2,109 / 2,840
アラスカ ハンティング・マラソン Ⅴ
しおりを挟む
「そろそろお昼だよね!」
「うん、お腹空いたね!」
朝の9時から午後3時までの長丁場のレースだ。
100キロごとに、幹線道路に食事休憩所が設けてある。
好きなだけ食事が出来るし、もちろん水分補給もだ。
但し、そこに入ってからはレースのタイムが一時的に止まることになっている。
自分で配分を決めて、食事と水分補給、休憩を行なうレースだ。
まだ午前11時。
今一杯食べても余裕があるだろうと思った。
「じゃあ、次の休憩所で休もうか!」
「そうだね!」
ハーもそうしたいようだ。
30キロくらい走ると、休憩所が見えて来た。
「「あったぁー!」」
大きな天幕が張られ、そこで食事を作っているようだ。
競技者はその周囲のテーブルでそれぞれ食事を食べている。
「何があるかなー」
中に入ると、鹿のステーキやサーモンステーキがある。
私たちの獲物を見て、みんなが驚いていた。
最大級の500キロのムースに、さらにH鋼がぶっ刺さっている。
他の競技者を見ると、みんな鹿だのタヌキだのの小さめの動物だ。
ウサギの人もいる。
まあ、ハンティング自体が難しい。
ハンターの人はいないだろう。
慣れない山で精一杯の努力でなんとか捕まえた動物たちだ。
私たちが断然有利だった。
私もハーも、獣の狩はプロフェッショナルなのだぁー!
テーブルを確保し、背負ったムースを地面に置いた。
ドスン
「あ、倒れそうだよ」
「仕方無い、背負ったまま食べよう」
「うん」
二人でムースを背負ったまま注文に行った。
厨房の人が驚いている。
ムースから1メートルくらい、H鋼が飛び出ている。
「凄いですね!」
「「うん!」」
私たちが鹿とサーモンのステーキの数を言うと、また驚かれた。
「そんなに召し上がりますか!」
「「よゆうー!」」
厨房の人が笑って、後ろの人に伝えた。
メキメキメキメキ
「「ん?」」
背中でムースが崩れた。
「「ワァー!」」
H鋼がムースの腹を破り、ムースが千切れながら後ろに落ちた。
時速80キロくらいで走っていて、段々ムースの身体を崩していたようだ。
しまった!
デュールゲリエが飛んで来た。
「判定! トロフィから離れたものは重量加算されません」
「「えぇー!」」
「諦めて下さい。獲物が分断された場合も、部分を選ばなければならない規定です」
「「そんなぁー!」」
ムースのお腹が破れ、大きな内臓が零れて来る。
「ちょ、ちょっとぉー!」
厨房の人が叫んだ。
「困りますよ、こんな! ここは食事をする場所なんですからぁ!」
「「ごめんなさーい」」
ハーと二人で外に運び、零れた内臓も片付けた。
穴を掘って埋める。
ムースは大分軽くなってしまった。
「半分かなー」
「H鋼もなくなっちゃった」
仕方が無い。
食事を注文して、また外に出た。
1時間くらいロスしてしまった。
「軽くなったから、距離を稼ごう!」
「うん!」
荒野を走った。
ムースの血と体液でベトベトになる。
「「くさいよー!」」
ちょっと泣きたくなってきた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ヒーちゃん、大丈夫?」
「ガウ!」
ヒグマのヒーちゃんを背負って走っている。
振動はなるべく全身で吸収し、ヒーちゃんに伝わらないように走った。
時速50キロくらいか。
もっと早く走れるけど、ヒーちゃんが可哀そうだ。
さっきは無理矢理岩なんか食べさせようとして、悪いことをした。
レースが終わるまで付き合ってもらうけど、可愛がってあげよう。
ヒーちゃんは背中の上で、楽しそうにしている。
こういうスピードで背負われて移動することはなかったはずだ。
「ヒーちゃん、お腹空かない?」
「ガウ!」
「そうだよねー。そろそろ何か食べようか!」
「ガウ!」
ヒーちゃんがどうかは分からないが、私がお腹が空いた。
幹線道路に入り、食事休憩所を探した。
「あったよ!」
数キロ先に、それらしいものが見えた。
天幕の周りに大勢の人がいる。
近づくと、やっぱり食事休憩所のようだった。
それぞれ獲物を捕まえた人たちが集まっている。
私が体長3メートルのヒーちゃんを背負っているのでみんなが驚いて見ている。
