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道間家 剣の舞

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 麗星は出産が軽かったせいか、空腹を訴えた。
 粥が用意され、卵焼きと共に麗星は旺盛に食べた。
 少し麗星を寝かせ、俺は部屋へ戻って子どもたちや各所に連絡した。
 みんなからお祝いを言われ、照れ臭かった。
 早乙女にも一応電話する。

 「石神! おめでとう!」
 「ああ、ありがとう。お前の家の子とほとんど同じ時期になったな」
 「そうだな!」
 「どうでもいいけどな」
 「いしがみぃー!」

 俺は笑って雪野さんと久留守の様子を聞いた。

 「ああ、二人とも元気だよ!」
 「そうか、良かったよ」
 「そうだ! うちからもお祝いを送るからな」
 「悪いな。楽しみにしているよ」
 「うん!」

 蓮花に、「奈々」という名前がまた道間家でとんでもない名だったと話したら、大笑いしていた。

 「石神様はサイコウでございます!」
 「お前なぁ」

 デュールゲリエのことはこれから相談すると言うと、よろしくお願いいたしますと言われた。
 虎白さんにも知らせた。

 「そうか! じゃあよ、祝いの「剣の舞」をやりに行くぜ!」
 「いや、そういうのはいいですから!」
 「あんだと!」
 
 俺はそれでも、一瞬蓑原の顔を思い浮かべた。

 「でも、やっぱやってもらおうかなー」
 「そうしろ!」
 「蓑原って覚えてますか?」
 「ああ、道間のとこの若い奴か!」
 「ええ、虎白さんたちに会いたがってました」
 「そうかよ! あいついい奴だったな!」
 「そうですか!」

 俺が「剣の舞」を頼むと、すぐに「タイガーファング」を手配しろと言われた。

 「え! あれですか!」
 「そうだよ! すぐにそっちへ行けるだろう!」
 「でも、あれは一応機密の機体で」
 「なんか言ったか?」
 「いいえ! すぐに手配します! 俺、石神家の当主ですからね!」
 「そうだよ!」

 ターナー少将に出産のことと同時に「タイガーファング」の手配を頼んだ。
 笑われながら、すぐにやると言ってくれた。
 ターナー少将も石神家のことは分かっている。
 それに、結構気に入っているようだ。

 俺は昼食の準備が出来たと呼ばれた。
 五平所に、石神家本家が祝いに駆け付けると伝えた。

 「え! あの石神家ですか!」
 「ああ、急に悪いな。どうしても来たいってことでよ」
 「それは大変だ!」

 慌てて部屋を飛び出し、手配に行った。
 俺は独りで食事をした。
 
 味噌煮込みうどんに、豆腐と幾つかの器。
 相変わらず美味い。
 俺が熱いうどんを啜っていると、五平所が戻って来た。

 「あ、いついらっしゃるのかお聞きしてませんでした」
 「あー、多分もうすぐ」
 「えぇ!」
 「ちょっとごめんな。すぐに帰すからさ」
 「とんでもない! 全力で歓迎いたしませんと! ちょっと麗星とも話してきます!」
 「悪いね」
 
 俺の考えがちょっと甘かったようだ。
 ここは格式のある言えであり、更に言えば石神家は妖魔退治の世界最高峰の家だ。
 道間家とも何度も共闘しているし、他の客のようには行かないのだろう。
 ああ、あいつらも呼んでおくか。
 虎白さんが大好きだし。

 双子を呼んだ。


 


 40分後。
 「タイガーファング」が道間家の敷地の外の広場に降りた。
 こういうこともあるかと、俺が離発着場を作っておいた。
 敷地の中に入ってもいいのだが、それは緊急時だ。
 道間家の様々な結界に障る。
 連絡を受けていたので、俺が双子と五平所とで門の前で待っていた。

 「よう! 来たぜ!」
 「虎白さん! みなさんも!」
 「「虎白さーん!」」
 「おう! 嬢ちゃんたちもいたかぁ!」
 「「はい!」」

 虎白さんが顔を綻ばして二人を抱き締める。

 「石神様、今日はわざわざお越し頂き、ありがとうございます」
 「いいよ! あんたは道間家の人間か?」
 「はい、五平所と申します」
 「おう、よろしくな!」
 「生憎、当主の麗星は子を産んだばかりで」
 「いいって! 無理すんな。俺たちが勝手に来たんだからよ!」
 
