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《オペレーション・ティアドロップ》 Ⅳ

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 アラスカへ帰投し、千石をすぐに「虎病院」へ運んだ。
 機内で大まかな症状は把握している。
 折れた脊髄が4カ所あり、その周辺の組織が炎症で腫れ上がっている。
 「Ω」と「オロチ」の粉末は細胞の再生は高めるが、脊髄のようなデリケートな修復は出来ない。
 内臓が傷ついても修復するが、神経組織の繊細な部分は人間の手が必要だ。
 ハーの「手かざし」で大分良いが、緊急のオペが必要だった。

 亜紀ちゃんが自分が最大速度での高速機動をしたせいだと言って、俺に謝って来た。
 もちろん、俺は何も叱ることもなく、よくやったと言った。
 恐らくその速度を出さなければ、二人とも死んでいただろう。
 柱の《神》の指向性振動波攻撃は、周囲の空気分子を激しく励起し、超高温と共にプラズマ化し、放射線まで飛ばしていた。
 飛び立てなくなった「タイガーファング」の量子コンピューターと霊素観測レーダーが、それを記録していた。
 直撃はもちろん、ある程度の距離を取らなければ、やられていたのだ。
 そして、亜紀ちゃんたちを狙ったことで、「タイガーファング」は無事だった。
 あの指向性の振動波は、「タイガーファング」の装甲も破壊しただろう。

 「虎病院」では、俺が執刀した。
 脊髄の神経は幸い傷ついておらず、骨の破片を丁寧に融合させた。
 オペ中にルーとハーの「手かざし」も頼んだ。
 流石の威力で、目の前で俺が固定した骨が癒着して行った。
 麻酔をかけるまでは恐ろしい激痛だっただろうが、千石は呻きもせずに耐えていた。
 まあ、石神家本家での経験が役立ったのかもしれない。
 それにしても、大した根性だった。

 全身をMRIで確認すると頭蓋骨を始め、全身の骨に細かなヒビもあった。
 亜紀ちゃんに聞くと、最初の振動波攻撃で、サーシャに覆いかぶさっていたらしい。
 千石の肉体で振動波が減衰され、サーシャには影響が無かった。
 その時点で、千石は激しい痛みがあったはずだ。
 その負傷も、「Ω」と「オロチ」の粉末、双子の「手かざし」で治った。

 オペを終えると、オペ室の外でサーシャと亜紀ちゃんが待っていた。

 「サーシャ、千石は大丈夫だ」
 「ほんとですか! ありがとうございます!」

 サーシャが大泣きした。

 「私があんなことを頼んだばっかりに!」
 「何を言ってる。俺たち全員がやりたかったんだ。千石は特にな。そして俺たちはやり遂げた。サーシャ、喜んでくれ」
 「は、はい!」

 サーシャが涙を拭った。

 「千石はしばらく寝かせる。また会わせてやるから、今日は家に帰れ」
 「はい」
 「お母さんが心配しているだろう。それと、お父さんの遺体を持ち帰れたと話してやれよ」
 「はい! 石神さん、本当にありがとうございました!」
 「良かったな!」

 俺がサーシャの頭を撫でてやると、やっと笑った。
 亜紀ちゃんが家まで連れて行く。

 「さて、少し休んだら話し合うぞ」
 「「はい!」」

 ルーとハーも疲れているはずだが、早急に話し合って置かなければならない問題があった。
 ターナー少将、参謀たちと今回の作戦指揮官を2時間後に集合させた。
 俺と双子は一旦食事をし、「虎の湯」で疲労を癒した。
 ハーは特に臭かったので、俺とルーとで徹底的に全身を洗った。
 亜紀ちゃんも遅れて一緒になった。

 



 ヘッジホッグの幹部作戦会議室。
 「虎」の軍のトップが集結した。

 「まずはみんなご苦労だった。みんなの努力で《オペレーション・ティアドロップ》は成功した。ありがとう」

 俺は今回の議題を話した。

 「作戦は成功したが、予想外のことがあった」
 「タイガー、敵が準備していたということだな?」
 「そうだ、ターナー少将。事前に俺たちの作戦を把握していない限り、2000体の妖魔はともかく、《神》の召喚も間に合わない」
 「セイント、何か分かるか?」

 聖は腕を組んで目を閉じていた。

 「順当に考えれば、スパイがいるってことだ」
 「そうだな」
 「でも、このアラスカでスパイはあり得ない」
 「その通りだ」

 アラスカの全住民は、タマの精神走査を受けて、敵対する者は必ず分かる。
 それに、別途「虎」の軍に敵対しないように精神操作も受けている。
 洗脳と言ってもいいが、忠誠を誓うようなものでもない。
 嫌になれば出て行く、というものだ。
 
