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新人ナースのマンション Ⅱ

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 「そういう部屋だったんです」
 「あのさ、それってヤバい部屋なんじゃないのか?」
 
 俺は話を聞いて、嫌な予感がした。
 赤城が泣きそうな顔で俺を見た。

 「そうなんですよ! 本当にコワイ部屋なんです!」

 また話を聞いた。

 最初に気付いたのは入居して1週間くらいらしい。
 うちの病院で研修が始まり、毎日クタクタになって帰って来る。
 簡単に食事をして、風呂に入ってすぐに眠るという毎日だった。

 その日も風呂に入っていた。
 金曜日の夜で、病院は二日間休みだ。
 初めての休日で、疲れてはいたがリラックスして湯船に浸かっていた。

 トントン

 風呂場のドアが叩かれた。

 「!」

 誰か侵入者なのか!
 湯船で硬直していると、ガラス戸に人影が映った。
 真っ赤なワンピースを着た女性だった。

 「誰!」

 女性だったので、赤城は勇気を奮ってドアを思い切り開けた。
 誰もいなかった。
 ただ、脱衣所の床がびっしょりと濡れていた。

 「なにこれ!」

 誰もいないだけだったら、気のせいにも出来たかもしれない。
 しかし、覚えのない水たまりが出来ている。
 ほんのりと下水の臭いがしたそうだ。

 数日後の夜、ベッドで寝ていると誰かに揺り起こされた。

 「ノリちゃん」

 そう呼ばれた。
 疲れていたので、「ノリちゃんじゃないよー」と答えた。
 その瞬間に異常に気付いて目を開けた。
 誰もいなかった。

 「なにこれ!」
 
 そんなことが時々あった。
 その他にも老人の姿をリヴィングで見たし、窓の外に少年が立っていてジッと部屋を覗いていた。
 トイレに知らない中年の女性が座っていた……。

 不動産屋に電話をし、次の物件を早く探して欲しいと言った。

 「幽霊が出るんですよ、ここ!」
 「えぇ!」
 「だから大家さんも、あんなことを言ってたんですよ!」
 「!」

 しかし新規の物件はなかなか見つからない。
 そのうちに、部屋の中でどんどん見るようになった。
 
 一人じゃない!

 5人くらいいるような感じがした。
 また不動産屋に電話をし、これ以上は耐えられないと言った。

 「そうおっしゃられても、うちでは対処は出来ないですよ」
 「お願いします! あの、お祓いとか出来ないですか?」
 「うーん、そういう伝手も無いんで」

 大家さんに相談しようとも思ったが、最初から自分に貸したくなかったと言っていた。
 大家さんに非はないし、行き場が無く困っている自分に手を差し伸べてくれただけだ。
 これ以上迷惑を掛けられない。

 ほとほと困り果てて、今日俺に相談に来た、ということらしい。





 「内容は分かったけどな」
 「石神部長! なんとかなりませんか! 私、本当に!」
 
 赤城は必死だ。
 それはそうだろう。
 よく、そんなマンションの部屋で我慢して来たものだ。
 頼る人間もいなくて、どうにも絶望していただろう。
 可愛そうに。

 まあ、この病院で俺に相談したということはベストな選択だ。
 俺は霊能者ではないが、何度も幽霊を相手にしている。
 佐藤家、四谷の地下施設、その他にも幾つか。
 それに、妖魔相手に戦っている人間だ。
 何とかしてやりたい。
 まあ、麗星に頼めば何とかしてくれるだろう。

 「知り合いに結構な能力の霊能者がいるんだ。相談してみるよ」
 「ほんとですか! ありがとうございます!」

 俺は笑ってもっと喰えと言った。
 まだ最初の貝の味噌和えにしか口を付けていない。
 御造りが美味いと言い、食べさせた。
 そういえば、入って来た時よりも少し痩せているように見える。
 もともと細いが健康的な身体だったはずだ。
 今は可愛そうなほどにやつれている。

 「しばらく、そのマンションには住まない方がいいだろう。どこか俺が手配してやるから、そっちで生活しろよ」
 「ほんとうですか! それはありがたいのですが」
 「遠慮するな。ああ、家財道具なんかも揃えてやるから。うちには一杯あるからな」
 「!」
 「俺の家の近くになるけどな。お祓いが済むまでは、そっちで生活しろよ。ああ、不動産も伝手があるから、手配してやるよ」
 
 赤城が泣きそうな顔になった。

 「おい! なんだよ! もっと喰えって! お前、痩せただろう?」
 「はい、食欲もなくって。怖くて毎日……」
 「もっと早く言え! まったく!」
 
 赤城が泣きながら食べた。




 
 俺は麗星に電話し、お祓いの相談をした。

 「あなた様!」
 
 事情を話し、何かいい方法は無いかと聞いた。

 「恐らく、霊道が通っているようですね。御札を御送りします。東向きの壁にお貼り下さい」
 「ありがたい! 早速頼むぜ!」
 「はい、急ぎます!」

 天狼と奈々の声を聴かせてもらい、電話を切った。
 高木にも電話し、手ごろなマンションを探してもらった。
 俺は「花見の家」を子どもたちに整理させ、掃除をし、調理用具や食器などを運ばせた。
 ベッドや冷蔵庫などは元々ある。
 便利屋にハンガーラックを急いで作らせ、当座の生活には困らないようにさせた。





 「ルー! ハー!」
 「「はーい!」」
 「久し振りに「桜蘭」に行こうか!」
 「え、ほんと!」
 「ワーイ!」

 素直なよゐこたちだ。
 「桜蘭」は以前に近所に出来て、わざわざうちに手紙を寄越して挨拶して来た焼き肉屋だった。
 石神家全員が気に入り、時々使っている。
 子どもたちはそれぞれに通っているようだが、特に双子は「人生研究科」の幹部たちを連れてよく使っているようだった。

 「石神さん! ルーちゃんもハーちゃんもいらっしゃい!」
 「「こんにちはー!」」

 一応亜紀ちゃんと皇紀、柳も誘ったのだが、今度でいいと言われた。
 成長すると疑うことを覚えるものだ。

 「おいしーね!」
 「おいしーね!」
 「な!」

 3人で楽しく食べた。

 「ところでよ、今度うちの新人ナースの部屋に一緒に行ってくれないか?」
 「「いいよー!」」
 「結構頑張ってる真面目な奴なんだ」
 「「へぇー!」」

 言質は取った。
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