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アラスカ ハンティング・マラソン Ⅴ

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 「そろそろお昼だよね!」
 「うん、お腹空いたね!」

 朝の9時から午後3時までの長丁場のレースだ。
 100キロごとに、幹線道路に食事休憩所が設けてある。
 好きなだけ食事が出来るし、もちろん水分補給もだ。
 但し、そこに入ってからはレースのタイムが一時的に止まることになっている。
 自分で配分を決めて、食事と水分補給、休憩を行なうレースだ。

 まだ午前11時。
 今一杯食べても余裕があるだろうと思った。

 「じゃあ、次の休憩所で休もうか!」
 「そうだね!」

 ハーもそうしたいようだ。
 30キロくらい走ると、休憩所が見えて来た。

 「「あったぁー!」」

 大きな天幕が張られ、そこで食事を作っているようだ。
 競技者はその周囲のテーブルでそれぞれ食事を食べている。

 「何があるかなー」

 中に入ると、鹿のステーキやサーモンステーキがある。
 私たちの獲物を見て、みんなが驚いていた。
 最大級の500キロのムースに、さらにH鋼がぶっ刺さっている。
 他の競技者を見ると、みんな鹿だのタヌキだのの小さめの動物だ。
 ウサギの人もいる。
 まあ、ハンティング自体が難しい。
 ハンターの人はいないだろう。
 慣れない山で精一杯の努力でなんとか捕まえた動物たちだ。
 私たちが断然有利だった。
 私もハーも、獣の狩はプロフェッショナルなのだぁー!

 テーブルを確保し、背負ったムースを地面に置いた。

 ドスン

 「あ、倒れそうだよ」
 「仕方無い、背負ったまま食べよう」
 「うん」

 二人でムースを背負ったまま注文に行った。
 厨房の人が驚いている。
 ムースから1メートルくらい、H鋼が飛び出ている。

 「凄いですね!」
 「「うん!」」

 私たちが鹿とサーモンのステーキの数を言うと、また驚かれた。

 「そんなに召し上がりますか!」
 「「よゆうー!」」

 厨房の人が笑って、後ろの人に伝えた。

 メキメキメキメキ

 「「ん?」」

 背中でムースが崩れた。

 「「ワァー!」」

 H鋼がムースの腹を破り、ムースが千切れながら後ろに落ちた。
 時速80キロくらいで走っていて、段々ムースの身体を崩していたようだ。
 しまった!

 デュールゲリエが飛んで来た。

 「判定! トロフィから離れたものは重量加算されません」
 「「えぇー!」」
 「諦めて下さい。獲物が分断された場合も、部分を選ばなければならない規定です」
 「「そんなぁー!」」

 ムースのお腹が破れ、大きな内臓が零れて来る。

 「ちょ、ちょっとぉー!」

 厨房の人が叫んだ。

 「困りますよ、こんな! ここは食事をする場所なんですからぁ!」
 「「ごめんなさーい」」

 ハーと二人で外に運び、零れた内臓も片付けた。
 穴を掘って埋める。
 ムースは大分軽くなってしまった。

 「半分かなー」
 「H鋼もなくなっちゃった」

 仕方が無い。
 食事を注文して、また外に出た。
 1時間くらいロスしてしまった。

 「軽くなったから、距離を稼ごう!」
 「うん!」

 荒野を走った。
 ムースの血と体液でベトベトになる。
 
 「「くさいよー!」」

 ちょっと泣きたくなってきた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ヒーちゃん、大丈夫?」
 「ガウ!」

 ヒグマのヒーちゃんを背負って走っている。
 振動はなるべく全身で吸収し、ヒーちゃんに伝わらないように走った。
 時速50キロくらいか。
 もっと早く走れるけど、ヒーちゃんが可哀そうだ。
 さっきは無理矢理岩なんか食べさせようとして、悪いことをした。
 レースが終わるまで付き合ってもらうけど、可愛がってあげよう。
 ヒーちゃんは背中の上で、楽しそうにしている。
 こういうスピードで背負われて移動することはなかったはずだ。

 「ヒーちゃん、お腹空かない?」
 「ガウ!」
 「そうだよねー。そろそろ何か食べようか!」
 「ガウ!」

 ヒーちゃんがどうかは分からないが、私がお腹が空いた。
 幹線道路に入り、食事休憩所を探した。

 「あったよ!」

 数キロ先に、それらしいものが見えた。
 天幕の周りに大勢の人がいる。

 近づくと、やっぱり食事休憩所のようだった。
 それぞれ獲物を捕まえた人たちが集まっている。
 私が体長3メートルのヒーちゃんを背負っているのでみんなが驚いて見ている。

 「何があるのかなー!」

 天幕に入ると、様々なお肉や野菜の料理が注文できるようだ。

 「いらっしゃい! あんた、スゴイの捕まえたね!」
 「ヒーちゃんでーす!」
 「ガオー!」

 「い、生きてるの!」
 「はい!」

 周辺の人たちが驚いて離れる。

 「大丈夫ですよー! 大人しいですから」
 「でも! ヒグマだよ!」

 ヒーちゃんが私の肩をポンポンする。

 「懐いてますから」
 「でもね!」

 私がヒーちゃんを抱え直して、首の周りをグルグルしてやる。

 「ガオー」

 ヒーちゃんが喜んだ。

 「ほんとに慣れてるね!」
 「はい!」

 何とか周りの人も納得してくれ、注文をしようとした。

 「この辺の野生動物の肉を提供してるんだ」
 「そうなんですか!」
 「ソロンさんて、有名なハンターの方々が持って来てくれてね」
 「あ! ソロンさん知ってますよ!」

 そういうことだったか。
 解体もここでやっているようだった。

 「あ」

 クマの解体もしていた。
 腹を割り、内臓を抜いている。
 ヒーちゃんも気付いた。

 「ガゥ」

 またヒーちゃんが怖がった。

 「クマを喰う奴があるかぁー!」
 「ヘ?」
 「ヒーちゃんが怖がってるだろう!」
 「はぁ」

 私はヒーちゃんの大きな顔を抱いて、頭を撫でてやった。

 「すぐにサーモンをありったけ焼いて来い!」
 「は、はい!」
 「半分は調味料を使うな!」
 「分かりましたぁー!」

 ヒーちゃんと散々食べた。
 最初は委縮していたヒーちゃんも、食べたことのない焼いたサーモンが気に入ったらしく、喜んで食べて行った。

 「美味しい?」
 「ガウ!」

 良かった。

 食事休憩所を出て、またヒーちゃんを背負って走った。
 暫く走ると、ヒーちゃんが背中で大人しい。
 そのうちに、モゾモゾする。

 「なんだ、どうしたよ?」

 振り返って見上げると、真上からヒーちゃんが大量に戻した。

 げろげろげろげろ

 「……」

 「ガゥ……」

 近くの川を探し、身体を洗った。
 少し休んだ。

 「おい、悪かったな。気分が悪けりゃ言ってくれな」
 「ガウ」

 まあ、レースは大事だが、ヒーちゃんの方が大事だ。
 ヒーちゃんの口元も洗ってやり、ちょっと横になった。

 午後もがんばるぞー!
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