 「だったら、ヤバいぜ」
 「それは?」
 「即座に《神》クラスを用意出来るか、もしくは俺たちの行動を自在に把握出来る方法があるということだ」
 「!」

 ターナー少将を始め、全員が驚いている。

 「タイガーはどう思う?」
 
 ターナー少将が俺に聞いた。

 「聖の言う通りだ。まあ、《神》クラスの召喚はどうしても時間が掛かると考えている。それは召喚の方法が膨大な生贄を必要とするためだ」
 「既に準備していたという可能性は?」
 「それも無いだろう。召喚してそのまま制御できるとは思えない。即座に俺たちにぶつける以外にはな」
 「なるほど。では」
 「ああ、聖が言った、俺たちの行動を把握する手段があるということだ」
 「それはどういう方法だ!」

 ターナー少将が叫んだ。
 もしもそんな方法があるのならば、俺たちの作戦は根底からきつくなる。

 「これまでの戦闘で、俺が感じていたことでもある。羽入と紅がブラジルの拠点を襲った時に、予想外の「柱」のライカンスロープが立ちはだかっていた。念のために聖を派遣しておかなければ、二人ともやられていた」

 全員が息を呑んでいる。

 「グアテマラの戦闘もそうだ。現時点での最精鋭で向かったが、あれもヤバかった。地獄の悪魔が待ち受けていたしな。それは北アフリカの戦闘でも登場した。あと一歩で、確実に大きな犠牲が出たはずだ」
 「では、タイガーはどう思っているんだ?」
 
 「敵に、予言者がいる」
 『!』

 聖を除く、全員が驚愕していた。

 「だが、万能ではない。それはポーランド、南アフリカやトルコのパムッカレでの戦闘で分かる。俺たちが喪うわけには行かない人間が行っても、その準備は無かった。それは、予言が常に発揮されていないということだ」
 「でも、今回の《オペレーション・ティアドロップ》では発揮された」
 「その通りだ。どういう訳だかはまだ不明だがな。今後はそのことを含めて作戦立案をする必要があるということだ」
 「なんということだ……」

 ターナー少将や参謀たちが青くなっていた。

 「そう落ち込むな。これまでの戦闘でも、準備されても撃破して来たんだ。敵の「準備」も分かって来た。安心は出来ないが、《神》や地獄の悪魔が最高度のものだと思っていればいい。まあ、《神》は俺がやるしかないが、地獄の悪魔は聖でも対応できそうだよな」
 「ああ、任せてくれ」

 聖が請け負ってくれた。
 俺は次の議題に移った。

 「今回、危急のことで随分と俺たちの戦力を明かしてしまった」

 俺の「虎王」の「暗星落」や、聖の「聖光」の威力などだ。
 亜紀ちゃんの回避スピードも観測されただろう。

 「《神》に向かって撃ったのは「散華」の方だ。「聖光」で妖魔を撃破したが、威力は相当抑えた」
 「そうか。俺は「暗星落」と「 羅睺光臨」を使った。時間が無かったからな」
 「仕方無いだろう。全部ギリギリのタイミングだった。一瞬でも躊躇していたら、間に合わなかっただろうよ」
 「そうだな」

 聖が言った通り、本当にギリギリだった。
 特に聖が間に合わなければ、亜紀ちゃんんたちはやられていたかもしれない。

 「観測者は見つからなかった。悔しいがな」
 「しょうがないよ、トラ。俺たちは今よりも強くなるしな」
 「そうだな」

 俺たちの力を観測したとしても、敵がそれに対応出来るかどうかは別な話だ。
 もちろん、俺も「虎王」の全てを解放したわけでもないし、より強力な技もある。

 「まあ、こんなところかな」

 「タイガー。敵の予言者のことは調べておきたい」
 「ああ、そうだけど、何か方法はあるか?」

 「そろそろ、「ボルーチ・バロータ」を本格的に攻める時期じゃないか?」
 「そうだな」
 「ロシア本土への直接攻撃も始めて行きたい」
 「どちらも慎重にな。「ボルーチ・バロータ」については、レジーナにも相談してみるよ」
 「ああ、バチカンもな」
 「分かった」

 最後にターナー少将が言った。

 「俺たちにも「予言者」がいるんだよな?」
 「まあ、そっちはまだ期待しないでくれ。それに極秘事項だということは心得ておけよ」
 「分かっている。ここにいる人間しか知らないことだ」
 「そうだな」

 俺はしばらく会っていない響子の顔を思い浮かべた。

 「じゃあ、解散だ。ご苦労だった!」

 全員が俺に敬礼し、解散した。





 「聖! 飲みに行こうぜ!」
 「うん!」
 「あー! わたしもー!」
 「「わたしたちもー!」」

 亜紀ちゃんと双子も来たがった。

 「分かったよ! じゃあ「ほんとの虎の穴」に行くぞ!」
 「「「はい!」」」

 亜紀ちゃんとハーは早々に潰れた。
 相当疲労が溜まっていたのだろう。
 ルーに二人を担いで帰らせた。
 
 聖と二人で本格的に飲んだ。
 本当に楽しい酒だった。
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