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橋 Ⅲ
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ポーランド政府と今回の襲撃事件のことで何度も話し合った。
ポーランドだけでなく、ヨーロッパの各国がこの襲撃を知り大混乱になった。
たった10名のバイオノイドが、一個大隊を難なく撃破したのだ。
通常兵力が意味を為さないという事実に驚嘆した。
ポーランド政府も、EUやヨーロッパ各国に、戦闘データの供出を積極的に行なった。
もはや自国のみで対応出来るものではなく、「業」の軍に対して一丸となって対抗する必要性を全ての国が感じていた。
EUやNATO軍が「虎」の軍との共闘を真剣に願い始めた。
今、「業」の戦力に対抗出来るのは俺たちしかいない。
そのことが痛感された襲撃だった。
今度、「虎」の軍は本格的に国際社会で容認され、表舞台に出て行くことになるだろう。
そして俺たちの戦力と共に、武器兵器やレーダーその他の戦略的技術を求められる。
特に「花岡」は各国が求めることになるだろうが、俺はその提供は断るつもりだった。
国際社会との軋轢を生みかねないが、「花岡」は威力の次元が違い過ぎる。
「虎」の軍で管理するしかない。
ポーランド政府やヨーロッパ各国と話し合っている間に、マチェクたちの村の葬儀があった。
村人60名のうち55人もの犠牲者。
平和に暮らしていた人々が、突然の悲劇に見舞われた。
ポーランド中にそれが報道され、国民の悲しみを誘った。
政府が葬儀を取仕切り、「虎」の軍の代表として俺とターナー少将が参列した。
陸軍の葬儀も同時に行われた。
そちらは別な人間を派遣した。
盛大な葬儀ではあったが、参列したのはポーランド政府や各国の政府の人間と軍の関係者。
本当の悲しみに覆われているのは、マチェクたち5人の生き残った村人だけだった。
大勢の遺体を埋葬する墓地を準備する必要があり、それがまた悲しみを誘った。
元々あった村の墓地は小さく、周辺にまた墓地を拡げるしかなかった。
もう誰も訪れることの無い墓地。
でも、俺たちにはそれしかしてやれない。
マテェクが棺を埋める時に、また大声で泣いた。
俺たちはそれを見ていることしか出来なかった。
埋葬には時間が掛かった。
俺はターナー少将と後ろへ下がって話した。
「ターナー、亜紀ちゃんがマチェクの奥さんが死ぬ所を上から見たそうだ」
「そうだったか」
「悔しがっていたよ。怒り狂ってなぁ。もう数秒早ければ助けられたのにって」
「そうか」
ターナー少将も辛いだろう。
自分がもっと早く俺に連絡をしていればと思っている。
でも、それは口には出さない。
「アキはどうしている?」
「猛訓練だよ。いまだに自分を許せないんだろうな。まあ、まだ戦場の冷酷さが身に染みてねぇ。でも、あれでいいだろうよ」
「そうだな」
俺もターナー少将もこういう経験は嫌と言うほどに重ねている。
「今回の襲撃な。どうにも情報の出所がおかしい」
「ああ、「カルマ」が確実に咬んでいるな」
「そうだ。ポーランド軍に枝が伸びているだろう。これから共闘することになるが、そっちを排除する必要がある」
「分かっている」
「他の国もな。恐らくNATOもヤバい」
「ああ」
今回の異常な襲撃は、「業」のバイオノイドが完成したということを示している。
だから実戦で戦力を観測したかったのだろう。
一個大隊を10体のバイオノイドで撃破する。
以前よりも、恐ろしく強くなっている。
完成バイオノイドがどれほどの数になっているのかも分からない。
やはり「業」は妖魔やライカンスロープの開発だけではなかった。
着実に、あらゆる方法で世界を滅ぼそうと画策している。
葬儀が一通り終わった。
午前中から始めたが、もう3時を回っていた。
マチェクたち村人は、全員アラスカへ移住することが決まっている。
今日の葬儀の後で、「タイガーファング」で移動することになっていた。
荷物の積み込みは既に終わっている。
村人たちも、参列者たちも移動を始めた。
「イシガミさん。少し待って頂けませんか?」
マチェクが娘を抱いて俺の所へ来た。
「ああ、構わないよ」
マチェクが微笑み、娘を抱いて村の橋の上に登った。
俺も一緒に行った。
「いい橋だな」
「はい! 「婚礼の橋」と言うんです。この橋を通ってみんな、あっちの教会で結婚式を挙げるんですよ」
「そうか」
村の先祖が年月をかけてこの橋を作ったらしい。
石組みの立派な橋だった。
マチェクは娘を抱いて、橋の上から遠くを見詰めていた。
きっと、奥さんとの思い出がある場所なのだと分かった。
長い時間、マチェクはそうやって立っていた。
娘はマチェクの腕の中で眠った。
「タイガー! そろそろ出発するぞ」
ターナー少将が呼びに来た。
「イシガミさん、すいませんでした」
「いや、もうちょっといろよ」
「え?」
「まだ足りないだろう」
「!」
俺はターナー少将に、出発を待つように言った。
何度かマチェクがもう結構ですと言った。
俺はその度に「まだいろ」と言った。
夕暮れになった。
美しい夕焼けが辺りを染めて行った。
「ああ!」
マチェクが叫んだ。
きっと、この時間に大事な思い出があったのだと分かった。
マチェクが涙を流しながら、俺に振り向いた。
「イシガミさん! ありがとうございました!」
「もういいのか?」
「はい! これで十分です!」
「そうか。美しい夕焼けだな」
「はい!」
本当に美しい夕暮れの橋の景色だった。
マチェクが動き出すと、娘が目を覚ました。
