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千石と石神家本家 Ⅲ

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 俺は4人のベテランの剣士を相手にしていた。
 一瞬の油断も出来ない。
 本気で斬り掛かって来る、狂信者たちだ。
 手足が吹っ飛ぼうと気にしない連中に、 俺も段々受け大刀だけでは捌き切れなくなって行った。

 「あ! 今こいつ、俺を斬ろうとしやがったぞ!」
 「生意気だぁ!」
 「連山!」

 「ちょ、ちょっとぉー!」

 奥義まで出しやがる。
 それにお互い斬り合う練習だろう!
 無数の切っ先を更なる超高速で軌道を変えていく。
 奥義をまともに刀身で受ければ、刀がもたない。

 「やりやがるな!」
 「煉獄!」
 
 「てめぇら! いい加減にしろ!」

 俺も奥義で対応した。
 段々楽しくなっていく。
 やはり石神の血だ。

 「「「「ワハハハハハハハ!」」」」
 「ガハハハハハハハ!」

 また2時間が過ぎ、一旦休憩になった。
 千石を見ると、倒れていた。
 駆け寄ると、息をしていない。
 脈を摂ると、鼓動が無い。

 「死んでんじゃないですかぁー!」

 急いで蘇生措置をし、呼吸を始めた千石に口移しで「Ω」と「オロチ」の粉末を飲ませる。

 「い、いしがみさん……」
 「おい、しっかりしろ!」
 「親父が笑ってました」
 「おい!」

 虎白さんたちは何一つ気にせずに、平然と地面に座って水を飲んでいた。

 「なんだ、生き返ったのかよ?」
 「虎白さん!」
 「あんだ?」
 「千石は俺たちにとって大事な人間なんだ!」
 「ほう」
 「厳しいのはいい! でも、殺すことはないでしょうが!」
 
 虎白さんが俺に近づいて来て、俺をぶっ飛ばした。

 「高虎! 死を恐れていた奴に何を教えんだぁ!」
 「虎白さん!」
 「てめぇはいつから腑抜けになった! お前も何度も死を乗り越えてここまで来たんだろうが!」
 「!」
 「お前は千石のホモダチか? こいつが死を怖がるんなら、たっぷり味わって行くしかねぇだろう!」
 
 「……」

 虎白さんの言う通りだった。
 千石は逃げてしまった。
 その疵は千石の中で固まってしまっている。
 それを無理矢理こじ開けて乗り越えさせるには、千石を殺すしかない。
 
 千石が立ち上がった。
 両足に力が入っておらず、震えている。
 身体が、神経が限界を超えているのだ。
 脳が休めと強要している。

 「ほう、まだそんなに動けたか」
 「お願い……します!」
 「お前はダメだ。モノにならねぇ。ただ惨めに死ぬしかねぇぞ?」
 「構いません!」
 「じゃあ殺すからな」

 虎白さんが強烈な威圧を放った。
 「虎相」だ。
 他の剣士も立ち上がって「虎相」になった。
 空間が揺らぐほどの圧力があった。

 「高虎!」
 「はい!」

 俺にも分かった。
 俺も最大の威圧を放った。
 千石が倒れて吹っ飛んで行く。
 ほとんど物理的な圧力を感じたのだ。
 肉体が勝手に反応していった。

 転がった千石の身体が大きく痙攣している。
 体中の筋肉が過剰反応し、自律神経が全身をのたうち回らせた。
 地面を転がりながら、手足と胴体が勝手にバラバラに動き出す。
 死の感覚が肉体を支配し、そこから逃れようと個々にでたらめに動いて行く。

 「千石!」

 俺が叫ぶと、千石の暴れる身体が徐々に鎮まって行った。
 両眼から血の涙を流し、口から大量の泡を吹きながら、千石の身体が止まった。
 
 「千石!」

 千石が両眼を閉じて、口の泡を吐き飛ばし、地面に両膝と両手を付いた。
 大きく身体を震わせながら、10分も掛けて立ち上がった。
 両眼を見開いた。

 「来い!」

 千石が叫んだ。
 刀を構え、俺たちに向いた。
 虎白さんが裂帛の気合を放って千石の頭頂に刀を振り下ろした。
 千石は反応できない。

 千石の額に血が伝わって落ちて来た。
 頭頂で刀が制止していた。

 「よし! お前は死んだ!」
 「はい!」

 千石が笑顔のままぶっ倒れた。
 俺がすぐに蘇生措置を施したが、「死」を完全に受け入れた身体は甦るまで10分程掛かった。
 千石は確かに死んだのだ。





 俺が千石を背負って、下の集会場に布団を敷いて寝かせた。
 他の剣士たちは夕飯を食べながら酒を飲み始めている。
 
 真白が顔を出した。

 「おやまあ、こいつ助かったのかい?」
 「お陰様で」
 「あたしは死なせてやるつもりだったんだよ」
 「お陰様で」

 真白が幾つも歯の抜けた口を拡げてニヤリと笑った。
 俺には分かった。

 「まあ、良かったじゃないか」
 「真白さんが助けてくれたんでしょう?」
 「何を」
 「ちゃんと生き返るように調整してくれてた」
 「はっ!」
 「ありがとうございます!」

 真白が着物の裾をたくし上げた脚で俺の肩を思い切り蹴って笑った。
 ここにまともな奴はいねぇ。

 「あたしがやったのは、こいつの凝り固まったしこりを解いてやっただけだよ。バカな男だねぇ。気楽に生きりゃいいのに」
 「不器用なんですよ。逃げると決めたらとことん逃げる。でも、いつか帰らなきゃって思い続けてたんですよ」
 「そういうもんかね」
 「そうですね」

 真白が宴会に混ざって、誰かの酒を奪って飲み始めた。
 
 「千石、お前やっと帰って来たんだな」

 千石はピクリとも動かない。
 限界を超えて、本当に死んで今ここにいる。
 幽かに寝息が聞こえるが、相当な激痛が脳によって遮断されている状態だ。
 そのうちに痛みで目覚めてのたうち回るだろう。

 誰も千石の様子を見に来ない。
 信頼しているのだろう。
 千石は、地獄を乗り越えたのだ。
 それがみんなに分かっている。
 真白は心配で様子を見に来たのだろう。
 千石が大丈夫なのを見て、安心して酒を飲んでいる。
 本当に優しい人だ。

 「おい、ババァ! お前が脱ぐんじゃねぇ!」
 「ハッ! お前ら溜まってんだろう! あたしが相手してやるよ!」
 「ふざけんなぁ! 酒が不味くなっただろう!」

 真白のババァが全裸で胡坐をかいて股を開いていた。





 本当に下品な連中だ。
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