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真冬の別荘 Gathering-Memory Ⅲ

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 ウッドデッキの床暖房を入れ、テーブルの周辺にはカーペットを敷いている。
 吹雪と響子には赤外線ヒーターを向けている。

 バーベキューは、まあいつも通りだ。
 最初の頃は俺が焼いて喰わせていたが、いつの間にか自由に自分たちで焼かせるようになった。
 俺は美味いものを喰わせたい一心でそうしていたのだが、自己責任で喰うことに任せたのだ。
 まあ、今でも俺が焼いて喰わせることもある。
 争っている子どもたちに、俺が焼いたものを器に入れてやる。
 ほんの一瞬だが、最初の頃の可愛らしい笑顔を見せてくれるのが楽しみだからだ。
 本当にほんの一瞬だが。
 水素原子を光子が横切る間の時間くらいか。
 でも俺はあいつらの笑顔を絶対に見逃さない。

 六花も夢中で楽しんで獣台に行くので、俺が吹雪の世話をする。

 「ほら、伊勢海老だぞー」
 「はい!」

 ニコニコして口に入れて食べる。
 吹雪はほとんど不機嫌そうな顔をしない。
 天狼もそんな感じだ。
 士王はオッパイから離される時にちょっと不機嫌になる。
 吹雪がニコニコしているのは、六花の愛情をたっぷりと注がれているからだ。
 だから天狼もきっとそうなのだろう。
 麗星は愛らしい性格だ。
 その愛情をふんだんに注がれているのだろう。
 それは俺が京都に行った時にも感ずる。
 麗星はしきたりはあれど、天狼を溺愛している。
 道間皇王だからではない。
 天狼を愛しているからだ。

 吹雪が新鮮な伊勢海老のコリコリとした触感を味わっている。
 まだ顎の力が弱いのと歯が小さいので苦労している。
 でも、噛むほどににじみ出て来る滋養を感じている。
 ホタテのバター焼きを小さくして与えた。
 またニコニコとし、今度は柔らかく喜んで呑み込んだ。
 六花と同じく食べることが大好きで、他人を幸せにする笑顔になる。

 「吹雪ちゃんていつも御機嫌だよね?」
 「そうだな。六花と響子に愛されてるからな」
 「うん!」

 響子にハマグリのバター醤油を渡す。
 ニコニコして美味しいといった。

 「お前もいつも御機嫌だよな」
 「タカトラと六花に愛されてるからね!」
 「そうだな!」

 獣たちは焼肉を奪い合って楽しんでいる。
 ステーキを焼いていた時期もあるが、あれは焼き上がるのに時間が掛かる。
 だから自然とバーベキューは焼肉になった。
 近接戦闘最強の六花が多く奪っている。
 超天才の亜紀ちゃんも、六花には敵わない。
 双子は全員の動きを見ながら肉を攫って行く。
 皇紀は究極の防御スタイルで食べている。
 柳は自然にみんなに気を遣われながらちゃんと食べている。
 熾烈な奪い合いではないのだ。
 家族のスキンシップ……と言っていいのかどうかは、未だに俺にも分からんが。

 ロボにもハマグリを焼いてやる。
 最近、自分が食べたいものをねだるようになった。
 エビカニもたべるが、貝類が好きなようだ。
 もちろん肉もだが。

 響子に焼き鳥を焼いたり、吹雪にいろいろなものを食べさせ、ロボに貝類を中心に焼いて行く。
 
 ようやく獣台も一段落し、六花がこっちに来て座る。

 「満腹か?」
 「はい!」

 輝く笑顔で六花が笑う。

 「吹雪は?」
 「ああ、そろそろいいだろう。吹雪、スープを飲むか?」
 「はい!」

 六花が海鮮スープをよそってきて、フーフーして冷ましながら吹雪に呑ませる。
 ロボも満足して俺と響子の膝に上がって来る。
 俺もゆっくりと食べた。

 「綺麗ですね」
 
 六花が雪の積もった庭を見て言った。

 「そうだな」

 俺も庭を眺めた。
 半分ほどがウッドデッキのライトで明るく、その向こう側は冷たく沈んでいる。
 ここは温かく明るい場所だ。
 俺たちはそこから冷たい世界を眺めている。

 食事を終え、俺たちはリヴィングへ入った。
 亜紀ちゃんがコーヒーを淹れてくれ、他の子どもたちは片づけを始める。

 「みんなー! 30分で片づけを終えてね!」
 「「「「はーい!」」」」

 今は6時半。
 『虎は孤高に』特番は8時からだ。
 コーヒーを飲み終えた俺たちは、早く風呂に入れと亜紀ちゃんに言われた。

 「分かったよ!」
 「ヘンなことしてちゃダメですよ!」
 「しねぇよ!」

 俺と響子、六花と吹雪で入っていると、亜紀ちゃんたちが雪崩れ込んで来た。
 
 「あと1時間んー」
 
 俺たちは笑って上がり、リヴィングでゆっくりとテレビを観た。
 亜紀ちゃんたちも20分で上がって来て、つまみを作り始める。
 雪野ナス、雪野ポテト、それにバーベキューのあまりだ。
 亜紀ちゃんが考えたか、テレビの前に4人掛けのソファを置き、俺と響子、六花と吹雪。
 その両脇に椅子を置いて双子と皇紀と柳。
 テレビ前のカーペットに亜紀ちゃんだ。
 
 8時10分前。
 特番の番宣があり、亜紀ちゃんが録画を始めているのを確認した。

 「よし!」

 響子が笑った。

 特番が始まり、テーマソングが流れ、亜紀ちゃんが大声で歌う。
 ヤマトテレビのアナウンサーの男女が司会者となり、最初に『虎は孤高に』芸人という人間たちが紹介された。
 バラエティの作りだ。
 そして雛壇に出演者たち50名ほどが並んでいた。
 これまでの放送の出演者たちで、だから小学生時代の俺役の子もいる。
 クイズ形式で『虎は孤高に』に関する問題を回答していく。

 亜紀ちゃんが目の前ですぐに答えるので、双子が蹴りを入れて黙らせた。

 「私、全部分かるのにー」
 「「うるさい!」」

 その後南が出て来て、インタビューされた。
 そして、あの俺たちのクリスマスツリーが運ばれ、全員に紹介された。

 「あのクリスマスのお話は、実話だったんですね!」
 「はい。この小説はもちろんフィクションもありますが、ほとんどのエピソードは実話を元にしています」
 
 会場がどよめき、大きな拍手が湧いた。
 主演の人間たちが撮影のエピソードを紹介し、裏話的なものも多く取り上げられた。
 亜紀ちゃんが大興奮で喜んでいる。
 吹雪がそんな亜紀ちゃんを見て笑っていた。
 NGシーンが流され、みんなで笑った。
 最後に山口君たち主演陣の意気込みが語られ、また亜紀ちゃんが興奮して叫んでいた。

 10時前に番組が終わり、俺たちは「幻想空間」へ移動した。
 もう吹雪は眠っているので、ベビーベッドも運ぶ。

 雪の中の「幻想空間」はやはり雰囲気がいい。
 内側を暖色系の灯にし、外をブルーのライトを灯した。

 しばし、みんなで雰囲気を味わう。
 俺と六花、亜紀ちゃんは熱燗を飲み、柳は双子とホット梅酒を飲んだ。
 皇紀は紅茶だ。

 「御堂も来れたらなー」

 俺が言うとみんなが笑った。

 「もう、本当に石神さんはお父さんが大好きですよね!」
 「当たり前だろう!」

 柳が笑った。

 「あの、前から気になっていたことがあるんですけど」
 「なんだよ?」
 「石神さんが大学の時に病気になって」
 「柳さん!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。
 俺は笑って大丈夫だと言った。

 「す、すいません! いつも私ってヘンなことばっかり!」
 「いいよ、なんだよ気になってることって」

 柳が困った顔をし、亜紀ちゃんが心配そうに俺を見ている。
 奈津江の死に繋がる話だからだ。

 「あの、本当にすいません。気になっていたというのは、石神さんが病気になって、山中さんが滝行に行ったじゃないですか」
 「ああ、そうだな」
 「それで、うちの父はどうしていたのかなって」
 「……」

 俺が応えられずにいたので、柳がまた慌てた。

 「あ! ほんとうにすいません! 気にしないで下さい!」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんも慌てている。
 俺は手で亜紀ちゃんを制して柳に言った。

 「あの時か」
 
 みんなが心配そうに俺を見ていた。

 「まあ、お前らには話しておくか。御堂には話さないでくれな」
 「タカさん……」

 亜紀ちゃんが俺の背中に回って肩に手を置いた。
 響子が俺の腿に手を置いて心配そうに見ている。

 「奈津江が死に、山中も死に掛けた。御堂も同じだよ」
 「え!」
 




 俺は話した。
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