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東雲と小春 Ⅳ
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小春との暮らしは最高だった。
美味い飯を喰わせてくれ、いろいろな世話をしてくれる。
あっちの方も最高だ。
俺は「小春」と呼ぶようになり、小春はおれを「新さん」と呼ぶようになった。
俺は東雲新太郎という名前だ。
自然に俺に砕けてくれ、口調も変わって行った。
「新さん、大根の煮物は苦手でした?」
「いや、美味いぜ?」
「そうですか? でも、他の物を食べるのと、ちょっと違うから」
「そんなことはねぇ。小春の料理は最高だ」
小春は鋭い女だ。
そして、俺の体調はもちろん、食事の好みなんかもよーく見ている。
俺は他に、もっと最高の大根の煮物を知っているだけだ。
それはしょうがねぇ。
小春は傍にいてもまったく苦にならない女だった。
俺に気を遣わせずに、そっと寄り添ってくれる。
そして、俺と話すのが大好きで、飯を喰いながら、酒を飲みながらの間に、俺が面倒にならない程度に話を聞きたがる。
虎の旦那の話が大好きだ。
俺は自分で話しているうちに、幾らでも虎の旦那のことを話せる自分に驚いていた。
数年の間だけなのに、虎の旦那は俺に、こんなにも思い出を残してくれていたのだ。
「虎の旦那がお世話になったっていう、乾さんのお店の拡張工事でな」
「はい!」
「虎の旦那が、こっそり大量の小判を埋めろっておっしゃってさ」
「なんです、それ?」
俺が、虎の旦那の庭でのことを話すと小春はびっくりしていた。
「もうお金は沢山ある人だからさ。お世話になった乾さんに渡すんだって」
「それでですか」
「虎の旦那が乾さんのお店に行ってさ。俺が打ち合わせ通りにお店に行って、乾さんに掘らせたんだよ」
「それで!」
「乾さんが小判を掘り出したってわけだ」
「アハハハハハハハ!」
小春が大笑いした。
「でもさ、乾さんも鋭い人で、バレかけたんだよ。でも、虎の旦那が上手く言いくるめてた」
「アハハハハハハハ!」
本当に、幾らでも話すことがあった。
稲城会を潰しに行ったこと。
諸見のこと。
レイさんのこと。
毎日の昼食やおやつのこと。
亜蘭のこと。
旦那のご家族のあれこれ。
ロボさんのこと。
ああ、俺はあんなに楽しい時間を虎の旦那に貰ってたんだと、改めて気付いた。
諸見をうちに呼んで、小春と綾さんを会わせた。
諸見と綾さんの仲の良さはヘッジホッグでも有名になっていた。
武骨な諸見と綺麗な綾さん。
あの物調面しか知らない諸見が、笑顔を見せるようになった。
「綾さんの奇跡」とみんなに言われていたが、今は俺にもよく分かる。
小春や綾さんのような女が傍にいたら、誰だって幸せになる。
夕飯を小春と綾さんが一緒に作ってくれた。
今日は特別にフグを用意していた。
諸見もこっちでは食べられないだろう。
まあ、日本でもどうだったか分からないが。
虎の旦那に、諸見と綾さんと会うとお話ししたら、送って下さった。
俺はただ、一応小春と綾さんを会わせて良いものか確認しただけだったのだが。
アラスカではフグ料理は無かった。
しかし、旦那の恋人の鷹さんのお兄さんがこちらで日本料理店を開き、そこから譲っていただいた。
小春も綾さんもフグを捌けるそうだたが、念のために身欠きのものをいただいた。
虎の旦那のメッセージカードが付いていた。
《夕べもお楽しみでしたね!》
「……」
まさか、毎日確認してるんじゃないだろうが。
あの人はやりかねない。
菊盛にされたてっさから食べる。
諸見が遠慮して喰わないので、俺が頭をはたいてどんどん食べろと言った。
それでも遅いので、綾さんに喰わせてもらえと言った。
