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トラトラちゃん

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 「ニャ!(あ、忘れてた!)」

 ぽこぽこぽこ

 「うーん、なんだよ、ロボ」
 「ニャーニャーニャー(タマから言われてたの)」
 「なんだ?」
 「ニャーニャーニャー(こんど、トラになるんだって)」
 「おい、寝かせてくれよ」
 「ニャーニャーニャー(ちゃんと言ったからね)」
 「よしよし」
 「ニャ(おやすみー)」





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 夜中にロボが突然、俺の頭を叩いて起こしてきた。
 何か俺に訴えようとしていたようだが、何も分からん。
 鳴くだけ鳴いて、ロボはまた寝た。

 「あ!」

 思い出した。
 前にこうやってロボが俺に一生懸命に訴えていた後で、俺はちびトラちゃんやでぶトラちゃんになったのだ。

 「タマ!」
 「どうした、主」

 すぐにタマがベッド脇に立った。

 「おい、また俺の身体が変わるのか!」
 「今、ロボが言った通りだ」
 「だから、俺にはロボの言葉は分からないんだってぇ!」
 「ああ、そうだったな」
 「てめぇ!」

 タマは動じない。

 「次は虎だ」
 「あ?」
 「ああ、もう変わるぞ」
 「おい!」

 瞬間に意識を喪った。
 おい……
 遅ぇって……





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「タカさーん! ご飯ができましたよー!」
 「タカさーん、パンツ履いて下さいよー!」

 双子がドアを開けながら叫んでいた。
 俺は薄く目を開けて見た。
 

 「「アァっ!」」


 二人が驚いて構える。
 俺も咄嗟に戦闘態勢を取ろうとした。
 取れなかった。

 「何で虎が!」
 「レイなの?」

 「ガウ(おい、どうした?)……!……」

 自分の声に自分で驚いた。

 双子は構えてはいるが、動こうとはしない。
 俺は自分の身体を見た。

 「ガオォー!(なんじゃ、こりゃぁ!)」

 虎だった。
 響子と六花も目を覚まし、その瞬間に驚いている。
 ロボはふつー。

 「なに!」
 「タカトラ!」

 響子が俺に抱き着いた。

 「響子ちゃん! 離れて!」
 「違うよ! これ、タカトラだよ!」
 「「「エェ!」」」

 「ガウ(そうだ!)」

 六花と双子が驚いていた。
 
 「響子ちゃん、ほんとに?」
 「うん。レイもそう言ってる」
 「ほんとなんだ!」

 双子が俺の身体を見て、手をかざして確認している。
 
 「確かに、真っ赤な火柱の中にいるよ!」
 「本当にタカさんなんだ!」
 「ガウ(おう)」

 響子が俺に抱き着き、俺も響子をペロペロしてやった。
 六花は俺の下半身のチェックをしている。
 六花は俺の「オチンチン係」だ。
 ちびトラちゃんの時にも、真っ先にチェックされた。