「何があるのかなー!」
天幕に入ると、様々なお肉や野菜の料理が注文できるようだ。
「いらっしゃい! あんた、スゴイの捕まえたね!」
「ヒーちゃんでーす!」
「ガオー!」
「い、生きてるの!」
「はい!」
周辺の人たちが驚いて離れる。
「大丈夫ですよー! 大人しいですから」
「でも! ヒグマだよ!」
ヒーちゃんが私の肩をポンポンする。
「懐いてますから」
「でもね!」
私がヒーちゃんを抱え直して、首の周りをグルグルしてやる。
「ガオー」
ヒーちゃんが喜んだ。
「ほんとに慣れてるね!」
「はい!」
何とか周りの人も納得してくれ、注文をしようとした。
「この辺の野生動物の肉を提供してるんだ」
「そうなんですか!」
「ソロンさんて、有名なハンターの方々が持って来てくれてね」
「あ! ソロンさん知ってますよ!」
そういうことだったか。
解体もここでやっているようだった。
「あ」
クマの解体もしていた。
腹を割り、内臓を抜いている。
ヒーちゃんも気付いた。
「ガゥ」
またヒーちゃんが怖がった。
「クマを喰う奴があるかぁー!」
「ヘ?」
「ヒーちゃんが怖がってるだろう!」
「はぁ」
私はヒーちゃんの大きな顔を抱いて、頭を撫でてやった。
「すぐにサーモンをありったけ焼いて来い!」
「は、はい!」
「半分は調味料を使うな!」
「分かりましたぁー!」
ヒーちゃんと散々食べた。
最初は委縮していたヒーちゃんも、食べたことのない焼いたサーモンが気に入ったらしく、喜んで食べて行った。
「美味しい?」
「ガウ!」
良かった。
食事休憩所を出て、またヒーちゃんを背負って走った。
暫く走ると、ヒーちゃんが背中で大人しい。
そのうちに、モゾモゾする。
「なんだ、どうしたよ?」
振り返って見上げると、真上からヒーちゃんが大量に戻した。
げろげろげろげろ
「……」
「ガゥ……」
近くの川を探し、身体を洗った。
少し休んだ。
「おい、悪かったな。気分が悪けりゃ言ってくれな」
「ガウ」
まあ、レースは大事だが、ヒーちゃんの方が大事だ。
ヒーちゃんの口元も洗ってやり、ちょっと横になった。
午後もがんばるぞー!
「うん、お腹空いたね!」
朝の9時から午後3時までの長丁場のレースだ。
100キロごとに、幹線道路に食事休憩所が設けてある。
好きなだけ食事が出来るし、もちろん水分補給もだ。
但し、そこに入ってからはレースのタイムが一時的に止まることになっている。
自分で配分を決めて、食事と水分補給、休憩を行なうレースだ。
まだ午前11時。
今一杯食べても余裕があるだろうと思った。
「じゃあ、次の休憩所で休もうか!」
「そうだね!」
ハーもそうしたいようだ。
30キロくらい走ると、休憩所が見えて来た。
「「あったぁー!」」
大きな天幕が張られ、そこで食事を作っているようだ。
競技者はその周囲のテーブルでそれぞれ食事を食べている。
「何があるかなー」
中に入ると、鹿のステーキやサーモンステーキがある。
私たちの獲物を見て、みんなが驚いていた。
最大級の500キロのムースに、さらにH鋼がぶっ刺さっている。
他の競技者を見ると、みんな鹿だのタヌキだのの小さめの動物だ。
ウサギの人もいる。
まあ、ハンティング自体が難しい。
ハンターの人はいないだろう。
慣れない山で精一杯の努力でなんとか捕まえた動物たちだ。
私たちが断然有利だった。
私もハーも、獣の狩はプロフェッショナルなのだぁー!
テーブルを確保し、背負ったムースを地面に置いた。
ドスン
「あ、倒れそうだよ」
「仕方無い、背負ったまま食べよう」
「うん」
二人でムースを背負ったまま注文に行った。
厨房の人が驚いている。
ムースから1メートルくらい、H鋼が飛び出ている。
「凄いですね!」
「「うん!」」
私たちが鹿とサーモンのステーキの数を言うと、また驚かれた。
「そんなに召し上がりますか!」
「「よゆうー!」」
厨房の人が笑って、後ろの人に伝えた。
メキメキメキメキ
「「ん?」」
背中でムースが崩れた。
「「ワァー!」」
H鋼がムースの腹を破り、ムースが千切れながら後ろに落ちた。
時速80キロくらいで走っていて、段々ムースの身体を崩していたようだ。
しまった!
