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シャドウ 誘拐 Ⅲ
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「虎王」を握った俺は、一瞬物凄い波動を感じた。
敵のものではない。
美しい魂の雄叫びだ。
「シャドウ!」
俺はその方向へ最大速度で突っ込んで行った。
しかし、間に合わないとも感じていた。
それほどに大きな波動だった。
一瞬で終わったはずだ。
黒いノアが国道から逸れて停まっていた。
迷わずにそこへ突入する。
だが、その場の全員が硬直していた。
シャドウは地面に倒れている。
「シャドウ!」
《心配いらない、我が主》
「アラキバか!」
シャドウの脇に、銀色の6対の翼を持つ者が現われた。
《そうだ。この者の決意を見させてもらった。つい先ほど、自分を破滅させようとした》
「なんだと?」
《我はエグリゴリ。人間を見守るためにアザゼルと共にいた》
「ああ、知っている」
《ネズミごときに我が付き添うことは無い》
「そう言ってたな」
アラキバが微笑んでいた。
《この者は見事だった。愛する者たちのために、自分の命を、魂を消滅させるつもりだった》
「シャドウ!」
《心配するな。私が止めた。この者は美しき人間であった》
「シャドウは無事か!」
《何もない。私が消えれば目を覚ますだろう》
「そうか!」
人間の男たちは立ったまま気を喪っていた。
ただ、針のような体毛に覆われた奴だけが意識を持っていた。
強力な奴であることは、すぐに分かった。
《地獄の悪魔》の波動だ。
「お前、アラキバか」
《久しいな、タンムーズ》
「お前は復活したのか」
《そうだ。アザゼルが全ての権能を取り戻したことで、我ら13使徒も甦った》
「なんということだ!」
アラキバがタンムーズと呼んだ妖魔が顔をしかめた。
《お前たちは下級神にそそのかされ、アザゼルを裏切った》
「……」
《そしてアザゼルによって地獄へ墜とされた》
「……」
タンムーズはアラキバを睨んでいたが、動けなかった。
「無茶な戦いだった! 実際、お前たちは神に敗れ、魂まで破壊されただろう!」
《そう思うか? ならばどうして我々はいる?》
「アラキバァー!」
タンムーズが叫び、アラキバへ何かをしようとした。
強大な波動が迸った。
しかし、タンムーズはすぐにまた動けなくなった。
《我は復活したのだ。この「神獣の王」に従うことによってな。もうお前たちが自由に出来ることなどない》
タンムーズは何かを言い掛けた。
しかし、アラキバが手を振り下ろすことで、塵となって崩れ去った。
《我が主。我は約束する。この者を我が永遠に守ることを》
「そうか、ありがとうな」
アラキバが微笑んで消えた。
俺がシャドウを無事に取り戻したと連絡すると、蓮花が大声で泣き叫んだ。
しばらくそのまま聞いていたが埒が明かないので、ジェシカに替われと言ったが、蓮花は泣きながら、シャドウが本当に無事なのかを何度も問うて来た。
「大丈夫だ! ただ飛行ではシャドウに負担がかかる。ファブニールか何かで迎えに来てくれ」
やっと蓮花がファブニールを用意するように命じていた。
また泣きながら、早くシャドウを連れて来て欲しいと懇願した。
「それを今、お前に頼んだんだろう!」
俺は笑いながら通信を切り、シャドウの容態を改めて確認した。
俺はシャドウの最期の技を知っている。
俺の血を暴走させて、自分の存在の一切を消すものだ。
それは命の終わりと思っていたが、アラキバはそれだけではなかったことを告げていた。
魂の破滅。
シャドウはそれを知っていたのだろうか。
俺は、恐らくそうだったろうと思った。
ただの死ではなく、本当の消滅。
シャドウはそれを自ら望んだ。
先ほど俺が感じた凄まじい波動は、そういうことだったのだ。
魂が爆発する、本当の最期の波動。
それをアラキバが救ってくれた。
30分でファブニールが到着し、シャドウをベッドに寝かせ、4人の襲撃者も収容した。
