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《ハイヴ》襲撃 Ⅱ

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 5月3日。
 虎白さんから連絡があった。

 「おう、今晩出発するからな!」
 「はい、宜しくお願いします」

 虎白さんたちはブラジルで発見された《ハイヴ》に向かう。

 「念のために聞くが、手順に変更はねぇな?」
 「はい。以前にお話しした通りにお願いします」
 「おう」
 「一つだけ、当主として言わせていただいていいですか?」
 「聞こう」
 「前に言った通り、無理はしないで危険な場合は撤退して下さい」
 「ああ、聞いたよ」

 虎白さんは普通に答えている。
 それは、撤退すると約束してないことを示していた。

 「これは当主としての命令だぁ! 絶対に無理をせずに、全員無事で戻って来い!」
 「はい!」

 「おし!」

 虎白さんが電話の向こうで笑っていた。

 「高虎、お前もすっかり当主らしくなったな」
 「いいえ、そんな」
 「おい」
 「はい!」

 「帰ったら口の利き方を教えてやる」
 「!」

 電話が切れた。
 怖ぇよー!





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 山頂に集まり、40名の剣士が高虎の寄越した「タイガーファング」に乗り込む。
 いつもはどこへ行くにも着物と袴だ。
 しかし、今回は高虎が用意したコンバットスーツを全員が着ている。
 妖魔の攻撃にもある程度有効なものだそうだ。
 まあ、実を言えば着る物なんぞ、何でもいい。
 昔から鍛錬を着物と袴でやってるから、という理由だけだ。
 それに、剣を吊れること。
 そういうベルトも高虎が用意してくれているから、何も文句はない。

 俺を含めた剣聖が5人と、他はほとんど若い連中だった。
 戦場の経験の無い者も多い。
 5人の剣聖が7人ずつまとめて行動する。
 俺たちは基本的に「個」の集団だ。
 各々が独自に判断して行動する。

 それでも集団戦が強いのは、各自が全体を考えながら動くからだ。
 スポーツのような、軍隊のような整然としたチームプレイは出来ないかもしれない。
 でも、それが必要と考えれば、自然にそうなる。
 まあ、指示を出す人間がいないと難しいが、俺たちはそうやって戦ってきた。

 統括された「集団」の動きはもちろん強い。
 しかし、本当にそれが最強だったのなら、石神家もそうなっていただろう。
 俺たちは別に、外で言われているような「個」の能力の引き上げを目指してきたのではない。
 石神家が最強であるように、鍛錬してきただけだ。
 それは、剣聖、剣士、そして剣士見習いの連中の鍛錬と状況判断の能力を養っているだけなのだ。
 
 20分後、「タイガーファング」はマナウス北部のアマゾンのジャングルに着いた。
 俺たちが着陸する場所は、直前にデュールゲリエが「虚震花」で森林を爆破して整地した。
 地上に降りて、すぐに全員が降機、30キロ先の《ハイヴ》に向かう。
 すぐに、前方でデュールゲリエたちの《ハイヴ》空爆が始まった。

 高虎の立てた作戦だが、単純にして素早い。
 俺たちのリズムだ。
 一切の停滞なく、作戦が進行して行く。
 単純なので、誰も戸惑わないし、話もしない。
 全員が《ハイヴ》に向かって走る。
 みんな笑っている。
 虎蘭が俺の隣に来たが、獰猛な笑みを浮かべている。
 頼もしい奴だ。

 《ハイヴ》が近づくにつれ、空爆の振動が伝わって来た。
 高虎はデュールゲリエたちに最大の威力殲滅戦の装備だと言っていた。
 防御力の高い要塞の攻略を目的とした高威力の兵装になっている。
 「イーヴァ」による「ブリューナク」や「ヴァジュラ」といった「花岡」の上級技。

 「虎」の軍の爆撃機《ヨルムンガント》が来た。
 全長1000メートルの超巨大爆撃機で、積載する兵器によっては一国を焦土に出来るらしい。
 《ヨルムンガント》は、「シャンゴ」を投下していった。
 広範囲にプラズマを発生させる「シャンゴ」は、数フロアを数億度の熱の中で蒸発させていく。
 どのような堅固な要塞であっても、あの超高熱には耐えられない。
 まして、生物が生きていられるはずもない。
 
