。
 みんなでキングボレテを集める。

 「採る前に必ずキャップをはたいて胞子を落としてからな!」
 「「はい!」」

 そうすることで、また豊かに生えてくるのだと言う。
 5袋も採れて、俺たちは帰ることにした。

 「優しい山の主だな!」
 「そうですか」
 「人間に山の恵みを分けてくれるなんてよ。ああいうのは滅多にいないよ」
 「へぇー」
 「お嬢さんに随分と懐いてんなぁ」
 「「アハハハハハハハ!」」

 笑って誤魔化した。
 人工山の主なのだが。

 キングボテレは凄まじい美味さだった。
 栞の家でみんなで食べてみたが、栞も桜花たちも感動していた。
 ポルチーニ茸に似ていると聞いていたが、遙かに香りも旨味も濃い。
 天ぷらにすると絶品の美味さだ。
 もちろん素焼きにしたりシチューにも入れた。
 士王も興奮して食べていた。
 なかなか舌が肥えて来た。

 「ヒーちゃんのお陰ですね!」
 「そうだな!」

 「ヒーちゃんって、誰?」

 栞に聞かれた。
 俺たちが作った山の主だと話すと、栞や桜花たちが爆笑した。

 「あなたたちって、本当に何をやってるの!」
 「そりゃ詫びのつもりだったんだけどよ。思わぬ方向になぁ」
 「いつもそうだよね!」
 「お前だってなぁ!」

 楽しく食事をして帰った。




 「タカさん」
 「あんだ?」
 「ブリーチって、どれくらいもつんですかね」
 「あ、しらねー」
 
 時々様子を見に行っているが、「ヒーちゃん」の額には、しっかりと「〇」がある。

 後日、ワキンが来て、俺と亜紀ちゃんに「山の主を育成せし者」という称号があると言われた。
 「山の主殺し」の方は消えてないそうだ。
 へぇー。
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