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双子と皇紀の修学旅行

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 4月になり、双子が中学3年生になった。
 俺がこいつらを引き取った時には、まだ小学2年生だった。
 月日が流れるのは早いものだ。

 一般には受験生なのだが、こいつらには全く関係ない。
 試しに、東大受験をやらせてみると、当然のようにトップで入学の実力があった。
 どうしてトップと言えるのかと言えば、全ての試験で満点だったからだ。
 日本にも飛び級の制度があれば、とっくに大学生だ。

 二人が通っている中学校には修学旅行が無かった。
 以前に事故があり、それ以来行事としては行なっていないそうだ。
 だから同じ中学に通っていた皇紀も修学旅行には行っていない。
 ちなみに、小学校でも皇紀は修学旅行に行っていない。
 たまたまその前年にやはり事故があって、取りやめになったのだ。
 
 そういうことなのだが、何しろ双子が中学を支配している。
 不良共が全生徒を従えているのとは違い、本質的に教師たちも双子に従っている状態だ。
 まったく何をやっているのだか。
 まあ、全国模試でダントツのトップ(全教科満点)で、俺の名義で寄付も多い。
 「人生研究会」では教師たちを唸らせる高度な活動をしている。
 研究会のテーマは全職員にも配布されて教師たちも参加させてもらっている。
 そして近隣のゴミ拾いや奉仕活動も熱心で評判が高い。
 ついでに言えば、うちが莫大な住民税を支払っているので、双子が通っている中学は何かと優遇されている。

 ということで。

 双子の力により、晴れて修学旅行が決定された。
 行き先はフィリピンだ。
 例によって小学校の時と同様に「特別基金」が設けられ、潤沢な旅行資金が用意された。
 もちろん全て双子の出資だ。
 
 《逸早く「虎」の軍にアジアの中で最初に協力したフィリピンを視察しよう!》

 よく分からない目的が掲げられた。
 お前ら遊びたいだけだろう。
 まあ、それでいいのだが。

 そして皇紀も誘われた。

 「皇紀ちゃん、修学旅行に一緒にいこ?」
 「え?」
 「皇紀ちゃん、行ったことないじゃん」
 「一緒にいこ?」
 「え、でも……」
 「私たちと思い出をつくろ?」
 「ね?」

 皇紀が泣き出した。
 俺も一緒に聞いていて、皇紀の頭を撫でた。

 「たまには仕事じゃなく、のんびりとして来いよ」
 「タカさーん!」

 そういうことになった。





 旅行は4月の第3週の火曜日の出発となった。
 3泊4日で、金曜日に帰って来る。
 皇紀は力ずくで「中学OB同行」という枠で、一緒に出掛けるようだ。
 でも、多くの先生方が皇紀の参加を喜んで下さった。
 超優秀な生徒であった皇紀が進学もせずにいたことを、みんな惜しんでくれていた。
 だから、一緒に修学旅行という異例な事態も歓迎してくれ、皇紀も喜んだ。
 亜紀ちゃんも大喜びでいた。
 やはり自分が大学まで進学し、「虎」の軍のために働きたいと言う皇紀に後ろめたい気持ちもあったのだろう。
 学生としてではないが、皇紀に精一杯楽しんで欲しいと思っていた。

 「じゃあよ、折角だから向こうで有名な皇紀の雄姿をみんなに見せてやろうぜ」
 「アレですね!」

 金髪ポンパドールにしてやった。

 「……」

 「良かったね、皇紀!」
 「カッコイイよ、皇紀ちゃん!」
 「みんな喜ぶよ!」

 「あの、ちょっとカワイソウな気が……」

 ノリの悪い田舎娘が正論を言いやがった。

 「よし! 行って来い!」

 素直な皇紀は何も言わなかった。
 双子も付き合って、金髪に髪を染めた。
 それをポニーテルにする。

 「おお! 最高にカワイイぞ!」
 「ほんと!」
 「ああ! 二人になると、もう爆発的にノックアウトだぜ!」
 「「やったぁー!」」
 「君たちの金髪に乾杯!」
 「「ワハハハハハハハ!」」

 まあ、学校も文句は言わないだろう。
 亜紀ちゃんがダッジ・デーモンで当日、羽田に送って行った。
 柳が俺に言った。

 「大丈夫ですかね?」
 「……」

 俺もメッチャ不安だった。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「え、僕たちだけファーストクラスなの?」
 「そうだよ! あと「人生研究会」の幹部とね!」
 「食事はスペシャルコースにしてるからね!」

 先生方はいない。
 さっき、先生方に挨拶し、大歓迎で嬉しかったのだがこんなことになっているとは。

 「先生たちは引率の責任もあるしさ」
 「みんなと一緒にいなきゃ」
 「そういう問題じゃないよー」
 「「気にすんな!」」

 ルーとハーは笑って言うが、気にしてしまう。
 まあ、決まったことは仕方ないけど。

 「皇紀さん! その頭カッコイイっすね!」
 
 馬込君が傍に来て褒めてくれる。

 「いや、タカさんたちに無理矢理にね」
 「いいえ! 最高っす!」

 他の幹部の人たちも一応は褒めてくれるが、本気で褒めてるのは馬込君だけだろう。
 ちょっと変わった子だ。

 「馬込、ルーさんとハーさんも褒めろよ!」

 他の幹部の子が言う。

 「あ、ああ。まあ」

 言い淀む馬込に、ルーとハーがニヤニヤして突っ込む。

 「何だよ馬込!」
 「また惚れたか?」
 「ち、ちげぇよ!」

 まあ、大体分かった。
 馬込君は他の幹部の子たちとは違って、妹たちにかしずいてはいないのだろう。
 ちょっと反発して見せながらも、本当は妹たちを大事に思ってくれている。
 それに、多分二人を好きなのだろう。
 馬込君は自分の席に戻った。

 離陸までにまだ時間があったので、一度先生方に謝っておこうと思った。
 エコノミークラスに移動する。

 僕が妹たちがやり過ぎたことを謝ると、先生方は笑っていた。

 「いいんだよ。石神さんたちは本当に特別だからね。僕たちも海外旅行に連れてってもらえるんだ。有難いだけだよ」
 「いいえ、それでも分度というものがありますから」
 「それもね、僕たちは石神さんたちに本当にお世話になってるんだから。うちの学校が全国的にも優秀で、スポーツの分野でも随分と活躍してるんだ。石神さんたちのお陰でね」
 「はぁ」

 「むしろ、石神君のその頭には驚いたよ!」
 「アハハハハハハハ!」

 妹たちが中学校を支配しているということを、肌身で感じた。
 そして、機内にデュールゲリエが5体いることに気付いた。
 妹たちが手配しているのだろう。
 万一にも生徒たちが襲われないようにと。
 多分、現地でもそういう準備がされているだろうことが分かった。
 遊びに行くと言いながら、やるべきことはちゃんとやっている。
 
 「石神君、今日は君が来てくれて本当に嬉しいよ」
 「僕の方こそ、押し掛けて来てしまって」
 「一緒に楽しい旅行にしよう」
 「はい!」

 妹たちが呼びに来た。
 そろそろ時間らしい。

 離陸してすぐに食事が出た。
 朝の7時の便なので、向こうへ着くのは現地時間で13時くらい。
 時差は1時間なので、気にならない。

 離陸して飛行が安定するとすぐに食事が出た。
 豪華な洋食メニューで500gのステーキだ。

 「私たちは幾らでもお替り出来るからね!」
 「アハハハハハハハ!」

 まったく、僕の妹たちは最高だ。
 もう、僕もあまり考えないようにして、ステーキを楽しんだ。
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