上 下
2,194 / 2,806

激涙! 暁の三連星 Ⅳ

しおりを挟む
 夕食を終え、みんなで交代で風呂に入り、俺は酒を飲んだ。

 「おい、飲みたい奴は一緒に飲もうぜ」
 「「「「はい!」」」」

 いつもなら真っ先に一緒に飲みたがる亜紀ちゃんが、自分の部屋に行こうとした。
 ルーが声を掛けた。

 「あれ? 亜紀ちゃん、一緒に飲もうよ!」
 「え?」
 「ほら、おつまみ作ろ?」
 「!」

 亜紀ちゃんは他の子どもたちがいつも通りなので、不思議そうな顔をしていた。
 自分が避けられていると思っている。

 「おい、美味いもの作ってくれよな!」
 「はーい!」

 ルーが亜紀ちゃんの手を引っ張ってキッチンへ入った。
 ハーも柳もニコニコして一緒に入る。

 ルーが余った鳥団子で黒酢餡かけを作っていく。
 亜紀ちゃんがあまり食べなかったので、ここで食べさせようとしていた。
 ハーは鮭とばとニラ、キャベツで炒め物を作る。
 そこへ鶏がら出汁のスープを注いで、柔らかく煮込んで行った。
 柳はカプレーゼを作り、皇紀は鳥団子を串に刺してタレを塗ってつくね串のようなものを焼いた。
 亜紀ちゃんは泣いているのを必死で隠しながら、刺身を切っていた。

 「おお、美味そうだな!」

 俺が笑って言うと、みんなが喜んで飲み始めた。
 努めて楽しい話題を話した。

 「今度、家族全員でドライブにでも行くかぁ!」
 「タカさん、いいね!」
 「全員って初めてだよね!」

 双子も敢えてノッて来る。
 亜紀ちゃんが落ち込んでいるのが分かっているからだ。

 「な? 楽しいよな!」
 「「うん!」」
 「皇紀も行くからな!」
 「分かりました!」
 「柳はどこへ行きたい?」
 「え、あー! 海!」
 「ベタだなぁ」

 みんなで笑った。

 「亜紀ちゃんはどうだよ?」
 「え、私ですか。私はどこでも」
 「よし! じゃあ行き先は亜紀ちゃんの行きたいとこな!」
 「「「「さんせー!」」」」

 「みんな……」

 亜紀ちゃんが泣き出すので、みんなでつまみを喰わせた。
 まあ、これで自分が弾き者になっていないことは分かっただろう。

 皇紀と双子は、亜紀ちゃんに見つからないように、「花見の家」で鍛錬をしていた。
 忙しい中だったが、三人で必死にやった。
 よく3人で出掛けるので、亜紀ちゃんが一度「私も一緒に行っていい?」と聞いた。
 ルーに素気無く断られ、また落ち込んでいた。





 そして2週間が過ぎた。
 




 2月の第3週の土曜日。
 その日は満を持しての「すき焼き大会」だった。
 獣用の大鍋がやっと届いたからだ。
 鍋料理自体が、前回の亜紀ちゃんの落ち込みを観ていたので避けていた。
 他の子どもたちは大歓声で喜んだが、亜紀ちゃんだけは委縮している。
 奪い合いの食事は、前回の「すき焼き大会」以来になる。
 今回は皇紀と双子の希望で、ウッドデッキでやることになった。

 子どもたちが用意をし、亜紀ちゃんがいつも通りに50キロの肉を自分たち用に切り分ける。
 俺には1キロを用意させた。

 準備が出来ると、皇紀と双子が一度部屋へ行った。
 《赤い三連星》というTシャツに着替えて来た。

 「何それ?」
 
 亜紀ちゃんがよく分からないという顔をしている。

 「亜紀ちゃん! しばらくの間ごめんね!」
 「私たち、もう大丈夫だから!」
 「お姉ちゃん、本当にごめん。今日からまた一緒だよ!」

 「あの、私は?」

 柳が相変わらずだった。

 「みんな、どうしたの?」
 「それはすぐに分かる!」
 「思い切りきなさーい!」

 ルーとハーが笑顔で叫んだ。
 釣られて、亜紀ちゃんも微笑む。

 「分かった。じゃあ、宜しくね!」

 すき焼きの鍋に、大量の肉が入った。
 俺は自分の鍋を用意しながら、それを眺めていた。
 肉が煮えて行く。

 「お姉ちゃん! 行くよ!」

 皇紀の後ろにルー、ハーが並んだ。

 「!」

 亜紀ちゃんが驚きながら構える。
 皇紀が捨て身のタックルを亜紀ちゃんにかます。
 亜紀ちゃんは余裕で皇紀の背に両手を付いて、空中に跳ねようとした。
 突如、皇紀の背後からルーがジャンプして来た。
 亜紀ちゃんが凄まじいストレートを左手で受けようとする。
 同時に、ルーの更に上からハーが飛び蹴りで突っ込んで来る。

 「ちょっとぉー!」

 「「「赤き三連星!」」」

 三人が叫び、亜紀ちゃんの顔面にハーの飛び蹴りが突き刺さった。
 亜紀ちゃんがぶっ飛ぶ。
 ウッドデッキから飛び出して、庭を転がっていく。

 「「「やったぁー!」」」

 三人がハイタッチで喜んでいた。
 そして亜紀ちゃんの方へ走って行く。

 「大丈夫?」
 「ちょっと痛かった?」
 「お姉ちゃん、鼻血が出てるよ!」

 「あんたらー!」

 亜紀ちゃんが笑顔で起き上がり、そして涙を零した。

 「スゴイ攻撃だったね!」
 「そうでしょ?」
 「三人で一杯練習したんだ」
 「お姉ちゃんと一緒に鍋を食べるためにね!」

 「あんたたちー!」

 四人が抱き合って泣いていた。
 付き合いのいいロボも駆け寄って亜紀ちゃんの脚に身体をこすりつけた。

 「おい、柳」
 「ファイ?」

 柳が誰もいなくなった鍋の、大量の肉を口に入れていた。

 「お前も行った方がよくね?」
 「あ、あぁ!」

 柳が走って行き、亜紀ちゃんの背中から抱き締めた。

 「柳さん!」
 「亜紀ちゃん、良かったね!」

 ロボが柳に足を踏まれそうになり、「大銀河黄昏流星キック」をぶち込んだ。
 柳が庭の果てまで飛んで行った。

 亜紀ちゃんが笑顔で大泣きしている。
 三人の兄弟が自分のために頑張ってくれたことを理解した。
 俺も笑って、子どもたちの鍋に肉を投入した。

 「おい、早く戻ってどんどん喰え!」
 「「「「「はーい!」」」」」

 みんなが笑顔で戻り、鍋を囲んだ。

 「よーし! 本気だすぞー!」
 
 亜紀ちゃんが嬉しそうに叫んで、鍋をついた。
 他の子どもたちは笑って、亜紀ちゃんに食べさせようとした。

 「「「「え?」」」」

 亜紀ちゃんが掴んだ肉をみんなの器に入れて行く。

 「「「「!」」」」

 「はい! みんなありがとう!」
 「「「亜紀ちゃん!」」」
 「お姉ちゃん!」

 その日は争いもなく、みんなで仲良く食べていた。
 亜紀ちゃんが本当に嬉しそうで、どんどんみんなに肉をやり、またみんなも亜紀ちゃんの器に入れて行った。





 あのよ。
 俺もちょっと感動したんだけどさ。

 いつも、そうやって喰ってくれない?
 あのね、前からそういう話、してんじゃん。

 そして、次の「すき焼き大会」で「赤き三連星」をぶっ放したハーが亜紀ちゃんの反撃に遭い、飛び蹴りを鍋にぶっ込んだ。
 鍋が爆発して四散した。

 合羽橋ででかい鉄のお鍋を買いました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...