上 下
2,193 / 2,808

激涙! 暁の三連星 Ⅲ

しおりを挟む
 騒いでタカさんに怒られ、みんなで謝った。
 柳ちゃんがお風呂から上がってきたので、部屋に引き入れた。
 柳ちゃんにも、今私たちが掴んだものを説明する。
 もう一度皇紀ちゃんが見せてくれた映像を確認して、またみんなで夢中になった。

 「この3人の連続攻撃だよ!」
 「うん! 絶対上手く行くね!」
 「第一カッコイイしね!」

 「え、3人?」

 柳ちゃんがなんか言ってた。

 「「「よし! やろう!」」」

 「えーと、私は?」

 「まずはフォーメンションと攻撃技を考えて行こうよ」
 「最初はやっぱ皇紀ちゃんが亜紀ちゃんの攻撃を防ぎながらかなー」
 「私が次の攻撃で、ハーは最後のとどめだね」
 
 「だから、わたしー!」

 「お姉ちゃんは超天才だからね。よく考えて組み込まないと」
 「スピードもパワーも技も、私たち以上だからね」
 「並みの攻撃じゃ通じないよね」

 「べ、べつに、私、いいんだけどさ……」

 私たちは一生懸命に話し合った。
 技名は「赤い三連星」に決まった。

 「よ、四連星にならない?」

 明日から特訓だぁー!




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 子どもたちが特製の鍋をぶっ壊したので、俺は以前に購入した合羽橋の鍋屋に電話した。
 あの当時も、出来るだけ大きな土鍋ということで、調理器具の問屋が並ぶ合羽橋の鍋屋を捜し歩いた。
 合羽橋の問屋街の素晴らしい所は、自分の店で間に合わない場合に、必ず置いていそうな店を紹介してくれるのだ。
 商売人としての貴い道徳があり、また他の店のことも熟知している。
 つまり、どこの店も誇りを以て正しい商売をやろうとしている、ということだ。
 だから俺も食器類、調理器具の購入は合羽橋に行くことが多い。
 まあ、食器類はデパートや直販店も多いのだが。

 「前に直径80センチの土鍋を頼んだ者なんだけど」
 「ああ、石神さんですか! その後いかがですか、使い心地は!」

 俺のことを覚えていてくれた。
 やっぱり素晴らしい。
 まあ、あの鍋を買った時に結構話し込んだためだろう。
 個人宅で直径80センチもの土鍋など、買うわけもない。
 鍋は大きくなれば、火の通りも遅くなる。
 一般家庭では使いにくいことこの上ない。
 俺は子どもたちの「喰い」の情熱を打ち明け、店主が大笑いしてくれた。

 「うん、重宝してたんだけど、昨日割れてしまってね」
 「え! あれ、相当頑丈なものでしたよ? 落としたって割れないくらいに」
 「申し訳ない。本当にいいものだったんだけど」
 「そうですかー。まあ仕方ないですね」
 「それで、また同じものは手に入るかな?」
 「あれ、ちょっと特殊なルートで仕入れたものでしてね。時間が掛かるかもしれませんが」
 「構わないよ。お願いします」
 「分かりました!」
 
 店主は多分3週間かかると言っていた。
 仕方がない。
 それまでは、うちにある他の鍋を使おう。
 子どもたちのことを考えながら試行錯誤して、幾つも鍋がうちにはある。




 二月最初の土曜日に、鳥の肉団子鍋が夕飯だった。
 俺も特に用事もなく、子どもたちと一緒に食べた。
 俺の鍋はいつも通りだが、子どもたちの鍋は2つに分ける。
 鳥団子も大量に食う連中なので、1つの鍋ではあいつらの回転数に合わない。
 2つ用意させ、適当に2組で食べるだろうと思っていた。

 ちょっと違った。

 皇紀、双子、柳が一つの鍋を囲み、亜紀ちゃんが一人だった。

 「あ、あのさ、誰かこっちのお鍋に来ない?」

 亜紀ちゃんが動揺していた。
 空気は読めないが優しい柳が言った。

 「じゃあ、私が行くね!」
 
 しかし、ルーが止めた。

 「ごめんね、亜紀ちゃん。今日は一人で食べて」
 「え?」
 「柳ちゃん、一緒に食べよ」
 「え、でも……」
 「お願い」
 「え、うん。分かった」
 「!」

 「……」

 亜紀ちゃんはショックを受けていた。
 俺も先日のことでまだわだかまりがあるのかと思った。
 でも、4人の食べ方を見て、そうではないということが分かった。
 亜紀ちゃんは気付いていないが。
 まあ、俺から話せないことだということも分かってしまった。
 可哀そうだが、4人が納得するまでやらせるしかない。

 「じゃ、じゃあ一杯食べようかな!」

 亜紀ちゃんが悲しそうな顔で笑って言った。
 精一杯明るく振る舞おうとしている姿が憐れだった。
 
 やはり、全然楽しそうではなかった。
 あの肉好きの亜紀ちゃんが、あんまり食べなかった。
 4人も気付いていて、申し訳なさそうな顔で、悲しい亜紀ちゃんを見ていた。
 そして、柳を使って、3人で特殊な食べ方をしていた。
 ルーが落ち込んでいる亜紀ちゃんを見て、堪らずに言った。

 「亜紀ちゃん、一杯食べなよ!」
 「そうだよ! 独り占めじゃん!」
 
 ハーも堪らずに声を掛けた。
 亜紀ちゃんはちょっと驚き、笑顔を見せた。

 「そうだよね! じゃあ、食べるね!」
 「「うん」」

 それでも全然食べない。
 涙を流しそうになったが、それだけはと必死に耐えていた。

 「ちょっと喉が渇いたな!」

 そう言って、キッチンに行き、そしてそのままリヴィングを出て行った。

 「おい、お前ら」
 「タカさん! 違うの!」
 「分かってるけどよ。早く仕上げろよな」
 「え! は、はい!」
 
 皇紀と双子は、対亜紀ちゃんの技を考えている。
 それは亜紀ちゃんをいじめるためではなく、対等に兄弟たちでまた争うためだ。
 突出した亜紀ちゃんの力に何とか追いつこうとしている。
 そうしなければ、兄弟の絆が危ういのだと思っている。

 しばらくして、亜紀ちゃんが戻って来た。
 目を真っ赤に腫らしていた。
 みんな、それに気付かない振りをした。
 
 「さー! 食べるぞー!」

 亜紀ちゃんが明るく叫んだ。

 「うん! 亜紀ちゃん、一杯食べてね!」
 「ありがとう! でも、少しそっちに回すね」
 「ありがとう!」
 
 何だか、気を遣い合っている。






 まあ、お前ら、普通に食えよー。
 柳は三人の猛攻で本当に全く食えなかった。
 俺が呼んで俺の鍋を喰わせた。

 だからさー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...