富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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高木 VS 佐藤家

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 年度末が近づき、仕事納めに向かって結構忙しい毎日を送っていた。
 やっとそれも一段落着き、遅くはなったが安心していた。
 今日は12月23日。
 クリスマス前に終わってよかった。

 「早く帰ってモンドとご飯を食べよう」

 飼い猫のモンドは最近ご飯が遅くなって、かわいそうなことをしている。
 でも、今日は一段落したお祝いで、大好きな早乙女さんのお宅を見てから帰ろう。
 自然に笑顔が浮かんでくる。

 「モンド、ごめんね。ちょっとだけ待っててね」

 足早に早乙女さんのお宅へ急いだ。
 いつものように、幻想的な塀のライティングにうっとりし、門から素敵な御殿のようなお宅を見ようと歩いた。

 「あ!」
 「にゃー!」
 「ロボちゃーん!」
 「にゃー!」

 石神さんのお宅のロボちゃんがトコトコ走って来る。
 しゃがんで抱き締めた。

 「また会えたねー!」
 「にゃー」

 ロボちゃんは私の顔をペロペロしてくれる。

 「お散歩?」
 「にゃ」
 
 ロボちゃんはいつもカワイイ。

 「あれ? 河合さん?」

 ロボちゃんの身体を撫でていると、前から声を掛けられた。
 見上げると、驚くことに高木社長が立っていた。

 「高木社長!」
 「ああ、河合さんはこの辺に住んでいるんだったね。あ、ロボさんもいるんだ」
 「にゃー」

 ロボちゃんも高木社長を知っているらしい。

 「高木社長はどうして?」
 「ああ、この辺は石神先生のお宅があるでしょう? 近所の区画内にも石神先生の土地が結構あって」
 「はぁ」
 
 あの大きなお宅以外にも土地をお持ちだったんだ。
 そう言えばうちの敷地も石神さんから頂いたものだった。

 「他には幾つかの会社の土地になっててね。時々様子を見に来ているんだ」
 「どういうことですか?」
 「にゃ?」

 ロボちゃんが自分も話に加わろうとしている。
 かわいい。

 「何かヘンな建物とか使用とかしてないかってさ」
 「え、それを高木社長が見回ってるんですか」
 「そうだよ、だってあの石神先生に関わることだからね。僕なんかが出来るのは土地のことだけだからね。しっかりやらせてもらうんだ」
 「そうだったんですか! 驚きました」
 「いやいや」

 高木社長は多少照れていらっしゃるようだった。
 やっぱり高木社長は誠実な素晴らしい人だ。

 「それに、河合さんは知ってるかなー」
 「何ですか?」
 「この辺ってさ、UFOの目撃例が結構多いんだよ」
 「え!」
 「SNSとかでね、写真とかよく挙がってるんだ。ああいうのが好きな人たちがよく来てるそうだしね」
 「そうなんですか!」
 
 高木社長が笑っていた。

 「まあ、僕にはよく分からないけどね。でも、そういうことも流石は石神先生だぁって思うんだ」
 「アハハハハハハ!」

 高木社長は本当に石神さんがお好きだ。
 尊敬しているとよく伺う。

 「ああ、それとこれは本当に危ない話だ! あっちに佐藤って表札の家があるのを知っているかい?」
 「はい、石神さんからも伺ってます。絶対に近づいてはいけないんだと」

 前に石神さんから、この辺に住むからには絶対に近づいてはいけないと言われている。
 なんでも呪われた土地で、とても良くないことがあるのだと。

 「そうだ! あそこだけは本当に行かないでね。真面目に危ない家だから」
 「はい、ご注意は守ってます。でも、本当に霊障があるんでしょうか?」
 「ほら! ダメだって! そうやって疑っているうちは本当に危ないよ?」
 「は、はい! 気を付けます!」
 
 高木社長は少し怖い顔で仰った。

 「僕も土地のプロだからね。非科学的だろうと、因縁のある家というのは確かにあることは知っている。特にあの佐藤という家は、日本でも有数の危ない土地だよ」
 「そうなんですか!」

 高木社長が真面目に霊の話をしているので驚いた。

 「僕も自分で調べてみたんだ。確実に1000人以上があの土地に絡んで死んでいる」
 「エェ!」
 「しかも、酷い死に方も多いんだ。信じられないようなものでね。だから絶対に行ってはいけないよ?」
 「分かりました!」