当然蓮花も乗っており、シャドウに泣いて抱き着こうとするのを俺が止めた。
「検査を終える前に刺激を与えるな!」
「シャドウさん!」
「落ち着け!」
「シャドウさん!」
蓮花の狂ったような叫びを聞いたか、シャドウが目を覚ました。
蓮花を抱き締めて止めている俺たちを見ていた。
「石神様、蓮花さん……」
「シャドウさん!」
「大丈夫か?」
「私は終わったはずですが……」
やはりシャドウは「死んだ」ではなく「終わった」と言った。
魂の消滅まで覚悟していたのだ。
俺は手だけだと言って、蓮花にシャドウの手を握らせた。
蓮花はそれを握りながら、頬を当てて泣いていた。
「後で話す。今はゆっくり休め」
「はい、ありがとうございました」
シャドウは蓮花に優しく話し掛け、大丈夫だと言った。
蓮花はまた大泣きした。
研究所に戻り、シャドウを検査した。
半日かかったが、異常は無かった。
以前に羽入が使っていた個室にシャドウを寝かせ、俺と蓮花、ジェシカだけにして話した。
「シャドウの存在は、まあ仲間として信頼出来、頼もしいという他に、重要なことがあった」
俺の話をみんな黙って聞いていた。
「それは俺の血を体内に取り込んで変化したということだ。だからシャドウの身体を狙う連中が出て来る可能性を考えていた」
「石神様! それは!」
蓮花とジェシカが驚いている。
俺とシャドウ以外に、そういう考え方は無かったのだろう。
もっとも、シャドウはいざという時には自分を滅することを考えていただけだが。
「だから、アザゼルに頼んでシャドウのガーディアンを付けてもらった」
「そんな……」
俺はアザゼルの話を少しした。
かつて、人間を破滅させようとした下級神たちがいたこと。
アザゼルたちは上級神に人間を見守るように言われていたこと。
次々に苛烈な戦いの中で、アザゼルが率いる「エグリゴリ」たちが消され、ついには仲間を裏切り堕落していったこと。
アザゼルたちも、ついに滅びたこと。
「アザゼルが復活し、最後の仲間であった13人も甦った。アザゼルには御堂を護るように頼み、ハスハは柳を護ってくれている」
「それでアラキバ様は、シャドウさんを護ってくれていたのですね?」
「まあ、そういうことなんだがな」
俺は笑って蓮花を見た。
「ただな。アラキバというそのガーディアンは、人間以外を護ることは出来ないと言っていた」
「じゃあ、シャドウさんは!」
「蓮花、落ち着け。だから俺はシャドウが人間以上に人間的であり、アラキバが護るに値するということを話した。アラキバは自分がそれを確信するまでは何もしないと言った。俺はそれでいいと言ったんだよ」
「石神様!」
「だからお前たちにも話せなかった。アラキバにシャドウを見てもらうしかなかったからな」
蓮花が叫んだ。
「シャドウさんほど良い方はいません! 石神様、そんな方はガーディアンからお外し下さいませ!」
「だから落ち着け! シャドウは本当にいい奴だ。だから俺は必ずアラキバも認めると信じた。実際にそうだったんだからな!」
「石神様……」
俺はシャドウを向いて話した。
「お前、死ぬつもりだったな?」
「はい。この身を操られ、もはや敵の言いなりになって蓮花さんやこの研究所を破壊するのだと言われました。ですので、最期の……」
「シャドウさん! なんてことを!」
蓮花がシャドウの身体に抱き着いてまた大泣きした。
本当に、この女は涙が多い。
あれだけ大泣きして、今も尚泣いている。
「そんなことしないで! お願いですから、絶対にしないで!」
「蓮花さん……」
シャドウも涙を零した。
「シャドウ、お前は命ばかりじゃない。魂まで消えることを知っていたんだな」
「はい。そういうものでなければ、あの者の支配を覆すことは出来ませんでした」
「ばかやろう」
シャドウが俺を見ていた。
「まあ、お前のその決意がアラキバに確信させたんだけどな」
俺は微笑んでシャドウの肩を叩いた。
「お前がここを襲おうと、多分失敗していただろう」
