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「Ω」の神 Ⅲ

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 翌朝、蓮花の美味い朝食を食べた。

 前に俺が絶賛したウニを溶いたトロロ。
 それに刻んだ新ショウガを入れた出汁巻き卵。
 ハマグリの味噌汁。

 最高に美味かった。
 ロボもマグロの刺身を各種もらって、喜んで食べていた。

 「お前とやる小料理屋が楽しみだな!」
 「はい!」

 蓮花が嬉しそうに笑った。
 少しでも蓮花の緊張をほぐそうと思っていた。
 決意はもちろんあるのだが、やはり蓮花は「Ω」が苦手だ。

 俺たちは「Ω」の飼育場へ移動し、防護服を着てお互いの装備のチェックをした。
 万一のことがあるので、必ず装備は別な人間のチェックを受けることになっている。
 ダイビングのバディチェックと同じだ。

 もう、子どもの救出は考えていない。
 何故、子どもの映像が映ったのかを探ることだけを考えている。
 あれだけ「ロータス」に探させて、他に画像が見つからないのであれば、それは実在していないということだ。

 俺と蓮花が飼育場に入ると、5メートル級の最大の「エグリゴリΩ」が正面にいた。
 「Ω」は全て銀色の表面をしているが、最大の「エグリゴリΩ」はそれが一層輝いているように見える。
 その後ろに「エグリゴリΩ」たちが並び、更に後方に全「Ω」たちが整列していた。
 何らかの感覚で、俺が中へ入ることを察知したのだろう。
 驚くべき「Ω」たちの能力だ。
 8万のも「Ω」の整列に、やはり蓮花が脅えていた。

 「おう! 出迎えてくれたのか!」

 《キュ! サッ!》

 あのジークハイルを掛け声と共に繰り返す。

 「御苦労! 先日、人間の子どもの姿が見えたんでな。その調査に来たんだ」

 5メートル級の「エグリゴリΩ」が後ろを向き、俺たちを祭壇に案内した。
 まあ、案内だったのかどうかは分からなかったが、そんな雰囲気だったので後を付いて行った。
 「Ω」たちが横に移動して道を開けて行く。
 やはり、一糸乱れぬ行動だった。

 祭壇には俺の血、髪の毛、そして俺の型取りチンコがある。
 ここだけは神聖な場所として、アンドロイドたちも近づかないようにしている。
 5メートル級の「エグリゴリΩ」が祭壇の前で止まり、右前足を高く掲げた。

 「Ω」たちが歌い始めた。

 《キュッキュキュー キュッキュキュー キューキュー キュッキュキュー》

 明らかなメロディであり、Cマイナーの旋律だった。
 しかも二重旋律で「Ω」たちが歌い、混声合唱になっていた。
 蓮花と共に驚く。

 そして、祭壇に何かの気配がした。
 
 「おい、蓮花!」
 「は、はい!」

 俺の血を入れたガラスケースから、何かが立ち上って行く。
 それが次第に凝縮していった。

 「「!」」
 
 髪の長い人間の男児の姿になった。

 「石神様! あのお顔!」
 「ああ」

 俺の7歳くらいの時の顔にそっくりだった。
 蓮花は、以前に俺の「ちびトラちゃん」の姿を観て知っている。
 子どもが俺たちを見ていた。
 表情は無い。

 「じょじょーう じょーじー」

 俺が話しかけても無反応だった。

 「……」

 やがて歌が終わり、子どもの姿も消えて行った。

 「分かった! ありがとうな!」

 俺は笑顔で手を振って蓮花を連れて飼育場を出ようとした。
 その時、祭壇にまた何かの気配が生まれた。
 蓮花は気付いていない。

 「石神様?」

 俺は手で制して蓮花を俺の後ろに回した。
 祭壇の中心に何かがまた凝縮していく。

 「!」

 それはロボの姿を取った。
 いつもの白いフワフワの毛のロボではない。
 プラズマの高エネルギー体のものだ。
 周囲に高電圧の火花が散っている。

 「ロボ!」

 プラズマのロボが、5メートル級の「エグリゴリΩ」に近づいた。
 
 ぷす

 ロボの長い爪が、「エグリゴリΩ」の頭部に突き刺さった。
 「エグリゴリΩ」が痙攣して動かなくなる。
 「Ω」たちが騒ぎ出した。

 《キュ! キュ!》

 俺たちは訳も分からず呆然とそれを見ていた。
 プラズマロボはすぐに消えた。
 俺と蓮花は様子を見るために、その場に留まった。
 今移動すれば、「Ω」たちにどのような刺激になるかも分からない。
 10分後、5メートル級の「エグリゴリΩ」が動き出した。

 《キュ!》

 何かを叫ぶと、全ての「Ω」が俺に右前足を掲げる。

 「お、おう!」

 《キュ! サッ!》

 あのジークハイルの動作を繰り返している。
 蓮花を連れて、飼育場を出た。


 



 「石神様!」

 外に出て、蓮花が俺に抱き着いて言った。

 「あ、ああ」
 「あれは一体!」
 「分からんよ」
 「でも、石神様は「Ω」たちに分かったと」
 「そう言うしかねぇだろう!」

 30分程、飼育場の中にいた。
 でも、俺も蓮花も相当疲弊していた。
 ありえない現象に直面していたからだ。

 俺は外にいた増本に、ロボがどうしていたかを確認した。

 「あの子どもの姿をロボさんも見ていました。そうしたら急に立ち上がって、全身の毛を逆立てて」
 「それで?」
 「私が見ていたのはその状態だけです。でも、すぐ後に祭壇にあのプラズマ体が」
 「ロボはここにいたんだな?」
 「はい! ずっと! 中のプラズマ体が消えると、そのまま毛づくろいを……」
 「そうか」

 やはりロボの分体のようだった。
 ああいうことも出来るかー。
 蓮花に話しかけた。

 「まあ、やはり人間の子どもじゃなかったな」
 「はい」
 「「Ω」は宗教を生み出した」
 「は、はい」
 「宗教っていうのは、要は神の存在を信ずることだ」
 「はい?」
 
 この地球上に、人類以外に神を抱く存在が生まれた。
 もしかすると、人類が滅びても、「Ω」が跡を継いで行くのかもしれない。
 それにしても、分からないのはロボの行動だ。

 「まー、あんまし考えないようにしようぜ!」
 「石神様!」

 蓮花は何か言いたげだったが、そのまま押し黙った。
 ロボが俺をジッと見ていた。
 カワイイので、モフモフしてやると、横になってもっとやれとねだった。





 5メートル級の「エグリゴリΩ」は、翌日銀色の身体から、金色の身体へ変化した。
 俺は興奮する蓮花の報告を受け、大丈夫だから気にするなと言っておいた。

 もう知らねーよー!
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