 俺たちが降下して20分。
 すでに《ハイヴ》まで15キロ地点に来ていた。
 急激な温度上昇のために、ハリケーンが生じている。
 暴風の中で、俺たちは足を止めた。

 「虎白!」
 
 虎月が叫んだ。
 分かっている。
 前方1キロ先に、ピラータイプと呼ばれる巨大な柱のライカンスロープがいた。
 高虎から聞いているし、配備されているだろうことも分かっていた。
 高出力の熱線を発する奴らだ。
 まだここまでは射程外だが、一体ではない。
 50メートルおきに、《ハイヴ》の周辺を囲っているようだ。

 「虎蘭、お前がやれ」
 「はい!」

 熱帯のジャングルの中を走って来たが、虎蘭は息も乱していない。
 若い剣士の中では、やはり突出している。
 
 虎蘭は「黒笛」を抜き、前方のピラータイプを両断した。
 1キロも刃を伸ばしての攻撃だ。

 「やりました!」

 俺がぶっ飛ばす。

 「ばかやろう! 誰がタイマンしろって言ったんだぁ!」
 「!」

 虎月にやらせた。
 「黒笛」を三十キロに伸ばして、「連山」を撃ち込んだ。
 ジャングルがなぎ倒され、ピラータイプは粉々に斬り裂かれた。
 刃を網状にしていたのだ。

 「虎月さん!」
 「虎蘭、戦場ではちゃんと考えろ。これは鍛錬じゃねぇ。敵を殲滅するものだ」
 「はい!」

 まあ、それを分からせるために虎蘭に失敗させたのだが。
 しかし、俺たち剣聖であっても、ピラータイプと初めて接敵していたら全滅していたかもしれない。
 《ヨルムンガント》が使った「シャンゴ」と同様に、周囲を数千度まで上昇させる攻撃は、逃げようがない。

 最初に敵対したのは羽入と紅だったと聞く。
 よくも凌ぎ切ったものだ。
 高虎は愛の奇跡だと言ってやがった。
 まあ、そういうこともあるだろうよ。

 虎月の攻撃で、《ハイヴ》周辺の敵はほとんど死んだはずだ。
 本丸の周辺に親玉がいるはずもない。
 俺たちは空爆が収まるのを待った。
 30分は攻撃が続けられるはずなので、食事をした。
 蒸し暑いジャングルの中で、持って来た握り飯と漬物を食べる。
 
 やがて空爆も終わり、俺たちは《ハイヴ》に向かった。
 「シャンゴ」の指向性の爆破により、直径500メートル、深さ10キロに及ぶ巨大な縦穴が出来上がっていた。
 穴の内部はまだ高熱の嵐が吹き荒れている。
 上から見下ろしても、まだ暗赤色に輝く高熱を帯びた部分があり、深くなるほどそれは輝いて行く。
 底はまだ白熱している。
 相当な高温のままなのだ。

 「こりゃ降りるのは無理だな」
 「どうするよ」

 他の剣聖が俺の言葉を待っている。
 
 「虎真! 「虎」の軍から何か入ってるか?」
 「はい! 穴の底に未知の存在がいる可能性があると!」
 「分かった!」

 俺はもう一度穴を見下ろした。

 「いるな」
 「ああ」

 剣聖たちには分かる。
 目視ではない。
 戦場の勘だ。
 あの数億度の高熱の地下に、恐ろしい敵がいる。

 「虎真! 聖を呼べ!」
 「分かりました!」
 「虎白、俺たちだけじゃ無理か?」
 「こいつはやべぇ。多分、一瞬で俺らは消えるぜ」
 「!」

 剣聖たちが急いで若い剣士をまとめた。
 聖が飛んできた。

 「虎白さん!」
 「おう! どうもでかい奴が来そうでよ」
 「そうだな」
 
 聖も感じていた。
 流石の男だ。
 
 「トラに連絡しておく」
 「おう」

 聖に任せた。
 聖が高虎も必要だと感じたのだ。



 俺たちは、その時を待った。
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