綾さんが笑いながら、諸見の器にてっさを入れて行く。
「美味いですね」
やっと言いやがった。
七輪で焼きものを喰っている間に、小春が鍋の用意をし、綾さんが唐揚げを作ってくれた。
諸見も量の多さを見てどんどん食べるようになった。
雑炊まで食べ終えて、俺と諸見で二人に礼を言った。
「ありがとう、本当に美味かった」
「自分もです。お二人のお陰でこんな美味い物を」
小春と綾さんが笑顔で喜んでいた。
月岡にも小春を紹介した。
月岡はアメリカ人の女性と結婚しており、子どもも生まれている。
俺が小春と暮らすようになって、あいつは喜んでくれた。
「良かったな、東雲」
「ああ、最初はぶっ飛んだけどな。虎の旦那には逆らえねぇし」
「ワハハハハハハハ!」
月岡の奥さんのリンダさんも娘のアイリーンも、小春に懐いてくれた。
一緒に虎の旦那の家を作った連中の多くもアラスカにいる。
そいつらにも小春を紹介し、まあ、大分からかわれた。
小春のお陰か、俺は今まで以上に多くの仲間と交流するようになった。
小春の料理が絶品で、みんなよくうちに来てくれるようになった。
これも全部、虎の旦那のお陰だ。
休日には、小春を連れて「アヴァロン」へも出かけるようになった。
美しい通りを二人で歩き、散策した。
ある場所で、ビリヤード場を見つけた。
昔日本でも流行り、俺も相当入れ込んだ。
小春を誘って中へ入った。
小春に遊び方を説明する。
「ナインボールっていうな。数字の順番に、隅のホールに落して行けばいいんだ」
「分かりました!」
流石に小春もやったことがなく、俺が簡単に勝った。
でも、3度もプレイすると、小春が覚えちまった。
「おい、手加減しろよ!」
「ウフフフフ」
そのうちに、店にいた連中が集まって来て、小春の華麗なトリックショットを大絶賛した。
何人も勝負を挑んできたが、小春は断っていた。
「新さんと以外は楽しめませんから」
俺に大きな期待が集まったが、俺のショボいショットに全員が嘆いた。
それでも、小春が楽しそうにプレイするので、俺も嬉しかった。
俺は小春に勝とうなんて思ってない。
小春は俺なんかよりも、ずっと上等な人間だ。
だから、小春を喜ばせたいだけだ。
虎の旦那から、フィリピンの「虎」の軍基地の建設を任された。
諸見や、昔の仲間たちも一緒に来る。
機密の多い基地なので、どうしても基礎部分から「虎」の軍の人間がやることになる。
それでも、現地の人間を使う部分もあった。
主に俺たち作業員の住居や資材の運搬などだが。
「虎」の軍の基地であることは、みんな知っている。
一つ気になることがあった。
「諸見、なんかよ、金髪のスゲェ頭の奴が多くねぇか?」
「そうですよね。自分も気になってました」
フィリピンで流行ってるらしいことはすぐに分かった。
虎の旦那に言われて、紺野顕さんのお宅へ小春と挨拶に行った。
物凄く優しい方で、奥さんのモニカさんも綺麗なフィリピンの方だった。
もうすぐお子さんが生まれると聞いて、是非お祝いを送ると言った。
「いや、もう石神君からいろいろ貰い過ぎてるから」
「それ、よく分かります!」
俺が同意すると、紺野さんが大笑いしてた。
一緒に、虎の旦那のやり過ぎなことを話して盛り上がった。
「ところで、こっちじゃあの金髪の頭って流行ってるんですかい?」
「あー、あれ!」
紺野さんが笑いながら、皇紀さんがあの頭でこっちで暴れ回ったのだと教えてくれた。
「あの優しい皇紀さんがですか!」
「そうなんだよ。まあ、それも、石神君が護衛に付けた二人のアンドロイドがほとんどやったんだけどね」
「やっぱ!」
また二人で大笑いした。
奥さんのモニカさんも虎の旦那と会ったことがあるらしく、一緒に話しに加わって来た。
