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アラスカ ハンティング・マラソン Ⅵ

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 「あ! こうすればいいんだ!」

 背負って走って、散々頭に顎をぶつけられた。
 我慢出来ないことも無いが、怒られてる感じが嫌だった。
 だから前に持って来て担いでみた。
 そうすると、肩から顔が背中に乗り、楽に走れるようになった。

 「あー、良かった!」

 脛骨が完全に折れて首がブラブラしているが、さっきまでとは全然違う。

 「お腹空いたなー」

 上空を飛んでいるデュールゲリエを呼んだ。

 「すいませーん! 食事休憩所はあとどのくらいですかー!」

 デュールゲリエが降りて来て、幹線道路の方向を指差し、もう5キロくらいだと教えてくれた。

 「ありがとうございましたー!」

 デュールゲリエが手を振って、また上空に戻った。
 食事休憩所で、鹿肉のステーキと珍しいので熊肉のステーキも食べた。
 熊肉はあんまり美味しくなかった。

 「さっき、日本人の女の子がでかい熊を抱えて来てさ」
 「そうなんですか!」

 厨房の人が教えてくれた。

 「それがさ! その熊がまだ生きてたんだよ!」
 「えぇ!」
 「女の子に懐いちゃってるみたいねで」
 「あ!」
 「どうしたの?」
 「多分、亜紀ちゃんですよ!」
 「ああ! 石神さんの長女の方!」
 「前にもシロクマと仲良くなっていましたし!」
 「スゴイね!」

 亜紀ちゃん、頑張ってるなー!

 食事を終えて私も出発した。
 気合を入れてカリブーを担ぐ。

 走ろうとしたら、大きな角が脚に絡まって派手に転んだ。

 「大丈夫かい!」

 さっきの厨房の人が駆け寄って来た。

 「大丈夫です!」
 「すごい鼻血だよ!」
 
 顔面を打った。
 恥ずかしかったので、そのままダッシュで走った。

 もうやだよー!




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 皇紀が仕事を終えて貴賓席にやって来た。

 「よう、お前も食事をしろよ」
 「はい!」

 ここは鷹のお兄さんが特別に用意してくれた豪華料理が並んでいる。
 和食の最高峰の腕前で、どれも美味しい。
 アラスカの生活も長く、素材を研究して見事な味になっている。
 基本は和食なのだが、その枠にこだわらずに、とにかく美味しいものをと目指している姿勢が伺えた。

 響子も夢中で食べている。
 蓮花も嬉しそうに、箸を伸ばしていた。
 ミユキたちに、どれが美味しいかと話している。
 俺もミユキたちに遠慮しないでどんどん食べろと言った。

 「流石は鷹のお兄さんだな!」
 
 俺が言うと、鷹が嬉しそうに笑った。

 「本当にここに腰を据えようかって言ってましたよ」
 「おお! 是非そうして欲しいな!」

 鷹のお兄さんの料理教室は好評で、教え子の料理人たちの腕前もどんどん上がっているようだ。

 「皇紀も参加したかっただろう」
 「いいえ、僕は! 見ている方がいいです」
 「まあ、普通はそうだよな」

 みんなが笑う。
 亜紀ちゃんと双子が散々誘ったようだが、皇紀は仕事を優先した。
 もう、自分のやるべきことを決めているのだ。

 食事は10時頃に摂っていた。
 3時の終了なので、響子がその前に起きられるようにだ。
 響子が士王と吹雪と一緒にベッドに横になると、双子の映像が画面に映った。

 「おい!」

 ムースに突き刺さっていたH鋼が身体を破って倒れた。
 映像はすぐに周囲の状況へ切り替わる。
 グロ映像になっているはずだ。

 「ひでぇな」
 
 デュールゲリエが規定によりH鋼と零れた内臓は計測しないと宣言している。

 「あーあ」

 みんなが笑った。

 映像が変わり、亜紀ちゃんになる。
 大会の注目はうちの子どもたちだ。
 亜紀ちゃんが捕まえたヒグマが生きていることがはっきりした。

 「栞、あれどうするんだ?」
 「うん、検討したんだけど、ハンティングって必ずしも殺さないでいいんだよ」
 「そうなのか?」
 「ほら、動物園なんかの依頼で捕まえることもハンティングだから」
 「ああ、なるほど」

 しかし、それにしても仲が良いように思える。
 走っていると、ヒグマが喜んでいるのが分かる。

 「あ、休憩所に入ったよ」
 「そうだな」

 早速大量に喰うんだろう。
 ちょっと厨房の人間と揉めているシーンもあったが、ちゃんと喰えるようだ。
 ヒグマもガンガン食べている。
 そしてゲロシーン。

 「……」

 みんなが押し黙った。

 「食事しといて良かったな」
 「そうだね」

 他の選手の映像が流れ、また双子が映った。

 「おい、あいつらムースを喰ってるぞ!」
 「ほとんだ」

 腹が破れて内臓が出て、どうにも気持ち悪かったようだ。
 体内を「電子レンジ」で焼き始めたようだが、美味そうになり、思わず喰っていた。

 「あれ、どうなるんだろうね?」
 「知らね―」

 あのムース、最後まで残るんだろうか。
 柳が派手に転んだシーンも観た。
 みんなで爆笑した。
 まったく、あいつらしい。

 長丁場のレースなので、みんな食事休憩所で休み、そのうちにそこで寝てしまう奴もいた。
 うちの子どもたちの獲物を見て、そうそうに入賞を諦めた連中だろう。
 まあ、そういうのもいい。
 楽しんで貰うための大会だ。

 やがて3時に近くなり、選手たちが競技場へ戻って来た。
 到着の度に、観客が検討を讃えて大きな拍手と声援を送った。




 戻って来た選手のトロフィの計量が行なわれ、大スクリーンに暫定の順位が表示されていく。
 優勝は亜紀ちゃんだった。
 ダントツの成績だ。
 2位は柳だった。
 真面目なあいつらしいレース展開だった。
 双子はムースの頭だけ被って戻った。
 やはり我慢できずに食べてしまったようだ。
 それでも距離を稼ぎ、何とか10位以内に入賞した。

 千石とその教え子たちが亜紀ちゃんと柳に続いた。
 諸見が頑張って18位になった。
 あいつは努力して「花岡」上級者になっていたのだ。

 俺が特別に諸見を賞賛すると、会場が湧いた。
 諸見が相変わらず恥ずかしそうにし、俺が綾を呼ぶと綾が嬉しそうに笑って諸見を抱き締めて頬にキスをした。
 会場が一層湧いた。

 表彰式を終え、そのまままた競技場が宴会場になった。
 
 「それじゃー! 選手の方々が狩って来た獲物を料理しますよー!」

 大会委員長の栞が叫ぶと、亜紀ちゃんが泣き顔で寄って来た。

 「ヒーちゃんは食べないでー!」

 みんなが爆笑した。
 ハンターのソロンさんが責任をもって山に帰すと言ったが、亜紀ちゃんが自分で運ぶと言った。
 宴会を楽しむ中、亜紀ちゃんがヒグマを「飛行」で運んだ。
 大量の餌を一緒に持って。

 戻って来た亜紀ちゃんをみんなが讃えた。
 楽しい大会になった。
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