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加奈子と志野

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 家に帰ると、子どもたちがお茶の準備をしていた。
 俺の顔を見て、みんなが喜んで迎えてくれる。

 「茜さん、如何でした?」

 亜紀ちゃんがコーヒーとケーキを置きながら聞いて来た。

 「ああ、大丈夫そうだ。念のために月曜日にいろいろ検査をするけどな。多分心配いらないだろう」
 「そうですか! 良かった!」

 他の子どもたちも喜んでいる。
 みんな、茜の話は聞いている。

 「私たちもお見舞いに行ってもいいですか?」
 「ああ、頼むよ。しばらくはあいつも暇を持て余すだろうしな。話し相手になってくれ。気の良い奴だから、喜ぶと思うよ」
 「分かりました!」

 みんなで話していると、俺の電話が鳴った。

 「トラさんですか?」

 声を聴いてすぐに分かった。

 「加奈子かぁ!」
 「トラさん!」

 加奈子が嬉しそうに叫んだ。

 「お久し振りです!」
 「おお! ああ、茜をうちの病院に入れたからな」
 「はい、さっき電話で。本当にありがとうございました。でも、まさかトラさんにまた会えるなんて」
 「そうだな、俺も驚いたよ」

 しばらくお互いの近況を話し合った。
 鴫原(しぎはら)加奈子は、大学を出てしばらく中堅の運送会社に就職した。
 そこで運送業の経営を勉強し、5年後に自分の運送会社を立ち上げた。
 家が結構な金持で、不動産業をしていた。
 家から資金を援助してもらい、レディースの玉置志野と美住茜を誘って、三人で頑張っている。

 「茜が大型四輪を取るんだって頑張りましてね。私が2トン車で小回りの利く仕事で、志野はバイク便で。茜は建築関連の仕事をやってもらってます」
 「そうだってな。3人で頑張ってるらしいじゃないか」
 「はい! 女だけの会社なんで舐められることも多かったんですが、最近はようやく」
 「お前らたちの真面目な仕事が評価されたんだろうよ」
 「そんな! でも、茜があんなことになっちゃって」
 「ああ。でも、お陰で俺もお前たちに再会出来た!」
 「そうですね!」

 明日、俺の所へ礼に来たいというので、喜んで受けた。

 



 日曜日午後3時。
 志野と加奈子が俺のうちに来た。
 持っている車は2トンロングのトラックなので、電車で来たようだ。
 俺が門を開けて出迎えると、二人とも口を開いて立っていた。

 「トラさん、ここがお宅ですか?」
 「そうだよ! まあ、入れよ」
 「は、はぁ」

 リヴィングで子どもたちが大歓迎だ。
 ロボもすぐに気に入る。
 まあ、最近は俺が家に入れる人間は問答無用で信用するようだ。

 「あ、あの、こんなつまんないものですいません!」

 ひよこ饅頭だった。

 「おお! 俺の大好物だよ!」
 「そ、そうなんですか!」
 「20年以上喰ってねぇけどな!」
 「「!」」

 冗談だと笑い、気を遣わせて申し訳ないと言った。

 「トラさん、スゴイ暮らしなんですね」
 「いや、贅沢はしてねぇよ。なんか、家族が多くなっちゃったしな」
 「そうですね」

 子どもたちが四人と柳とロボがいる。
 まあ、それにしてもでかい家になってしまったが。

 「今日は休みなのか?」
 「はい、一応土日を休みにしてます。でも、実際には仕事の兼ね合いで全然違っちゃいますが」
 「頑張ってるんだな」

 コーヒーと、千疋屋のフルーツショートケーキを出す。

 「聞いているかもしれないけど、この四人は大学時代の親友の子を引き取ったんだ。こいつは柳で、御堂の娘だ。東京の大学に通ってるんで、うちに一緒に住んでる」

 子どもたちがそれぞれ挨拶する。

 「へぇー! みんな美人ですね!」
 「そうか。ありがとうな」

 茜をうちの病院で引き受けたことで礼を言われた。

 「さっき見舞いに行って来たんですけど、なんですか、あの病室!」
 「アハハハハハ!」
 「個室だし広いし! ベッドもなんか豪華ですよね?」
 「ダブルサイズだからな。茜はちっちゃいからあんまり関係ねぇけどよ」
 
 みんなで笑った。

 「俺も午前中に行って来たんだ」
 「はい、聞きましたよ! なんかいろいろ貰ってしまったそうで」
 「ああ、亜紀ちゃんと柳に選んでもらった。サイスは二人が聞いてな」
 「何から何まですいません」

 「よせよ! お前らのことじゃないか。当然だ!」
 「トラさん!」

 「子どもたちにもよ、「ルート20」の話はいろいろしてるんだ。俺が一番楽しかった思い出だからな」
 「そうなんですか!」

 子どもたちも会話に加わり、加奈子と志野にいろいろ聞いた。
 俺も加奈子も志野も、懐かしく思い出した。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「鬼愚奈巣との抗争は私も出るよ!」
 「保奈美、ダメだって! 井上さんにもトラさんにも止められてるだろう!」
 「何言ってやがる! 相手はうちの倍もいるんだ。手が必要だろう!」
 「だからダメだって! トラさんたちに任せよう!」
 「あたしは特攻隊だぁ!」

 加奈子と志野がいくら止めても、保奈美は耳を貸さなかった。




 抗争の当日。
 保奈美は抗争の場になる元米軍基地の外でバイクを止めた。
 数十台のバイクが迫って来る。

 「見つかったか」

 保奈美は落ち着いてバイクからステンレス棒を引き抜いた。
 石神が特攻隊に持たせている武器だ。
 保奈美の周りにバイクが集まる。
 構えていたステンレス棒を下げた。
 来た連中が誰なのかすぐに分かったからだ。

 「お前ら!」
 「保奈美! 来たぜ!」
 「なんでだよ! レディースは止められてるだろう!」
 「ハッ! お前にだけは言われたくねぇよ!」
 「バカ!」

 「保奈美さん!」

 身体の小さな茜が小さなモンキーで来た。
 保奈美は泣きそうになった。

 「お前ら、バカだな」
 「お前もな、保奈美!」

 みんなで笑った。

 「ゴチャマンが始まったらぶっ込むぞ!」
 『オォォォォーーー!』





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「おお、あん時は驚いたぜ」
 「そうでしょ? 保奈美がトチ狂ったんで」
 「お前らもだろう!」

 みんなが笑った。

 「鬼愚奈巣のレディースは誰も来なかったよな?」
 「はい。まあ、吸収してから、トラさんに夢中でしたけどね」
 「あいつらなー」

 「タカさん、ヤったんですか!」
 「お前! バカヤロウ!」
 
 亜紀ちゃんの頭を引っぱたく。

 「結構ヤってましたよね?」
 「おい!」

 志野が笑いながら言った。

 「保奈美が締めてましたよ。トラさんは自分のものだって」
 「ワハハハハハハ!」

 笑って誤魔化した。
 そうかー、だから急に誰も誘っても来なくなったかー。

 話が盛り上がり、子どもたちもどんどん打ち解けて行った。

 「おい、お前らうちで夕飯を食っていけよ」
 「え、いいんですか!」

 「亜紀ちゃん、今晩は何だ?」
 「すき焼きですよー!」
 「最高だな!」
 「はい!」




 夕飯の準備を子どもたちがしている間、俺たち三人はテーブルの隅でずっと楽しく話した。
 加奈子と志野が40キロの肉の量に驚いていた。
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