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《オペレーション・ティアドロップ》 Ⅲ

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 「虎王」で巨大な卵に斬り付けた。

 「連山!」

 卵の表面が砕け散って行く。
 人間大の破片が周囲に飛んで行った。

 「!」

 破片が変化した。
 天使の形になって、自律的に飛行を始める。

 「ハー! あの天使たちを殺せ!」
 「はい!」

 ハーが目を閉じて何かを唱えた。

 「ウンコ分身!」

 頭にウンコを乗せたハーが100体に分裂した。
 一斉に飛んで、天使たちを迎撃していく。

 「……」

 一瞬、それを見ていたが、俺はまた卵に斬り掛かった。
 破片はどんどん天使に変わっていく。
 俺はそれも斬りながら、卵に斬りつけた。

 「タカさん! こっちはそれほどもちません!」
 
 亜紀ちゃんからインカムに連絡が入った。

 「恐らく振動波です! 広範囲に分子振動が起きて、体内の血が高温になります!」
 「大丈夫か!」
 「今は! でも何度も喰らえば! デュールゲリエも5体倒れました!」
 「!」

 俺は聖に連絡した。
 亜紀ちゃんたちが苦戦していることを伝える。

 「分かった! こっちはもう終わる! 亜紀の所へ行く!」
 「頼む!」

 俺は時間を掛けられないことが分かった。
 間違いなく観測されているに違いないが、俺は大技を使うことにした。

 「ハー! 離れろ!」
 
 100体のハーが俺の後ろに来る。
 相当臭い。

 「「暗星落」!」

 「七星虎王」の先端を「五芒虎王」で薙ぐ。
 二振りの「虎王」を手に入れて、俺の中に流れ込んで来た技の一つだ。
 空間が漆黒に染まって卵の《神》に向かって行く。
 暗黒がぶつかった表面から、急速に黒いものが枝状に拡がっていく。
 巨大な卵が泡を噴き出しながら崩壊していった。
 俺たちは完全に消滅するまで、監視していた。
 すぐに飛び立ちたいが、万一復活させるわけには行かなかった。
 ハーに、周辺で観測している奴がいないか探らせた。

 「うーん、分かんないなー」
 「もういい。その分身を解け」
 「はーい」

 完全に卵が崩れ去った。

 「ハー! 亜紀ちゃんの所へ向かうぞ!」
 「はい!」

 俺たちは飛び立った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 
 柱の《神》から、第二波の振動が放たれた。
 私は「大暗月」で千石さんを護った。
 サーシャちゃんやソルジャー、デュールゲリエたちは「タイガーファング」に乗せている。
 飛び立たせたかったが、最初の振動波でプラズマエンジンが破壊されたようだ。
 「エグリゴリΩ」の装甲を施した機体自体は無事で、中にいる限りは振動波の影響を受けないことが分かった。

 「千石さん、「黒笛」は使えますか?」
 「やってやる!」

 千石さんが「黒笛」を抜いて、「連山」を放った。
 無数の黒い刀身が柱の《神》に伸びて、その表面を斬り刻んだ。

 「行けますね!」
 「必ずサーシャたちを守る!」
 「はい!」

 その時、柱の《神》の上の円錐に大きな穴が開いた。
 嫌な予感しかしない。
 私は千石さんを抱えて高速移動した。
 千石さんのトップスピードは知らないが、私の勘が最大の速度で回避することを命じていた。

 「グゥゥ!」

 千石さんが呻くが、無視して飛ぶ。
 私たちのいた場所から私たちを追って、何かが発射されていた。
 地面が激しく爆発しながら、私たちを追い掛けて来た。
 全身から発する振動波の指向性を持ったものだろう。
 だから、桁違いに威力が大きい。
 あれは「大暗月」でも防げないと思う。
 
 攻撃が終わり、私も速度を緩めた。

 「千石さん! 大丈夫ですか!」
 「きついですよ、亜紀さん」
 「しっかり!」
 「助かりました」

 千石さんはきつそうだが、意識はしっかりしている。
 また円錐の上部に穴が開いた。

 「千石さん、また来ます!」
 「はい!」

 円錐の上部が吹っ飛んだ。
 
 「!」

 「ブサイク! 無事かぁ!」

 インカムに頼もしい声が響いた。

 「聖さん!」
 「遅くなった。大丈夫だな」

 「はい!」

 聖さんが来てくれた。
 流石の人で、一瞬の状況判断で敵の攻撃を察知して破壊してくれた。

 上空で巨大な光が生じた。
 その光が真上から柱の《神》に降っていく。

 「タカさん!」

 柱の《神》が上部から崩壊して行く。
 眩い光を放ちながら、粉砕した欠片が様々な色に輝いて消えて行った。
 つい直前まで命懸けの戦いだったが、その美しい光景に見惚れた。

 「亜紀ちゃん!」
 
 ハーが隣にいた。
 凄く臭い。

 「あんた、臭うよ!」

 「そんなことより! 千石さん、大変だよ!」
 「え?」
 「脊髄が何カ所か折れてるってぇ!」
 「何!」

 千石さんが私の腕の中でぐったりしていた。
 ハーがすぐに「Ω」と「オロチ」の粉末を口移しで飲ませ、「手かざし」をする。
 聖さんも降りて来た。

 「おい、そいつ大丈夫?」
 「は、はい、多分」
 「お前がやったの?」
 「たぶん……」

 さっき大丈夫とか言ってなかった?
 あ、きついって言ってた……

 柱の《神》を斃したタカさんも降りて来た。

 「おい、千石がやられたのかよ!」
 「タカさん、すぐに「虎病院」に運ばないと!」
 「分かった。俺の「タイガーファング」を呼ぶ!」
 
 「あ、あの、タカさん」
 「話は後だ! あっちの「タイガーファング」は何で飛ばねぇ?」
 「はい、敵の攻撃で飛べなくなったようで」
 「よし、牽引の準備だ! 中のパイロットと作業員を呼べ!」
 「は、はい!」

 私が戦闘が終わり、他の「タイガーファング」で牽引の準備をするように中の作業員たちに伝えた。
 全員降りて来て、急いで準備を進める。
 サーシャちゃんも降りて来て、千石さんに駆け寄った。
 千石さんは激痛の最中だろうに、サーシャちゃんに笑い掛けていた。

 「千石さん! 大丈夫ですか!」
 「……」

 千石さんは流石に声は出せない。
 それでも必死に笑顔を作ろうとしている。

 タカさんと聖さんはハーを連れて周辺を警戒している。
 私は牽引の準備の作業を見守っていた。
 タカさんの「タイガーファング」が来て、「Ωワイヤー」で機体を繋いだ。
 全員が乗り込んで、離陸した。
 タカさんが床にへたり込んでいる。
 聖さんはその隣にしゃがんだ。
 相当疲れたようだ。
 私はハーと他の人間の状態を確認して回った。
 サーシャちゃんは千石さんが寝ているベッドに貼りついている。


 


 大事なことなんだけど、報告は後でいいよね?
 千石さん、大丈夫だよね?
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