 剣士38人を中へ入れた。
 また増えたかー。
 全然聞いてねぇけど。

 広い座敷へ案内し、まずは茶を振る舞った。
 「タイガーファング」は一時帰している。

 「それにしても、道間で二人目か」
 「はい! カワイイ女の子ですよ! 《奈々》と名付けました」
 「そうかよ! あとで会わせてくれな!」
 「五平所、大丈夫か?」
 「はい、麗星も一緒に」
 「おい、無理するなよ」
 「いいえ、あの石神家の方々がいらしたのですから」
 
 車いすで移動すると聞き、安心した。
 俺は五平所に断り、麗星に会いに行った。

 


 「急なことで悪かったな」
 「いいえ、とんでもない。あの石神家の方々がわざわざ来て下さることなど、道間家の歴史の中でも滅多にございません」

 麗星はうな重を頬張りながら言った。
 俺はうどんだったのだが。

 「まあ、なんでも「剣の舞」を見せてくれるんだってさ」
 「そうなのですか」
 「うん、俺も知らねぇんだけど」
 「楽しみでございます」

 麗星は身支度を整えるとのことで、1時間後に庭でその「剣の舞」をしてもらうことにした。
 虎白さんたちにはうろつかれると困るので、俺が相手をした。

 「そうだ、ここには「ハイファ」って奴がいるんだろう?」
 「え、よく知ってますね!」
 「そりゃな。ちょっと会わせろ」
 「え!」
 「早くしろ!」
 「はい! 俺、当主ですからね!」

 なんでハイファに会いたいんだろう。
 五平所に相談した。

 「え、ハイファにですか!」
 「そうなんだよ。会わせていいのかな」
 「分かりません。石神様からお話しされた方が宜しいかと」
 「俺が?」
 「はい。石神様は道間家の上の方でございますから」
 「そうなの?」

 そういうつもりはねぇんだが。
 でも仕方が無いので呼んでみた。

 「ハイファ! いるか?」

 突然俺の前に平伏する着物姿のハイファが現われた。

 「御前に」
 「ああ、悪いな。俺の石神家の人間がお前に会いたいって言ってんだけど」
 「はい、かしこまりました」

 俺はハイファを連れて、座敷へ行った。

 「虎白さん、ハイファを連れて来ましたよ」
 「おう!」

 虎白さんたちが、ハイファを見ている。

 「こいつだ! よく見ておけ!」

 虎白さんが他の剣士たちに言った。

 「こいつか」
 「やっぱ強ぇな」
 「ちょっととんでもねぇぞ」
 「地獄級以上だな」
 「見切りでもどうだか」
 「ちょっとヤッてみっか?」

 「やめてください!」

 慌てて止めた。

 「なんでハイファに会いたかったんですか!」
 「ああ、とんでもなく強い奴が道間家を守ってるからな。他の奴らにも見せておきたくてよ」
 「それでなんなんですかぁ!」
 「いや、いつ敵になるかもしれねぇだろ? だからよ」
 「え?」

 まあ、そういう家だった。

 「ハイファ、奈々が生まれたことは知ってるな?」
 「はい。またしても石神様によって道間家に大きな未来が開きました」
 「それはどうでもいいよ。奈々も天狼と同じく護ってくれな」
 「それはもちろんでございます」

 ハイファが輝くように笑った。
 そういえば、そういう顔は見たことがなかったかもしれない。

 「お前、ヘンな試練なんかするなよな!」
 「はい、かしこまりました」
 「ほんとだぞ!」
 「もう天狼が生まれたことで、道間家の輝かしい未来は約束されましたので。それに加えて七道の者が生まれるとは。わたくしも想像外でございました」
 「そうかよ」

 虎白さんたちは物騒な目的だったので、俺がハイファと話した。
 その間も、みんなでハイファを見て観察している。
 「虎眼」も使っているのだろう。

 「ああ、虎白さんたち石神家で「剣の舞」をしてくれるんだ。お前も見てくれよ」
 「はい。でも、それでしたら少々準備が必要かと」
 「え?」
 「恐らく、結界は壊れますし、守護の妖魔たちも全滅するかと」
 「あんだと!」
 「わたくしがこれから準備いたします。少々お時間をいただけますでしょうか」
 「う、うん……」

 なんなんだよー!
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