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一江と怪談ライブ Ⅱ

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 墓場の毛太郎他、どの怪談師の話も面白かった。
 俺と一江は楽しく怖がりながら酒と料理を楽しんだ。

 そしてギルティさんが真打で登場し、会場が湧いた。
 ギルティさんの話は流石の圧巻で、会場の空気が変わった。
 ある交差点近くの一軒家の家族の因縁の話だった。
 
 「えー、こういうコワイ話をしていますと、霊が寄って来ると言います。先ほどから、天井のライトが揺れているのを、みなさんお気づきでしょうか?」

 ギルティさんが指さし、みんなが見ると、確かに大きな照明が揺れていた。
 スタッフが何人か走り、真下の客の椅子を移動させる。
 ギルティさんが次の話を始めると、突然「パシン」という音が鳴った。

 「ラップ音が聞こえた!」

 誰かが叫び、会場が騒然となった。
 そして、直後に次々と「パシンッ! バッシン! バッシン!」という大きな音が聞こえてくる。
 ステージの真ん中に幾つか立てていた大きな蝋燭の炎が一本消えた。
 室内なので、風は無い。
 ますます会場が騒いだ。

 ギルティさんの話が終わり、ギルティ氏の顔が真っ青になっている。
 会場も静まり返っていた。

 「いやぁ、まさかここまでのことが起きるとは。私もこれほどのことは初めてです」

 一応ライブは終わったとみんなが思ったが、ギルティさんが笑顔になって言った。

 「ええ、今日はシークレットのスペシャル・ゲストをお呼びしていると事前に通知しました。実はご本人にも何も話していません。その方はある大病院の医師の方で、様々な怪談をお持ちの方です。私が実際にご本人に怪談話をお聞きし、総毛だちました! 石神先生! 今日はここでお話し下さいませんか!」

 ギルティさんがステージを降りて来て、俺のテーブルの前まで来た。
 まあ、テーブルのメッセージカードに、俺に話して欲しいという内容があった。
 俺もこんなに立派なライブに呼んでもらったということで、引き受けることにした。
 ライブが始まる前に、スタッフの人が俺に確認に来て、俺も了承していた。
 
 俺はギルティさんに連れられて、ステージに上がった。
 用意されたソファに腰かける。
 ギルティさんは俺の向かいのソファに座った。
 何かあればフォローしてくれようとしているのだろう。
 有難い。

 「えー、突然、私のような素人がすみません。拙いものですが、お邪魔してお話しさせていただきます」

 会場から拍手が沸いた。

 「部長! あの出来物の話を!」

 一江が叫んだ。
 一江も俺を助けてくれようとしているのだろう。

 「ああ、分かった。私は港区の病院で医者をしていますが、5年前にある患者さんを担当しました」

 俺は語り出した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 その患者は埼玉在住の、60代の男性だった。
 仮にMさんとする。
 Mさんは、カタギの人間ではなく、ある指定暴力団の幹部だった。
 うちの病院に来たのは、傘下の病院から手が施せない難病だったためだ。

 病名は皮膚ガンだったが、左の背中の肩甲骨辺りに直径5センチにも肥大していた。
 通常は皮膚ガンは比較的簡単なオペで切除すれば良いのだが、Mさんの症例は特殊だった。
 ガンの組織から、謎の繊維が伸びている。
 それが心臓の左心室に繋がっていた。
 病理的に、どういう構造なのか分からない。
 様々な検査の結果、神経線維ではないかという所見となった。
 
 あり得ない。
 ガン組織から神経が伸び、更にそれが臓器と癒着している。
 担当医はあまりの異常事態に、それを切断して良いものかどうか判断に迷った。
 
 判断に迷う別な理由があった。
 5センチの皮膚ガンが、人間の顔のように見えたためだ。

 丸い顔で、目を閉じて鼻があり、口のようなものまであった。
 そして、頭髪のように額のように見える上から毛が伸びていた。
 皮膚ガンは様々な形があり、人間の顔のように見えるものがあってもおかしくはない。
 しかし、あまりにもリアルで、担当医は「人面咀」という言葉が浮かび、それを恐れた。
 おぞましい人面咀から神経線維が伸び、左心室に繋がっている。
 それを切断した場合、心臓に影響があるのではないか。
 ある意味で非科学的だったが、この異常な皮膚ガンはそれを否定できなかった。
 そして、うちの病院に転院された。

 俺が担当することになった。
 オペ自体はいつでも出来たが、俺は念のためにMさんと話をした。

 「まあ、困ったもんですよ。どいつもこいつもビビりやがって」
 「そうですか」
 「女房も愛人も、これが出来てからは身体にも触らせてくれねぇ」
 「大変ですね」
 「男連中までそうだ。気味が悪いってねぇ。なんだってんだ、ちくしょう!」
 「アハハハハハ!」

 俺ももちろん実物を見ている。
 うちの病院でもMRIやCTで入念に観察した。
 確かに気味が悪いというのは分かる。

 「確かに顔に見えないこともないですからね」
 「まあねぇ。でもそれだけじゃねぇんですよ」
 「え?」

 Mさんが話し始めた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 バッァァァァン!

 突然大きな音がして、俺も話を中断した。
 俺から一番離れた蝋燭が、突然爆発した。

 「キャァァァァー!」

 観客の女性たちが悲鳴を上げ、他の客たちも騒ぎ始めた。
 スタッフが2人ステージに上がり、蝋燭を調べて行く。
 ギルティさんが立ち上がって、会場に向かって言った。

 「流石は石神先生だぁ! 僕もそれなりにやる人間だと思ってたけど、石神先生は本物だ! みなさん! こんな機会はありませんよ! 怪談ライブの最高の舞台が今日観られます! 僕が保証しますよ!」

 興奮して話していた。
 観客たちも落ち着きを取り戻し、「最高の舞台」への期待が恐怖を上回った。

 「さあ、石神先生、続きを!」
 「え、いいの?」
 「もちろんです! お願いします!」
 「じゃ、じゃあやるね?」
 「はい!」

 俺はまた語り始めた。
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