デュールゲリエが飛んで来た。
「判定! トロフィから離れたものは重量加算されません」
「「えぇー!」」
「諦めて下さい。獲物が分断された場合も、部分を選ばなければならない規定です」
「「そんなぁー!」」
ムースのお腹が破れ、大きな内臓が零れて来る。
「ちょ、ちょっとぉー!」
厨房の人が叫んだ。
「困りますよ、こんな! ここは食事をする場所なんですからぁ!」
「「ごめんなさーい」」
ハーと二人で外に運び、零れた内臓も片付けた。
穴を掘って埋める。
ムースは大分軽くなってしまった。
「半分かなー」
「H鋼もなくなっちゃった」
仕方が無い。
食事を注文して、また外に出た。
1時間くらいロスしてしまった。
「軽くなったから、距離を稼ごう!」
「うん!」
荒野を走った。
ムースの血と体液でベトベトになる。
「「くさいよー!」」
ちょっと泣きたくなってきた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ヒーちゃん、大丈夫?」
「ガウ!」
ヒグマのヒーちゃんを背負って走っている。
振動はなるべく全身で吸収し、ヒーちゃんに伝わらないように走った。
時速50キロくらいか。
もっと早く走れるけど、ヒーちゃんが可哀そうだ。
さっきは無理矢理岩なんか食べさせようとして、悪いことをした。
レースが終わるまで付き合ってもらうけど、可愛がってあげよう。
ヒーちゃんは背中の上で、楽しそうにしている。
こういうスピードで背負われて移動することはなかったはずだ。
「ヒーちゃん、お腹空かない?」
「ガウ!」
「そうだよねー。そろそろ何か食べようか!」
「ガウ!」
ヒーちゃんがどうかは分からないが、私がお腹が空いた。
幹線道路に入り、食事休憩所を探した。
「あったよ!」
数キロ先に、それらしいものが見えた。
天幕の周りに大勢の人がいる。
近づくと、やっぱり食事休憩所のようだった。
それぞれ獲物を捕まえた人たちが集まっている。
私が体長3メートルのヒーちゃんを背負っているのでみんなが驚いて見ている。
「何があるのかなー!」
天幕に入ると、様々なお肉や野菜の料理が注文できるようだ。
「いらっしゃい! あんた、スゴイの捕まえたね!」
「ヒーちゃんでーす!」
「ガオー!」
「い、生きてるの!」
「はい!」
周辺の人たちが驚いて離れる。
「大丈夫ですよー! 大人しいですから」
「でも! ヒグマだよ!」
ヒーちゃんが私の肩をポンポンする。
「懐いてますから」
「でもね!」
私がヒーちゃんを抱え直して、首の周りをグルグルしてやる。
「ガオー」
ヒーちゃんが喜んだ。
「ほんとに慣れてるね!」
「はい!」
何とか周りの人も納得してくれ、注文をしようとした。
「この辺の野生動物の肉を提供してるんだ」
「そうなんですか!」
「ソロンさんて、有名なハンターの方々が持って来てくれてね」
「あ! ソロンさん知ってますよ!」
そういうことだったか。
解体もここでやっているようだった。
「あ」
クマの解体もしていた。
腹を割り、内臓を抜いている。
ヒーちゃんも気付いた。
「ガゥ」
またヒーちゃんが怖がった。
「クマを喰う奴があるかぁー!」
「ヘ?」
「ヒーちゃんが怖がってるだろう!」
「はぁ」
私はヒーちゃんの大きな顔を抱いて、頭を撫でてやった。
「すぐにサーモンをありったけ焼いて来い!」
「は、はい!」
「半分は調味料を使うな!」
「分かりましたぁー!」
ヒーちゃんと散々食べた。
最初は委縮していたヒーちゃんも、食べたことのない焼いたサーモンが気に入ったらしく、喜んで食べて行った。
「美味しい?」
「ガウ!」
良かった。
食事休憩所を出て、またヒーちゃんを背負って走った。
暫く走ると、ヒーちゃんが背中で大人しい。
そのうちに、モゾモゾする。
「なんだ、どうしたよ?」
振り返って見上げると、真上からヒーちゃんが大量に戻した。
げろげろげろげろ
「……」
「ガゥ……」
近くの川を探し、身体を洗った。
少し休んだ。
「おい、悪かったな。気分が悪けりゃ言ってくれな」
「ガウ」
まあ、レースは大事だが、ヒーちゃんの方が大事だ。
ヒーちゃんの口元も洗ってやり、ちょっと横になった。
午後もがんばるぞー!
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる