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高木 VS 佐藤家 Ⅲ

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 病院の俺に、高木から電話が掛かって来た。
 年末が近くもうオペの予定はないので、自分のデスクで受ける。
 高木が、佐藤家へ出向いたと言った。

 「何! 佐藤さんちに行ったのかよ!」
 「すみません! 今日は外から下見だけのつもりだったのですが」
 「あそこは近づくなと言っただろう!」
 「本当にすみません!」

 まあ、高木があの佐藤家を何とかしたいと考えていたことは知っている。
 それは無理なことなのだが、その理由は高木には話せない。
 《クロピョン管理》ということだ。

 「石神先生、それでですね、止めたのですが、4人が敷地に入ってしまいまして」
 「なんだって!」
 「消えてしまったんです」

 高木はその瞬間を見てしまったのか。

 「入ったのはどういう連中なんだよ?」
 「はい、土地を祓うのが専門の拝み屋集団でして」
 「お前、また勝手なことを」
 「すみません! もちろん石神先生にお話ししてからのつもりでした」
 「うーん」

 非常に困った。
 どういう連中かは分からないが、高木が目撃してしまった。

 「そいつら、勝手に入ってったんだな?」
 「はい、石神先生に関係のある土地だろうと迫って来ましたが」
 「なんだと?」
 「もちろん知らないと言いました。そうしたら、身体が大きくなって、化け物のような顔になって!」
 「お前、見たのか!」
 「はい、その後で玄関を開けようとしたら消えてしまって……」
 「あー」

 俺絡みの土地と知っていた?

 「チャイムを押すと女の人の声で「おいで」と言われました。それを聞いて、4人組は女性を捕まえると」
 「なんだ、そりゃ?」

 完全に敵じゃねぇか。

 「石神先生、どうしましょうか」
 「お前はその4人組のことを詳しく調べてくれ。俺は中に入った連中を探しに行くよ」
 「大丈夫ですか?」
 「まーなー」

 行くのは夜かー。
 やだなー。

 「あの、私もご一緒して宜しいですか?」
 「お前が?」
 「はい、石神先生だけにお任せしては」
 「おし! じゃあ一緒に行くか!」
 「はい!」

 良かったー。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 
 夜7時に高木と佐藤家の前で待ち合わせした。
 
 「石神先生!」
 「よう!」

 高木はスーツ姿で、俺はタイガーストライプのコンバットスーツだ。

 「もうお前には話しておくけど、ここはよ、俺が一旦浄化して、今は別な奴に管理させてるんだ」
 「え! 石神先生が!」
 「ああ。お前には少し話しているけど、俺は「虎」の軍に関わっているんだ」
 「はい、伺ってます!」
 「ここはその特殊な目的で使っている土地なんだよ」
 「そうだったんですか!」

 高木には日本中の土地の購入などで世話になっている。
 どこのどういう土地を手配させているかで、高木には自然に分かることと思い、俺が「虎」の軍の人間であることを話している。
 特に御堂帝国の土地の買収では、確実に高木は勘づくはずだった。
 だからいっそ打ち明けておくことにした。

 「お前は戦闘に巻き込みたくは無かったから、詳しいことは話さなかったんだけどな」
 「いえ、それは石神先生のお心遣いでしょうから、私には感謝しかありません」
 「まあ、そうなんだけどな。でもお前はこうやって俺のために俺の知らないところでいろいろやってくれる。だから、今日は今まで話してなかったものをお前に見せるよ」
 「はぁ」