娘も美しい夕焼けを見た。
マチェクの腕の中で、娘が輝くような笑顔で笑った。
ポーランドだけでなく、ヨーロッパの各国がこの襲撃を知り大混乱になった。
たった10名のバイオノイドが、一個大隊を難なく撃破したのだ。
通常兵力が意味を為さないという事実に驚嘆した。
ポーランド政府も、EUやヨーロッパ各国に、戦闘データの供出を積極的に行なった。
もはや自国のみで対応出来るものではなく、「業」の軍に対して一丸となって対抗する必要性を全ての国が感じていた。
EUやNATO軍が「虎」の軍との共闘を真剣に願い始めた。
今、「業」の戦力に対抗出来るのは俺たちしかいない。
そのことが痛感された襲撃だった。
今度、「虎」の軍は本格的に国際社会で容認され、表舞台に出て行くことになるだろう。
そして俺たちの戦力と共に、武器兵器やレーダーその他の戦略的技術を求められる。
特に「花岡」は各国が求めることになるだろうが、俺はその提供は断るつもりだった。
国際社会との軋轢を生みかねないが、「花岡」は威力の次元が違い過ぎる。
「虎」の軍で管理するしかない。
ポーランド政府やヨーロッパ各国と話し合っている間に、マチェクたちの村の葬儀があった。
村人60名のうち55人もの犠牲者。
平和に暮らしていた人々が、突然の悲劇に見舞われた。
ポーランド中にそれが報道され、国民の悲しみを誘った。
政府が葬儀を取仕切り、「虎」の軍の代表として俺とターナー少将が参列した。
陸軍の葬儀も同時に行われた。
そちらは別な人間を派遣した。
盛大な葬儀ではあったが、参列したのはポーランド政府や各国の政府の人間と軍の関係者。
本当の悲しみに覆われているのは、マチェクたち5人の生き残った村人だけだった。
大勢の遺体を埋葬する墓地を準備する必要があり、それがまた悲しみを誘った。
元々あった村の墓地は小さく、周辺にまた墓地を拡げるしかなかった。
もう誰も訪れることの無い墓地。
でも、俺たちにはそれしかしてやれない。
マテェクが棺を埋める時に、また大声で泣いた。
俺たちはそれを見ていることしか出来なかった。
埋葬には時間が掛かった。
俺はターナー少将と後ろへ下がって話した。
「ターナー、亜紀ちゃんがマチェクの奥さんが死ぬ所を上から見たそうだ」
「そうだったか」
「悔しがっていたよ。怒り狂ってなぁ。もう数秒早ければ助けられたのにって」
「そうか」
ターナー少将も辛いだろう。
自分がもっと早く俺に連絡をしていればと思っている。
でも、それは口には出さない。
「アキはどうしている?」
「猛訓練だよ。いまだに自分を許せないんだろうな。まあ、まだ戦場の冷酷さが身に染みてねぇ。でも、あれでいいだろうよ」
「そうだな」
俺もターナー少将もこういう経験は嫌と言うほどに重ねている。
「今回の襲撃な。どうにも情報の出所がおかしい」
「ああ、「カルマ」が確実に咬んでいるな」
「そうだ。ポーランド軍に枝が伸びているだろう。これから共闘することになるが、そっちを排除する必要がある」
「分かっている」
「他の国もな。恐らくNATOもヤバい」
「ああ」
今回の異常な襲撃は、「業」のバイオノイドが完成したということを示している。
だから実戦で戦力を観測したかったのだろう。
一個大隊を10体のバイオノイドで撃破する。
以前よりも、恐ろしく強くなっている。
完成バイオノイドがどれほどの数になっているのかも分からない。
やはり「業」は妖魔やライカンスロープの開発だけではなかった。
着実に、あらゆる方法で世界を滅ぼそうと画策している。
葬儀が一通り終わった。
午前中から始めたが、もう3時を回っていた。
マチェクたち村人は、全員アラスカへ移住することが決まっている。
今日の葬儀の後で、「タイガーファング」で移動することになっていた。
荷物の積み込みは既に終わっている。
村人たちも、参列者たちも移動を始めた。
「イシガミさん。少し待って頂けませんか?」
マチェクが娘を抱いて俺の所へ来た。
「ああ、構わないよ」
マチェクが微笑み、娘を抱いて村の橋の上に登った。
俺も一緒に行った。
「いい橋だな」
「はい! 「婚礼の橋」と言うんです。この橋を通ってみんな、あっちの教会で結婚式を挙げるんですよ」
「そうか」
村の先祖が年月をかけてこの橋を作ったらしい。
石組みの立派な橋だった。
マチェクは娘を抱いて、橋の上から遠くを見詰めていた。
きっと、奥さんとの思い出がある場所なのだと分かった。
長い時間、マチェクはそうやって立っていた。
娘はマチェクの腕の中で眠った。
「タイガー! そろそろ出発するぞ」
ターナー少将が呼びに来た。
「イシガミさん、すいませんでした」
「いや、もうちょっといろよ」
「え?」
「まだ足りないだろう」
「!」
俺はターナー少将に、出発を待つように言った。
何度かマチェクがもう結構ですと言った。
俺はその度に「まだいろ」と言った。
夕暮れになった。
美しい夕焼けが辺りを染めて行った。
「ああ!」
マチェクが叫んだ。
きっと、この時間に大事な思い出があったのだと分かった。
マチェクが涙を流しながら、俺に振り向いた。
「イシガミさん! ありがとうございました!」
「もういいのか?」
「はい! これで十分です!」
「そうか。美しい夕焼けだな」
「はい!」
本当に美しい夕暮れの橋の景色だった。
マチェクが動き出すと、娘が目を覚ました。
娘も美しい夕焼けを見た。
マチェクの腕の中で、娘が輝くような笑顔で笑った。
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