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柳の才能

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 少し遡って、4月の中旬。
 俺が7時頃に夕飯を食べていると、亜紀ちゃんが話し掛けて来た。
 ニコニコしながら、本能的に俺の唐揚げを喰おうとするので頭を引っぱたいた。
 双子と柳はコーヒーを飲んでいる。
 皇紀は部屋だ。

 「タカさん、今日、心理学の講義で催眠術を見たんですよ!」
 「ほう」
 
 亜紀ちゃんがちょっと興奮している。
 有名な催眠術師を呼んで、目の前で実演されたそうだ。

 「希望者を催眠術に掛けて行くんですけど、5人。動物になるって言われたら、みんな本当に動物の真似を始めて!」
 「へぇ、すごいな」

 実力のある催眠術師は確かにいる。
 まあ、相手によって暗示に掛かりやすい人間もいれば、掛からない人間もいるのだが。

 「「あなたは小鳥です」って言われたら、女子生徒が両手をパタパタやって! 「鷲が来ました」って言われたら、慌てて逃げるんですよ!」
 「アハハハハハ!」

 柳も来た。

 「あ、それ! 私も去年見た!」
 「そうなんですか!」

 柳も同じ講義を受けたことがあるらしい。

 「あれ、スゴイよね!」
 「そうですよね!」

 恐らく、講義の人気が欲しくてそういうことをやっているのだろう。
 講義では、その催眠術師が暗示の掛け方も教えていたそうだ。
 亜紀ちゃんがルーを呼んで、実演してみせる。
 椅子に座らせ、目を閉じさせて背中から両肩に手を置く。

 「私が3つ数えると、あなたはー、小鳥になりますー」

 ルーが面白がってニコニコして目を閉じている。

 「はい、3,2,1! あなたは小鳥です」

 ルーがニコニコ顔のままで立ち上がって、両手をパタパタした。
 ノリの良い石神家だ。
 ロボも楽しそうに見ている。

 「「「「アハハハハハ!」」」」
 「ニャー!」

 みんなで笑った。

 「ほら、柳さんも!」
 「うん!」

 柳もノッて、ハーに暗示をかける。

 「3つ数えると、あなたはー、イモムシになりますー」

 ハーが目を閉じて聞いている。
 柳は肩に置いた手を、優しく撫でるように動かした。

 「さあ、3,2,1」

 柳が手を叩いた。
 ハーが突然床に倒れて、身体を動かし始めた。
 イモムシだ。

 「「「「アハハハハハハハ!」」」」

 みんなで笑った。
 ハーは笑わない。

 「「「「?」」」」

 ハーはそのままだ。

 「ハー? もういいよ?」

 もぞもぞ

 「ハー?」

 亜紀ちゃんが戸惑っている。
 ルーがハーに駆け寄った。

 「ハー、もういいって!」

 もぞもぞ

 「柳さん!」
 「えぇー!」

 本当に掛かってしまったらしい。
 ルーがレタスを千切って口に持って行くと、生のままむしゃむしゃ食べた。

 「亜紀ちゃん!」
 「早くハーを戻してぇー!」
 「う、うん!」

 柳が必死な顔になってハーの頭に手を置いた。

 「み、3つ数えると人間に戻ります。はい、3,2,1!」

 柳が手を叩いた。

 「アレ?」

 ハーが床で目を丸くしていた。

 「「「「ハー!」」」」
 「なによ!」

 驚いた。
 ハーに柳が泣きながら謝った。
 ハーも他の子どもたちも、みんな驚いていた。

 「本当に暗示が掛かったな!」
 「柳さん、スゴイですよ!」
 「戻ってよかったぁー!」
 「口がレタスだよー」
 「にゃー!」

 少し怖がっていたが、元にちゃんと戻ることが分かって、今度は楽しみ始めた。
 柳がみんなに言われて、亜紀ちゃんをゴリラにした。

 ウォッホッホッホッホ!

 胸をバンバン叩いた。
 ルーがバナナを持って行くと、皮を剥かずに食べた。

 みんなで笑った。

 「ルーをドゥカティにして下さいよ!」
 「おい、そういうのは無理だろう」
 「やってみましょうか!」

 やった。
 みんなが俺にルーに跨るように言い、エンジンを掛けた。
 
 ドルルルルルン!

 掛かった。
 ルーの頭を持って、走ってみた。
 ルーが手足をバタバタさせて左右に移動する。

 「「「「ワハハハハハハハ!」」」」

 楽しかった。

 「ねえ、皇紀も呼びましょうよ!」
 
 ハーが呼びに行く。
 
 「なに?」
 「いいから座って!」

 「ドローンにしてみよう!」
 「そういうのは無理だろう?」
 「タカさん、見てみましょうよ!」
 
 ハーが言った。
 柳が暗示を掛ける。

 皇紀が床に両手を拡げた。

 ブルゥゥゥン

 なんか擬音を発した。
 空中に浮かび上がる。
 
 「前!」
 「左!」

 声で操縦出来た。
 まあ、個人の認識によるのだろうが、本人のイメージでなりきるようだ。
 「花岡」の飛行が出来ない奴は、別な感じになるのだろう。

 「柳さん! スゴイですってぇ!」
 「エヘヘヘヘヘ!」
 「柳ちゃん、天才だね!」
 「ほんとスゴイよね!」
 
 皇紀が壁に激突して落ちた。
 みんなで笑った。

 みんな、柳の意外な才能を知った。
 その後、ルーが皇紀になり、いきなりオナニーを始めようとしたので慌ててみんなで止めた。
 亜紀ちゃんが今度はティラノサウルスになり、家が破壊されかけたので俺がぶん殴って止めた。

 「アタタタタタ、タカさんもやってみましょうよ!」
 「俺はいいよ!」
 「そんなこと言わずに!」

 まあ、ノリの石神家としてはここでイモを引くわけには行かない。
 俺は椅子に座って目を閉じた。

 「柳さん! タカさんを斎藤さんにしましょうよ!」
 「あ、いいね!」

 「3つ数えるとあなたは斎藤さんになります。はい、3,2,1!」

 手を叩く音が聴こえた。

 「えーと、斎藤です」
 「アレ?」
 「小学生が好きです」
 「タカさん!」
 「うーん」

 俺には掛からなかった。
 
 「なんかつまんないですね」
 「おい!」
 「今晩やっとと思ったのにー!」
 「こら!」

 ロボにも掛けた。
 ロボも石神家だ。

 「3つ数えると、何をされても怒れなくなります。はい、3,2,1!」
 「にゃう」

 柳がロボの顔にピンポン球をぶつけた。

 コツン

 「フッシャァァァァー!」

 「冥界漆黒レインボーボンバーキック」を喰らって柳がぶっとんだ。

 「なんでぇー!」

 俺とロボには掛からないようだった。






 柳は「花岡」の鍛錬の他、催眠術を本格的に始めた。
 自分でいろいろ調べ、高名な催眠術師に指導も受けた。
 まあ、趣味の範囲でだが、柳が楽しそうなので自由にさせた。
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