上 下
2,254 / 2,806

《ハイヴ》襲撃 Ⅳ

しおりを挟む
 夕飯はトンカツにした。
 双子が、虎白さんたちの験担ぎをしたかったようだ。
 もちろんみんなでそうしようと言った。

 俺は脂身が嫌いなので、ヒレカツだ。
 他の子どもたちも自然とそっちが好きになった。
 響子には薄めに作り、小麦粉にパセリやオレガノなどの香辛料を少し混ぜる。
 ラードを精製した油で揚げるので、非常に香ばしい。
 皇紀がラードの精製を担当し、亜紀ちゃんが肉のカットと下味、ルーが卵黄と衣、ハーがひたすらに揚げていく。
 揚がったものは、一度オーブンで更に加熱しながら余分な油を落としていく。
 そうすることで、表面がカリッといい感じに仕上がる。
 六花はロボと一緒に見ているだけ。

 吹雪は響子と同じく薄いカツレツを嬉しそうに食べていた。

 「吹雪、美味しいか?」
 「はい!」
 「響子、美味しいか?」
 「うん!」
 「お前はもっとちゃんとどう美味いのか説明しろ!」
 「もう!」

 ソースは中濃、ウスター、みぞれポン酢、レモン塩、その他いろいろ作っている。
 キャベツの千切りも大量にあり、子どもたちに無理矢理食わせる。
 味噌汁はシジミの赤味噌だ。

 子どもたちは大量のカツレツをどんどん食べて行く。
 もちろん牛カツも大量にある。
 揚げたてが美味いので、途中で俺が揚げて行く。
 俺は人間なので、数枚食べればもういい。
 子どもたちがニコニコしながら、俺が用意するのを見ていた。

 「昔に戻ったみたいですね!」
 「そんなに前じゃねぇ!」
 
 みんなが笑っていた。
 ロボは牛カツが好きで、衣の量を少し減らしたものを食べて喜んでいた。
 デザートにミントチョコレートのジェラートをみんなで食べた。
 
 庭で花火を少しやり、みんなでゆっくり風呂に入った。
 
 響子と吹雪は、ロボと一緒に先に寝かせる。
 他の人間は「Ωコンバットスーツ」を着ている。
 リヴィングに集まった。
 皇紀が80インチのディスプレイを用意し、皇紀通信の機械と接続している。
 今日は酒を飲まない。
 双子がコーヒーを淹れ、クッキーを配った。

 いつ、虎白さんたちの所へ飛んで行かなければならないこともあるからだ。
 万一を考え、蓮花にも「武神」の出動もあり得ると言っている。
 「虎」の軍としても、重要な作戦だ。
 初の《ハイヴ》攻撃は、どのような展開を見せるのか分からない。

 状況は現地のデュールゲリエたちの映像でリアルタイムに観れる。
 虎白さんたちは、今晩0時に出発する。
 時差の関係で、現地には昼の12時過ぎの到着予定だ。
 作戦を昼間に設定したのは、敵の未知の要因があるためだ。
 明るい時間に作戦を遂行した方が、少しでも安全だと考えた。

 0時になった。
 10分後、「タイガーファング」が現地に到着し、虎白さんたちを降ろして飛び立った。

 「いよいよですね」

 亜紀ちゃんが真剣な眼差しでディスプレイを見ている。
 虎白さんたちは「黒笛」と「レーヴァテイン」を腰に差している。
 デュールゲリエたちによる攻撃が始まり、広大な建物がどんどん崩れていく。
 周辺3キロに亘っても攻撃が拡がっている。
 防衛しているライカンスロープや妖魔を殲滅するためだ。

 やがて《ヨルムンガンド》が来て、空爆を開始した。
 凄まじい爆撃で、建物の地下が超高熱で崩壊していくのが分かる。
 ここまでは順調だ。
 
 《ウラールⅡ》が来て、周囲の観測をしている。
 異常な反応は無い。

 「このまま終わりますかね?」
 「分からん」

 俺はそうではないと感じていた。
 「シャンゴ」の攻撃は敵も予想外だったろうが、最重要拠点であるはずの《ハイヴ》が簡単に落とせるわけはないと思っていた。
 それに俺の戦場の勘だ。
 恐らく、聖も虎白さんたちも感じているだろう。

 〈《ハイヴ》破壊 地下10キロ〉

 ディスプレイに表示が出た。

 「少ないですね」

 皇紀が呟く。
 その通りだった。
 俺たちの計算では、20キロ近くに及んでいるはずだった。
 それは、「何か」が攻撃を凌いでいたことを示している。
 俺は聖に通信した。

 「聖!」
 「トラ、さっき虎白さんに呼ばれた! トラにも知らせようとしていたところだ」
 「そうか! 嫌な予感だ」
 「俺もだ! 多分虎白さんたちも感じて俺を呼んだんだろう」
 「「シャンゴ」の攻撃が半分しか届いてねぇ。何かいるぞ」
 「おう!」

 拠点防衛装備のデュールゲリエ1000体が来た。
 万一の場合は虎白さんたちの撤退を援護する者たちだ。
 20万体の「スズメバチ」が上昇する。
 
 アラスカから連絡が入る。

 「タイガー! 《ヨルムンガンド》の第二波を送るか?」
 「いや、必要ない。「シャンゴ」が通じない相手のようだ」
 「なんだと!」

 ターナー少将が驚いている。
 それはそうだろう。
 「シャンゴ」は核を超える、人類最強の爆弾だったはずだ。
 プラズマの超高熱が、全ての物質を蒸発させるはずだった。
 広範囲を焦土に変えることも出来るが、今回は指向性を持たせて地下へ超高熱が向かうようにしていた。
 
 それが防がれたようだ。
 どのような方法かは、皆目分からない。
 
 まだ何も起きてはいない。
 《ハイヴ》の底では、まだプラズマの嵐が巻き起こり、数億度の温度のままのようだ。

 「皇紀、《ウラールⅡ》に連絡。耐熱の観測機を降下させろ」
 「はい!」

 皇紀がすぐに通信し、《ウラールⅡ》が《ハイヴ》の直上に来て、球形の観測機を落とした。
 自由落下で落ちて行く。
 
 「観測機、消滅!」
 「何があった!」
 「分かりません! 突然機能を停止しました!」
 「高熱のせいじゃないな?」
 「最後の計測値は外気温2000度です! 全然能力に余裕がありました!」

 攻撃の瞬間の映像や感知したセンサーは無い。
 ただ、突然に機能停止をしたのだ。
 分からないが、攻撃されたのは確かだろう。
 猛烈に嫌な予感がした。

 「俺は現地に向かう!」
 「タカさん、私も行きます!」
 「ダメだ! お前たちはここに残って、俺の指示を待て!」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが泣きそうな顔をした。
 亜紀ちゃんにも尋常ではない予感があるのだろう。

 「心配するな。俺と聖、虎白さんたちがいるんだ。何が起きても大丈夫だ」
 「……」

 亜紀ちゃんの頭を撫でて、待つように言った。
 俺は「虎王」を左右に挿して飛んだ。

 



 そして、アイツが現われた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...