「はい、ここの防備は石神様が万全に……」
「だからお前は、蓮花を万一にも傷つけることを考えたんだな?」
「……」
シャドウは黙っていた。
「シャドウさん!」
「蓮花、全部お前のためだ」
「シャドウさんのバカぁ!」
蓮花は大声で泣きながら、シャドウを抱き締めた。
非力な蓮花の力だったが、シャドウは本当に苦しそうな顔をした。
「もう、絶対にそんなことはしないで下さい!」
「蓮花さん……」
「お願いですからぁー!」
「蓮花さん、分かりました」
「それと! 謝って下さい!」
「え?」
「わたくし、どれほど心配したことかぁ!」
「蓮花さん……」
「謝ってぇー!」
シャドウも大粒の涙を流していた。
「はい、本当にすみませんでした」
「シャドウさーん!」
俺は蓮花を落ち着かせるために、シャドウに食事を作ってやれと言った。
だが蓮花は逆らった。
「わたくしは今、シャドウさんに抱き着いていなければなりません!」
「おい!」
「石神様、美味しい物をどうかお願いいたします!」
「俺かよ!」
ジェシカが笑った。
シャドウも笑っていた。
俺は笑いながら厨房へ行った。
ジェシカが手伝うと言って、一緒に来た。
蓮花とシャドウを二人にしてやりたかったのだろう。
「あんな蓮花さん、初めてですよ」
「そうだな」
二人で笑って刺身を切り、鯛を焼き、シャドウの好きな高菜とキノコの混ぜご飯を炊いた。
刻み葱と海苔の出汁巻き卵を焼き、鶏の香草焼きをオーブンで焼いた。
俺の好きなハマグリの吸い物を作った。
病室へ持って行くと、蓮花が味見をした。
「上出来でございます!」
「てめぇ!」
笑いながら、みんなで食べた。
蓮花がシャドウの隣に腰かけ、身体をくっつけながら幸せそうに食べていた。
シャドウに、あれこれと勧めて食べさせながら、自分も一緒に食べて微笑んでいた。
食事を終え、シャドウが立ち上がって大声で言った。
誰もいない空間に向かって頭を下げた。
「アラキバ様! ありがとうございました!」
みんなで同じ言葉で礼を言った。
アラキバの姿は見えなかったが、俺は何かを感じた。
敵のものではない。
美しい魂の雄叫びだ。
「シャドウ!」
俺はその方向へ最大速度で突っ込んで行った。
しかし、間に合わないとも感じていた。
それほどに大きな波動だった。
一瞬で終わったはずだ。
黒いノアが国道から逸れて停まっていた。
迷わずにそこへ突入する。
だが、その場の全員が硬直していた。
シャドウは地面に倒れている。
「シャドウ!」
《心配いらない、我が主》
「アラキバか!」
シャドウの脇に、銀色の6対の翼を持つ者が現われた。
《そうだ。この者の決意を見させてもらった。つい先ほど、自分を破滅させようとした》
「なんだと?」
《我はエグリゴリ。人間を見守るためにアザゼルと共にいた》
「ああ、知っている」
《ネズミごときに我が付き添うことは無い》
「そう言ってたな」
アラキバが微笑んでいた。
《この者は見事だった。愛する者たちのために、自分の命を、魂を消滅させるつもりだった》
「シャドウ!」
《心配するな。私が止めた。この者は美しき人間であった》
「シャドウは無事か!」
《何もない。私が消えれば目を覚ますだろう》
「そうか!」
人間の男たちは立ったまま気を喪っていた。
ただ、針のような体毛に覆われた奴だけが意識を持っていた。
強力な奴であることは、すぐに分かった。
《地獄の悪魔》の波動だ。
「お前、アラキバか」
《久しいな、タンムーズ》
「お前は復活したのか」
《そうだ。アザゼルが全ての権能を取り戻したことで、我ら13使徒も甦った》
「なんということだ!」
アラキバがタンムーズと呼んだ妖魔が顔をしかめた。
《お前たちは下級神にそそのかされ、アザゼルを裏切った》
「……」
《そしてアザゼルによって地獄へ墜とされた》
「……」
タンムーズはアラキバを睨んでいたが、動けなかった。
「無茶な戦いだった! 実際、お前たちは神に敗れ、魂まで破壊されただろう!」