 「おっきいですね」
 「がう(うん)」

 双子が絡まったパジャマを脱がしてくれ、俺は床に立った。
 体長は3メートルもありそうだ。
 尾を入れると4メートル半。
 随分とでかい。
 
 「ガウ(響子、乗ってみろ)」
 
 響子を見て、尾で背中を叩いた。
 
 「え、乗っていいの?」
 「ガウ(おお)」

 響子がそっと俺の背に跨った。
 ゆっくりと部屋を歩くと、響子が喜んだ。
 俺も何だか、凄く楽しかった。
 なんなんだ。

 「タカトラ! スゴイよ!」
 「ガハハハハ(ガハハハハ)」

 虎になっても笑えることが分かった。
 ロボにも乗れと言うと、ロボが嬉しそうに飛び乗って背中で伸びた。
 俺の首筋をペロペロしてくれる。

 双子が先に降りて、みんなに知らせに言った。
 俺たちも下へ降りる。
 階段がちょっと不安だったが、すぐに慣れた。
 身体能力は高そうだ。

 リヴィングに降りると、全員が俺を見ていた。
 今朝到着した柳もいる。

 「ガウ(おはようさん)」
 「「「「タカさん!」」」」
 「石神さん!」

 腹は減っているのだが、どうやって食事をすればいいのか。
 ロボが自分のご飯を食べていた。
 古伊万里の大皿だ。

 「ガウ(俺にもあんなので寄越せ)」

 「タカさん、お食事はどうしますか?」
 「ガウ(だからアレだよ)」
 
 ロボを前足で示した。

 「ああ!」

 亜紀ちゃんがウェッジウッドのボーンチャイナの大皿を持ってきて、目玉焼きとサラダを入れた。

 「……」
 「あれ? 食べないんですか?」

 どうも喰いたくない。
 キッチンの冷蔵庫へ行った。
 前足で開いて中身を見る。

 「ガウ(肉だ)」

 前足ででかい肉の塊を叩いた。

 「ああ、お肉ですか!」
 「ガウ(2キロくれ)」

 亜紀ちゃんが肉を切った。
 随分とでかい。
 5キロくらいありそうだ。
 俺の身体の大きさから判断したか。
 
 塩コショウを振ろうとしていたので、俺が亜紀ちゃんの足を叩き、前足を横に振った。

 「ああ! 虎ですもんね!」
 「ガウ(そういうことだ)」

 亜紀ちゃんが生肉を皿に入れてくれた。

 くちゅ

 ナマじゃ食えなかった。

 「ガウ(焼いて)」

 コンロを前足で叩いた。
 亜紀ちゃんが不思議そうな顔で、皿の肉をまたちゃんと焼いてくれた。

 くちゅ

 味気ない。

 「……」

 亜紀ちゃんの足に頭突きして、キッチンに連れて行った。

 「ガウ(ちょっと塩コショウを頼む)」

 亜紀ちゃんに、前足で肉の上で円を描いた。

 「やっぱ味があった方がいいんじゃないですか!」
 
 頭を立てに振った。
 亜紀ちゃんが塩コショウを持ってきて振りかけてくれた。

 「いっぱい食べるんでちゅよー」

 俺の頭を撫でる。

 「ガウ(うるせぇ)」

 ガツガツと食べた。
 5キロでも全然喰えた。

 「命名! トラトラちゃん!」
 「ガウ!(おい!)」

 亜紀ちゃんが俺に抱き着いて全身を撫でた。
 みんなが笑っていた。




 さて、どうしたものかと思っていたが、まあ以前のように一定の時間が来れば元に戻るのだろう。
 ウッドデッキに行って、ロボと寝そべった。
 
 「ガウ!(タマ!)」
 「なんだ、主」
 「ガウ!(俺はいつ元に戻るんだ?)」
 「今日の夜10時といったところだな」
 「ガウ(分かった、行っていいぞ)」

 タマが消え、ロボが俺の毛づくろいを始めた。
 なんか気持ちよかった。
 子どもたちが何事も無かったように別荘の掃除をし、早目に終わった柳が庭に鍛錬に出てきた。

 俺は暇なので柳に突進した。

 「キャァー!」

 柳がぶっ飛ぶ。

 「何すんですか、トラトラちゃん!」
 「ガウ!(ちょっとやろうぜ!)」

 柳にまた襲い掛かる。
 柳は俺の前足の攻撃を腕で払い、俺は身体をひねって後ろ足で柳の側頭部に蹴りを入れた。
 柳も楽しそうな顔になり、俺も自分の身体の扱いがどんどん分かって来た。
 
 「トラトラちゃん! スゴイね!」
 「ガハハハハ!(ガハハハハ!)」

 しばらく二人で組手(?)をした。
 ウッドデッキに戻り、喉が渇いたことに気付いた。
 前足で床を叩く。

 「ガウ!(柳、水!)」
 「なーに、トラトラちゃん?」

 柳がやって来て叩いたところへ座り、俺の頭を抱き締めた。

 「ガウ!(違ぇ! 水だぁ!)」
 「よちよち」
 「ガウ!(てめぇ!)」

 柳をぶっ飛ばす。
 亜紀ちゃんがボールに冷水を入れて持ってきた。
 氷も入っている。
 
 「トラトラちゃん、喉が渇いたでしょう」
 「ガウ(よくぞ気付いたぁ!)」

 亜紀ちゃんの足にすり寄った。
 ちょっと戻って柳にキックを入れた。

 「いったーい!」

 冷たい水をガブガブ飲んだ。
 ロボもちょっと飲みに来る。
 
 六花が吹雪を抱いて来た。
 尾で背中を叩く。
 吹雪を乗せて庭を歩き回った。
 吹雪が大喜びだ。
 響子を吹雪の後ろに乗せる。
 全然平気だった。
 乗せて歩くと、なんだか楽しい。
 庭を歩いて、また冷たい水を飲んだ。

 「トラトラちゃんのトイレはどうしましょうかねー」

 俺は庭の隅に行き、しゃがんだ。

 「はい、そこですねー!」
 「ガウ!(おう!)」

 皇紀が昨日のテーブルに使ったコンパネなどをはがして、簡易的な目隠しを作ってくれた。

 「ガウ(ご苦労さん)」

 肩を叩いてやると皇紀が笑った。
 亜紀ちゃんが、ロボおもちゃのたわしを俺の前に投げた。

 「ガウ!(あんだよ!)」

 ロボが飛びついた。
 俺にはたいて来る。

 ぽん

 ロボに前足で返した。
 ロボが夢中で両前足ではたきながら、また俺にパスする。
 
 ぽん

 段々楽しくなってきた。
 ロボと夢中で奪い合って遊んだ。

 「やっぱトラトラちゃんだー!」
 
 亜紀ちゃんと子どもたちが大笑いしていた。

 「……」
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