楽しく話し過ぎてお暇の時間が遅くなり、夕飯までご馳走になってしまった。
その帰りに、俺たちは襲われた。
美味い飯を喰わせてくれ、いろいろな世話をしてくれる。
あっちの方も最高だ。
俺は「小春」と呼ぶようになり、小春はおれを「新さん」と呼ぶようになった。
俺は東雲新太郎という名前だ。
自然に俺に砕けてくれ、口調も変わって行った。
「新さん、大根の煮物は苦手でした?」
「いや、美味いぜ?」
「そうですか? でも、他の物を食べるのと、ちょっと違うから」
「そんなことはねぇ。小春の料理は最高だ」
小春は鋭い女だ。
そして、俺の体調はもちろん、食事の好みなんかもよーく見ている。
俺は他に、もっと最高の大根の煮物を知っているだけだ。
それはしょうがねぇ。
小春は傍にいてもまったく苦にならない女だった。
俺に気を遣わせずに、そっと寄り添ってくれる。
そして、俺と話すのが大好きで、飯を喰いながら、酒を飲みながらの間に、俺が面倒にならない程度に話を聞きたがる。
虎の旦那の話が大好きだ。
俺は自分で話しているうちに、幾らでも虎の旦那のことを話せる自分に驚いていた。
数年の間だけなのに、虎の旦那は俺に、こんなにも思い出を残してくれていたのだ。
「虎の旦那がお世話になったっていう、乾さんのお店の拡張工事でな」
「はい!」
「虎の旦那が、こっそり大量の小判を埋めろっておっしゃってさ」
「なんです、それ?」
俺が、虎の旦那の庭でのことを話すと小春はびっくりしていた。
「もうお金は沢山ある人だからさ。お世話になった乾さんに渡すんだって」
「それでですか」
「虎の旦那が乾さんのお店に行ってさ。俺が打ち合わせ通りにお店に行って、乾さんに掘らせたんだよ」
「それで!」
「乾さんが小判を掘り出したってわけだ」
「アハハハハハハハ!」
小春が大笑いした。
「でもさ、乾さんも鋭い人で、バレかけたんだよ。でも、虎の旦那が上手く言いくるめてた」
「アハハハハハハハ!」
本当に、幾らでも話すことがあった。
稲城会を潰しに行ったこと。
諸見のこと。
レイさんのこと。
毎日の昼食やおやつのこと。
亜蘭のこと。
旦那のご家族のあれこれ。
ロボさんのこと。
ああ、俺はあんなに楽しい時間を虎の旦那に貰ってたんだと、改めて気付いた。
諸見をうちに呼んで、小春と綾さんを会わせた。
諸見と綾さんの仲の良さはヘッジホッグでも有名になっていた。
武骨な諸見と綺麗な綾さん。
あの物調面しか知らない諸見が、笑顔を見せるようになった。
「綾さんの奇跡」とみんなに言われていたが、今は俺にもよく分かる。
小春や綾さんのような女が傍にいたら、誰だって幸せになる。
夕飯を小春と綾さんが一緒に作ってくれた。
今日は特別にフグを用意していた。
諸見もこっちでは食べられないだろう。
まあ、日本でもどうだったか分からないが。
虎の旦那に、諸見と綾さんと会うとお話ししたら、送って下さった。
俺はただ、一応小春と綾さんを会わせて良いものか確認しただけだったのだが。
アラスカではフグ料理は無かった。
しかし、旦那の恋人の鷹さんのお兄さんがこちらで日本料理店を開き、そこから譲っていただいた。
小春も綾さんもフグを捌けるそうだたが、念のために身欠きのものをいただいた。
虎の旦那のメッセージカードが付いていた。
《夕べもお楽しみでしたね!》
「……」
まさか、毎日確認してるんじゃないだろうが。
あの人はやりかねない。
菊盛にされたてっさから食べる。
諸見が遠慮して喰わないので、俺が頭をはたいてどんどん食べろと言った。
それでも遅いので、綾さんに喰わせてもらえと言った。
綾さんが笑いながら、諸見の器にてっさを入れて行く。
「美味いですね」
やっと言いやがった。
七輪で焼きものを喰っている間に、小春が鍋の用意をし、綾さんが唐揚げを作ってくれた。