 「タマ!」
 「なんだ」

 目の前に着物姿の美しいタマが現われる。

 「石神先生!」
 「味方の妖魔だ」
 「妖魔ですか!」

 高木も妖魔のことは知っている。
 もう、今は日本中で妖魔の存在を疑う人間はいない。

 「タマ、クロピョンに言って、今日入って行った連中を戻せるか聞いてくれ」
 「分かった」

 タマが佐藤家の中を見ていた。

 「もうバラバラになって、戻せないようだ」
 「あちゃー。タマにも分からないか?」
 
 タマはまたしばらく黙った。

 「外道会の連中だったようだな。妖魔が中に入っていた」
 「ライカンスロープか」
 「そうだ。4人とも詳しいことは知っていなかったようだ。中にいる人間を捕獲する目的だった」
 「なんだよ、それは」
 
 外道会の少なくとも一部は「業」に繋がっていることは確かだ。
 「デミウルゴス」を流し、時には尖兵として動く。
 「業」の日本に於ける組織の一つだ。
 
 「分かった、もういいぞ」
 「いつでも呼べ」

 タマが消え、また高木が驚いていた。




 俺は高木を自宅へ招いた。
 高木は「鈴木雄一郎」という人間に電話したようだが、繋がらなかったそうだ。
 リヴィングで一緒に飯を喰った。

 「高木、佐藤家のことをもう少し詳しく話しておく」
 「は、はい!」

 食事を終え、コーヒーを頼んだ。
 亜紀ちゃんが持って来る。
 子どもたちも全員テーブルに付いた。

 「あの土地はお前も知っての通り、最凶の土地だ。地縛霊が積み重なって、とんでもないことになっていた」
 「はい」

 双子が耳を押さえていた。

 「数年前に、俺が大きな妖魔を使って土地の地縛霊を全部喰わせた」
 「!」
 「でも、その後も地縛霊を復活させて、あの土地を利用しているんだ」
 「それはどういうことですか?」
 「うーん、まあ厄介なものの廃棄場と、もう一つは落とし穴のようなものだな」
 「はぁ?」

 高木には理解出来ない。

 「うちには、時々「業」が厄介なものを送って来るんだよ。妖魔とかな」
 「ああ!」
 
 「それとな。俺を探ろうとする連中が、時々あそこへ勝手に入るというな」
 「そうなんですか」

 まあ、そっちは時々一般人も迷い込むこともあるので、敵でない限りは殺さないようにクロピョンには命じているが。
 ただ、無事では済まない。
 記憶の一部が消え、思考能力も大分低下する。

 「あそこは近づくだけでも危険なんだ」
 「はい、分かってます」
 「いや、分かってねぇ」
 「はい?」

 俺は久し振りに会った高木の変調を見抜いていた。
 ガン患者特有のあの匂いを感じていた。

 「お前よ、俺のためにあそこを何とかしようと頑張ってただろう?」
 「そりゃもう! 石神先生のためですから!」
 「バカヤロウ! お前、胃ガンになってるぞ!」
 「エェ!」

 高木が驚くと同時に青くなっていた。
 自覚症状もあったようだ。

 「そういえば、最近胃痛が時々あって」
 「そうだろう」
 「先日も、佐藤家の資料を見ていた時に随分と痛んでました」
 「バカ!」

 俺は即入院するように言った。

 「うちの病院に来い。年末でもうオペはしない予定だったが、お前のことだ。俺がちゃんと治してやる」
 「石神先生!」

 高木が泣き出した。

 「ばかやろう。俺のために頑張ったことだろう。だったら絶対に治してやるからな」
 「はい! ありがとうございます!」

 俺は一江に電話して、明日の緊急オペの手配と入院の手続きをするように命じた。

 「年末年始、ゆっくりすれば治る。しばらく酒は飲めないけどな」
 「はい!」




 高木が明るい笑顔で笑った。
 危うく死ぬところだったのだが、喜んでいる。

 そういう男だった。

 「チンコもしばらく使えないぞ!」
 「あ!」
 「どうした?」
 「三島ママと温泉に行く約束が!」
 「バカ! 子どもたちの前で生々しい話をするな!」
 「いえ、石神先生が!」
 「うるせぇ!」

 双子が「ギャハハハハハハ」と笑っていた。
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