 高木社長が安心したか優しいお顔に戻った。

 「河合さんに何かあったら大変だ。石神先生から預かった人だし、僕も河合さんに助けられてるしね」
 「そんな、私こそ高木社長に拾っていただきましたのに」
 
 「僕もね、出来れば何とかしたいとは思ってるんだ。何しろ石神先生のご近所にそんな危険な土地があってはねぇ」
 「そうなんですか」
 「知ってるかな、小山テリーという人のサイト」
 「ああ、事故物件の情報を集めている方ですよね?」

 仕事柄、自分も知ってはいた。
 見たことは無いが。

 「テリーさんにも前に直接お会いしたんだ。佐藤家の土地を相談しにね」
 「そうなんですか!」
 「テリーさんも御存知だった。いろいろ情報も頂いたよ。でも、テリーさんも、絶対に関わらない方がいいって言ってた」
 「そうなんですか」

 「非常に危険だ。でも、僕は諦めてないよ」
 「あの、お祓いとかはどうなんですか?」
 「前に大きな神社の神主を呼んだらしい」
 「じゃあ、お祓いも効かないんですね」
 
 高木社長の顔がまた暗くなった。

 「いや、それがね、神主と呼んだ不動産屋が土地の中で引き千切られた遺体で発見されたんだ」
 「!」
 「他にも、解体業者が向かう途中で交通事故で全員死んだということもあった。あそこはね、そういう恐ろしい土地なんだ」
 「……」

 高木社長は笑顔に戻って言った。

 「ごめんね、折角ロボさんと楽しんでた所にこんな話になっちゃって」
 「いえ、ご注意をありがとうございます」
 「仕事もやっと終わったね。年内あと数日だけど、宜しくお願いします」
 「こちらこそ! では失礼します」
 「気を付けて帰ってね」
 「はい、おやすみなさい」

 ロボちゃんと石神さんの家の前まで一緒に歩いて別れた。
 佐藤さんのお宅には近づかないと、あらためて思った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「調べれば調べるほど恐ろしい土地だなぁ」

 高木は分厚いファイルフォルダーを眺めながら呟いた。
 佐藤家に関するものは、電子データにしたものは全部破損した。
 それも、データが消えるどころではなかった。
 ハードディスクが燃え、USBやSDカードが爆発した。
 唯一残ったのは、印刷しておいたり手書きで作った資料だけだった。
 しかし、近くにあると物凄く嫌な気分になるので、会社のビルの近所のマンションに置くようになった。
 分譲マンションで、値上がりを待って投資用に購入していたものだ。
 本当はすぐにでも高騰すると見込んでいたが、何故かいつまでも値上がりは無かった。

 そのうちにマンション内で殺人事件が起き、しばらく値上がりは見込めなくなってしまった。
 まあ、高木の収入で比較すれば何のことも無い金額だったが。
 管理費を負担しながら、倉庫的に使えばいいと思っていた。
 特に佐藤家の資料の置き場になって、良かったとも言える。
 ファイルフォルダーは既に60巻を超えた。
 他に住んでいた様々な家の家系図やその他の資料などは、その数倍になっている。
 新聞記事の切り抜きなども多い。

 高木は土地のお祓いで有名な神主や拝み屋も探していた。
 しかしその業界でも「佐藤家」は有名らしく、引き受けるという人間はなかなか見つからなかった。
 何人かは引き受けようとしてくれ、一緒に下見に行った。
 そうすると、全員がその場で自分にはとても出来ないと断って来た。
 
 「イテテテテ」

 胃痛がして、右手で押さえた。
 佐藤家のことを調べたり考えていると、胃が痛むことがよくあることに最近になって気付いた。

 今日マンションに来たのは、やっと土地のお祓いを引き受けるという団体が見つかったからだ。
 これまでの資料を幾つかコピーして、渡そうと思っている。
 3日後に一緒に下見をする予定だった。
 マンションの部屋に入れた複合機にセットした。

 《うぅ……ウウウゥウウ……うぅ、うぅー……》

 「!」

 何か女の呻き声のようなものが複合機の稼働中ずっとしていた。
 複合機の作動不良かとも思ったが、コピー自体はちゃんと出来ている。
 高木は不気味なものを感じたが、コピーした資料を整理し、元のファイルフォルダーを仕舞って、マンションを出た。



 胃痛が引き続いていた。
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