諸見も量の多さを見てどんどん食べるようになった。
雑炊まで食べ終えて、俺と諸見で二人に礼を言った。
「ありがとう、本当に美味かった」
「自分もです。お二人のお陰でこんな美味い物を」
小春と綾さんが笑顔で喜んでいた。
月岡にも小春を紹介した。
月岡はアメリカ人の女性と結婚しており、子どもも生まれている。
俺が小春と暮らすようになって、あいつは喜んでくれた。
「良かったな、東雲」
「ああ、最初はぶっ飛んだけどな。虎の旦那には逆らえねぇし」
「ワハハハハハハハ!」
月岡の奥さんのリンダさんも娘のアイリーンも、小春に懐いてくれた。
一緒に虎の旦那の家を作った連中の多くもアラスカにいる。
そいつらにも小春を紹介し、まあ、大分からかわれた。
小春のお陰か、俺は今まで以上に多くの仲間と交流するようになった。
小春の料理が絶品で、みんなよくうちに来てくれるようになった。
これも全部、虎の旦那のお陰だ。
休日には、小春を連れて「アヴァロン」へも出かけるようになった。
美しい通りを二人で歩き、散策した。
ある場所で、ビリヤード場を見つけた。
昔日本でも流行り、俺も相当入れ込んだ。
小春を誘って中へ入った。
小春に遊び方を説明する。
「ナインボールっていうな。数字の順番に、隅のホールに落して行けばいいんだ」
「分かりました!」
流石に小春もやったことがなく、俺が簡単に勝った。
でも、3度もプレイすると、小春が覚えちまった。
「おい、手加減しろよ!」
「ウフフフフ」
そのうちに、店にいた連中が集まって来て、小春の華麗なトリックショットを大絶賛した。
何人も勝負を挑んできたが、小春は断っていた。
「新さんと以外は楽しめませんから」
俺に大きな期待が集まったが、俺のショボいショットに全員が嘆いた。
それでも、小春が楽しそうにプレイするので、俺も嬉しかった。
俺は小春に勝とうなんて思ってない。
小春は俺なんかよりも、ずっと上等な人間だ。
だから、小春を喜ばせたいだけだ。
虎の旦那から、フィリピンの「虎」の軍基地の建設を任された。
諸見や、昔の仲間たちも一緒に来る。
機密の多い基地なので、どうしても基礎部分から「虎」の軍の人間がやることになる。
それでも、現地の人間を使う部分もあった。
主に俺たち作業員の住居や資材の運搬などだが。
「虎」の軍の基地であることは、みんな知っている。
一つ気になることがあった。
「諸見、なんかよ、金髪のスゲェ頭の奴が多くねぇか?」
「そうですよね。自分も気になってました」
フィリピンで流行ってるらしいことはすぐに分かった。
虎の旦那に言われて、紺野顕さんのお宅へ小春と挨拶に行った。
物凄く優しい方で、奥さんのモニカさんも綺麗なフィリピンの方だった。
もうすぐお子さんが生まれると聞いて、是非お祝いを送ると言った。
「いや、もう石神君からいろいろ貰い過ぎてるから」
「それ、よく分かります!」
俺が同意すると、紺野さんが大笑いしてた。
一緒に、虎の旦那のやり過ぎなことを話して盛り上がった。
「ところで、こっちじゃあの金髪の頭って流行ってるんですかい?」
「あー、あれ!」
紺野さんが笑いながら、皇紀さんがあの頭でこっちで暴れ回ったのだと教えてくれた。
「あの優しい皇紀さんがですか!」
「そうなんだよ。まあ、それも、石神君が護衛に付けた二人のアンドロイドがほとんどやったんだけどね」
「やっぱ!」
また二人で大笑いした。
奥さんのモニカさんも虎の旦那と会ったことがあるらしく、一緒に話しに加わって来た。
楽しく話し過ぎてお暇の時間が遅くなり、夕飯までご馳走になってしまった。
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