《そう思うか? ならばどうして我々はいる?》
「アラキバァー!」
タンムーズが叫び、アラキバへ何かをしようとした。
強大な波動が迸った。
しかし、タンムーズはすぐにまた動けなくなった。
《我は復活したのだ。この「神獣の王」に従うことによってな。もうお前たちが自由に出来ることなどない》
タンムーズは何かを言い掛けた。
しかし、アラキバが手を振り下ろすことで、塵となって崩れ去った。
《我が主。我は約束する。この者を我が永遠に守ることを》
「そうか、ありがとうな」
アラキバが微笑んで消えた。
俺がシャドウを無事に取り戻したと連絡すると、蓮花が大声で泣き叫んだ。
しばらくそのまま聞いていたが埒が明かないので、ジェシカに替われと言ったが、蓮花は泣きながら、シャドウが本当に無事なのかを何度も問うて来た。
「大丈夫だ! ただ飛行ではシャドウに負担がかかる。ファブニールか何かで迎えに来てくれ」
やっと蓮花がファブニールを用意するように命じていた。
また泣きながら、早くシャドウを連れて来て欲しいと懇願した。
「それを今、お前に頼んだんだろう!」
俺は笑いながら通信を切り、シャドウの容態を改めて確認した。
俺はシャドウの最期の技を知っている。
俺の血を暴走させて、自分の存在の一切を消すものだ。
それは命の終わりと思っていたが、アラキバはそれだけではなかったことを告げていた。
魂の破滅。
シャドウはそれを知っていたのだろうか。
俺は、恐らくそうだったろうと思った。
ただの死ではなく、本当の消滅。
シャドウはそれを自ら望んだ。
先ほど俺が感じた凄まじい波動は、そういうことだったのだ。
魂が爆発する、本当の最期の波動。
それをアラキバが救ってくれた。
30分でファブニールが到着し、シャドウをベッドに寝かせ、4人の襲撃者も収容した。
当然蓮花も乗っており、シャドウに泣いて抱き着こうとするのを俺が止めた。
「検査を終える前に刺激を与えるな!」
「シャドウさん!」
「落ち着け!」
「シャドウさん!」
蓮花の狂ったような叫びを聞いたか、シャドウが目を覚ました。
蓮花を抱き締めて止めている俺たちを見ていた。
「石神様、蓮花さん……」
「シャドウさん!」
「大丈夫か?」
「私は終わったはずですが……」
やはりシャドウは「死んだ」ではなく「終わった」と言った。
魂の消滅まで覚悟していたのだ。
俺は手だけだと言って、蓮花にシャドウの手を握らせた。
蓮花はそれを握りながら、頬を当てて泣いていた。
「後で話す。今はゆっくり休め」
「はい、ありがとうございました」
シャドウは蓮花に優しく話し掛け、大丈夫だと言った。
蓮花はまた大泣きした。
研究所に戻り、シャドウを検査した。
半日かかったが、異常は無かった。
以前に羽入が使っていた個室にシャドウを寝かせ、俺と蓮花、ジェシカだけにして話した。
「シャドウの存在は、まあ仲間として信頼出来、頼もしいという他に、重要なことがあった」
俺の話をみんな黙って聞いていた。
「それは俺の血を体内に取り込んで変化したということだ。だからシャドウの身体を狙う連中が出て来る可能性を考えていた」
「石神様! それは!」
蓮花とジェシカが驚いている。
俺とシャドウ以外に、そういう考え方は無かったのだろう。
もっとも、シャドウはいざという時には自分を滅することを考えていただけだが。
「だから、アザゼルに頼んでシャドウのガーディアンを付けてもらった」
「そんな……」
俺はアザゼルの話を少しした。
かつて、人間を破滅させようとした下級神たちがいたこと。
アザゼルたちは上級神に人間を見守るように言われていたこと。
次々に苛烈な戦いの中で、アザゼルが率いる「エグリゴリ」たちが消され、ついには仲間を裏切り堕落していったこと。
アザゼルたちも、ついに滅びたこと。
「アザゼルが復活し、最後の仲間であった13人も甦った。アザゼルには御堂を護るように頼み、ハスハは柳を護ってくれている」
「それでアラキバ様は、シャドウさんを護ってくれていたのですね?」
「まあ、そういうことなんだがな」
俺は笑って蓮花を見た。
「ただな。アラキバというそのガーディアンは、人間以外を護ることは出来ないと言っていた」
「じゃあ、シャドウさんは!」
「蓮花、落ち着け。だから俺はシャドウが人間以上に人間的であり、アラキバが護るに値するということを話した。アラキバは自分がそれを確信するまでは何もしないと言った。俺はそれでいいと言ったんだよ」
「石神様!」
「だからお前たちにも話せなかった。アラキバにシャドウを見てもらうしかなかったからな」
蓮花が叫んだ。
「シャドウさんほど良い方はいません! 石神様、そんな方はガーディアンからお外し下さいませ!」
「だから落ち着け! シャドウは本当にいい奴だ。だから俺は必ずアラキバも認めると信じた。実際にそうだったんだからな!」
「石神様……」
俺はシャドウを向いて話した。
「お前、死ぬつもりだったな?」
「はい。この身を操られ、もはや敵の言いなりになって蓮花さんやこの研究所を破壊するのだと言われました。ですので、最期の……」
「シャドウさん! なんてことを!」
蓮花がシャドウの身体に抱き着いてまた大泣きした。
本当に、この女は涙が多い。
あれだけ大泣きして、今も尚泣いている。
「そんなことしないで! お願いですから、絶対にしないで!」
「蓮花さん……」
シャドウも涙を零した。
「シャドウ、お前は命ばかりじゃない。魂まで消えることを知っていたんだな」
「はい。そういうものでなければ、あの者の支配を覆すことは出来ませんでした」
「ばかやろう」
シャドウが俺を見ていた。
「まあ、お前のその決意がアラキバに確信させたんだけどな」
俺は微笑んでシャドウの肩を叩いた。
「お前がここを襲おうと、多分失敗していただろう」
「はい、ここの防備は石神様が万全に……」
「だからお前は、蓮花を万一にも傷つけることを考えたんだな?」
「……」
シャドウは黙っていた。
「シャドウさん!」
「蓮花、全部お前のためだ」
「シャドウさんのバカぁ!」
蓮花は大声で泣きながら、シャドウを抱き締めた。
非力な蓮花の力だったが、シャドウは本当に苦しそうな顔をした。
「もう、絶対にそんなことはしないで下さい!」
「蓮花さん……」
「お願いですからぁー!」
「蓮花さん、分かりました」
「それと! 謝って下さい!」
「え?」
「わたくし、どれほど心配したことかぁ!」
「蓮花さん……」
「謝ってぇー!」
シャドウも大粒の涙を流していた。
「はい、本当にすみませんでした」
「シャドウさーん!」
俺は蓮花を落ち着かせるために、シャドウに食事を作ってやれと言った。
だが蓮花は逆らった。
「わたくしは今、シャドウさんに抱き着いていなければなりません!」
「おい!」
「石神様、美味しい物をどうかお願いいたします!」
「俺かよ!」
ジェシカが笑った。
シャドウも笑っていた。
俺は笑いながら厨房へ行った。
ジェシカが手伝うと言って、一緒に来た。
蓮花とシャドウを二人にしてやりたかったのだろう。
「あんな蓮花さん、初めてですよ」
「そうだな」
二人で笑って刺身を切り、鯛を焼き、シャドウの好きな高菜とキノコの混ぜご飯を炊いた。
刻み葱と海苔の出汁巻き卵を焼き、鶏の香草焼きをオーブンで焼いた。
俺の好きなハマグリの吸い物を作った。
病室へ持って行くと、蓮花が味見をした。
「上出来でございます!」
「てめぇ!」
笑いながら、みんなで食べた。
蓮花がシャドウの隣に腰かけ、身体をくっつけながら幸せそうに食べていた。
シャドウに、あれこれと勧めて食べさせながら、自分も一緒に食べて微笑んでいた。
食事を終え、シャドウが立ち上がって大声で言った。
誰もいない空間に向かって頭を下げた。
「アラキバ様! ありがとうございました!」
みんなで同じ言葉で礼を言った。
アラキバの姿は見えなかったが、俺は何かを感じた。
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