上 下
2,108 / 2,818

アラスカ ハンティング・マラソン Ⅳ

しおりを挟む
 山を駆け巡って、やっと満足できるサイズのヒグマを見つけた。
 一応、額に星なんかが無いことを確認する。
 前に、知らずに山の主を殺してしまい、大顰蹙を買ったからだ。

 ゆっくりとヒグマに近づくと、向こうも気付いて威嚇して来る。
 両足で立ち、両手を上げて吼えている。
 身体のサイズが全然違うので、向こうは余裕があるようだった。

 「なんだぁ? お前ヤルってかよ!」

 余裕で獰猛に笑って見せた。
 ヒグマは威嚇したままだ。

 「オラァ!」

 左足にローキックを放った。
 手加減している。
 一発で足を粉砕できるが、今は脅し程度だ。
 目的がある。

 「ガァオォー!」
 「オラァ!」

 何度もローキックを見舞い、ヒグマの爪の攻撃を左腕で受ける。
 
 「オラァオラァオラァオラァ!」

 ヒグマが痛みに耐えきれずに前に倒れた。
 
 「ガォ」
 「どうした! 立てぇ!」

 顔面にサッカーボールキックを放つ。
 ヒグマが仰向けに吹っ飛んだ。

 「ガオ」

 ヒグマが悲し気に叫んだ。

 「もう終わりかよ!」

 他愛もない。
 ヒグマの口から血が滲んでいた。

 「よし! じゃあ、これを喰え!」

 ソフトボール大の石を口の前に持ってった。
 戦意を喪失した相手に、岩をガンガン喰わせるつもりだった。
 殺しては胃の中に押し込めない。
 無理に体内に入れれば、違反となるだろう。
 だから生きているうちに喰わせる必要がある。

 「ガォ」
 「早く喰え! 体重を増やすんだよ!」

 口に石を押し付けた。
 片手で口を開こうと掴んだ。

 「ガゥ」

 ヒグマが涙を流し始めた。

 「お、おい!」

 ボロボロと大粒の涙が零れて行く。

 「な、なんだよ! おい!」
 「ガゥ」

 涙を前足で拭うが、どんどん溢れている。
 本気で泣いてる。

 「わ、悪かったよ! もう喰わなくていいから!」
 「……」

 デュールゲリエが降りて来た。

 「おい、死んだフリをしろ!」

 頭をポコンとやり、ヒグマを横に倒した。

 「亜紀様、ハンティングの完了を確認。競技の計測を開始します!」

 左腕の距離計が赤く光った。
 デュールゲリエがそれを確認し、上空へ上がった。

 「おし! じゃあ背負っていくから大人しくしろよ!」
 「ガウ!」

 ヒグマの頭を撫でてやり、山を駆け下りた。
 絶対優勝するぞー!




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「おい、双子のってどうなんだよ!」
 
 栞は副委員長の桜花と相談している。

 「一応さ、ライフル弾なんかはそのまま計測するんだよね?」
 「ライフル弾じゃねぇだろう!」
 「槍とか銛とかも刺さったままでもとは思うんだ」
 「だから全然ちげぇだろう!」
 
 明らかに重量を稼ぐためにH鋼をぶっ刺した。
 ムースの胸から1メートル以上飛び出している。

 「あのさ! 私だってまさかあんなことすると思って無かったよ!」

 栞が逆ギレした。

 「あの二人が優勝したら揉めるぞー?」
 「わ、分かってるよ! 今考えるから!」
 「うーん」
 「あなたもちゃんと考えて!」
 「俺もかよ!」
 「あなたの国でしょ!」
 「分かったよ!」

 まったく、悪知恵の働く奴らだ。
 貴賓席の中にある、目の前の大モニターに別な映像が映る。
 カリブーを狩った柳だ。

 「柳、泣いてるなー」
 「ちょっと可哀想だよね」
 「あいつ、結構動物好きだからな」
 「そうなの?」
 「ああ。ロボとも一番仲良しだし、オロチも大好きだしなぁ。うちの近所のイヌネコとかも可愛がってるよ」
 「そうなんだ」
 「小学校のウサギ小屋の前で立ってるのを見たことある」
 「へぇー」

 映像では事故死だ。
 まあ、一応ハンティングの評価にはなったようだが。

 「頭にガンガンぶつかってるよね?」
 「なんか恨まれてるみてぇだよな」
 「カワイソー」
 「そうだなー」

 他の競技者も何とか獲物を狩って行く。
 野生動物は探すのが難しいので、うちの子どもらのように大型動物はなかなか狩れないようだった。
 タヌキのようなものを背負っている者もいる。

 「問題は亜紀ちゃんかー」
 「あれってハンティングってことでいいの?」
 「生きてるよな」
 「亜紀ちゃんなら瞬殺と思ってたけど」
 「岩を喰わせて重量を増そうと考えたみたいだな」
 「悪魔だよね!」
 「でも、なんか仲良くなってるしよ」
 「うーん」
 「クマ、泣いてたもんな」
 「そうだよね」
 
 シロクマのことを思い出した。

 「前にうちの庭にシロクマが来てさ」
 「ど、どういうこと!」
 
 クロピョン便の説明をした。
 ヘンな動物たちがクロピョンに運ばれてくると話すと、栞と桜花たちが驚いている。

 「そのシロクマを亜紀ちゃんがぶっ倒してさ。それから仲良くなったんだよ」
 「なにそれ?」
 「別れる時に泣いてたなー」
 「へぇ」

 栞はあまり動物への愛着は無い。
 ロボを可愛がるくらいだ。
 俺のネコだからだろう。
 ロボはカワイイし。

 「まあ、最後まで観てみるか。3時に競技場だよな?」
 「うん」
 「じゃあ、美味い物を喰って待とう!」
 「石神様! すぐにご用意します!」
 「ああ、頼む!」

 桜花たちが繋がっているキッチンへ向かった。
 
 「蓮花、お前もゆっくりしろよな!」
 「はい! 楽しいですね!」
 「そうだよな!」
 
 ミユキたちも笑った。
 蓮花が楽しんでいることが嬉しいのだ。
 栞と六花は俺の隣でそれぞれの子どもをあやしている。
 ロボも俺の足の下で横になっている。
 柔らかい毛足の長い絨毯が敷いてある。

 画面では、デュールゲリエが撮影した様々な選手の映像が流れている。
 野生動物を背負って真面目に走る選手たちが楽しい。

 桜花たちが豪華な食事を持って来た。
 俺たちは食事を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

「知恵の味」

Alexs Aguirre
キャラ文芸
遥か昔、日本の江戸時代に、古びた町の狭い路地の中にひっそりと隠れた小さな謎めいた薬草園が存在していた。その場所では、そこに作られる飲み物が体を癒すだけでなく、心までも癒すと言い伝えられている。店を運営しているのはアリヤというエルフで、彼女は何世紀にもわたって生き続け、世界中の最も遠い場所から魔法の植物を集めてきた。彼女は草花や自然の力に対する深い知識を持ち、訪れる客に特別な飲み物を提供する。それぞれの飲み物には、世界のどこかの知恵の言葉が添えられており、その言葉は飲む人々の心と頭を開かせる力を持っているように思われる。 「ささやきの薬草園」は、古の知恵、微妙な魔法、そして自己探求への永遠の旅が織りなす物語である。各章は新しい物語、新しい教訓であり、言葉と植物の力がいかに心の最も深い部分を癒すかを発見するための招待状でもある。 ---

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

お尻たたき収容所レポート

鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。 「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。 ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

処理中です...