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「カタ研」丹沢合宿 Ⅱ

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 お茶を終えて、みんなでテントを張る。
 一江さんと大森さんと陽菜と茜が小屋で寝る。
 柳さんと上坂さん、私、真夜、ルーとハーが一緒のテント。
 坂上さん、ジョナサン、壇之浦君、平君、パレボレが一緒のテント。
 タカさんが買ったクーポラと、もう一張同じものを買っている。
 みんな、居心地の良さそうなテントで喜んでいた。
 もちろん、テントの下に枯れ草を沢山敷いている。

 「ねえ、亜紀ちゃん。イノシシとか狩って来ていい?」
 「今日はやめなよ」
 「「えー!」」

 ルーとハーがぶーたれる。
 二人は、「ここに来ると狩人の血が騒ぐの」と言う。
 狩人じゃないじゃない。

 「陽菜とか茜とかもいるんだから。ここで解体したら気絶しちゃうよ」
 「そっかー」
 「お肉は一杯持って来たじゃん」
 「でもなー」

 やりたそうだが、今日はダメだと言った。
 折角みんなと仲良くなったのに、グロいものを見せて退かれたくない。
 真夜と一江さんたちが大笑いしていた。

 夕飯はもちろんバーベキューだ。
 牛肉だけで80キロある。
 手分けして女子のみんなで食材をカットしていく。
 男子たちには、薪を拾いに行ってもらった。
 
 主に石神家で食材をカットし、大森さんと一江さんが野菜スープを作ってくれた。
 真夜はサラダだ。
 他の女性たちも手伝ってくれたが、カットのスピードが全然違う。
 ダッジオーブンでご飯も炊く。
 
 バーベキュー台に火を入れて、夕飯を食べ始めた。
 多少、私たちは争って食べたが、以前とは違う。
 ちょっとまともな食べ方も出来るようになった。
 真夜も鍛えて仕上がって来たので、私たちと一緒の台で食べるように言った。

 「亜紀さん! 死んじゃいますってぇ!」

 あれ?

 みんな、いろいろ用意したタレで楽しく食べていった。

 「「宮のタレ」って美味しいね!」
 
 上坂さんが喜んだ。

 「そうでしょう! うちは切らさないんですよ!」
 「うちでも買おうかな!」
 「何でも合うんです。サラダにかけても」
 「なるほど!」

 大森さんが作った中華のタレも美味しかった。

 「大森さん! レシピおしえてー」
 「いいよ!」

 双子が喜んだ。

 食事の後で、石神家で片づけをした。
 洗い場は限られているからだ。
 他の人たちには余った食材をまとめてもらい、洗物が終わった私たちでつまみを作った。

 双子が温泉の用意をして、先に男性に入ってもらった。
 女子は山小屋の中でトランプやゲームをした。
 男子と交代で、女子が温泉を使う。

 「あー! 気持ちいなー!」

 大森さんが嬉しそうだった。

 「こんな露天風呂まであるとはね!」
 「星が綺麗!」
 
 みんな喜んでくれる。
 
 「亜紀ちゃん!」

 ハーが叫び、ルーも身構えた。

 「どうしたの!」
 「何か来る! 結構強い奴だよ!」
 「え!」

 そのうちに私にも分かった。
 大森さんが一江さんと他の女子を後ろに移動させた。

 「「「あ!」」」

 大きな狼がいた。
 森から出て、30メートルほど離れた場所で立ってこっちを見ている。

 「あっ! タカさんが前に言ってたじゃん!」
 「あの狼だよ!」

 ルーとハーが言った。
 私も思い出している。

 「大丈夫、みんな! あの狼はタカさんの仲良しだから!」

 私は湯船を出て、狼の前に歩いて行った。
 狼はそのまま動かない。

 「なーに? 会いに来てくれたの?」

 私の後ろでみんなが湯船からあがり、服を着ていった。
 大森さんが指示してくれている。
 ルーとハーは私の後ろにいてくれた。

 「随分大きいね? それに綺麗!」

 私が言うと、狼が近付いて来た。
 本当に堂々としている。
 そして大きい。
 体長は3メートル以上ある。
 狼って、こんなに大きい?

 私がしゃがんで手を拡げると、頭を私の肩に摺り寄せて来た。

 「アハハハハハ!」

 ルーとハーがそっと近づいて来る。
 二人にも警戒せずに、身体を摺り寄せた。

 「カワイイ!」
 「綺麗ね!」

 三人でモフモフした。

 「亜紀ちゃん、大丈夫か?」
 
 大森さんが声を掛けて来る。

 「はい! でもみんなで近づかない方がいいと思います!」
 「分かった!」

 みんなはテーブルの方へ移動した。
 狼はしばらく私たちの傍にいたけど、やがて森に帰って行った。
 私と双子も服を着た。

 「おい、なんだったんだろうな?」
 「さー。でも可愛かったですよ」
 「そうだな」

 大森さんが笑った。
 本当に大らかで動じない人だ。
 それに真っ先に一江さんやみんなを守ろうとしてくれた。
 優しい人なのだ。
 先日は一江さんを助けに、自分よりも強い相手に飛び込んでいった。
 勇気もある人だ。
 私は大森さんが大好きだった。

 男子たちも呼んで、みんなでお酒を飲んだ。
 小屋にいて狼を見ていないので、私たちで話すと驚いていた。
 私とルーとハーで、残り物で手早くおつまみを作った。
 楽しく飲んでいると、森から遠吠えが聞こえた。

 「あ、狼だ!」

 みんなでそっちを向いた。

 「ほんとだ!」
 「随分と大きいな!」

 さっき見ていなかった坂上さんたちが驚いている。
 狼が近付いて来ると、口にウサギを2羽加えているのが見えた。
 離れた場所に、それを置いて、一吼えしてまた森に入って行った。

 「ありがとう!」

 獲物をくれたんだー!
 急いでルーとハーが調理場で処理をしていった。
 香草を使って下処理をして行く。
 解体はみんなが見えないように上手くやっていた。
 明日の朝ごはんだなー!
 
 みんなでひとしきり狼の話をしていると、森の方からゴフゴフという唸り声がした。

 「山の主だー!」

 ルーとハーが叫ぶ。
 体長5メートルの巨大なイノシシが出て来た。
 みんなが驚き、大森さんが落ち着くように言った。

 《いらっしゃるのに気付かずにすみません》
 「「いいよー!」」

 イノシシが私たちの前で頭を下にした。

 
 グッゲェェェェー! ゴボッ! ゲロゲロォー! グッゲェェェェェー! ゲロゲロォー!


 大量のドングリが口から出て来て、ヌラヌラの山になって行った。

 「「「「……」」」」」

 《どうぞ》

 「あ、ありがとうね」

 イノシシが頭を下げて去って行った。
 暫くしてから、パレボレに埋めさせた。
 食べると意外と美味しいのだと言うと、パレボレが一部を洗って持って帰った。
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