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双子と皇紀の修学旅行 Ⅲ

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 基地の中を歩き回り、機密性の高い区域には行かなかったが、結構な場所まで「人生研究会」の幹部たちを案内していた。
 時々、僕に説明を求める。
 
 「皇紀ちゃん、このレールガンの射程は?」
 「うーん、具体的には言えないんだけど、この国の全土は守れるよ」

 みんな感動していた。

 「そのためのこの基地だからね。フィリピンを護るための施設だ」
 「ジェヴォーダンが来ても大丈夫ですか?」
 
 幹部の一人が聞いて来る。

 「まあ、状況と規模によるね」
 「その状況って、例えばどういうものでしょうか」
 「例えば、100キロ圏内に10体以上来たら危険だね。ここの砲塔の旋回性能はそれほど高くないから。量子コンピューターで未来予測をしながら射撃するんだけど、10体以上いた場合はここに接近を許してしまうかもだね」
 「なるほど!」
 「でも、他の防衛システムもあるし、「虎」の軍のソルジャーも常駐しているから、滅多なことではこの基地は落とせないよ」
 「すごいですね!」

 幹部の子たちがレールガンに近寄ってよく見ようとしている。

 「「ヴォイド機関」はこの中にあるんですか?」
 「よく勉強しているね。うん、そうだよ。でも別にエネルギー供給もあるんだ。ここの「ヴォイド機関」が破壊されても稼働できるようにね」
 「無線供給ですね!」
 「本当によく知ってるね! 今後、フィリピン国内にもっと多くの「虎」の軍の軍事施設が出来る予定なんだ。そことも連携していくようになるよ」
 
 「ヴォイド機関」は僕たちの根幹技術だった。
 だから全ての基地に配備することは出来ない。
 そういう基地へは、無線供給でエネルギーを送ることになる。
 鹵獲されないためだ。
 「人生研究会」の幹部たちは、そういうことも分かっているのだろう。
 ルーとハーが、相当仕込んで鍛えていることが分かる。

 「じゃーみんな! 基地のソルジャーの人たちが相手してくれるからね!」
 『はい!』

 みんなで演習場へ行った。
 全員、持って来たコンバットスーツに着替える。
 演習場では東雲さんや諸見さん、また基地のソルジャーの人たちが待っていてくれた。
 組み手を何組かずつで行なう。
 僕は何度か「人生研究会」の訓練を見ているけど、みんな結構「花岡」を使える。
 男子と女子が半々ずつだ。
 
 「しのちゃーん、集団戦もやっていい?」
 「ああ、いいですよ」
 
 ルーが東雲さんに頼んで、人生研究会15人と、ソルジャー7人との集団戦をやった。

 やはり本格的な軍事教練を経たソルジャーには、全然敵わない。
 早苗ちゃんという女の子が司令塔になっていて、結構やる。
 でも、前衛の4人はたちまちに潰され、ソルジャーの3人が後ろに回り込んで来た。

 「おお!」

 馬込君がその3人を相手にした。
 防御に徹して、3人を仲間に近づけない。
 僕はその猛攻に感動した。

 「早苗! 後ろは任せろ!」
 「うん!」

 馬込君の方が断然弱い。
 だけど彼は必死に守り続けた。
 馬込君が背中から棒のようなものを引き抜いた。
 両手に握り、それを見事に振り回して使っていた。
 ソルジャーの3人が驚く。
 まあ、ここでは素手での戦闘のはずだった。

 「おい、そんなものを仕込んでたのか!」

 ソルジャーの一人が叫んだ。

 「武器を使用しちゃいけないなんてルールはねぇ!」
 「ワハハハハハハハ!」

 確かにそうだった。
 戦闘訓練をするとは言っていたが、誰も武器は使ってはいけないとは言ってない。
 僕の隣でルーとハーが笑っていた。

 馬込君の腹に強烈な蹴りが入った。
 馬込君が吹っ飛ぶ。
 あれはもう起き上がれないだろう。
 4メートルも飛んで、馬込君は動かない。
 ソルジャーの3人が集団に向かう。

 「あ!」

 馬込君が突然起き上がり、背後から3人に襲い掛かった。
 完全に不意を衝かれ、3人が頭部に鉄の棒を喰らって昏倒した。

 「ガハハハハハハハハ!」

 倒れたフリだった。
 しかし、あれだけの蹴りを喰らって、どうして馬込君は動けるのか。

 「仕込んでんだよぉ!」

 コンバットスーツの捲って、腹のケブラー繊維と思える分厚い緩衝材を見せた。
 ただ、本隊は壊滅し、残る4人に馬込君がボコボコにされた。

 「……」

 ルーが訓練終了を宣言し、負傷者の手当てを始めた。
 「人生研究会」の幹部たちにも「Ω」と「オロチ」の粉末が提供される。
 馬込君にやられた3人のソルジャーも、すぐに意識を取り戻し、ルーとハーの「手かざし」を受けた。

 「あのガキ! とんでもねぇ奴だ!」
 
 そう言いながら、3人は笑っていた。





 東雲さんに誘われて、基地の士官用の食堂へ案内された。
 諸見さんと小春さんと綾さんがいた。
 うちの拡張工事をしてくれた、懐かしい方々もいた。

 「さあ、どんどん食べてって下さい。小春と綾さんが作ってくれたんです」
 「「やったぁー!」」

 ルーとハーが大喜びで食事を始めた。
 自分で好きな料理を選んで行く着席ビュッフェ形式だ。
 ルーとハーはもちろん、真っ先にステーキのコーナーへ行く。
 僕も料理を皿に乗せて、東雲さんたちのテーブルへ行った。

 「あの後方を護ってた子はすげぇですね」
 「ああ、馬込君って言うんですよ」
 「根性がある! 実力はまだまだだけど、絶対に護るって気合が凄かった」
 「そうですね」

 僕は笑って馬込君を呼んだ。

 「なんですか、皇紀さん!」
 「ここの司令長官の東雲さんが、君のことを褒めてたんだ」
 「え、俺ですか! いや、負けちゃったし」

 東雲さんが大笑いし、諸見さんにさっきの訓練の話をした。

 「石神さんに似てますね」
 「お前もそう思うか?」
 「はい。絶対にやると決めたら、どんどん思いも寄らないことをなさる」
 「そうだよな」

 馬込君が、タカさんに似てると言われて大喜びだった。

 「ほんとですか!」
 「まあな。でも、虎の旦那は俺らの誰よりも強いけどな」
 「あぁー!」

 馬込君の実力はまだまだ。
 それに、「花岡」の才能も無いのが僕には分かった。

 「俺、もっと強くなります!」
 「おう、頑張ってくれや」
 「絶対に護りますから」

 馬込君はそう言って、頭を下げて自分のテーブルに戻った。

 「馬込君はね、僕の妹たちを護るんだって思ってるんです」
 「え? お嬢たちを?」
 「はい。ハワイに小学生の頃に修学旅行に行きましてね」
 「あー! 俺らも土産のアロハシャツを貰った!」
 
 僕はおかしくて笑った。

 「そうです。あの時に海岸で、妹たちが寂しそうな顔をしてたって」
 「あのお嬢たちが?」
 「ええ。これから戦争が始まって行く。仲間たちをそれに巻き込んでしまったってね。馬込君は寂しそうな顔の妹たちに、「そんな顔をするな」って」言ったらしいですよ」
 「へぇー!」
 
 東雲さんと諸見さんが嬉しそうな顔をしていた。

 「もちろん、馬込君には何で妹たちが寂しそうな顔をしてたのかは分かりませんでした。でも、堪らずにそう言って、約束したんです。妹たちは絶対に護ってやるって」
 「いい奴だな!」
 「はい」

 お二人が馬込君の方を見ていた。
 馬込君は妹たちの所へ行って、一緒にステーキを奪い合っていた。
 もちろん、簡単にぶっ飛ばされた。

 「馬込君ね、小学校の中で、ずっと妹たちに逆らってたんですよ」
 「え? あの小学校を支配してたお嬢たちに?」
 「ええ、最後までね。ハワイの海岸でも、花火で作った爆弾を投げるつもりで」
 「「ワハハハハハハハ!」」

 東雲さんと諸見さんが大笑いした。

 「妹たちもね、そんな馬込君の根性には感心してて。だって、世界中が自分の敵なんですよ。孤立無援でそれでも向かってくるなんて、相当ですよね」
 「ああ、大したもんだ」
 
 倒れて動かない馬込君に、妹たちが駆け寄った。
 僕には分かっていた。
 ルーが抱き起そうとした馬込君に突然抱き着かれ、胸を思い切り揉まれた。
 気絶したフリだったのだ。
 さっきと同じだ。

 「まーごーめー!」

 ハーが馬込君の尻を蹴り上げて天井まで吹っ飛ばした。

 「ワハハハハハハハ!」

 馬込君が笑いながら落下し、ルーに腹を殴られて壁の隅まで飛んだ。

 「……」

 今度は本当に動かなくなった。
 他の幹部の子たちも、まるで気にせずに、美味しい食事を頂いていた。

 「まあ、いろいろとスゴイ子だね」
 「はぁ、すいません」






 僕たちも話題を変えて、楽しく食事をした。
 小春さんと綾さんも来て、一緒に話し、楽しかった。

 帰る時に、動かない馬込君をルーが背負った。
 ハーが「手かざし」をしていた。

 「仲がいいんだね」
 「うん。まあ、こいつだけはね」
 「案外カワイイんだよね」
 「そっか」

 馬込君はルーの匂いを嗅いで微笑んでいた。
 ルーもハーも、それには気付かないフリをしていた。
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